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出典)makunin/Pixabay
- まとめ
-
- 企業や地方自治体等が、国内外のグリーンプロジェクトに要する資金を調達するために発行する債券、いわゆる「グリーンボンド」の発行が急増している。
- 電気事業者も再生可能エネルギーの開発、建設、運営、改修に関する事業への新規投資に充当する目的でグリーンボンドを発行している。
- 電気事業者は、脱炭素化を、社会や需要家と一体となって促進していかねばならない。
今回は企業の資金調達について触れる。
企業が市場(投資家)から資金を調達する方法は2つある。ひとつは「株式」発行であり、もうひとつは「債券」発行だ。
いま、その債券市場で注目を集めているものがある。それが、「グリーンボンド」と呼ばれるものだ。「グリーン」というくらいだから「環境」と関係があるのだろう、とピンと来た方もおられるだろう。
そのとおりで、「企業や地方自治体等が、国内外のグリーンプロジェクトに要する資金を調達するために発行する債券」を指す。(環境省グリーンボンド発行促進プラットフォームによる)グリーンプロジェクトとは、環境問題の解決に貢献する事業を指す。「グリーンボンド」は日本語では「環境債」と訳される。
主なグリーンプロジェクト
「グリーンボンド」が生まれた背景には、2015年の国連サミットで設定された「SDGs : Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」がある。特に環境分野では、化石燃料から再生可能エネルギーへの転換や、ガソリンエンジン車からEV(電気自動車)への移行など、これまでにないダイナミックな産業革命が進行中だ。
こうした中、企業はイノベーションのために巨額な資金調達を余儀なくされている。なにしろその市場規模は巨大で、2017年のダボス会議において、SDGs関連市場は12兆ドル(約1,320兆円:1ドル=110円で試算)、創出される雇用は3億8,000万人との推計が出ている。(Better Business,Better World:ダボス会議2017)
「グリーンボンド」の特徴とメリット
「グリーンボンド」の特徴は:
・使途がグリーンプロジェクトに限定されること
・調達した資金が追跡調査されること
・発行後、レポートを通じて透明性が確保されること
などで、使途、運用共に厳格に管理される。
「グリーンボンド」のメリットは:
発行する企業にとっては、
・グリーンプロジェクト推進に積極的であるという企業イメージの構築。
・それを評価する新たな投資家の獲得と資金調達基盤の強化。
投資家にとっては、
・グリーンプロジェクトに積極的な企業への投資をアピールすることによる社会からの支持獲得。
・株式などの伝統的資産との価格連動性(相関性)が低いとされるオルタナティブ投資の側面を有するため、分散投資によるリスク低減の有効な投資先の一つになりえる。
など、双方にとって大きなメリットがあることが分かる。
「グリーンボンド」の市場
こうした中、世界のグリーンボンド発行実績は急拡大している。2012年には31億米ドル(約3,410億円:1ドル=110円で試算)だったが、2020年には2,700億米ドル(約29兆7,000億円:1ドル=110円で試算)を超えた。
日本でも同様に、2017年に発行総額2,000億円を突破してから右肩あがりに伸び、2020年には1兆円を突破した。
海外の事例
まず、海外の主な「グリーンボンド」発行事例をみてみよう。
アメリカ:
ニューヨークの交通公社である、「New York Metropolitan Transportation Authority」が、2017年12月に、「ニューヨーク都市圏における電車、トロリーバス、ケーブルカー等の低炭素化」を使途に、発行総額21.7億米ドル(約2,387億円:1ドル=110円で試算)、償還期間23年。
ドイツ:
不動産・住宅ローン大手の「Berlin Hyp」が、2018年4月に、「グリーンビルディング取得・建設・改修向けローンのリファイナンス」を使途に、発行総額5億ユーロ(約650億円:1ユーロ=130円で試算)、償還期間10年。
イギリス:
イギリス東部の上下水道建設・運営管理会社「Anglian Water」が、「炭素排出量削減・気候変動適応型水管理事業や水リサイクリング事業」などを使途に、2017年8月から2019年6月まで計4回、発行総額5.15億米ドル(約566億円:1ドル=110円で試算)、償還期間8〜20年。
フランス:
不動産の投資、開発、維持管理・コンサルティング企業の「Icade」は、「グリーンビルディングの建設・取得」などを使途に、2017年9月に発行総額7.16億米ドル、償還期間10年。
などがある。
また最近では、欧州を中心に国債としてのグリーンボンド(グリーン国債)発行が増えている。
フランス国債庁は、「建物、輸送、エネルギーの効率化、有機農業の促進、生態系の保護、土地環境の保全、汚染管理」などを使途に、2017年1月に総額70億ユーロ(約9,100億円:1ユーロ=130円で試算)、償還期間22年の国債を発行した。
ドイツ債務管理庁も、2021年5月11日に、30年物のグリーン国債を総額60億ユーロで(約7,800億円:1ユーロ=130円で試算)募集した。それに対し、約6.5倍の389億ユーロの応募があったという。(Bloomberg:2021年5月11日)
今年11月の地球温暖化対策の国連会議COP26議長国を務めるイギリスも、個人向けグリーン国債をこの秋に発行する予定だ。今後、グリーン国債を発行する国が増えそうだ。
日本の事例
海外に比べてまだ規模は小さいが、日本の事例も増えている。主なものを紹介しよう。
・独立行政法人 鉄道建設・運輸施設整備支援機構
概要:都市鉄道利便増進事業として進められている神奈川東部方面線(相鉄・JR直通線、相鉄・東急直通線)の2路線を新設
効果:移動手段が自動車から鉄道に置き換わる(モーダルシフト)によるCO2やNOx排出量の削減
発行額:
2017年11月200億円 償還期間10年
2018年02月245億円 償還期間10年
・日本郵船株式会社
概要:日本郵船の「環境対応船の技術ロードマップ」で予定する投資(新規および一部リファイナンス)①液化天然ガス(LNG)燃料船、②LNG燃料供給船、③バラスト水処理装置、④SOx(硫黄酸化物)スクラバー 等
効果:LNG 燃料船の導入によるCO2、SOx、NOxの削減量(重油燃料⽐年間削減率)など
発行額:2018年5月100億円 償還期間5年
・三菱地所
概要:「常盤橋プロジェクト(大手町二丁目常盤橋地区第一種市街地再開発事業)」A 棟(主要用途:事務所、店舗、駐車場等 述床面積:約146,000 ㎡)の建設事業
効果:地域冷暖房による熱利用や太陽光パネルの設置、エコガラス、LED 自動調光システムの導入による省エネ効果やCO2削減効果など
発行額:2018年6月200億円 償還期間5年
・東京都
概要:上下水道施設の省エネ化、環境にやさしい都営バスの導入、公園の整備など
効果:CO₂削減など
発行額:2017年10月 50億円 償還期間5年
東京都のグリーンボンド発行は自治体初。これまでに5年債累計総額250億円、30年債を累計総額250億円発行している。
・日本電産
出典)日本電産
概要:電気自動車向けトラクションモータの製造に関連する設備投資及び研究開発費
効果:トラクションモータシステム(E-Axle)導入による CO2 排出削減
発行額:2019年11月 1000億円(内訳:償還期間3年500億円、5年300億円、7年200億円)
電力会社もグリーンボンド発行
さまざまな企業がグリーンボンドを発行する中、電気事業者も起債に積極的に動き始めた。
背景には、世界的な脱炭素の潮流がある。我が国は、2050年カーボンニュートラルを宣言し、2030年にはCO₂排出量46%削減(2013年度比)を目標としている。
再生可能エネルギーの開発、建設、運営、改修に関する事業への新規投資およびリファイナンスに充当する目的でグリーンボンド発行が相次いでいる。各社の発行額は以下のとおり。
東北電力 | 2020年2月 | 50億円 | 償還期間10年 |
同上 | 2020年9月 | 100億円 | 償還期間10年 |
電源開発 | 2021年1月 | 200億円 | 償還期間10年 |
九州電力 | 2021年6月 | 150億円 | 償還期間10年 |
中部電力 | 2021年7月 | 100億円 | 償還期間10年 |
東京電力リニューアブルパワー | 2021年9月 | 300億円 | 償還期間10年 |
電気事業会社は、私たちの暮らしと産業に必要不可欠な電気を安定供給する役目を担っている。脱炭素社会の実現が目前に迫る中、総力を挙げて取り組まねばならない。
2021年7月に初のグリーンボンドを発行した中部電力は、脱炭素への取り組み「ゼロエミチャレンジ2050」を同年3月に公表。2030年には販売する電気由来のCO₂排出量を50%以上削減(2013年度比)し、2050年には事業全体のCO₂排出量ネット・ゼロを目指す。
出典)中部電力
過去記事(新規開発目標200万kWの半分以上は風力発電で」中部電力株式会社再エネカンパニー鈴木英也社長)で、再生可能エネルギーの新規開発目標について紹介した。今回のグリーンボンドで調達した資金は、水力やバイオマス、風力といった再生可能エネルギーの開発・建設・運営・改修に活用する。グリーンボンドに対する投資家の関心は高く、発行額に対し9倍の需要があり即日完売したという。
出典)中部電力
電気事業者の脱炭素への取り組みは厳しい。中部電力は非化石エネルギーを最大限活用するとともに、水素技術、カーボンリサイクルなどの実用化に取り組み、お届けする電気の脱炭素化を進めるとしている。同時に、現在、最終エネルギー消費に占める電力消費は1/4程度であり、脱炭素に向けては電力のみならず、エネルギー全体での取り組みが必要であり、エネルギー利用の電化・脱炭素化を社会・お客さまとともに進めていくとしている。
以前の記事(「第二の創業期」迎えた電力会社が届ける新たな価値 中部電力ミライズ大谷真哉社長)でも紹介したが、中部電力グループの販売事業会社である中部電力ミライズは、個人向けには「新たな価値」や、「パーソナライズされたサービス」を提供することで豊かな暮らしを、企業にはエネルギーを上手に使うことで「ビジネスの課題解決」に貢献する「総合サービス企業」を目指すとしている。
言い換えれば、「需要者の豊かな暮らし」と「ビジネス課題の解決」を両立させたその先に「脱炭素化」がある、ということだ。電気事業者は、電気を安定的に供給するだけでなく、ユーザーが何を求めているか、社会にとってどのようなサービスが必要なのか、そうしたニーズを一つ一つ掘り起こしつつ、脱炭素に結びつけていかねばならない。「言うは易し行うは難し」だが、そうした社会の「新しい価値」を生み出せねば、「2050年カーボンニュートラル」の達成は容易ではない、という危機感が根底にある。
電気事業者はこれまでにない挑戦に立ち向かおうとしている。「グリーンボンド」がその後押しをしているのは確かなようだ。
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