写真)エバーライト の外観 カナダ・アルバータ
© Eavor Technologies Inc.
- まとめ
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- カナダの地熱発電技術のスタートアップ企業エバー社が、「クローズドループ地熱利用技術」を開発。
- カナダ、アメリカでの試運転を経て、2024年にドイツで商用運転が始まる。
- 地熱発電のポテンシャルが高い日本でも同技術による開発に期待。
中部電力は去年、100%子会社Chubu Electric Power Company Netherlands B.V.を通じて、カナダの地熱技術開発企業であるEavor Technologies Inc.(エバー・テクノロジーズ社以下、「エバー社」)に出資した。中部電力が海外で地熱エネルギー関連企業に出資するのは初めてだ。
エバー社は、世界に先駆けて「クローズドループ地熱利用技術」(以下、クローズドループ)の研究・開発をおこない、商業化を目指すカナダのグローバルスタートアップ企業。
エバー社が開発したのは、地上と地下約数千メートルをつなぐ網目状のループを掘削し、その中で水を循環させ、水を介して地下の熱を取り出すという、全く新しい地熱利用技術だ。
地熱発電とは
ここで地熱発電そのものについて少しおさらいをしておこう。
地熱発電とは、マグマの熱で温められた高温高圧の蒸気・熱水が貯まっている、「地熱貯留層」というところまで生産井を掘って、蒸気・熱水を取り出し、その力を利用してタービンを回し発電する仕組みである。
発電に使われた熱水はまた還元井から「地熱貯留層」に戻す。この水の循環を繰り返すことで、環境に負担なく昼夜を問わず安定的に地下から蒸気・熱水を取り出すことができる。CO₂排出量もほぼゼロであり、再生可能エネルギーのひとつとされている。
火山大国の日本は大きな可能性を秘めている。日本の地熱資源量は世界第3位。その保有率は2,347万kWに達する。1位のアメリカ3,000万kWや2位のインドネシア2,800万kWと比較してもひけをとらない存在だ。しかし、日本の地熱発電の設備容量は世界第10位(2020年)にとどまっているのは、なぜなのだろうか。
出典)独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構「世界の地熱発電」
地熱発電の課題
過去記事(「CO₂を活用した革新的地熱発電のポテンシャル」2021.11.24)でも紹介したが、地熱発電の導入がなかなか進まないのは、生産井の掘削成功率が低く、コストがかかることや、開発のリードタイムが10年以上と長いことに加え、立地地区が国立公園や温泉などの地域と重なり、国や自治体、地元関係者とさまざまな調整が必要だからだ。
経済産業省資源エネルギー庁の令和3年の報告書「各電源の諸元一覧」によると、3万kWの出力規模をモデルとした地熱発電建設費は237億円であり、陸上風力建設費104億円の倍以上だ。掘削にコストがかかることがその理由で、費用対効果が課題となっている。
エバー社のクローズドループ地熱利用技術
冒頭で紹介したエバー社の「クローズドループ地熱利用技術」だが、一体どのようなものなのか?
この技術は、地上と地下約数千メートルをつなぐ網目状のループを設置し、内部に水を循環させることで、地下の熱水や蒸気が十分に得られない地域でも効率的に熱を取り出すことができるというもの。
幅広いエリアで開発が可能であり、また、掘削後に地下の熱水や蒸気の不足により開発が中止となるリスクを回避できる。
またこの技術を活用した発電は、低需要時に地下に蓄熱し、高需要時に蓄熱したエネルギーを電力に変換する、負荷追従型の調整力電源としての機能も持っている。
出典)中部電力
エバー社はこれまで3つのプロジェクトを進めてきた。
最初のプロジェクトは、2019年にカナダ・アルバータで「エバーライト」(2019年~)と名付けられたもの。実証用プラントだ。
次はアメリカのニューメキシコで「エバーディープ」(2022年~)という、より高深度に掘削して、より高温度の熱を回収できるクローズドループ地熱利用技術の実証プロジェクトを成功させた。
そして、初の商用プロジェクト「エバーループ」(2022年~)がドイツで着工し、今年夏には掘削が始まる。このプロジェクトは、2023年3月13日に欧州イノベーション基金(EIF)から9,160万ユーロ(約128億円:1ユーロ=140円で計算)の補助金を獲得した。このプロジェクトは電力だけでなく、周辺地域住民に熱も提供し、年間44,000tのCO2排出量削減に貢献する。ドイツでは他にも複数の地域での開発を検討しているという。
© エバー・ジャパン
詳しい話をエバー・ジャパン社のジェームズ・へザリントン取締役に話を聞いた。
© エバー・ジャパン
クローズドループ地熱利用技術の優れた点
安倍従来の技術と比べ、御社のクローズドループ地熱利用技術の優れている点はなんでしょうか?
へザリントン氏優れている点はたくさんありますが、そのいくつかを紹介しましょう。1つ目は、「開発期間が短い」ということです。
従来の地熱発電は、井戸を掘って、3つの重要な要素を探査しなくてはなりません。それは、熱源、地熱貯留層、透水性です。この3つを満たす場所を探すのにはかなりの時間がかかります。これら3つがうまく見つかるとは限りません。それが大きなリスクとなるわけです。
一方、私たちのクローズドループなら、熱源だけ見つければいいのです。従来の地熱発電は開発に10〜15年かかることも珍しくないですが、私たちの場合、その期間を大幅に短縮できます。例えば、ドイツ・バイエルンでの「エバーループ」プロジェクトでは、着工から2年後の2024年に発電を開始する予定です。
2つ目は、私たちの技術は「発電所を建設する場所を選ばない」ということです。地中に熱源があればいいわけですから、国立公園の中だろうが外だろうが関係ありません。また、使用する地上の土地はとても小さい面積です。メガソーラーや風力発電所とは比較にならないくらいの面積ですみます。サッカー場1面か2面程度の土地がありさえすればいいのです。
© エバー・ジャパン
3つ目は、「環境への影響がほとんどない」ということです。
私たちの技術は、地上と地下をつないでクローズドループを形成し、その中で水を循環させるので、地下水や温泉に影響をおよぼすことはありません。もちろん地表の家屋などにも影響はありません。
4つ目はその「拡張性」です。
エバーループは、1基目を建設したら、同じ地中に2基目、3基目と建設することができます。つまり発電所の規模を拡大することが容易であり、同じ地中に建設するので、従来の地熱発電の建設コストに比べ安く、工期は短くなります。
日本の地熱発電のポテンシャル
安倍日本の地熱発電のポテンシャルをどう見ていますか?
ヘザリントン氏ポテンシャルは非常に大きいです。日本はその地熱資源を有効利用すべきです。FIT(固定価格買取制度)やFIP(フィードインプレミアム:市場価格に一定の補助額を上乗せして基準価格を設定する制度)はありますが、それだけでは十分ではありません。我々の開発した新しい地熱開発技術がより迅速に採用されるためには、政府のバックアップが必要ですし、民間企業、地方自治体などが一致協力して取り組む必要があるでしょう。
安倍熱源の探査はどのように進めるのですか?
ヘザリントン氏日本の公的機関(注1)からさまざまなデータを収集します。また、過去に商業ベースに乗らなかった井戸のデータも合わせて参考にすることで、より効率的に調査を進めることができます。大事なのはその場所がよい地温勾配(地下深度に対する温度上昇率。地下増温率ともいう)を持っているかどうかを調べることです。
しかし、これらの機関から取得できるデータ量には限りがあり、政府が援助した井戸や調査の情報しか収集することができません。カナダ・アルバータ州エネルギー規制局が提供しているデータ(井戸、生産量、許可、所有権、結果、サンプル採取など)の種類や量と比較すると大きな違いがあります。
へザリントン氏はこのように述べ、日本でも地熱探査に資する詳細なデータの提供が必要だとの認識を示した。
© エネフロ編集部
今後の課題
最後に、クローズドループによる地熱開発の今後の課題はなにか聞いてみた。
へザリントン氏ひとつは、「資金調達」です。地中に有望な熱源がある地域において、調査を進めるにあたり、資金が必要です。もう一つは、「住民の理解」でしょう。やはり、その地域に住む人たちにプロジェクトについて理解してもらうことが必要です。
そうしたことを考えると、「早く地熱開発に取り組むこと」が重要です。クローズドループによる開発期間が短いといっても(プロジェクトが動き出してから発電開始まで)数年はかかるのです。早く取り組めばそれだけ早く地熱発電を開始することができます。
日本に地熱発電のポテンシャルがあることは明らかだが、その開発はこれからだ。カーボンニュートラル達成のためには全方位の戦略が求められる。地熱発電も当然進められるべきだろう。クローズドループなどの新技術が今後、日本の地熱開発にどう活かされるか、引き続き注視したい。
- 地熱データベース
NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)調査報告書・・・昭和55年から平成21年(1980〜2009)に全国67地域においてNEDOにより実施された地熱開発促進調査の結果を取りまとめた報告書。(JOGMEC(独立行政法人エネルギー金属鉱物資源機構)「地熱データベースシステム」で閲覧可能)
国立研究開発法人産業技術総合研究所 「地質調査総合センター」
環境省「再生可能エネルギー情報提供システム」:概要とデータ利活用方法_REPOS(リーポス(再生可能エネルギー情報提供システム))
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