写真)クリーンプラネットが開発したヒートモジュールのプロトタイプ初号機「QHe IKAROS」
出典)株式会社クリーンプラネット
- まとめ
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- 核融合発電の実用化は着実に近づいている。
- 水素原子が融合する際に放出される膨大な熱を利用する、常温核融合に改めて注目集まる。
- 株式会社クリーンプラネットと東北大学は、「量子水素エネルギー」と命名し、開発に取り組んでいる。
以前エネフロでも取り上げたように、次世代のエネルギーとして各国が技術開発に取り組んでいる核融合発電。その実用化は着実に近づいている。(参考記事: 核融合、実用化に向け競争激化 マイクロソフトに2028年電力供給も 2023.06.27、「核融合炉」実用化に向け新技術続々 2022.05.17)
こうしたなか、その核融合の世界に新しい風が吹き始めている。
それが「量子水素エネルギー(Quantum Hydrogen Energy=QHe)」と呼ばれるものだ。「量子水素エネルギー」とは、水素原子が融合する際に放出される膨大な熱を利用する技術で、株式会社クリーンプラネット(以下、クリーンプラネット)が独自に使っている用語。原理は核融合と同じだ。次世代のクリーンエネルギー技術として期待されている。
開発しているのは、日本発のベンチャー、クリーンプラネット。同社によると、量子水素エネルギーとは、「ニッケルベースのナノ複合金属材料に吸蔵させた少量の水素を加熱することにより、水素が量子拡散し発熱反応が起きる」ことだという。この分野のトップランナーである東北大学と共同で開発した。「核融合反応の一形態であり、産業用の規模で最高1,000℃の熱を供給することができる」としている。
出典)クリーンプラネット
核融合炉はおよそ1億℃という高温のプラズマ状態を磁気で閉じ込めるため巨大な設備が必要になるが、それに対し、「量子水素エネルギー」は、常温から数百℃の低い温度で核融合を起こす。そのため、産業用ボイラなど工場に設置できる、いわゆる分散型エネルギー源としての活用が期待できる。
実は、この「量子水素エネルギー」、新しい技術ではない。かつて、「凝縮系核反応」、「常温核融合(Cold Fusion)」、「低エネルギー核反応」などと呼ばれ、今から34年も前の1989年に米ユタ大学と英サウサンプトン大学の研究者がこの現象を発表し、世界的に注目を集めた。しかし、各国の研究機関が検証をおこなったが、思ったような結果が得られず、この技術はその後、日の目をみることはなかった。
しかし、今、その技術に改めて光をあてたのが、クリーンプラネット創業者の吉野英樹氏だ。
この吉野氏の経歴が変わっている。吉野氏はエンジニアではなく、投資家であり、英会話スクールで有名な「GABA」を東京大学法学部在学中に創業したというユニークな経歴の持ち主だ。その後はカナダに拠点を移し、環境投資家として活動しながら、「新興国市場」に興味を持ち、ブラジルやインド、中国などの国々を訪問した。
その時、2011年3月に東日本大震災が起きた。東京電力福島第一原子力発電所の事故を目の当たりにしたとき、吉野氏はこう考えた。
「持続的な未来を実現するには、今まで誰も開発してこなかった全く新しいクリーンエネルギーが必要だ」。
そこから吉野氏は行動する。海外からすぐに帰国し、関係省庁から先端物理学の国際学会まで情報収集のために奔走した。
そうしたとき、次世代のエネルギーとして吉野氏の目にとまったのが、「常温核融合」だった。その可能性を信じた吉野氏は、震災からわずか1年半後の2012年9月にクリーンプラネットを設立した。
その後、クリーンプラネットは、2015年4月に発足した東北大学凝縮系核反応共同研究部門に、研究資金を拠出、三菱重工でこの分野を研究してきた岩村康弘氏を、同大学に招聘し、ともに研究開発に邁進することとなった。
量子水素エネルギー(QHe)
「常温核融合」はまだ理論上完全には解明されていない。しかし、その天然ガスの10,000倍以上とされる膨大なエネルギー密度や、微量の水素を燃料とする安価さなどから今、改めて世界で注目されているのだ。
核分裂からエネルギーを取り出す原子力発電と違って、核廃棄物が出ないことや、連鎖反応も起きないためメルトダウンのような暴走事故も発生しない点も評価されている。
岩村特任教授と吉野氏は、「常温核融合」を「量子水素エネルギー」と名付け、発熱モジュールを開発、産業用ボイラから工場の熱源や発電などに利用する絵を描いている。すでに2021年には三浦工業株式会社との間で、QHeを利用した産業用ボイラの共同開発契約を締結した。今後の他業種への展開に期待がかかる。
出典)三浦工業株式会社
2024年以降の事業展開は具体的だ。産業用ボイラ向け製品の完成と量産化実証に取り組み、その後、プラントでの生産開始と国内市場への販売開始(農業・石油化学工業・製鉄業・発電への製品展開)、プラントでの知見を活かした本格量産開始からグローバル展開(量産・販売)、住宅・船舶への製品展開へと進む。
夢はそこにとどまらない。その先には、ベース電源への利用を考えている。
未だに全貌が明らかになっていないものの、次世代のクリーンなエネルギーとしてポテンシャルを秘めた「量子水素エネルギー(QHe)」。その本格的な研究と実用化への挑戦に今後も注目したい。
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