写真)ChatGPTのアプリ(イメージ)
出典)Donato Fasano /GettyImages
- まとめ
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- ChatGPTなど生成AIは開発に大量の電気を消費しCO₂を排出する。
- また、データセンターのサーバー冷却に大量の水も消費する。
- 大手IT企業らは、AIを使い電力消費を減らしたり、水の消費を削減したりするなど対策を取り始めた。
それにしても、米 OPEN AI社が開発した、人工知能(AI)を使ったチャットサービス、「ChatGPT」や、マイクロソフト社の「Bing」、グーグル社の「Bard」などのいわゆる「生成AI」がすさまじいスピードで普及している。
たとえば教育現場。関西学院大学などは積極的に使うべきだとして、文系・理系を問わず全学の学生が受講できる「AI活用人材育成プログラム」を開講している。その目的を「社会的な課題を発見し、AIを使って課題解決へ導くことができる人材を育成」することとしている。
アメリカのスタンフォード大学の学生のうち、およそ17%が「課題または試験のためにChatGPTを使用している」と回答したように、今や学生が生成AIを使うことはあたりまえになっている。ChatGPTからほとんど編集せずに直接リポートを提出した学生もいたとのことで、大学側も対応に苦慮しているようだ。
また日本では、就活生向けにエントリーシートの添削や提案などをおこなうサービスも登場しており、学生の利用は今後飛躍的に増えていくだろう。
企業の現場でも生成AIの利用は拡大している。
株式会社三菱総合研究所の調査によると、国内売上100億円以上の大企業のうち51%で導入が実施・計画され、文章要約・翻訳、外部情報収集、レポートや議事録作成などへの活用が想定されている。
株式会社NTTデータは、社内規定や業務関連資料、外部の公開データなどのデータを生成AIに連携させて回答文を作成するサービスの提供を開始した。社内の業務プロセスの変革や、新規ビジネスの創出、マーケティングの高度化などに活用できるとしている。2025年度に関連売上50億円を目指す。
今後もさまざまな用途が開発され、市場は拡大していくだろう。
行政でも活用が始まった。
神奈川県横須賀市役所では、今年4月、全国で初めて自治体として生成AIを試験導入。自治体専用のビジネスチャット上で「ChatGPT」を利用できるようにした。およそ4,000人の職員が文章の作成や議事録の要約のほか、政策立案などに利用し、使い勝手やコストを検証した。その結果について職員にアンケートをとったところ、8割以上が「仕事の効率が上がると思っている」との結果が出た。事務作業を効率化し、住民サービスの向上につなげるため、採用する自治体が増えそうだ。
生成AIは電力を爆食い?
このように爆発的に普及し始めた生成AIだが、実は地球温暖化問題に悪影響をおよぼす可能性があるという気になる報告書が今年4月、米スタンフォード大学から出た。
生成AIを開発するために必要な大規模サーバーを収容するデータセンターが大量の電力を消費するという。
同報告書は、 OPENAI社の「GPT-3」、Googleの子会社DeepMind社の「Gopher」、Meta社の「OPT」、そしてオープンソースの「BLOOM」の4つのモデルを取り上げ、消費するCO₂の推定排出量を計算し、比較をした。
出典)スタンフォード大学「人工知能インデックスリポート2023」
それによると、GPTー3が502トン/年と最も多く、Gopherの1.4倍、OPTの7.2倍、BLOOMにいたっては20.1倍だった。
米国人1人あたりの年間CO₂排出量が18.08トンだというから、GPT-3 はその約28倍ものCO₂を排出したことになる。また、ニューヨークからサンフランシスコまでの飛行機が往復した場合の乗客1人あたりのCO₂排出量0.99トンと比較すると約507倍にも達するという結果となった。
水も大量消費
また生成AIは大量の水を消費することも報告されている。
米カリフォルニア大学リバーサイド校とテキサス大学アーリントン校の研究チームが、AIによる水資源消費について調査した報告書「Making AI Less ‘Thirsty’」を公開した。
それによると、GPT-3を開発するのに必要な冷却水の量は、70万リットルに上ったという。自動車の製造でも、塗装工程などで大量の水を使うが、70万リットルというのは、BMW車370台分の使用量に匹敵するという。
また、1人のユーザーがGPT-3に25から50個の質問をするごとに、ペットボトル1本分(500ミリリットル)の水が消費されるとの推計も報告されている。
世界的な水不足が深刻化している中、こうした生成AIによる大量の水消費は放置できない問題となっている。
対策
こうした状況を、生成AIを開発している大手IT企業も放置しているわけではない。
例えばDeepMind社は、エネルギー消費を最適化するため、BCOOLER(BVE-based COnstrained Optimization Learner with Ensemble Regularization)というAIを開発した。このAIを使って、グーグルのデータセンターの冷却システムを最適化する実験をおこなったところ、3ヶ月の実験期間を終えた時点で約12.7%の省エネを達成したという。
出典)スタンフォード大学「人工知能インデックスリポート2023」
水についてもIT企業は真剣に取り組み始めている。
マイクロソフト社は、2030年までに自分たちの消費量を上回る水を補充することを3年前に公約している。つまり、自ら水消費量を減らすとともに、事業をしている水不足の地域で水を供給することを意味する。
生成AIは人類の未来に新たな可能性をもたらしつつあるが、地球環境に悪影響をおよぼすことがあってはならない。AIを省資源や社会課題の解決に利用することが、今まで以上に求められることになるだろう。
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