ヘリオン・エナジー社の核融合実験設備Polaris(ポラリス)
出典)Helion公式Twitter @Helion_Energy
- まとめ
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- 「核融合炉」の国際開発競争が激化してきた。
- ・米HelionEnegyは、マイクロソフトに2028年から電力を供給する契約を結んだと報道。
- 日本でもベンチャーが続々立ち上がる。官民協力し開発を加速させる必要あり。
核融合についてはこれまで何回か紹介してきた。(「『核融合炉』実用化に向け新技術続々」2022年5月、「未来の原子炉 Amazonベゾス氏も支援」2021年10月)
核融合とは、太陽内部で起こる反応のことで、それを人工的に再現することを目指している。温室効果ガスを排出せず、燃料となるのは重水素と三重水素で、三重水素を生産するためのリチウムと重水素は海水中から回収可能であることから燃料は無尽蔵であり、「地球の太陽」の呼び名も持つ、夢のエネルギーとされる。
核融合といえば、人類初の核融合実験炉の実現を目指して1985年に発足した超大型国際プロジェクト「ITER(イーター)」(注1)が有名だ。こちらは日本を含む7カ国の国際共同プロジェクトだが、38年前の発足当時と今では地球環境を取り巻く情勢が激変している。
地球温暖化対策は待ったなしであり、核融合発電への期待は、他の再生可能エネルギーとともに急速に高まっている。
こうした世界的な流れを受け、イギリスやアメリカなどは単独での核融合技術開発を加速し始めた。
出典)ITER
ChatGPT開発者が挑む
米HelionEnegy(ヘリオン エナジー)社(以下、ヘリオン)は、「ChatGPT」を開発した米Open AI社創業者のサム・アルトマン氏が出資したことで有名だ。
ヘリオンは、2028年に核融合発電を開始し、その後出力を5万kW以上まで高めることを目指す。そのヘリオンが一躍注目されたのは今年5月、ビルゲイツ氏率いるマイクロソフトに対し、2028年から電力を供給する契約を結んだと報道されたからだ。核融合発電による電力供給契約は世界で初めてのことだという。
また、イギリスも国を挙げて核融合技術の開発を後押ししている。イギリス政府は2月6日、国の核融合プログラムを実行するための機関として、英国インダストリアル・フュージョン・ソリューションズ(UKIFS)の設立を発表した。2040年までにトカマク型(注2)施設を建設する予定だ。
また、カナダの「General Fusion」(ジェネラル・フュージョン)社は、あのAmazon.com取締役会長のジェフ・ベゾス氏が保有する投資会社を通じて資金を供給している。イギリス原子力公社(UKAEA)と共同でUKAEAのカルハムキャンパスに実証用核融合プラントを建設中で、2026年に稼働し、2027年初めまでに完全稼働する予定だ。このように、各国が核融合技術の開発にしのぎを削っている。
存在感増す日本のスタートアップ
一方、日本でも核融合スタートアップが存在感を増してきた。
「核融合プラントエンジニアリング」の専門家集団を標榜する「京都フュージョニアリング」(以下、KF)はそのうちの1社。
KFは「核融合プラントエンジニアリング」の専門家集団として、プラズマ加熱用の高出力・高周波マイクロ波ジャイロトロンなどの先進ハードウェア群を開発している。
日本の核融合スタートアップ企業として初めて、英国原子力公社(UKAEA)が主導する核融合炉の開発プロジェクトなどに参加しているほか、今年3月29日には、カナダ原子力研究所(Canadian Nuclear Laboratories 以下「CNL」)とフュージョンエネルギー開発のための共同研究契約に向けた覚書を締結した。
株式会社Helical Fusion(ヘリカルフュージョン)は、磁場閉じ込め核融合の「ヘリカル型」(注2)核融合炉の開発に取り組んでいる。核融合科学研究所などで長年研究してきた研究者たちが2021年に創業、2034年にも世界初となる核融合発電を開始する計画だ。
出典)文部科学省
株式会社EXーFusion(エクスフュージョン)は、「レーザー方式」(注2)核融合炉の開発を目指す大阪大学発のスタートアップだ。高速点火レーザー核融合に取り組んでおり、2029年までに技術実証プラントを完成させ、2035年までに核融合商用炉の実現を目指している。
出典)文部科学省
激化する国際開発競争 第4の方式も
こうした中、「トカマク型」、「ヘリカル型」、「レーザー型」に続く、第4の方式に注目が集まり始めた。それが、「FRC(Field-reversed Configuration:磁場反転配位)型プラズマ」方式だ。超高温のプラズマを閉じこめる磁気閉じ込め方式の一つで、理論的に効率が良いとされる。中性子を発生しない水素―ホウ素核融合を目標とし、荷電粒子による直接発電などの特徴を持つ。(参考:核融合戦略有識者会議「我が国の中長期的な開発戦略について」令和4年11月科学技術・イノベーション水深事務局)
この方式を採用した米ベンチャーが「TAE Technologies」(以下、TAE)だ。日本大学が同社と研究協力している。
現在早くても2030年代といわれている核融合炉の実用化だが、この激しい開発競争で早まる可能性が出てきた。
今回詳細には触れなかったが中国も核融合炉開発に乗り出している。もし中国が安い核融合炉の開発に成功したら、日本がこれまで培ってきた技術が無駄になる。官民一体で、より戦略的なアプローチと潤沢な予算が必要になってくるだろう。
- ITER
「International Thermonuclear Experimental Reactor (国際熱核融合実験炉)」が「ITER」の語源。現在は「ITER」(イーター)が正式名称。フランスのサン・ポール・レ・デュランスに建設中。2025年の運転開始を目指し、日本・欧州・米国・ロシア・韓国・中国・インドの7極により進められている。 -
トカマク型
環状の電流を有する磁場を閉じ込める核融合方式の1つ。プラズマを閉じ込め、核融合プラズマを生成する。他には、「トカマク型」と同様磁場でプラズマを閉じ込めるがコイル形状が異なる「ヘリカル型」、強力なレーザーを燃料に照射して核融合反応を起こす「レーザー方式」などがある。
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