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テクノロジーが拓く未来の暮らし

Vol.48 期待先行のメタバース市場、その課題とは

写真)メタバースのイメージ

写真)メタバースのイメージ
出典)Yagi Studio/GettyImages

まとめ
  • 「メタバース」とは「仮想空間」を意味しており、「meta(超越した)」と「universe(宇宙)」を組み合わせた造語。
  • 三菱総合研究所はメタバースの国内市場は2030年に約24兆円規模まで成長すると予測。
  • 膨れ上がる電力消費や、セキュリティ攻撃が起きた場合のルール形成の問題など、克服すべき課題もある。

今話題の「メタバース」って?

今流行の「メタバース」。一言でいうと「仮想空間」を意味しており、「meta(超越した)」と「universe(宇宙)」を組み合わせた造語である。

経済産業省は、「多人数が参加可能で、参加者がアバターを操作して自由に行動でき、他の参加者と交流できるインターネット上に構築される仮想の三次元空間」と定義している。(参考:【報告書】令和2年度コンテンツ海外展開促進事業 (仮想空間の今後の可能性と諸課題に関する調査分析事業)

最近では、2021年にFacebook社が社名を「Meta」に変更したことで、一気にメタバースに注目が集まったが、期待された世界の市場や経済をひっくり返すほどのインパクトはいまだもたらされていない。

巨大国内市場の誕生

シンクタンク大手の株式会社三菱総合研究所は2022年11月22日に発表した調査リポートで、「メタバース」について将来の国内市場規模を予測した。それによると、メタバースの国内市場は2030年に約24兆円規模まで成長するという。一つの新しい産業が誕生するほどのインパクトがある。

本調査をおこなうにあたって三菱総研は、①3D バーチャル空間、オブジェクト、エージェントというメタバースの3つの最低限の構成要素からなる「原義のメタバース」、②プライベート情報空間としての「パーソナルバース」、そして③リアルとバーチャルの融合場としての「リアルバース」の3つに分類した。そのうえで、これら全部をまとめたものを「広義のメタバース」と定義した。

図)メタバース、パーソナルバース、リアルバースの概要
図)メタバース、パーソナルバース、リアルバースの概要

出典)三菱総合研究所

この3つのバースはそれぞれ異なる方面への展望が期待されるという。原義のメタバースはゲーム、アミューズメント領域を中心とした市場が大きな割合を占め、パーソナルバースは、情報処理、通信インフラが不十分な環境で活躍していくと考えられている。そしてリアルバースは、応用できる範囲が広いため、さまざまな産業分野にわたって進展していくことが期待されている。

しかし、本格的なメタバース経済圏の発展は2030年代中ごろから後半以後となる見込みだという。没入型のメタバースを多数の人々がストレスなく体験できるようになるためには、情報処理や情報通信のインフラが発展する必要があるためだ。

最終的にグローバルレベルで数十億人を超えるユーザーを持つ巨大市場が新たに形成されると予測している。その市場規模についてはさまざまな試算があるが、最も積極的なものだと、8〜13兆ドル(約1,000兆円〜1,700兆円)に上るとされている。こうなると巨大すぎて想像もつかない。

いずれにしろ、メタバースの応用領域は、単にゲームやアミューズメントにとどまらず、あらゆる分野にわたりそうだ。そうした中でも注目すべきは、働き方や教育の分野だ。V-tec(バーチャルテクノロジー)によってコミュニケーションの質が変われば労働生産性が飛躍的に高まるだろう。教育も同様だ。リスキリングなども容易になり、雇用のミスマッチも解消するに違いない。

図)V-tecの主要応用領域
図)V-tecの主要応用領域

出典)三菱総合研究所

すでに一部のテクノロジーは現実のモノとなっている。

昨年、電力会社と関連協力企業、研究機関、大学などによる研究成果を紹介する「テクノフェア2022」(主催:中部電力株式会社技術開発本部)を視察した際、「MR(Mixed Reality):複合現実」というテクノロジーが展示されていた。現実空間と仮想空間を統合して、現実のモノと仮想的なモノがリアルタイムで影響しあう、新たな空間を構築する技術、すなわち「空間共有式3次元遠隔コミュニケーション」は、メタバースの中で拡大していくだろう。人と人とのコミュニケーションが飛躍的に高まる可能性がある。これなどメタバースの応用領域のほんの一例に過ぎない。今後あらゆる領域で技術革新が進むことが予想される。(参考記事:MR(複合現実)でリモート会議が超リアルに「テクノフェア2022」

写真)空間共有式3次元遠隔コミュニケーション。遠隔地にいる相手と同じ空間で会話したりモノを見たりしている様子。
写真)空間共有式3次元遠隔コミュニケーション。遠隔地にいる相手と同じ空間で会話したりモノを見たりしている様子。

© エネフロ編集部

課題も…「電力消費の問題」

産業界の期待が膨らむメタバースであるが、市場が拡大していく過程で課題も指摘されている。その一つが「電力消費の問題」である。膨大なデータを処理するには莫大な電力が必要となる。

チャイナ・マネー・ネットワーク創業者でジャーナリストのニーナ・シャン氏は、少なくとも10数社以上のテック大手がメタバース向けにインフラを強化していることを考えると、電力消費量はビットコイン採掘の何倍にも上る可能性があると指摘している。(参考:Nikkei Asia ”The metaverse's hunger for energy must be quantified” 2022年3月24日)

図)ビットコインの年間電力消費量の推移。 
図)ビットコインの年間電力消費量の推移。 

灰色のグラフが年間消費電力量、オレンジの折れ線グラフは累計の消費電力量を表しており、年々増加傾向にあることが分かる。
出典)ケンブリッジ大学

ICT(情報通信技術)に関しては、データセンターやネットワーク関連の消費電力が急増しており、今後も大幅な増加が見込まれている。こうした電力消費の問題がメタバース拡大の足かせになるという見方に対し、電力コストの増加がむしろICT企業の電力抑制の技術開発に拍車をかけるので、大きな問題とはならないとの見方もあり、議論は分かれている。

課題は他にもある。

国立情報学研究所の佐藤一郎教授は、現実世界における暴力行為に相当すると思われる、アバターやアイテム、空間に対する「破壊や情報の書き換え(盗難)」などの「セキュリティ攻撃」が起きた場合にどうするかといったルール形成の議論が今後必要になってくると指摘する。国際的な枠組みが必要になるだろう。(参考:「メタバースと法制度」総務省・情報通信政策研究所・情報通信法学研究会・AI分科会(令和4年度第1回、2022年6月29日)向け資料)

また、前出のニーナ・シャン氏は、政府が企業に対し、国内でデータを保存または処理することを要求する、いわゆる「データ・ローカリゼーション規制」の問題を指摘する。中国、インド、オーストラリア、インドネシア、ベトナムなどが、国境を越えたデータ転送に関する規制を実施しているか、実施する計画を立てているという。(参考:East Asia Forum ”Metaverse — the latest chapter of the Splinternet?” Nina Xiang 2022年7月6日)

こうした規制は、メタバースの可能性を狭めると思われる。ビジネスアプリケーションの開発にあたり、各国が密接に協力する必要があるとシャン氏は唱えている。

話題と期待が先行するメタバースだが、その可能性を活かすために克服すべき課題は少なくないようだ。

安倍宏行 Hiroyuki Abe
安倍 宏行  /  Hiroyuki Abe
・日産自動車を経て、フジテレビ入社。報道局 政治経済部記者、ニューヨーク支局特派員・支局長、「ニュースジャパン」キャスター、経済部長、BSフジLIVE「プライムニュース」解説キャスターを務める。現在、オンラインメディア「Japan In-depth」編集長。著書に「絶望のテレビ報道」(PHP研究所)。
株式会社 安倍宏行|Abe, Inc.|ジャーナリスト・安倍宏行の公式ホームページ
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IoT、AI・・・あらゆるものがインターネットにつながっている社会の到来。そして人工知能が新たな産業革命を引き起こす。そしてその波はエネルギーの世界にも。劇的に変わる私たちの暮らしを様々な角度から分析する。