写真)フォーアールエナジー株式会社浪江事業所:使用済みリチウムイオンバッテリーパック組立の様子
提供)フォーアールエナジー株式会社
- まとめ
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- 電気自動車(EV)の販売が伸びる中、廃車となったEVのバッテリーの再利用が課題となっている。
- 再生リチウムイオンバッテリーは非常用電源などに使われ始めた。
- 一般家庭にまで普及するにはより多くの企業の参入とコストダウンが必要。
世界的なEV(電気自動車)シフトの潮流の中、日本市場だけは出遅れ、EVの普及は遅々として進んでいない。とはいえ、量販型EVが誕生してからすでに10年以上経過しており、それなりの台数のEVが走っている。中には、中古車として流通していたり、廃車になったりしているものもある。
リチウムイオンバッテリーの容量が劣化してくるのは、新車で購入してからおよそ7〜10年後。2010年~15年ごろに販売されたEVのバッテリーはそろそろその時期に差し掛かっている。
ところで、EVのリチウムイオンバッテリーはリチウムだけでなくコバルトやニッケルなどのレアメタルを含んでいる。また性能が劣化したといっても、それなりの容量があり、いずれにしてもリサイクルや再利用をしなければもったいない。
EVを製造している自動車メーカーはバッテリーの再利用(リユース)をどう考えているのだろうか?
再生バッテリーの用途
日本で最初に量販型EVを市場に出したのは日産自動車株式会社だ。2010年12月のこと。「リーフ」と名づけられたそのEVは、すでに販売累計約16万7,000台を記録している。それ以外の日産車では、SUVのアリアが3,000台、軽自動車のサクラが3万3,000台売れており、全部合わせて約20万台になる。(2022年10月末時点)
主に廃車となったリーフのバッテリーを回収・再生し、「リユースバッテリー」として販売しているのが「フォーアールエナジー株式会社(略称:4Rエナジー)」だ。日産自動車(51%)と住友商事(49%)の出資会社だ。
社名の4Rは、リユース(Reuse:再利用)、リファブリケイト(Refabricate:再製品化)、リセル(Resell:再販売)、リサイクル(Recycle)、4つの頭文字Rから取ったもの。
4Rエナジーではすでにリーフのバッテリー数千台を回収した実績があるという。再生バッテリーの用途は、リーフの純正交換バッテリーのほか、大型の蓄電ステーション・工場のバックアップシステムなどだ。
再生バッテリーはどのような場所で使われるのだろうか。最近では、東日本旅客鉄道株式会社が、踏切保安装置に4Rエナジーの再生リチウムイオンバッテリーを導入することを決めた。
一時的に停電した際、踏切保安装置の動作が継続できるよう従来からバッテリー(鉛蓄電池)を設置していたが、充電時間が3分の1に短縮できることや、10年という長寿命が見込めることなどから環境に優しい再生リチウムイオンバッテリーの採用を決めた。22年度から順次踏切に導入されている。
また、株式会社三ッ輪ビジネスソリューションズと岩崎電気株式会社は、共同開発による「環境対応形無停電電源装置UPS」に、4Rエナジーの再生リチウムイオンバッテリーを採用した。従来形のUPS製造時に発生していたCO₂の排出量を年間あたり約315t削減できる見込みだという。
UPS(Uninterruptible Power Supply:無停電電源装置)とは、停電などによって電力が断たれた場合でも一定時間決められた出力で電力を供給し続ける電源装置のことだ。UPSは、金融機関や行政機関のシステム、病院、データセンターなど、停止することが許されないさまざまな箇所に設置されている。
再生バッテリー市場開拓
このように再生リチウムイオンバッテリーの採用例は徐々に増えてきているが、今後回収されるバッテリーの数は急激に増えていくものと思われ、さらに用途を拡大していく必要がある。
そうした中、より日常の用途向けに再生リチウムイオンバッテリーを開発している会社もある。それが、株式会社L-B.Engineering Japan(以下、LーB.エンジニアリング)だ。
創業社長の加東重明氏は、日産自動車で長年EVやリチウムイオンバッテリーの製造に携わってきた、いわばバッテリーの専門家だ。前述の4Rエナジー社からバッテリーを調達し、それを再製品化する。そこまでは4Rエナジーと同じだが、LーB.エンジニアリングは、スタートアップならではのフットワークの良さを活かし、市場のニーズをきめ細かく取り込んで多様な製品をラインアップしている。
例えば、「キャリア付き移動型蓄電池」。持ち運びが楽なので、災害時だけでなく、アウトドアライフにも便利だ。家電製品に使用する場合、消費電力30Wのパソコンで約21時間、10Wのスマホ63台分の容量だという。そのポータブル性から、新型コロナワクチンを冷凍保存する時のバックアップ電源として大活躍したそうだ。
また、「非常用蓄電池付き太陽光外灯」も開発した。太陽光で充電するので商用電源がいらない。停電時には約5日間点灯する。電池パックは取り外しができるので、災害時などにスマホ充電用として使えるなど便利だ。これまでに、日産自動車株式会社座間事業所に43灯、ジャトコ株式会社へ13灯。先日、日産東京販売株式会社へ4灯納品した。
提供)LーB.エンジニアリング
災害時の非常用電源をどう確保するかという課題は東日本大震災直後、広く認識されたが、実際に広く社会に実装されているとまではいえない。
ネックとなっているのは価格だろう。家庭用の据え置き型蓄電池だと本体+工事費込みで約80万円から200万円が相場だ。国の補助金や自治体の補助金・助成金はあるものの、かなりの出費であることには間違いない。
一方、再利用のバッテリーなら価格を抑えることが可能だ。必要な場所の非常用電源として今後一層の普及が期待される。
ただ、LーB.エンジニアリングの加東社長によると、安全な再利用蓄電池システムを作るためには、インバーター、充電器、制御装置などからなるBMS(バッテリーマネジメントシステム)がカギとなるという。しっかりしたノウハウがある会社の製品でないと、思わぬ事故につながる可能性もある。
リチウムイオンバッテリーの再利用は、原材料であるレアメタルの需要が急拡大し価格が高騰している現在、1つの解決策となる。また、製造過程でCO₂を排出しない再生バッテリーを普及させることは、カーボンニュートラル社会の実現にとっても必要だ。
海外に目を転じると、EV大国の中国を始め、欧米でもEVの累積販売台数は急速に積み上がっている。遅かれ早かれ、どの市場でもリチウムイオンバッテリーの再利用は急務となると思われる。バッテリー再利用市場で日本の技術が先行すれば、海外にもビジネスを拡大するチャンスとなりそうだ。
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