写真) GE日立が建設予定のカナダ初の商用SMRのイメージ
出典)GE Hitachi Nuclear Energy Twitter
- まとめ
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- 岸田首相が次世代原子炉の開発、建設を検討するとの方針を示す。
- 次世代炉には6つの種類があり、それぞれに特徴がある。
- 今後は他国とも連携をしながら、我が国に適した次世代炉の開発が進むと見られる。
最近、次世代原子炉(以下、「次世代炉」)に関する記事を目にすることが増えてきた。
岸田文雄首相は8月、原子力発電所の新規増設や建て替えは想定していないとするこれまでの政府方針を転換し、次世代原子力発電所の開発と建設を検討する考えを示した。
既存の原子炉についても、2023年夏以降に、最大17基の原子力発電所を再稼働させる方針で、原子力発電を利用した安定的な電力確保を目指す。
次世代炉が注目される背景
このタイミングで原子力発電所の再稼働や、次世代炉の開発に国が本格的に力を入れ始めた背景には、ロシアによるウクライナ侵攻と、それに伴う資源供給の不安定化がある。ウクライナ危機の発生後、ロシア産の石油や天然ガスなどの輸入を各国が控えるようになったことで、他国産の天然資源についても需要が供給を上回る状態が続いている。
不安定化する国際情勢の中で、自国の経済活動を支えるのに十分なエネルギーを安定的かつ継続的に確保するためのエネルギー安全保障は、先進各国にとって最も重要な政策の一つとなっている。特に天然資源に乏しい日本において、低コストかつ安定的にエネルギー源を確保できる原子力が重視されるのは、ある種当然の流れともいえる。
また、国内の原子力関連産業のレベルを維持することも、政府が原子力発電所の利活用を重視する狙いの一つと考えられる。東日本大震災以降、原子力産業そのものとそこで働く人材が先細りするとの懸念が高まっていた。自前で原子力発電所を建設することができるだけの技術力がある内に、次世代炉の開発を含めた原子力の利活用の議論を進める必要性が高まっていることが背景にある。
次世代炉の種類
では具体的に、次世代炉にはどのようなものがあるのだろうか。次世代原子炉、次世代型原発、革新炉など、さまざまな呼び名が飛び交っており、わけがわからない、との声も聞こえる。簡単にその特徴と、実用化に向けた課題を見てみよう。
まず、次世代炉の具体的な名称を紹介する。経済産業省が今年発表した革新炉ワーキンググループによると、以下の6つが該当する。
①革新軽水炉、②小型モジュール炉(SMR)、③高速炉、④高温ガス炉、⑤溶融塩炉、⑥核融合炉である。
①革新軽水炉
革新軽水炉は、既存の軽水炉の経済性・安全性を高めたものだ。既存炉に比べ、(1)耐震性(2)航空機が衝突しても耐えられる強度(3)炉心冷却手段の豊富さで上回る。政府は、この革新軽水炉の2030年代の建設、運転開始を目指している。
他の次世代炉に対する優位性は、実現可能性が高いことだ。既存の技術や国内部品の供給網を生かすことができ、安全対策が従来の延長線上にあるからだ。日本政府は、この革新軽水炉の2030年代の建設、運転開始を目指している。一方で、初期費用の高さが課題だ。
②小型モジュール炉(SMR)
「小型」と呼ばれるのは、一般的な原子炉に比べ体積が小さいからだ。ゆえに大型の原子炉よりも冷えやすくなる。原子炉に水をポンプで入れずに自然に冷やすことが可能になれば、安全性が高まるうえに、原子炉全体をシンプルな構造にでき、メンテナンスも容易になる。結果、コスト削減と経済性向上に繋がる。
「モジュール」とは、設計上の概念で、いくつかの部品の機能をまとめてひとつの部品に組み立てる概念をいう。ある程度のところまで工場で部品を組み立て、品質を保ちつつ、工期短縮とコスト低減を図るものだ。
一方で、小型であるがゆえに発電容量が小さいこと、狭い国土の日本での設置場所の確保が課題だ。
③高速炉
高速炉とは「高速中心炉」の略で、高速中性子による核分裂反応がエネルギーの発生源となっている原子炉を指す。日本では、原子力発電黎明期から国産開発を目指し、研究が進められてきた。原型炉「もんじゅ」などが代表例だが、1995年のナトリウム漏洩事故などで廃炉が決まった経緯がある。
近年は、中国、インドといった「原子力新興国」が、2025年頃の実証・実用化を目指した取り組みを強化しており、高速炉開発の新たなプレイヤーとしての存在感を高めている。
出典)資源エネルギー庁
④高温ガス炉
高温ガス炉は、炉心の主な構成材に耐熱性の高い黒鉛を中心としたセラミック材料を用い、核分裂で生じた熱を外に取り出すための冷却材に化学的に安定しているヘリウムガスを用いた原子炉だ。
特徴として優れた安全性が挙げられる。炉心の出力密度が低いため、事故時にも炉心内の熱を原子炉外表面から自然に放熱でき、炉心溶融を起こさない。また、軽水炉(300℃程度)に比べてはるかに高温(~950℃)の熱を取り出し、水素を生産できる。
一方、エネルギー効率の面から問題点が指摘されている。水素は自然界にほとんど存在しないうえ、軽いため体積当たりのエネルギーが小さく、製造や運搬に伴うエネルギー損失を考えれば決して経済的な存在ではないとの見方もある。
⑤溶融塩炉
溶融塩炉は、液体燃料を用いる点で他の原子炉と異なる。トリウムを塩に溶かし込んで、反応炉の溶融塩を循環させ、熱交換機を経由して水蒸気を発生させ、発電用タービンを回す。
この原子炉のメリットは、事故の危険性が極めて低い事、トリウムが地球上に遍在していることから原料の安定供給が比較的容易なこと、プルトニウムをほとんど生成しないため核兵器に利用されにくいことなどが挙げられる。デメリットとしては、溶媒である塩がフッ化物なので、腐食性が高く、循環系に問題が発生しやすい点が挙げられている。
⑥核融合炉
「地上の太陽」とも称される核融合発電は、核融合反応で発生したエネルギーで水を沸騰させ高温の水蒸気を作り、タービンを回転させて発電するものだ。
火力発電と異なり二酸化炭素を排出しない。また、核融合反応はトラブルが発生すると、自然に反応が停止するため、核分裂の原理を用いた原子力発電と比べて安全性が高い。 また、燃料となる重水素は海水から採取でき、資源は無尽蔵だ。
ただ、まだ実験段階であり、実用化には程遠い。日米欧中などは、2025年に実験炉の「初プラズマ(初期稼働)」を予定し、各国しのぎを削っている。(参考記事:「核融合炉」実用化に向け新技術続々)
次世代炉の開発は海外事業との連携も進む
次世代炉の開発に関して、海外の事業者との連携や共同開発の動きも見え始めている。
国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(JAEA)は、9月初旬、英国政府主導の高温ガス炉開発事業において、英国国立原子力研究所(NNL)チームの一員として技術開発に取り組むことを発表した。今後共同で研究開発をおこない、2030年代には英国内に原子炉を建設する計画だ。
また、かねて日本の原子力産業を牽引してきた日立GEニュークリアエナジー株式会社は、カナダ・オンタリオ州で小型モジュール炉(SMR)の建設をおこなうことを発表している。カナダでの商用SMRの導入はこれが初めてで、日本の原子力関連技術は海外でも注目を集めている。
専門家はこうした現状をどう見ているのか。次世代炉の開発を進める世界的な潮流について、電力中央研究所社会経済研究所の堀尾健太主任研究員に聞いた。
電力中央研究所 社会経済研究所 堀尾健太主任研究員に聞く
© エネフロ編集部
安倍近年、革新炉や新型炉と呼ばれる、従来の原子力発電所よりも技術的に進化したものが非常に注目されているが、なぜ今そういった新しい形の原子炉に注目が集まるのか。
堀尾氏新型炉などの研究開発は長年おこなわれてきたが、国や年代によって濃淡があった。近年では、2010年代から北米などで活発になりつつあったが、昨今、世界各国がカーボンニュートラルを長期的な目標に掲げ、社会のありとあらゆるところで脱炭素化を追求する流れが出てきている中で、新型炉にもあらためて関心が高まっているのかなと思う。
安倍次世代炉には、革新軽水炉やSMR、高速炉、高温ガス炉、溶融塩炉など色々と種類があるが、これらは並行的に研究開発していかないといけないものなのか。
堀尾氏色々な考え方があると思うが、一般論から言えば、今は各国政府がカーボンニュートラルの実現に向けて、原子力に限らず、さまざまな革新技術の開発に幅広く投資を始めているので、色々な選択肢を検討するタイミングではないかと思う。
ただし、それぞれの国を細かく見ていくと、軽水炉型のSMRに注目しているところもあれば、高温ガス炉に注目している国もあるし、それぞれのニーズに合わせて選択的に行なっている。国によって選択の仕方は異なり、自分たちが持っている技術をベースにしたり、熱の需要の大きい国が高温ガス炉を選択したりと色々ある。革新軽水炉や軽水炉型のSMRは、すでに実用化されている技術基盤の上にあるので、選択肢に含めている国は多い。
各国から色々な炉型が出てきたときに、世界全体で見て、それらが共存していくのか、淘汰されて行くかはまだ分からない。少なくとも当面は、各国それぞれが炉型を選択していくので、一つや二つに絞られることはないだろう。第三国の市場でどれが勝ち残るかを判断する段階にはない。
安倍どの次世代炉の開発に力を入れるかは国によって違うということだが、日本が1番力を入れるべきなのはどれか。
堀尾氏どういう評価軸で1番を決めるかによる。どんなものが必要か、評価軸をはっきりさせていく必要があるだろう。
例えば、すでにある技術や人材の基盤を生かすことを重視するなら、革新軽水炉が有力な選択肢になるだろう。他にも、高速炉や高温ガス炉は研究開発の蓄積があり、軽水炉型SMRについても多少のベースはあるだろう。
もちろん、革新軽水炉以外は商用化に向けた不確実性はある。またどの炉型であっても、継続的な安全性の向上や社会受容性など、原子力が抱える伝統的な課題への取組みは必要。
安倍今のところ、新型炉開発の技術が進んでいる国はあったりするか。
堀尾氏革新軽水炉を除くと、商用化に向けた進捗があるのは軽水炉型のSMRだろう。西側の先進国であれば、アメリカのニュースケール社のプロジェクトは以前から注目を浴びている。カナダのオンタリオ州にあるオンタリオパワージェネレーション社もGE日立のBWRX-300の導入に動き始めた。いずれも2020年代の後半に運転開始を目指している。西側以外の国では、アルゼンチン、ロシア、中国でSMRが建設されている。ただし、これらの炉型について、自国内での大規模建設や第三国への積極的な売り込みはないと理解している。
安倍政府がある程度の開発方針やロードマップを示してくれないと、次世代炉の開発は進んでいかないのではないか。
堀尾氏原子力、特に革新炉を政策的にどう位置付けるかは前提条件だろう。政府が革新炉に関して前向きな姿勢を示すのであれば、民間が開発に取組む判断材料の一つにはなるだろう。
安倍原子力発電所は投資額が大きいし、問題が起きた時に後処理が大変であるため、民間でリスクを背負いきれない。こうした点も踏まえると、新型炉の開発を民間に任せるというわけにはいかないのではないか。
堀尾氏開発・導入の主体は民間だと思うが、一定程度、公的な支援が必要になるのではないか。例えばアメリカでは、革新炉の開発をおこなっている民間の会社に対して、許認可対応に関するコストシェアリングの枠組みがある。イギリスやカナダでも、民間が主体となった革新炉の開発に対して、公的な投資がされている。政府がどの程度関与するかは国によって違うだろうが、完全に民間だけで開発を行うのは簡単ではない。
原子力発電所利用をめぐる大きな方針転換によって、今後急速に研究開発が進むと目される各種の次世代炉。エネルギー危機を乗り越える切り札となるか、今後も注目していきたい。
エネフロ編集部作成
参考)経済産業省 第4回 総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 原子力小委員会 革新炉ワーキンググループ「カーボンニュートラルやエネルギー安全保障の実現に向けた 革新炉開発の技術ロードマップ(骨子案)」などによる
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