写真)自動化植物工場「テクノファームけいはんな」の栽培室内
出典)株式会社スプレッド
- まとめ
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- 静岡県で「植物工場」建設計画が相次ぐ。
- 世界最大規模のレタスの生産をおこなう「植物工場」の計画も。
- 世界の野菜や果物が育たない地域への貢献も期待できる。
静岡県は野菜の栽培県
静岡県は温暖な気候と大消費地に近いという立地条件から、全国に先駆けて施設栽培が盛んであった。
古くは徳川家康公が大御所として駿府(現静岡市街)にいた江戸時代慶長の頃(1600年初頭)から三保地域(現静岡市清水区三保地区)で、油紙障子を用いてナスが促成栽培されていたという。馬糞や麻屑などの有機物による発酵熱を障子で覆って収穫期を早めたのだ。今でいうハウス栽培の原型である。
その後、明治から大正時代にかけ、県内各地でガラス温室を用いたメロン・トマト・キュウリなどの施設栽培がおこなわれていた。このように静岡は、高品質の野菜、花きを生産する園芸県として発展してきた歴史がある。
そんな静岡県で今、「植物工場」が増えているという。「植物工場」とはどのようなものなのか?
植物工場とは
「植物工場」とは、施設内で植物の生育環境を制御して栽培するシステムをいう。主に野菜を栽培する「植物工場」を、「野菜工場」と称する場合もあるが、この記事では「植物工場」に呼称を統一する。
植物工場は「太陽光型」、「人工光型」の二つに大別される。「太陽光型工場」は温室などで太陽光を取り入れ、換気および環境制御によって栽培する施設で、このような施設ではトマト類の栽培が盛んだ。太陽光を必要とするため元々農地であったところに建てることが多い。太陽光を基本として、夜間も人工光を当て続ける「併用型工場」もある。こちらでは野菜だけでなく花き類の栽培も多い。
一方、「人工光型工場」は太陽光の代わりにLEDなどの人工光源を、土の代わりに培養液を使い、温度や湿度、空調などをコントロールすることで野菜を安定的に生産することを目的とする。閉鎖空間ゆえに害虫の被害を受けることもほとんど無く、天候の変化に収量が左右されないため、1年を通じて生産・供給が可能になる。栽培環境を選ばないので寒冷地でも酷暑地でもどこでも栽培できるというメリットもある。
主に栽培されるのは、レタスなどの葉物野菜。農地がなくても建てられるため農業と関係のない企業でも参入しやすい。日本ではこの「人工光型」が主流だ。
出典)農林水産省:「大規模施設園芸・植物工場 実態調査・事例調査(p.13)」一般社団法人日本施設園芸協会
静岡の植物工場の実態
静岡県における植物工場にはどのようなものがあるのだろう。
一般社団法人日本施設園芸協会の調べによると、静岡県では2021年2月時点で、太陽光型が4件、併用型が2件、人工光型が8件ある。
太陽光型、および併用型は全ての工場でトマトや三つ葉、レタスなどの葉物野菜などが栽培されている。またこれらの工場を経営しているのは、すべて農事組合、農園、アグリビジネスの株式会社など、元々静岡県で農場を経営していた農業関係の事業者である。
一方、静岡県で最も多い人工光型では、葉物類が栽培されているのは共通しているが、農業関係の事業者だけでなく、一般企業の一部門としておこなわれている場所もある。
中部電力の植物工場
そうした中、中部電力は2021年5月25日、株式会社日本エスコンおよび株式会社スプレッドと共に、植物工場の建設・運営をおこなう「合同会社TSUNAGU Community Farm(ツナグ コミュニティ ファーム)」の設立に関する出資者間協定を締結した。
この協定に基づいて静岡県袋井市に世界最大規模となる1日10トンのレタスを生産できる完全人工光型の自動化植物工場「テクノファーム袋井」の建設を予定しており、2024年1月からの生産開始を目指している。
出典)中部電力
なぜ、電力会社が野菜を?と思う読者もおられよう。しかし、電力会社には、エネルギー管理のノウハウが蓄積されている。日本エスコンのような不動産開発会社と、スプレッドのような栽培技術をもった会社と植物工場事業をおこなうことは、食や農業分野の課題を解決するだけではなく、クリーンエネルギーの積極的な利用や栽培過程におけるCO2の有効活用など、脱炭素化に向けた取り組みにも通じる。
その先には、持続可能で暮らしやすい社会の実現とSDGsの達成に貢献するという電力会社の大きなミッションがある。電力会社の社会における役割は今、大きく変化している。
また県内では他にも、菱電商事株式会社が他1社と植物工場野菜の生産をおこなう合弁会社 「ブロックファーム合同会社」を 2020 年 10 月 14 日に設立、世界で初めてのほうれん草量産工場を昨年5月に着工した。
また東京電力エナジーパートナー株式会社も、他2社と、合弁会社「彩菜生活合同会社」を設立、植物工場を静岡県藤枝市に2020年7月1日から操業を開始している。日産5トンの生産能力を誇る。
このように、静岡県では近年植物工場の設立が相次いでいる。
今後の課題と見通し
実はエネフロは3年前、すでに植物工場を取材している。(参考記事:「世界が注目!日本の最新鋭植物工場」)その工場を運営していたのが、前述の株式会社スプレッドだった。
植物工場は栽培環境を全て管理しないといけない。光や温度・空調調節のためのエネルギーを無駄にしないためにも、施設は小規模では成り立たないという意見もあるが、大規模化は、場所や設立・維持コストをその後回収できるかが難しいとされてきた。その管理費用を回収しようと思えば、必然的に露地栽培でできた野菜よりも価格が高くなってしまうという課題があった。
しかし、これらの課題は生産規模の拡大と効率アップにより解消できる。前述の株式会社スプレッドは、次世代型農業生産システム『Techno Farm™』を開発、そのマザー工場である「テクノファームけいはんな」(京都府木津川市)を2018年11月から稼働させている。ロボティクスやIoT、進化した設備技術を駆使して、日産3万株のレタスを安定的に生産する世界最大規模の自動化植物工場だ。
同社の工場から出荷されるレタスは実は私たちの身近のスーパーで買うことができる。筆者が食したところ、言われなければ植物工場で作られたレタスだとは全く分からなかった。むしろシャキシャキしてみずみずしいのが印象的だった。
提供)株式会社スプレッド ベジタスHP
「テクノファーム袋井」は1日10トンの生産量を目指すという。最近の植物工場は、ここ数年の間に、生産効率が格段にアップしており、露地栽培の野菜に対する価格競争力はかなり出てきているものと思われる。
もう一つの課題は、植物工場で作られる野菜のほとんどが葉物類であることだろう。株式会社スプレッドでは、いちごの量産技術を2021年に確立しており、さらに穀物やきのこなどの研究開発にも取り組んでいる。近い将来、植物工場で生産されたさまざまな野菜や果物が食卓に並ぶ時が来るかもしれない。
植物工場が普及すれば、日本の食料自給率問題や食育にもいい影響を与えるだろう。また、世界に目を転ずれば、水不足や農業技術の未発達により、新鮮な野菜が収穫できない地域はたくさんある。日本発の植物工場はすでに世界各国からの注目を集めている。異業種や大資本の新規参入もあり、日本の成長戦略に貢献することが期待される。
- 参考)
- ・静岡県公式ホームページ「ふじのくに」
- ・徳川家の家紋はなぜ三つ葉葵なのか: 家康のあっぱれな植物知識(稲垣栄洋著 東洋経済新報社)
- ・農林水産省:「植物工場の概況植物工場の種類生産物の種類 栽培の基本的な理論建築物の役割」株式会社 アイエムエー 代表取締役 池田 弘
- ・農林水産省:「大規模施設園芸植物工場 実態調査事例調査」令和 3 年 3 月 一般社団法人日本施設園芸協会
- ・株式会社スプレッド ニュースリリース「スプレッドが植物工場でのいちごの量産化技術を確立 農薬を使わず安定生産し、世界市場に挑む」
- ・菱電商事株式会社 プレスリリース「次世代植物工場の事業運営を目的とした合弁会社の設立について」
- ・東京電力エナジーパートナーズ プレスリリース「世界最大の完全人工光型植物工場を7月1日から操業開始~1日あたり最大5トンの葉物野菜を安定的にお届けします~」
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