写真) 地元で育つ地元のトマト
出典) 八ヶ岳みらい菜園
- まとめ
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- CO₂の濃度が上昇すると光合成速度が増加し、植物の生育が進む。
- 「熱」「電気」「CO₂」を農業に役立てる技術「トリジェネレーション」が注目集める。
- 火力発電所から発生するCO₂を回収し、液化・輸送して園芸に利用する動きも。
地球温暖化防止は今や人類全体の目標になっている感がある。その結果、CO₂=二酸化炭素は、今や地球温暖化を引き起こす悪者のイメージがついてしまった。気の毒な話だ。
でもよく考えてみよう。確かに我々人間にとっては悪者でも、植物にとってみたら光合成をおこなう上で必須のものだ。植物はCO₂を吸って、酸素を吐き出している。人類にとって無くてはならない役割を果たしている。
そのCO₂を野菜の収穫に役立てよう、という興味深い試みが盛んになっていると聞き、早速調べてみた。
CO₂でトマト栽培
この試みはすでに実用化されている。
カゴメ株式会社は、大型温室を使い1年を通して生鮮トマトを安定供給しているが、自社の「カゴメ富士見工場」(長野県諏訪郡富士見町)が排出するCO₂の一部を、隣接する農業法人「八ヶ岳みらい菜園」に送ることで、トマトの生産量を増加させている。
出典) カゴメ株式会社
CO₂施肥(せひ)効果
このようにCO₂の濃度が上昇することで光合成速度が増加し、植物の生育が進むことを「CO₂施肥(せひ)効果」という。(施用ともいう)先のカゴメ株式会社のトマトだけでなく、他にもイチゴ、パプリカ、ピーマン、きゅうり、葉物野菜など様々な農作物に取り入れられている。また、バラやカーネーションなどの花にも利用されている。
「CO₂施肥効果」のメカニズムを見てみよう。まず植物は、葉の気孔からCO₂を吸収する。次に光を浴びて、CO₂と水分から酸素と糖を作る。糖は植物の成長や果実に使われる。これが光合成だ。
CO₂濃度が上がると光合成が活発になり、果実も成長するというわけだ。CO₂濃度が高いと気孔の開口部が狭くなる傾向があるので、水の蒸散も防ぐこともでき、水の節約にもなる。
出典) キヤノングローバル戦略研究所「農業におけるCO₂の有効利用(CCU)の推進」主任研究員 堅田元喜
キヤノングローバル戦略研究所の堅田元喜主任研究員によると、温室内のCO₂濃度を340 ppmから2倍にすると、農作物の成長量が平均20%ほど上昇するという。
出典) キヤノングローバル戦略研究所「農業におけるCO₂の有効利用(CCU)の推進」主任研究員 堅田元喜
日本の年間農業生産額は約9兆円だが、そのおよそ40%が果樹・野菜・草花類の栽培である「園芸」部門だ。それを考えると、この分野に「CO₂施肥効果」を取り入れることが極めて有望だと思われるが、国内で実践している例は少ないようだ。
出典) キヤノングローバル戦略研究所「農業におけるCO₂の有効利用(CCU)の推進」主任研究員 堅田元喜
農業用CO₂発生装置
では実際にCO₂を園芸用ハウスに供給する方法にはどのようなものがあるのだろうか。
一般的には、灯油やLPG(液化石油ガス)などの可燃性ガスを燃料とする「ハウス暖房機」(CO₂発生機、CO₂施用機、光合成促進機、炭酸ガス発生装置などの呼称もある)の排気ガスからCO₂を取り出して貯め(貯留という)、成長に適切なタイミングでCO₂を局所施用する。ランニングコストは灯油<LPGとなる。
出典) フタバ産業株式会社
液化炭酸ガスボンベから炭酸ガスを供給する方式もある。液化炭酸ガスは、石油精製や化工品の製造過程で放出される炭酸ガスを精製・圧縮し、製造されていることから、可燃性ガス燃焼方式よりエコだといえる。
また、熱が発生せず、精製された炭酸ガスを植物付近から高濃度で施用できるため、日射が強く光合成が盛んな時間帯でも、ハウス内炭酸ガス濃度の立ち上がりが良く、精密制御がしやすいことなどもメリットだ。専用に加工された局所施用チューブは、ハウス内の効果的な施用を実現している。園芸用ハウスが複数連なる場合でも、チューブを伸ばして増設でき、拡張性が高い。
出典) 高圧ガス工業株式会社
「トリジェネレーション」とは
日本の施設園芸は、石油資源への依存度が高いため、省資源・脱石油型施設園芸への転換が必要だ。
そうした中、注目されているのは「トリジェネレーション(tri-generation)」という技術だ。ガス等の燃焼により発生する電気・ 熱とともにCO₂も利用する仕組みをいう。まさに一石三鳥だ。
その「トリジェネレーション」を本格的に導入したのが「株式会社Jファーム」だ。同社は総合エンジニアリング会社であるJFEエンジニアリング(株)と北海道内で葉物を中心に施設園芸を行っている(株)アド・ワン・ファームの共同出資により誕生した。
最先端のスマートアグリプラントを2014年北海道苫小牧市に建設、高糖度ミニトマトとベビーリーフを生産・販売している。2016年には札幌工場も完成した。
出典) 株式会社Jファーム
苫小牧工場では、LNG(天然ガス)を燃料とするガスエンジンで工場内の暖房、電力を賄うと共に、稼動時に発生するCO₂をハウス内に供給している。
出典) 株式会社Jファーム
またこの工場では、再生可能エネルギーであるバイオマスによる熱・CO₂供給も行っている。燃料は林地未利用材などから作られる木質チップだ。バイオマスボイラから排出されるCO₂の植物への栽培利用は国内初だ。環境の面から今後注目を集める技術だろう。
出典) 株式会社Jファーム
「トリジェネレーション」は、工場設備の省エネと環境負荷低減、そして農産物の収量アップを同時に実現するもので、実はオランダがその先進国だ。生産性向上に成功したオランダは、アメリカに次ぐ世界第2位の農産物輸出国に上り詰めた。日本でのさらなる普及が期待される。
石炭火力発電所のCO₂を利用
CO₂削減は世界の潮流だが、今すぐ世界中の石炭火力発電をゼロにすることは不可能だ。なにしろ、中国をはじめ石炭火力発電に頼っている国はまだまだ多い。
一方、日本の石炭火力発電所の発電効率は世界トップクラスであり、CO₂を回収・利用・貯留する、いわゆる「CCUS(Carbon dioxide Capture,Utilization and Storage)」と呼ばれる技術開発でも最先端を走っている。(参考:2018.6.26エネフロ記事:「石炭ガス化燃料電池複合発電実証事業」大崎クールジェン 環境に優しく エネルギー安全保障上も注目)
電源開発株式会社と中国電力株式会社が共同で設立した「大崎クールジェン株式会社」(広島県豊田郡大崎上島町)では、石炭火力から回収したCO₂を多様な用途に有効利用する目的で、回収したCO₂を液化・輸送し、トマト菜園に有効利用するプロジェクトを計画している。また、様々な企業や大学等が研究を行う予定のカーボンリサイクル実証研究拠点に、回収したCO₂を供給することも計画しているということだ。
出典) 大崎クールジェン株式会社
以上みてきたように、CO₂のリサイクルは農業を含め日本の産業の競争力の源泉になりうる。少しCO₂を見る目が変わっただろうか?農業輸出大国の「オランダに追いつけ、追い越せ」をスローガンに、さらなる技術開発を期待したい。
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