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グローバル・エネルギー・ウォッチ

Vol.42 「海に浮かぶLNG基地」に需要殺到

写真)ノルウェー船籍のFSRU「ネプチューン」は、ドイツのザスニッツリューゲン島のムクラン港に到着 2022 年 11 月 23 日

写真)ノルウェー船籍のFSRU「ネプチューン」は、
ドイツのザスニッツリューゲン島のムクラン港に到着 2022 年 11 月 23 日
Photo by Sean Gallup/Getty Images

まとめ
  • ロシアのウクライナ侵攻により、世界で「LNG争奪戦」が激化。
  • 浮体式LNG貯蔵・再ガス化設備(FSRU)需要が高まっている。
  • 日本は官民協力で新興国のFSRU市場の需要に応え、LNGの安定供給を目指す。

世界的に脱炭素が進められている中、LNG(Liquefied Natural Gas : 液化天然ガス)の需要が世界的に増加している。LNGは、天然ガスを-162℃まで冷却し液化したものだ。

LNGの最大の特徴は、石炭や石油に比べ燃焼時のCO₂発生量が少ないことだ。日本を始め、中国や韓国などは安定供給の為に、長期契約を供給国と結んでいる。

一方、ロシアのウクライナ侵攻により、ロシア産天然ガスに頼れなくなったドイツや他のEU諸国も新規のLNG契約を求め動いている。こうした需要の急増から、2026年までは安定的な価格で供給を開始できる契約はほとんど売り切れているという。(経済産業省「LNG市場の動向について」)

世界のLNG需要と供給力のギャップは2025年に向け拡大していき、「LNG争奪戦」が激化するとの見方が強まっている。

以前、エネフロはLNG基地を取材した。(参考記事:「日本のエネルギー担うガスサプライチェーン 直江津LNG基地取材記」)

日本はLNGをほとんど輸入に頼っており、巨大なLNGタンカーにより運ばれてくる。その施設は想像以上に規模の大きいものだった。

通常、LNGは船から荷揚げされたら一時的にLNGタンクに保管される。下の写真のタンクは高さ約54メートル、直径約83メートルと巨大だ。巨大な旅客機がすっぽり3機重ねて入るくらいの大きさと聞いた。

写真)INPEX直江津LNG基地 LNGタンク(豆粒のように見えるのは筆者)
写真)INPEX直江津LNG基地 LNGタンク(豆粒のように見えるのは筆者)

© ナカニシミカ

海に浮かぶFSRUとは

LNG争奪戦の激化が予想される中、注目されているのが「浮体式LNG貯蔵・再ガス化設備(FSRU:Floating Storage and Regasification Unit)」だ。(以下、FSRU)

FSRUは、 LNG陸上受入基地機能の一部を代替するもので、海上でLNGを再気化し、陸上パイプラインへ高圧ガスを送出する能力を持つ。

陸上に巨大な貯蔵タンクや再ガス化設備を建設する場合と比較して、FSRUは、設備投資が比較的安い、工期が短い、撤去が可能などのメリットがある為、LNG需要に柔軟に対応できる。

すでに世界で数多く運用されているが、ロシアのウクライナ侵攻によるエネルギー危機によりFSRUの需要がさらに高まっている。

ドイツ政府は2022年12月末、北部の都市・ウィルヘルムスハーフェンに設置されたFSRU1基の試験運転を始めた。2023年末までに計6基の本格稼働を目指している。

写真)ドイツに到着したFSRU 2022年12月15日 独・ウィルヘルムスハーフェン
写真)ドイツに到着したFSRU 2022年12月15日 独・ウィルヘルムスハーフェン

Photo by David Hecker/Getty Images

GIIGNL(国際LNG輸入者協会)の2022Annual Report(p.20)によると、2021年末時点のFSRUの船腹量は48隻。今後、新興国を中心にFSRUの需要が高まる可能性が高い。その場合、既存のLNG船をFSRUに改造する需要も出てくることが予想される。

写真)株式会社商船三井は、オランダのRoyal Vopak N.V.と世界最大のFSRUを共同保有している。全長345.00メートル、全幅55.00メートル、LNG貯蔵能力263,000立方メートル。
写真)株式会社商船三井は、オランダのRoyal Vopak N.V.と世界最大のFSRUを共同保有している。全長345.00メートル、全幅55.00メートル、LNG貯蔵能力263,000立方メートル。

商船三井

FSRUの課題

世界的に需要が高まっているFSRUだが課題も多い。

まず、FSRUは海上で運用しているため、陸上LNG基地に比べて台風や津波の影響を受けやすく、稼働率が安定しないという課題がある。

それ以外にも、FSRU設置の許認可に関わる環境に与えるリスクがある。再ガス化の際の海水温変化、汚水・ごみ処理、騒音、排煙などだ。他にも政権交代などによる国家のエネルギー政策変更リスクなどがある。

またFSRUは、陸上設備と比較して工期が短いとはいっても、需要が急増したからといってすぐに供給することはできない。FSRUの新造船は約3年(通常のLNG船とほぼ同じ)、既存船の改造でも約1年はかかるのだ。

そうした中で日本企業にとってどのようなビジネスチャンスがあるのだろうか。

日本企業の取り組み

日本企業はすでに浮体式LNG生産貯蔵積出(FLNG)プラントで実績を上げてきている。FLNGは、洋上におけるLNGの生産・出荷設備を指す。(注1

日揮ホールディングス(HD)株式会社(以下、日揮)は、今から10年以上も前の2012年に、韓国のサムスン重工業と150万トンの浮体式LNG生産貯蔵積出(FLNG)プラントに係わる基本設計、2014年に設計、調達、建設、据付、試運転(EPCIC)役務を共同受注した。

本プロジェクトは、ペトロナス社(マレーシア国営石油公社)がマレーシア国サバ州沖合いのガス田向けに、同国2基目となる洋上LNGプラントを新設するプロジェクトで、サムスンが船体を、日揮が船上のモジュール部分を担当した。このFLNGプラントは水深1,000メートルを超える深海ガス田向けの設備であり、世界初の事例だという。受注後2020年2月に完工し韓国の造船所を出航、ガス田のあるマレーシア沖での試運転等を経て2021年2月に最初のLNG生産・出荷をしている。

写真)日揮グループが完工したマレーシア向けFLNGプラント
写真)日揮グループが完工したマレーシア向けFLNGプラント

日揮ホールディングス

日揮はさらに、今年からマレーシアで年産200万トン超のFLNGプラント建設プロジェクトの設計・調達・建設を担当すると表明した。こちらもサムスン重工業との共同受注だ。

また、日揮はナイジェリアでのFLNGプラントの開発も進めている。 今までアフリカのFLNGプロジェクトについては、中国企業が金融面から建造面に至るまで影響力を持っていたが、今後日本とのビジネス拡大も期待されている。

今後ますます増えるであろう新興国のLNG関連プロジェクトは、政府や国営企業が主導することがほとんどだ。民間企業だけでは、新興国で起こりがちなプロジェクトの遅延、稼働後の契約不履行などのリスクはカバーできない。

FSRUの導入を検討している新興国の要望も多様化しているという。こうしたニーズに応え、プロジェクトを実現に導く、いわゆる「プロジェクト・マネージメント力」で日本は勝負できるのではないか。

政府はLNGの安定供給確保に向け、電力・ガス事業者、資源開発事業者、商社と「電力・ガス需給と燃料(LNG)調達に関する官民連絡会議」を開催するなど、すでに動きはじめている。オールジャパンの総合力が発揮できるかどうかが問われる。

  1. FLNGとFSRU(参考:JOGMEC「浮体式設備(FSRU/FLNG)による LNG 市場の拡大」)
    広義のFLNG(Floating Liquefied Natural Gas)としては、天然ガスを液化(生産)・貯蔵・出荷を行うLNG-FPSO、需要地における受入れ・再ガス化を担うFSRU 等を包含する。
    (陸上の液化・貯蔵・積出基地を洋上の設備として代替するものをFLNG、陸上の受入・ 貯蔵・再ガス化基地の機能をLNG船により代替するものをFSRUとする)
図) LNGバリューチェーンにおける浮体式設備の活用(概念図)
図) LNGバリューチェーンにおける浮体式設備の活用(概念図)

JOGMEC「浮体式設備(FSRU/FLNG)による LNG 市場の拡大

  • FLNG : Floating Liquefied Natural Gas(浮体式液化天然ガス)
  • FPSO : Floating Production, Storage and Off-loading system、浮体式生産・貯蔵・出荷設備
  • FSRU : Floating Storage and Re-gasification Unit(浮体式貯蔵・再ガス化設備)
  • FSU : Floating Storage Unit(浮体式貯蔵設備)
  • FRU : Floating Regasification Unit(浮体式 再ガス化設備)
  • LNG RV : LNG Regasification Vessel(船上再ガス化装置付 LNG船)。受入地点でLNGの陸上基地への移送は行わず、液化基地からのLNG輸送と受入れ地点では船上で再ガス化・ガス送出まで一貫して行う。SRV:(Shuttle and Re-gasification Vessel)ともいわれる。
  • FSPPU : Floating Storage and Power Plant Unit (浮体式貯蔵・発電設備)
安倍宏行 Hiroyuki Abe
安倍 宏行  /  Hiroyuki Abe
・日産自動車を経て、フジテレビ入社。報道局 政治経済部記者、ニューヨーク支局特派員・支局長、「ニュースジャパン」キャスター、経済部長、BSフジLIVE「プライムニュース」解説キャスターを務める。現在、オンラインメディア「Japan In-depth」編集長。著書に「絶望のテレビ報道」(PHP研究所)。
株式会社 安倍宏行|Abe, Inc.|ジャーナリスト・安倍宏行の公式ホームページ
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