写真)コミュニティフリッジ草加の前に立つ「フードリカバリースーパーゼンエー」社長植田全紀氏 埼玉県草加市
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- まとめ
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- 廃棄予定の食品を提供する「コミュニティフリッジ(公共冷蔵庫)」設置の動きが全国各地に広がっている。
- コミュニティフリッジ草加は24時間・無人で運営。
- フリッジは慢性的な「品薄」状態。企業や自治体の積極的な協力が不可欠。
食品ロスの現状
茶碗1杯分のごはんを毎日ゴミ箱に捨てている。これは、日本の国民1人当たりの「食品ロス」、つまり本来食べられるのに廃棄される食品の量だ。2022年6月農林水産省発表の資料によると、食料消費全体の食品ロスは、522万トンと推定される。10kgのお米、5億2,200万袋分の計算だ。これは世界全体が援助している食料の量の約2倍に相当し、一般廃棄物処理費用は年間2兆円にもおよぶ。重い環境負荷がかかり、経済合理性も低い現状であると言える。
出典)農林水産省ホームページ
欧米発の取り組み「コミュニティフリッジ(公共冷蔵庫)」
家庭に欠かせない「冷蔵庫」。これを公共の場に設置し、賞味期限切れなどで廃棄される前の食品を提供する「コミュニティフリッジ(公共冷蔵庫)」が注目されている。
食品ロス削減のために始まった取り組みであるが、生活に苦しむ家庭を支えるため、個人や企業から寄付された食材を保管し、必要とする人たちに無料で提供するフードバンクの役割も果たしている。
この取り組みは、2012年にドイツ・ベルリンの「フードシェアリング」という市民のイニシアチブによる団体が始めた活動がきっかけで広まった。2015年にスペイン、2016年にはイギリスでも開始。イギリス国内では、90を超えるコミュニティフリッジが設置されているという。
ニューヨークでは、ヴィ―ガン(完全菜食主義者)のためのコミュニティフリッジが2021年に設置され、話題を呼んだ。豆、米、パスタ、植物ベースの缶詰など動物由来の成分を含まない食品のほか、ヴィーガンフレンドリーな衣類、バスアメニティ、関連本などを24時間年中無休で無償提供している。
冷蔵庫を保護する外壁には、「TAKE WHAT YOU NEED! LEAVE WHAT YOU CAN!(あなたに必要なものを持っていって!支援できるものがあれば置いていって!)」と力強いメッセージがペイントされている。
日本各地に広がる「コミュニティフリッジ」
2020年11月、岡山市で日本初の公共冷蔵庫「北長瀬コミュニティフリッジ」が開設された。
個人、企業・商店などが提供した食料品や日用品を、駐車場に併設された倉庫内の冷蔵庫や冷凍庫に保管し無人で運営。利用登録者は、倉庫の電子ロックをアプリなどで解錠でき、24時間、都合の良い時に取りに行くことができる。児童扶養手当、就学援助等を受給する世帯が原則対象だ。
人との接触無しに食品を提供できるコミュニティフリッジは、コロナ禍の新たな支援の形として注目され、日本各地に広がりつつある。日本初の公共冷蔵庫を開設した一般社団法人北長瀬エリアマネジメントによれば、「コミュニティフリッジネットワーク」に登録すると運営ノウハウやシステムの支援を受けることができるという。北長瀬エリアマネジメントはこれまで、福島、埼玉、大阪(寝屋川市・堺市)、山口、佐賀の6拠点にノウハウを提供してきた。今回、今年7月に運営を開始した「コミュニティフリッジ草加」を取材した。
コミュニティフリッジ草加
「コミュニティフリッジ草加」を運営する埼玉県草加市のスーパーマーケット「フードリカバリースーパーゼンエー」は、食品ロスの削減に情熱を注いでいる。ゼンエーの社長・植田全紀(まさき)氏は、若いころから起業を目指してきた人物。最初は地元のスーパーマーケットの一角を借りて野菜を売ったりしていたが、いつかは自分で店を持ちたいと思っていた。独立してから数年、ようやく念願の第1号店を開いた。
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卸業者と接するうち植田氏は、曲がっていたり傷が付いているだけで流通から外れてしまう、いわゆる「規格外の野菜」が大量に廃棄されている現状に危機感を覚えるようになった。
小さなスーパーだからこそ、何か社会のためにできることはないか。そんな思いを形にしようと、大手のスーパーには並ばない、流通から外れた食品を自ら仕入れて店頭に並べた。
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「とにかく捨てない」という覚悟で食品ロス削減に取り組み始めた植田氏。今年参加したあるオンラインセミナーで公共冷蔵庫が国内で初めて設置されたことを知った。すぐさまコンタクトを取り、自社での開設を決めた。
「コミュニティフリッジ草加」には、業務用の冷蔵庫と冷凍庫を一台ずつ設置。企業に規格外商品を募るほか、個人の持ち込みもゼンエーのホームページから受け付けている。利用は登録制で、児童扶養手当や就学援助を受給するひとり親世帯が対象だ。
スマートフォンで倉庫の電子ロックを解除して入るシステム。無人で人目を気にせずいつでも取りに行けるようになっている。持ち帰る食品のバーコードを端末に読み取ることで、在庫管理をしている。
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登録者からは、「曜日・時間を気にせずに行けて便利」、「人目を気にせずに取りに行ける」といった声が寄せられている。登録者は、開設から3カ月で300人を超えた。寄せられたメッセージからは、現在登録しているひとり親世帯の多くが、コロナ禍と物価上昇の影響で家計が圧迫された状況にあることが伺える。
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コミュニティフリッジの商品登録や品出しの作業は、越谷市の就労継続支援B型事業所「Cuddle(カドル)」がおこなっている。植田氏は「障がいを持つ人たちにとっても(コミュニティフリッジは)働きやすい場所になるのではないか」と話し、障がい者雇用の場としてのコミュニティフリッジを全国に広めたいとしている。
今後、コミュニティフリッジを拡大していくにはどうしたらよいか。植田氏は、コミュニティフリッジを持続可能な取り組みにするためには多くの企業や自治体に参加してもらうことが何よりも重要だと語る。
「(現在)賞味期限内に廃棄されているものが、全部コミュニティフリッジに寄付される世界をつくりたい」と植田氏は意気込む。現在、いろいろな企業や自治体などに協力を求めており、反応は上々のようだ。民間企業と連携して、草加市の住民から家庭で食べきれない食品の寄付を求める活動も企画している。
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今後の課題
フードロス削減と生活困窮者の支援につながる「コミュニティフリッジ」。今後も全国各地に広がっていくことが期待されている。
しかし、課題もある。草加市を含むいくつかのコミュニティフリッジでは、深刻な供給不足と利用者の増加により、慢性的な「品薄」状態に悩まされている。開所時に食料品や日用品が多く並んでいた棚は、最近、「1家族どれか1つ」といった貼り紙が目立つ。
安定的な供給のためには、企業の積極的な協力=寄付が不可欠だが、自社商品のブランドイメージが毀損するとして、商品提供を渋る企業も多いという。せめて運営費を企業に負担してもらいたいと思い、企業にアプローチしたが、もともと廃棄しようと思っていた商品を寄付したうえにさらにお金を払うのは厳しい、との企業側の声に断念したという。
そこで、植田氏は草加市に掛け合い、運営を持続可能なものにするための予算がつかないか、相談している。
また自治体や大規模商業施設には多くの災害用備蓄品がある。期限が来るたびに寄付してもらう仕組みを作れば、供給は安定する。これからも精力的に様々な企業に働きかけていくと植田氏は語る。
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年間522万トンの食品が廃棄されている一方、物価高が家庭を直撃し、生活に困窮する人が増加しているのが日本の現状だ。限りある資源を循環させる持続可能な社会を実現するために、個人・自治体・企業が連携して課題解決に努めることが求められている。植田氏は、草加市からそうしたムーブメントが全国に広がることを目指して活動を続けている。
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