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グローバル・エネルギー・ウォッチ

Vol.46 「コーヒーかす」できのこを育てる オランダの循環型経済

写真)コンテナ内で栽培されるヒラタケ オランダ・ロッテルダム

写真)コンテナ内で栽培されるヒラタケ オランダ・ロッテルダム
© Rotterzwam

まとめ
  • オランダのベンチャー企業、Rotterzwamは、コーヒーかすを利用し持続可能なきのこを生産。
  • 10年間に約270トンのコーヒーかすから約14トンのヒラタケを生産し、約101トンのCO₂を削減。
  • この循環型経済の仕組みを海外の起業家対象に研修をおこなっている。

コーヒーかす」できのこが育つ。そう聞いて、びっくりされた方もいるかもしれないが、実は本当だ。

オランダのベンチャー企業、Rotterzwam(ロッターツワム)は、コーヒーかすを利用し、持続可能なきのこを生産している。

2013年にロッテルダムのマース川沿いにある巨大な旧トロピカーナスイミングプール (現在のBlue City) で 産声を上げたロッターツワム。そこの地下できのこの生産に取り組み始めたが、2017年に火事があり市内の別の場所に移転した。

そして10年が経ち、これまでに約270トンのコーヒーかすから約14トンものヒラタケを生産し、約101トンのCO₂を削減した。それまでコーヒーかすは燃えるごみとして焼却されていたのだ。

今回、ロッターツワム創業者でCEOのマーク・スリーガーズ氏に現地で話を聞くことができた。

写真)マーク・スリーガーズ氏 オランダ・ロッテルダム
写真)マーク・スリーガーズ氏 オランダ・ロッテルダム

© エネフロ編集部

きのこ栽培キット

コーヒーかすは99%が有機物で、多くは炭素成分であり、肥料の3要素である、窒素2%、リン酸0.2%、カリウム0.3%程度を含有している。そのため、きのこの種菌を植える「培地」として適している。(参考:神奈川県農業技術センター

きのこ栽培と言えば、原木栽培、菌床栽培をまず思い浮かべるが、廃棄物を再利用し農作物を生産するいわゆる、ゼロエミッション式農業に関心がある人の間で、コーヒーかすできのこが栽培できることは知られていた。こうした栽培法は、これまで個人ベースでおこなわれてきたが、一定の規模が必要な商業生産に取り組んだ人や起業家はほとんどいなかった。

こうした中、スリーガーズ氏らは、家庭やレストラン、企業からコーヒーかすを定期的かつ大量に収集する仕組みを構築し、ヒラタケを安定的に栽培する持続可能なビジネスモデルを確立した。

写真)回収されたコーヒーかす
写真)回収されたコーヒーかす

© エネフロ編集部

回収費用はかすの量に比例するが、最低80ユーロ(約12,800円:1ユーロ=約160円、以下同レートで換算)からとなっている。ケータリング業者やカフェのチェーンにとって、コーヒーかすをすてて焼却しCO₂を出すより、コーヒーかすできのこを栽培する循環型経済のサイクルに入った方が、SDGs経営が求められている環境下では市場から高く評価される。それが契約数が順調に伸びた大きな要因だろう。

写真)コーヒーかす容器を収集する様子
写真)コーヒーかす容器を収集する様子

出典)© Rotterzwam

2019年にはきのこの生産量を増やすため、貨物用コンテナ8棟を敷地内に設置した。中の温度はきのこの成長に適した12℃から15℃に保たれている。電源はコンテナ外部に設置した太陽光パネルから取っている。

写真)きのこ栽培用コンテナ(左の白い建物)太陽光パネルが屋上に敷き詰められている。
写真)きのこ栽培用コンテナ(左の白い建物)太陽光パネルが屋上に敷き詰められている。

© エネフロ編集部

コンテナ内部には、コーヒーかすときのこの種菌が入ったビニール袋がところ狭しと並んでいる。袋の中で成長したきのこはやがて袋の切れ目から姿を現す。きのこの袋がずらりとぶら下がっているさまは圧巻だ。

写真)コンテナ内で栽培されているヒラタケ オランダ・ロッテルダム
写真)コンテナ内で栽培されているヒラタケ オランダ・ロッテルダム

© エネフロ編集部

このきのこは「ヒラタケ(英語名:Oyster Mushroom)」で、日本でも流通しているが、シイタケ、シメジ、マイタケ、エノキなどに比べると知名度は低い。スリーガーズ氏に促され、生で食べてみると歯ごたえがあり、濃厚な味で、山椒のような後味が長く舌に残った。身はしっかりしており、火を通しても煮崩れしにくいだろう。いろいろな料理に合いそうだ。

写真)収穫したヒラタケ
写真)収穫したヒラタケ

© エネフロ編集部

商品開発

ロッターツワムが成功している理由は、その商品開発力だ。

初心者向けに開発した「ヒラタケ栽培キット」は、きのこ栽培へのハードルを下げた。容器は廃棄されたプラスチック製バケツを再利用し、リサイクルされた段ボール紙で包まれ、印刷には生物由来のバイオインクを使うなど、徹底的に環境に配慮している。

キットの組み立ては、何らかの理由で失業中の人に頼っている。お値段も15.15ユーロ=約2,400円とリーズナブルで、気軽にきのこ栽培を始めることができるようにした。

写真)ヒラタケ栽培キット
写真)ヒラタケ栽培キット

© Rotterzwam

その他、ヒラタケビール(6本約2,500円)、ヒラタケジャーキー(テリヤキ味、トマト味、40g約1,400円)、ヒラタケコロッケ(ビターバレンと呼ばれるオランダのファストフード。1個32g15個入り約1,400円)なども開発し、ブランド力向上に力を入れてきた。こうしたマーケティング戦略もビジネスが回っている要因だろう。

写真)ヒラタケビールとヒラタケジャーキー(ビールの左隣の袋)、ヒラタケコロッケ(手前)
写真)ヒラタケビールとヒラタケジャーキー(ビールの左隣の袋)、ヒラタケコロッケ(手前)

©エネフロ編集部

起業家の育成

ロッターツワムのビジネスは基本国内向けで、輸出はやっていない。しかし、サーキュラーエコノミーのビジネスモデルを海外に普及させることには熱心に取り組んでいる。

キノコアカデミーと名付けた研修制度への参加費は3日間で約24万円から。栽培法だけでなく、どう収益を確保するかも学ぶ。

これまでにデンマーク、ベルギー、ポルトガル、チリなど世界各国から400名近い起業家が研修を終えた。

日本ではまだなじみの薄い循環型経済ではあるが、近い将来、私たちの食卓に、コーヒーかすで育てたヒラタケが並ぶ日が来るかもしれない。

安倍宏行 Hiroyuki Abe
安倍 宏行  /  Hiroyuki Abe
・日産自動車を経て、フジテレビ入社。報道局 政治経済部記者、ニューヨーク支局特派員・支局長、「ニュースジャパン」キャスター、経済部長、BSフジLIVE「プライムニュース」解説キャスターを務める。現在、オンラインメディア「Japan In-depth」編集長。著書に「絶望のテレビ報道」(PHP研究所)。
株式会社 安倍宏行|Abe, Inc.|ジャーナリスト・安倍宏行の公式ホームページ
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