写真) 気候サミット2021 挨拶するバイデン米大統領
出典) 米国務省
- まとめ
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- バイデン大統領、「気候変動サミット」で、2030年までに温室効果ガス排出量を2005年比で50〜52%削減すると表明。
- 菅総理大臣は、2030年に向け温室効果ガスを46%削減(2013年度比)することを目指すと表明。
- 再生可能エネルギー導入量を大幅に増やせば日本の産業競争力は落ち、産業空洞化の懸念も。
トランプ米前大統領はパリ協定から離脱し、石炭産業などに手厚い政策を取り、環境保護関連予算を削減するなど、地球温暖化防止には関心がなかった。一方、バイデン大統領はその真逆の路線まっしぐらだ。
それは、就任直後の今年1月27日、気候変動対策に関する大統領令に署名したことでも明らかだ。公有地での石油・天然ガスの新たな掘削の禁止や、洋上風力発電を2030年までに倍増させることなどが盛り込まれた。
そして、4月。バイデン大統領は「気候変動サミット」を主催、今が気候変動問題への取り組みにおける「勝負の10年」だと述べるとともに、2030年までに温室効果ガスの排出量を2005年比で50〜52%削減すると表明、これまで、2025年までに26~28%削減するとしてきた目標を倍増させるなど、本気度を世界中に示した。
そして、日本。菅総理大臣は、2030年に向け温室効果ガスを46%削減(2013年度比)することを目指し、さらに50%の高みに向けて挑戦を続けていく考えを示した。これまでの目標26%削減を実に8割近く引き上げたわけだ。いかに野心的な目標であるかがわかる。
出典) 首相官邸
日本の温室ガス排出量
では、実際日本はどの程度温室効果ガスを排出しているのか。温室効果ガスの約8割を占めるCO₂の排出量を各国別で見ると、日本は中国、アメリカ、インド、ロシアに次ぐ、第5位の排出国だ。中国の排出量は、世界全体の実に3割弱を占めている。
出典) 全国地球温暖化防止活動推進センター
(元データは EDMC/エネルギー・経済統計要覧2021年版 による)
では日本国内の温室効果ガス排出量の推移を見てみよう。政府が2013年度比、と言うように、実際2013年度に排出量はピークだった。その後、年々減少に転じている。
出典) 全国地球温暖化防止活動推進センター
(元データは 国立研究開発法人国立環境研究所 温室効果ガスインベントリオフィス より)
この温室効果ガスの削減スピードを加速させていかねばならないわけだが、部門別の排出量を見てみたい。
出典) 全国地球温暖化防止活動推進センター
(元データは 国立研究開発法人国立環境研究所 温室効果ガスインベントリオフィス より)
この図を見ると、二酸化炭素排出量はやはり産業部門や運輸部門が多いものの、年々減少しているのが分かる。また家庭部門も2013年頃まで右肩上がりだったが、その後減少に転じている。家電製品の省エネ化が進んでいるからだと考えられる。あまり減少していないのは、エネルギー転換部門(発電や石油精製)だ。いずれにしてもあらゆる部門で省エネを進めないことには、目標は達成できそうもない。
エネルギー基本計画
さて、みなさんは「エネルギーミックス」という言葉をご存じだろうか。「電源構成」ともいい、私たちが普段使っている電気がどの様な発電形態で作られているのかを示したものだ。多くの人は電気がどのように作られているか、意識して使ってはいないだろう。
昨今の報道を見ていると、化石燃料、特に石炭火力はCO₂を多く排出するのですっかり悪者になっているが、日本のエネルギーミックスはどうなっているのかまずは以下の図を見てみよう。
出典) 経済産業省資源エネルギー庁
どうだろう。第一次石油ショック時に化石燃料依存度が94%もあったことで日本経済は大きなダメージを受けた。その反省から日本は、化石燃料依存度をなんとか減らそうと原子力発電を増やし、東日本大震災の前年の2010年には同依存度を81.2%にまで下げることができた。しかし震災後、ほとんどの原子力発電所が停止したことで、再び化石燃料依存度が増え、85.5%(2018年度)にまで上昇しているのが現状だ。
こうしたなか、政府は国の中長期的なエネルギー政策の方向性を示す、いわゆる「エネルギー基本計画」というものを作っている。最新のものは、2018年に作られた。(参考記事:2021年4月6日「エネルギー基本計画」暮らしへの影響は?)その時、2030年度の電源構成(エネルギーミックス)を以下の図のように想定した。
出典) 資源エネルギー庁
しかし、脱炭素の国際的な潮流は加速している。先に述べたように、日本は温室効果ガスをほぼ半減させねばならない。今年は「エネルギー基本計画」の見直しの年だ。「エネルギーミックス」の比率をどう変えるのかが注目されている。
日本の課題
出典) Pxhere
ここで政府の目標である「2050年カーボンニュートラル」と「2030年に向け温室効果ガスを46%削減(2013年度比)」を達成するための課題について考えてみる。
気になるのはこれらの政府目標が「エネルギー基本計画」の見直しに先んじて打ち出されたことだ。46%削減の中身をどう積み上げるのかが問題だ。
大枠として、原子力や再生可能エネルギーなどの脱炭素電源の比率を増やし、CO₂排出量が多い火力の比率を下げることになるだろう。再生可能エネルギーの中で有望視されているのは風力、とりわけ洋上風力に期待がかかっている。しかし、風況が欧州ほど良くない日本で風車を設置できる場所は限られているうえ、実用化はこれからだ。2030年に間に合うのか懸念される。
一方、再生可能エネルギーの導入は国の固定価格買取制度で支えられている。その原資は私たち国民や全ての需要家が負担する再エネ賦課金である。買取費用総額は2020年にすでに3.8兆円に達している。再生可能エネルギーの導入を今以上増やすということは、国民負担がさらに増えることに他ならない。
出典) 経済産業省資源エネルギー庁
こうした再生可能エネルギー導入拡大の費用とともに、原子力発電の停止にともない、火力発電の化石燃料費用が増加していることから、電気料金は原油価格変動の影響を受けやすくなっている。近年の電気料金は上昇傾向にある。震災前の2010年度と比べ2019年度で、家庭向けで約22%、産業向けで約25%も上昇している。
出典) 経済産業省資源エネルギー庁
そもそも「カーボンニュートラル」を目指せば、企業は、ビジネスモデルの転換や、新システム・技術の導入、さらに省エネなどを余儀なくされ、更なるコストがかかる。それに加えて電気料金が高騰すれば、製造業などは、日本より低価格で脱炭素電源を使用できる海外へ拠点を移さざるを得なくなり、産業の空洞化を招くことになる。
現在、原子力発電所の運転期間は、法律(原子炉等規制法)に基づき、使用前検査に合格した日から起算して40年とされている。1回に限り、20年を超えない期間延長することができる。 経済産業省が原子力発電所を40年運転したケースと60年運転するケースで設備容量の見通しをシミュレーションしている。
それによると、廃炉が決定されたものを除き、36基の原子力発電所(建設中を含む)が仮に60年運転するとしても、2040年代以降、設備容量が大幅に減少する見通しだ。
出典) 経済産業省資源エネルギー庁「原子力政策の課題と対応について」(令和3年2月25日)
原子力発電は脱炭素電源の中でも発電時にCO₂を排出しないだけでなく、出力が不安定な太陽光発電や風力発電と違って、安定的に電力を供給できる。「カーボンニュートラル2050」や「2030年温室効果ガス46%減」を実現するためには、原子力発電の扱いをどうするか、議論を避けることはできない。
エネルギー基本計画に、原子力発電所の建て替え(リプレース)や新増設についての考え方がどう反映されるか注目されているのは、以上のような理由からだ。
エネルギー問題は国家の安全保障に係わる。日本の産業競争力を維持するために、いかにCO₂を減らすかと同時に、電力のコストと電力安定供給問題についても考えねばならない。
今年「エネルギー基本計画」がどう見直されるのか、今後も継続してリポートしていく。
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