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ためになるカモ!?

Vol.47 使用済みの化粧品が絵具に

写真)株式会社モーンガータが提供する廃棄化粧品由来の色材「SminkArt」

写真)株式会社モーンガータが提供する廃棄化粧品由来の色材「SminkArt」
出典)株式会社モーンガータ

まとめ
  • 化粧品ロスが社会課題として注目され始めている。
  • 使われなくなった化粧品を絵具に変えるなどの取り組みがある。
  • 化粧品ロス削減に向けての企業の動きが加速していきそうだ。

次から次へと新作が発売されるコスメ。その可愛さ、新しさに惹かれ買ってしまい、今使っているものを使い終わらずに捨ててしまう。おそらく多くの人がこのような経験をしているのではないか。

そんな中、使用済みの化粧品を再利用しようとするサステナブルな取り組みが始まった。

化粧品は最後まで使われない?

化粧品はどうやら他の消費財と違い、廃棄されることが多いようだ。

スタートアップ企業、株式会社モーンガータ調査によると、コスメを使い切れずに捨てるユーザーがなんと86.3%もいるという。余らないように使い切る人は1割にも満たない。

図)余ったコスメに対する認識調査 2021年6月実施、調査人数5423人
図)余ったコスメに対する認識調査 2021年6月実施、調査人数5423人

出典)株式会社モーンガータ

同社の独自調査によると、生産過程などで化粧品メーカーから出る粉末化粧品の中身(バルク)の廃棄量は、国内上位5社だけで年間約2万トンもあるという。流通段階の在庫、小売店舗における廃棄テスターも入れるとその量は更に膨れ上がると思われ、深刻な問題となっている。

化粧品ロスへの取り組み

①多用途で使用できる色材に変える

こうした中、化粧品ロスをなくそうという動きが出てきた。

モーンガータ社は、化粧品を絵具へと変換する特許技術「magic water」を開発して手持ちの余った化粧品から絵具をDIYできる「SminkArt キット」や化粧品企業から買い上げた化粧品バルク(中身)から製造した絵具「SminkArt ときめくペイント」などの販売やイベント事業などを展開している。

商品名の「SminkArt」は、スウェーデン語で化粧を意味する「Smink」と「Art」を組み合わせた造語で、まだ使える化粧品が大量に廃棄されている「もったいない」現状を解決し、使用済み化粧品に新たな付加価値を提供する取組みだ。

また同社は、2022年に化粧品バルク(中身)を再生利用した「ecosme ink®」を開発し、廃棄化粧品を印刷用技術へ応用する新たなアップサイクルの取り組みも始めており、化粧品メーカーのSDGsの取り組みの支援を加速させている。

国内化粧品メーカー大手の株式会社コーセー(以下、コーセー)は、モーンガータ社の事業に賛同し、研究開発の過程で不要になってしまう化粧品を同社に提供している。

写真) 「SminkArt キット」の商品イメージ
写真) 「SminkArt キット」の商品イメージ

出典)株式会社モーンガータ

コーセーグループは、2020年4月に「コーセー サステナビリティ プラン」を発表し、6つのテーマを設定した。今回の活動は、そのうち、「ビューティを通じた環境課題への貢献」および「事業活動全体での環境負荷低減」に向けた取り組みだ。

②手頃な価格で提供

各化粧品メーカーは、シーズン中に売り切れなかった商品などの割引販売をおこなっている。これまで化粧品業界はブランドイメージを損なうとして、いわゆる「セール」をしないのが普通だった。しかし昨今、サステナビリティの観点から、化粧品ロス削減の一環として割引販売を始めている。

例えばコーセーは、MaisonKOSÉ(店舗とEC)で、お客さまに環境課題への理解を深めてもらいながら、シーズン中に売り切れなった商品をお求めやすい価格で提供する「コーセーグリーンバザール」を展開。

写真) コーセーグリーンバザールのロゴ
写真) コーセーグリーンバザールのロゴ

出典)コーセー

一方、若者を中心に人気を集めている化粧品メーカー「SHIRO」は、製造工程で発生する副産物などの規格外品を無駄なく利用している。

また、2020年より紙箱などのパッケージが不要な客に「エシカル割」を一部店舗で実施した。さらに今年、この「エシカル割」を終了して全直営店舗でパッケージレス製品の販売を開始した。

国内大手の株式会社ポーラが展開するブランド「THREE」も、期間限定で御殿場プレミアム・アウトレットに出店した。THREEがアウトレットに出店するのは初めてだが、サステナブルな考えの浸透から、オフプライス(ブランドの売れ残り品を仕入れて安く販売すること)への考え方も変化しているとし、出店を決めたそうだ。

化粧品会社以外のさまざまな取り組み

化粧品ロスに取り組んでいるのは化粧品メーカーだけではない。

株式会社クラダシが運営する、ソーシャルグッドマーケット「Kuradashi」(※2022年12月現在、社会貢献型ショッピングサイト「KURADASHI」からブランドリニューアルした)は、今年3月22日より9日間、化粧品ロス削減を目指したキャンペーンを開催した。このサイトは「もったいないを価値へ」をモットーに、食品をはじめ、化粧品や日用品などさまざまな商品ロスの削減に取り組んでいる。このキャンペーンは、まだ使えるのに廃棄されてしまう「もったない」化粧品が半額で購入できるものだった。

写真) Kuradashiにて開催されたキャンペーンのイメージ
写真)  Kuradashiにて開催されたキャンペーンのイメージ

出典)Kuradashi

また、特定非営利活動法人ビーファは2021年12月から『化粧品ロス』×『コスドネ〈R〉』ECOプロジェクトを開始した。コスドネとはコスメティックドネーションの略で、余剰化粧品を、貧困や格差で化粧品を自由に使えない国内・海外の方々、災害などで化粧品を必要とする方々に提供することをいう。

写真) ビューファの展開するプロジェクトのイメージ
写真) ビューファの展開するプロジェクトのイメージ

出典)@Press

食品ロスなどと比べると、まだそこまで注目されていない「化粧品ロス」。だが、見てきたように近年は各化粧品メーカーやNPOなどがさまざまな取り組みを始めている。まだ使える化粧品が廃棄される「もったいない」状況の改善に向け、わたしたちも少し意識を変えてみたい。

安倍宏行 Hiroyuki Abe
安倍 宏行  /  Hiroyuki Abe
・日産自動車を経て、フジテレビ入社。報道局 政治経済部記者、ニューヨーク支局特派員・支局長、「ニュースジャパン」キャスター、経済部長、BSフジLIVE「プライムニュース」解説キャスターを務める。現在、オンラインメディア「Japan In-depth」編集長。著書に「絶望のテレビ報道」(PHP研究所)。
株式会社 安倍宏行|Abe, Inc.|ジャーナリスト・安倍宏行の公式ホームページ
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