写真)メタネーション実験製造設備(東京ガス横浜テクノステーション)
提供)東京ガス
- まとめ
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- 日本の民生・産業部門における最終エネルギー消費のうち約6割は熱需要。
- ガス業界は、都市ガスの主原料であるメタン(CH4)を「e-methane(イーメタン)」に代替するMetanation(メタネーション)に取り組んでいる。
- e-methane(イーメタン)の価格をLNG並に引き下げるため、原料である水素とCO₂を低コストかつ安定的に供給する必要がある。
2050年のカーボンニュートラル実現に向け、あらゆる取り組みをおこなっている日本。前回は車などの燃料に使う合成燃料「e-fuel」について紹介したが「EUがガソリン車容認 e-fuelとは」(2023年5月16日配信)、今回取り上げるのは「ガス」だ。
日本の民生・産業部門における最終エネルギー消費のうち、約6割は熱需要だ。
熱の用途は、高温(1,000℃以上)の直接加熱から、中温(90℃〜200℃)の蒸気加熱、低温(90℃以下)の給湯や冷暖房までと幅広い。
高温帯は鉄鋼業や窯業、化学石油業などで必要とされるが、電気では熱量的に難しく、ガスに頼らざるを得ない。最終エネルギー消費の多い「熱」の分野をどうやって低・脱炭素化していくのかが、重要な課題となっている。
こうした中ガス業界は、熱の低・脱炭素化に向けて、燃焼時のCO₂排出量が石炭や原油より少ない天然ガスへの燃料転換や、効率の良い天然ガス利用機器の導入などによる省エネに取り組んできた。
そして次の段階が、都市ガスの主原料であるメタン(CH4)を「e-methane(イーメタン)」に代替することだ。
メタネーション
e-methane(イーメタン)とは、脱炭素製造された水素とCO₂を合成したメタンのことで、「合成メタン」、「カーボンニュートラルメタン」などとも呼ばれる。またこの技術を「Methanation(以下、メタネーション)」という。
メタネーションは発電所や工場から排出されるCO₂等を回収して、e-methane生成の原料として使用する。したがって、ガスが燃焼するとき排出されるCO₂と相殺され、結果的に排出量がゼロ=カーボンニュートラルになる仕組みだ。
e-methaneの最大の利点として、LNG基地やガス導管など、既存のインフラ設備が使えることがあげられる。その分、輸送コストを押さえることができるわけだ。
ガス業界は、将来的に都市ガスの大部分をe-methaneでまかなうことを目指し、導入量と供給コストの具体的な目標を定めている。
導入量の目標は、2030年時点で既存インフラへe-methaneを1%注入(年間28万トン)すること。2050年時点で90%(年間2,500万トン)をe-methaneに置き換える計画だ 。残りは、水素の直接利用で5%、バイオガスや脱炭素化に資する手立てとして、天然ガス+CCUS(注1)、カーボンニュートラルLNG、DACCS(注2)、植林などで5%をまかなうとしている。
また、供給コストは2050年時点で現在のLNG価格と同水準を目指すとしている。
日本ガス協会は、2050年に都市ガスの90%が合成メタンに置き換わった場合、年間約8,000万トンのCO₂削減効果があると試算している。これは、日本全体のCO₂排出量の1割弱に相当するという。
提供)経済産業省・資源エネルギー庁 「ガスのカーボンニュートラル化を実現する「メタネーション」技術」
待ち構える高い壁
e-methaneの実用化にはいくつかの高い壁が待ち構えている。
最大の課題はコストだ。現状、e-methaneの価格はLNGの数倍もあり、価格を抑えるためには原料である水素とCO₂を低コストかつ安定的に供給する必要がある。
価格低減のためには水素製造、CO₂回収およびメタネーションについてのコスト低減、技術開発が不可欠だ。
提供)日本ガス協会「カーボンニュートラルチャレンジ2050アクションプラン」
まず、e-methaneの商用化に向け、製造プラントの大型化や実証を推進するとともに、水素製造コストの低減に向けた技術開発に取り組む。
東京ガスは2021年度より東京ガス横浜テクノステーションにて、メタネーション実証試験をおこなっている。燃料電池の商用化や、水電解による安価かつ大量の水素製造の技術開発、メタン製造・利用までの一連の技術・ノウハウの獲得を目的としている。またこれを通して、メタネーションによる大量の水素生産の可能性も確認するとしている。
また大阪ガスは、2025年の大阪・関西万博に向けて、会場の生ごみから発生するバイオガスと再エネ由来の水素からe-methaneを製造するメタネーション実証を提案している。
水素直接供給
またガス業界は、メタネーションとともに、水素の直接供給も見据えている。
沿岸部を中心とした適地に、新たに水素導管を敷設し、ローカル水素ネットワークでの水素の直接供給を目指すとしている。
水素サプライチェーン構築にあたっての課題は複数あるが、ガス業界としては、水素製造と水素導管供給、消費機器開発、保安などに取り組む計画だ。
そうした中、東京ガスは、ローカル水素ネットワークの構築に取り組んでいる。2020年東京オリンピック・パラリンピックの選手村とし建設され、その後マンションとして一般販売された「HARUMI FLAG」(東京都中央区晴海)に水素パイプラインを整備し、各街区に設置する純水素型燃料電池への水素供給を2023年度から開始する予定だ。これは、日本初のガス事業法を適用した水素供給事業となる。
提供)東京ガス株式会社「水素バリューチェーン拡大に向けた東京ガスグループの取り組みについて」
今後は水素漏えい検知技術の開発や屋内水素配管の安全確保などが課題となる。
以上見てきたように、ガス業界はメタネーションによるe-methaneや水素の供給により、脱炭素を進めようとしている。しかし、長期的にみると、人口減によるエネルギー需要の減少という環境変化が予見され、e-methaneと水素は、適材適所で拡がりが検討されていくことになるだろう。
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