写真) 浜岡原子力発電所
出典) 中部電力
- まとめ
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- 3号機、4号機は安全性向上対策を実施中で、新規制基準への適合性確認審査が今後進展する見込み。
- 地域とのコミュニケーション活動は、対面だけでなくインターネットなども使って丁寧に進めていく。
- 運転員に対しては運転訓練シミュレーターを用いた訓練をはじめとした教育・訓練をおこなっており、スキル向上に常に努めている。
浜岡原子力発電所に前回足を運んでから3年経った。(2018年2月20日掲載「リスクに向き合う」浜岡原子力発電所)今回は新型コロナウイルス感染症拡大の影響でオンラインの取材となったが、最新の状況について、浜岡原子力総合事務所浜岡地域事務所総括・広報グループの榊原浩之専門部長に話を聞いた。
出典) エネフロ編集部
浜岡原子力発電所の現状
まず、浜岡原子力発電所の概要を見てみよう。1号機と2号機は2009年1月30日に運転を終了しており、廃止措置中だ。2015年2月には燃料の搬出が完了しており、現在原子炉領域周辺設備の解体中だ。
3号機、4号機は安全性向上対策を実施中であり、「新規制基準への適合性確認審査」(後述)がおこなわれている。5号機も安全性向上対策実施中で、海水流入事象への対応中となっている。
出典) 中部電力
全号機停止から10年
浜岡原子力発電所の全号機が停止してから10年を迎える。率直な気持ちを榊原氏に聞いた。
榊原氏浜岡原子力発電所は、想定東海地震の震源域に位置していることもあり、東日本大震災の前から最新の知見を取り入れ、自主的に安全性の向上に努めてきました。東日本大震災の後は、「東京電力福島第一原子力発電所のような事故を絶対に起こしてはいけない」という固い決意のもと、自主的に津波対策や重大事故対策などに取り組んできました。新規制基準の施行後は、基準への適合性について、3号機および4号機の原子炉設置変更許可を申請し、原子力規制委員会の審査を受けています。今年5月に全号機停止から10年を迎えますが、新規制基準にしっかり適合するよう、審査に真摯に取組み、適合性確認を早期にいただけるよう努力していくとともに、ハード・ソフト両面の対策を向上させ、防災体制の整備や訓練の一層の充実を図り安全性の向上に努めていきます。また、地域の皆さまに私たちの取り組みをわかりやすくお伝えしていくことが大事だと考えています。
資源が乏しい日本においてエネルギー政策を考える際には、「安全性」を大前提に、エネルギーの「安定供給」、「経済性」、「環境への適合」を踏まえることが重要です。そのためには、1つの電源に過度に依存するのではなく、多様な電源をバランスよく組み合わせる「エネルギーミックス」が大切です。引き続き重要なベースロード電源として原子力発電を有効に活用することが必要だと考えています。また、日本は、2050年にカーボンニュートラルを目指すという政策が示されていますが、その達成のためにも発電時にCO2を排出しない原子力発電は非常に有効な手段であり、安全の確保と地域の信頼を最優先に最大限活用していくことが重要だと考えています。
出典) エネフロ編集部
新規制基準対応の進捗
上述したように、浜岡原子力発電所は「新規制基準への適合性確認審査」が現在おこなわれている。
新規制基準は、福島第一原子力発電所事故後の平成25年(2013年)7月8日、原子力規制委員会により作られた。大規模自然災害対策を強化し、火山や竜巻を想定した規制を追加したほか、設計段階での想定を超えた、いわゆる「シビアアクシデント」も規制対象として対策を義務化した。また、テロ対策も求めている。
出典) 経済産業省資源エネルギー庁
浜岡原子力発電所の安全性向上対策は、新規制基準にどう対応しているのかを聞いた。
地震対策
榊原氏新規制基準の審査のうち、「基準地震動」については、5号機周辺における「増幅特性を考慮した地震動」を含め、「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」の取りまとめの審査を実施いただいており、着実に審査が進展しています。今後、「震源を特定せず策定する地震動」についての審査を受ける予定であり、「基準地震動」の審査は大詰めを迎えています。また、敷地内断層については、4月2日の審査会合で審査を受けましたが、「H断層系」が活断層でないという評価を確認していただいているところです。
出典) 中部電力
少し説明が必要だろう。「基準地震動」とは、原子力発電所に大きな影響をおよぼすと考えられる最大の揺れ(地震動)を示すもので、発電所における耐震設計の基準となる。
この「基準地震動」を策定するにあたり、2つの観点からの検討が求められている。一つが「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」であり、もう一つが「震源を特定せず策定する地震動」だ。
前者は、さまざまな調査から発電所周辺におけるプレート境界、沈み込んだ海洋プレート、活断層において地震が起きた場合の発電所への揺れの大きさを評価するものであり、後者は事前に活断層の存在が確認されなかった場所で発生した地震の観測記録をもとに発電所への揺れの大きさを評価するものである。これら2つの評価をもとに「基準地震動」が策定され、「耐震性評価」へと進むわけだ。現在、浜岡原子力発電所は、このプロセスの大詰めを迎えている、ということである。
また「H断層系」というのは、敷地内にある複数の断層のことを差しており、約12万~13万年前から活動していないことから、将来活動する可能性のある断層に該当しない、と評価していることを規制委員会に説明しているところだということだ。
津波対策
榊原氏浜岡原子力発電所の前面には砂丘があり、従来は想定される津波に対応できると考えていました。その後、福島第一原子力発電所の事故を受け、内閣府の南海トラフ巨大地震モデルによる津波モデルを用いた津波シミュレーション結果を踏まえ、海抜22メートルの防波壁を設置しました。また、発電所東西両サイドには改良盛土を作り、発電所左右にある川を遡上した津波が敷地内に入らないよう配慮しています。また、万が一、敷地内に津波が浸入しても、建屋の中には入れないように、建屋の開口部には、強化扉、水密扉を設置するとともに、非常時に機器を冷却するための屋外ポンプも浸水から守るよう防水壁を設置しました。
「基準津波」は原子力発電所に大きな影響をおよぼすと考えられる最大の津波高さを示すもので、発電所における耐津波設計の基準となります。
出典) 中部電力
新規制基準適合性審査の今後
それでは今後の新規制基準適合性審査の流れはどうなるだろうか?
榊原氏「基準地震動」、「基準津波」に関して、これまで検討を行った評価結果に対して原子力規制委員会からご意見をいただいており、今後の審査で丁寧に説明していきます。これらのプロセスを経て、基準地震動、基準津波が概ね確定されれば、プラントに関する審査が再開され、耐震・津波設計に係る内容などについて詳細な説明をおこなうことができるようになります。基準地震動、基準津波が策定されるよう、これまで審査の中で出たコメントなどにしっかり対応していきます。また、これまでは原子力発電の必要性や安全性向上対策の概要について説明してきましたが、安全性対策の有効性や浜岡原子力発電所の安全性についても説明できるようになると考えており、さらなる理解活動に取り組んでいきます。
また5号機は、適合性確認審査に向けた申請準備を進めているところです。
出典) 中部電力
地域とのコミュニケーション活動について
原子力発電所にとって、地域とのコミュニケーションは欠かすことのできないものだ。浜岡原子力発電所がおこなっているコミュニケーション活動について聞いた。
榊原氏浜岡原子力発電所では、さまざまな活動を通じて、地域の皆さまに発電所の状況をお伝えするとともに、地域の皆さまのご意見・ご要望をお聴きする活動をおこなうことで、信頼される発電所づくりに取り組んでいます。
具体的には、訪問対話活動、意見交換会、ショッピングセンターや地域のイベントでの対話活動(発電所キャラバン)を実施しています。また、発電所の安全性向上対策工事や設備をご覧いただく見学会も実施しています。
コロナ禍においては、前述の対話活動を縮小して実施しておりますが、SNSでの情報配信や、ホームページ特設サイト、新聞広告、ダイレクトメールなどの媒体を活用した広報活動を強化することにより、発電所の情報を地域のみなさまにお伝えしています。
出典) 中部電力
地域には厳しい意見がある一方、応援してくれる声もたくさんあるという。菅首相の「2050年カーボンニュートラル宣言」や世界的な脱炭素の潮流などの影響があるのかもしれない。
榊原氏いわゆる「S+ 3E」(注1)、「安全性」を前提に「安定供給」、「経済性」、「環境への適合」を達成していくために、多様な電源をバランスよく組み合わせて活用していかねばなりません。そのひとつとして原子力発電を有効活用することが必要だと考えています。
一方、事故発生時の住民の避難計画に対して、電力事業者はどのように関わっているのだろうか?
榊原氏原子力発電所を運営する事業者としてまず事故は起こさないことが一番重要です。仮に事故が発生した場合には一刻も早く事故を収束させること、そして発電所の状況を正確かつ迅速に情報発信することが最大の責務だと考えています。
また、自治体が避難計画を策定するにあたり、避難計画の具体化・充実化に向け、最大限協力していくことが非常に重要だと認識しています。
事故が発生した場合、当社は、要支援者の搬送活動、放射線量のモニタリング、避難者のスクリーニング検査などを担うこととしており、必要な要員の派遣や、放射線測定器の提供などでも協力していきます。そのため、「避難行動要支援者の安全確保に関する協定」を御前崎市、牧之原市、掛川市、菊川市との間で結んでおり、その協定に基づき、各自治体に福祉車両の配備を進めています。
出典) 中部電力
発電所員の訓練
この10年間浜岡原子力発電所は稼働していない。その間、社員の訓練には色々工夫をしているという。
榊原氏所員の技術力の維持向上、特に若手については、全号機停止となった時から重要な課題として取り組んできました。運転員で例を言うと、一人前の運転員は一朝一夕に育成できません。この10年間、たとえば、火力発電所や再稼働した原子力発電所に研修に行ったり、シミュレーターによる実時間プラント起動・停止訓練をおこなったりして、技術力の維持向上に努めています。また、チームで行うファミリー訓練の時間を増やすともに、シミュレーターを改造し、重大事故に対応する訓練も開始しました。運転を経験したことがない運転員が、自信をもって訓練に打ち込んでいる姿をみていると、しっかり技術を維持向上していると頼もしく感じます。
出典) 中部電力
1号機2号機の廃止措置
浜岡原子力発電所1号機と2号機の廃止措置は、2030年代後半まで約30年間にわたり実施される。期間全体を第1段階「解体工事準備期間」から第4段階「建屋等解体撤去期間」までの4段階に区分し、現在は第2段階(原子炉領域周辺設備解体撤去)だ。現在、商業炉の廃止措置としては先頭を走っている。この現場の様子はまた改めてリポートしたい。
- S+3E
「安全性(Safety)」を前提とした上で、「エネルギーの安定供給(Energy Security)」を第一に考え、「経済効率性(Economic Efficiency)」の向上、つまり低コストでのエネルギー供給を実現し、同時に「環境への適合(Environment)」を図るという、日本のエネルギー政策の基本的考え方。
出典) 経済産業省資源エネルギー庁
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