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テクノロジーが拓く未来の暮らし

Vol.42 暮らしの中の小さなエネルギーで発電する未来

人が歩く振動によって作られた電気で鳥のさえずりが流れるイギリスの歩道

人が歩く振動によって作られた電気で鳥のさえずりが流れるイギリスの歩道
出典)Pavegen

まとめ
  • 身の回りの小さなエネルギーを発電に利用する「エネルギーハーベスティング=環境発電」という考え方が注目されている。
  • 振動、人の体温などから電気を作る技術で、実用化され始めた。
  • あらゆるモノがインターネットに繋がるIoTの時代に「環境発電」デバイスは活用されるだろう。

人々が歩く時におきる振動、高速道路での騒音、工場の機械から出る廃熱、そして蛍光灯の光。これらは全て、捨てられてしまう「もったいないエネルギー」だ。再利用することはほとんど不可能だと思われてきた。しかし、日常のいたるところに存在するこうした「音」、「振動」や「熱」を使って発電する技術が現実的になってきた。

「エネルギーハーベスティング」という発想

こうした技術は、「エネルギーハーべスティング(環境発電)」と呼ばれる。日常に溢れている音や振動、光や熱からエネルギーを「ハーベスト(harvest)=刈り取る」という意味から名付けられた。

現在日本での再生可能エネルギーは、水力や太陽光による発電が主流だが、日常空間の中にも、微量ながらたくさんのエネルギー源が存在する。これらを利用して「暮らしながら発電する」ことができれば、持続可能な社会にさらに近づくだろう。

歩く振動を電気に変える「発電床」

身近な音や振動を利用した発電技術を開発している企業が日本にある。「グローバルエナジーハーベスト」というベンチャーだ。2006年の設立以来、「音力発電」や「振動力発電」の研究開発を進め、人の歩行や車の走行の際に生じる振動エネルギーを電気エネルギーに変換する「発電床®」で特許を取得している。

「発電床®」とは、例えば廊下の曲がり角にこの機械を設置し、人が歩く振動でLEDライトを点灯させることで、歩行者に曲がり角の向こうから来る人の存在を知らせることができるものだ。

踏むと発電する仕組みは、圧力をかけると電気が発生する「圧電素子」を床に敷き詰めることで、踏んだ人の動きを電気にかえるものだ。

写真)「発電床®」の仕組み
写真)「発電床®」の仕組み

出典)株式会社グローバルエナジーハーベスト

今まで、振動を利用した発電はエネルギー効率が悪かったが、グローバルエナジーハーベストは独自の技術によって改良を進めてきたという。

 この「発電床®」は既存の電源に接続する必要がないので、地震の際の停電や断線の影響を受けずに済むというメリットもある。火災時の避難誘導灯としての役割も果たすことができ、防災面での活用も期待できる。

写真)実際の「発電床」
写真)実際の「発電床」

出典)株式会社グローバルエナジーハーベスト

ボタンを押す振動を電気に変える「振力電池®」

人が指でボタンを押した際の振動を利用して発電をおこなう、小型の発電ユニット「振力(しんりょく)電池®」というものもある。一回押すことで10~30個の高輝度LEDを瞬間的に発光させることができ、データ量の少ないものであれば無線を送信することもできるという。

最近では、この「振力電池®」を応用した「発電靴」なるものも開発されている。「振力電池®」を内蔵したこの靴は、歩いたり走ったりすることで光を発し、夜間のランニングや帰宅時の安全性確保に繋がるという。

これ以外にも、無線送信デバイスを内蔵させることによる位置情報の通信機能や、蓄電機能など、さらなる用途拡大を目指して開発が進められている。

写真)実際の「振力電池」と「発電靴」
写真)実際の「振力電池」と「発電靴」

出典)株式会社グローバルエナジーハーベスト

音や振動は、騒音被害や工事の振動被害などに代表されるように、ネガティブなイメージを持たれてきたため、これまでは「いかに騒音や振動を減らすか」という観点から研究開発が進められてきた。しかし、「グローバルエナジーハーベスト」では、音や振動を、「発電のためのエネルギー」として、積極的に活用していくという発想の転換で研究開発をしている。

発電床の開発は海外でも

海外でも、「人が歩くことで発電する床」を開発している企業がある。

床発電システム「Pavegen(ペーブジェン)」を開発した英ベンチャー企業は、ロンドンのウエストランド地区に、通称「Bird Street」と呼ばれる、歩くと鳥のさえずりが聞こえる小道を作った。

黒い三角形のタイルが約10平方メートルにわたって敷き詰められており、人が歩いた際の振動エネルギーが電力に変換され、鳥のさえずりが聞こえる仕組みである。

写真)通称「Bird Street」を歩く人々
写真)通称「Bird Street」を歩く人々

出典)Pavegen

人の体がエネルギー源に?体温を利用した発電技術

また、「人の体温」を利用した発電も試みられている。人間の身体は安静時にも約100ワットの熱を発しており、運動中に発せられる熱は1,000ワットを超えるという。人間の身体から放出されている熱をエネルギー源にすることができれば、「資源のいらない発電方法」として重宝されることになるだろう。

実際に、スコットランドには人の体温を利用した発電をおこなっているナイトクラブがある。「SWG3」というこのナイトクラブでは、人間の体から発せられる熱を電気に変換する「BODYHEAT」と呼ばれるシステムが試験的に導入されている。

このシステムは、熱気を帯びた空気を吸引する機械が天井に設置されており、回収された空気の熱エネルギーを変換し、会場の冷暖房に使用しているという。ナイトクラブ側の試算によると、このシステムを利用することで削減されるCO₂の排出量は、年間70トンにもおよび、2025年にはカーボンニュートラルを実現する計画だ。

写真) 「SWG3」の様子
写真) 「SWG3」の様子

出典)Town Rock Energy

体温を利用した冷暖房システムは他にもあり、例えばアメリカのミネソタ州にある全米最大級のショッピングモール、「モール・オブ・アメリカ」では、天窓からの太陽光と店舗の照明による熱、そして年間4千万人を超える買い物客から放出される熱をエネルギー源として、施設内の温度を約22℃に保っているという。

写真)モールオブアメリカの内部 アメリカ・ミネソタ州
写真)モールオブアメリカの内部 アメリカ・ミネソタ州

出典)Photo By Raymond Boyd/Getty Images

このように、人間から放出される熱やその他の機械や照明によって放出される熱を効率的に利用できれば、施設の運用の一部のエネルギーをまかなうことができるのだ。

電波も電気に?東北大の研究に注目集まる

さらに、これまで紹介した「振動」や「熱」だけでなく、電波をエネルギーに変える研究も進んでいるという。

東北大学電気通信研究所は、2021年にシンガポール国立大学などと協力し、Wi-Fiの電波から発電をおこなう素子の開発に成功した。2.4GHzの電波でコンデンサを3~4秒充電し、貯めた電気を解放することで1分間LEDを発光できたという。

写真) 東北大が開発した電波を使って発電をおこなう素子の模式図
写真) 東北大が開発した電波を使って発電をおこなう素子の模式図

出典)東北大学 電気通信研究所

この技術を発展させることで、「電力源としては捨てられ続けているWi-Fiの電波から効率的に電力を抽出して情報のセンシングや処理をおこなう、ワイヤレス・バッテリーフリーのエッジ情報端末などの実現(東北大学)」が期待されるという。まさに発想の転換ではないだろうか。

エネルギーハーベスティングの未来

今回は、国内外を問わず、音や振動、人の体温や電波などを利用した、身近な発電が注目を集めている例をいくつか紹介した。

この「エネルギーハーべスティング」は、発電所で作るエネルギーに比べれば非常に小規模なものだ。しかし、近年、モノ同士がインターネットでつながる、いわゆるIoTの導入が急速に進んでいる。今後は身の回りのあらゆるものにセンサーや通信機能が搭載されていくだろう。

小型のIoT機器は消費電力が少ないため、今回紹介した振動、熱などから「刈り取った」電力でも十分に機能する。こうした身近な電力をうまく活用することで、配線や定期的な充電も不要になり、場所を選ばずにIoT機器を設置できるようになる。

今後、エネルギーハーべスティングの開発が進むことで「暮らしながら発電し、同時に消費する」という社会が実現できる日が訪れそうだ。

安倍宏行 Hiroyuki Abe
安倍 宏行  /  Hiroyuki Abe
・日産自動車を経て、フジテレビ入社。報道局 政治経済部記者、ニューヨーク支局特派員・支局長、「ニュースジャパン」キャスター、経済部長、BSフジLIVE「プライムニュース」解説キャスターを務める。現在、オンラインメディア「Japan In-depth」編集長。著書に「絶望のテレビ報道」(PHP研究所)。
株式会社 安倍宏行|Abe, Inc.|ジャーナリスト・安倍宏行の公式ホームページ
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IoT、AI・・・あらゆるものがインターネットにつながっている社会の到来。そして人工知能が新たな産業革命を引き起こす。そしてその波はエネルギーの世界にも。劇的に変わる私たちの暮らしを様々な角度から分析する。