写真) イメージ
出典) Pixabay Photo by kenueone
- まとめ
-
- 2021年は「エネルギー基本計画」見直しの年。
- バイデン政権は気候変動サミットで主要国に温室効果ガス削減目標の積み増しを要求してくる可能性が大。
- 原子力発電所が再稼働しない場合、再生可能エネルギー導入を増やすことで電気料金が上がり、日本の製造業の負担増になる。
2020年10月、菅総理大臣は所信表明演説にて「2050年に温室効果ガス実質ゼロを目指す」と表明した。いわゆる「カーボンニュートラル宣言」である。そして、今年は2018年に策定された「第5次エネルギー基本計画」の見直しが実施される年に当たる。「エネルギー基本計画」と聞いてもなじみがないかもしれないが、ようは国の中長期的なエネルギーの基本的な方向性を示す計画だ。
今回の見直しは2030年および2050年までの温室効果ガス削減目標の達成や、世界的な脱炭素の潮流を考慮に入れねばならず、さまざまな議論を呼ぶことになりそうだ。国民の環境問題に対する意識は年々高まりつつある。今回は改めて日本のエネルギー政策について考えたい。
「エネルギー基本計画」とは
「エネルギー基本計画」についてもう少し詳しく説明しよう。
この計画は、2002年に制定された「エネルギー政策基本法」により、長期的・総合的なエネルギー政策を計画的に進めるために、作成されるものだ。エネルギーを取り巻く情勢は世界規模で常に変化し続けているため、「エネルギー基本計画」は少なくとも3年ごとに見直しがおこなわれることとなっており、2021年はこの見直しの年に当たるわけだ。
2018年策定の「第5次エネルギー基本計画」では、2030年の長期エネルギー需給見通し(エネルギーミックス)の実現と、2050年の温室効果ガス80%削減に向けたエネルギー転換・脱炭素化の2つのシナリオを見据えて作成された。この計画実現に向けて、太陽光・風力・地熱・中小水力・バイオマスなどの再生可能エネルギーの主力電力化、原子力といった施策が検討、推進されている。
「エネルギー基本計画」の重要な軸となるのが「3E+S」と言われる4つの原則だ。Safety(安全性)を大前提とした上で、エネルギーの安定供給(Energy Security)、環境への適合(Environment)、経済効率性の向上(Economic Efficiency)の3つを進めていくものだ。
さらに、2050年に向けたシナリオでは技術・ガバナンス改革により安全の革新(Safety)、技術自給率向上・選択肢の多様化確保(Energy Security)、脱炭素化への挑戦(Environment)、自国産業競争力の強化(Economic Efficiency)と、より高度な3E+Sを目指すことを明記している。
出典) 経済産業省資源エネルギー庁
このように「エネルギー基本計画」は、日本のエネルギー政策を計画的かつ確実に推進するために極めて重要な物となる。エネルギー自給率が低い我が国において、私たちもより関心を持ってみていきたい。
「脱炭素社会」実現に向けて-日本の現状
では、「エネルギー基本計画」の目指す「脱炭素社会」とは何か。
「脱炭素社会」とは、二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの排出量から森林などによる吸収量を差し引き、温室効果ガスの排出量実質ゼロを実現した社会、つまり「カーボンニュートラル」な社会を指す。
地球温暖化を食い止めるためには気温の上昇を産業革命前と比較して1.5℃に抑制する「パリ協定」の目標を実現する必要があるが、この実現のためには2050年の脱炭素社会の実現が不可欠だ。世界120カ国以上がこの2050年の脱炭素社会実現に向けて取り組みを加速させる中、日本も積極的に取り組む必要がある。
出典) United Nations
しかし今から30年後に脱炭素社会を実現するには、排出量を右肩下がりに削減し続ける必要があり、その道のりは平坦ではない。
脱炭素化のカギはエネルギー転換
脱炭素社会実現のカギとなるのが、「エネルギー転換」だ。エネルギー転換とは、輸入あるいは生産されたエネルギー源を電力など人間の使いやすい形に変化させる部門のことであり、主に発電などを指す。そして、このエネルギー転換部門は日本のCO2排出量の40%を占めている。
CO2の排出を余儀なくされる石炭火力発電などの発電方法から、再生可能エネルギーをはじめとした地球環境に優しい発電方法に大きくシフトチェンジしていく必要がある。
再生可能エネルギーの主力電源化と電気料金の高騰
再生可能エネルギーの主力電源化は脱炭素社会を実現するために必要不可欠だ。一方で、再生可能エネルギーの導入に伴う電気料金の上昇が課題となっている。
その原因の1つに、いわゆる「再エネ賦課金(再生可能エネルギー発電促進賦課金)」がある。再生可能エネルギーの普及を促進するため、再生可能エネルギーで発電した電気を電力会社が一定価格で一定期間買い取ることを国が約束する「再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT制度)」を2012年に導入した。買取費用の一部を「再エネ賦課金」という名目で、毎月の電気料金と合わせ使用者から集めるものだが、意外と知らない人も多い。
出典) 経済産業省 資源エネルギー庁
出典) 経済産業省 資源エネルギー庁
FIT制度の追い風により、日本の総発電量に占める再生可能エネルギーの比率は21.7%(2020年度国際エネルギー機関:IEA集計速報)にまで上昇した。2021年に再生可能エネルギー比率が目標の22%を達成する可能性が出てきた。
出典) 経済産業省資源エネルギー庁
バイデン気候サミットの影響
ここで、日本のエネルギー政策に影響を与える外的要因について見てみよう。単なる脱炭素の潮流とは異なり、アメリカのバイデン政権のエネルギー政策が日本に与える影響がそれだ。
バイデン政権は気候変動問題を最重点施策の一つに位置づけており、トランプ前大統領が離脱したパリ協定に早速復帰した。
そのバイデン大統領がホストするのが、来る4月22、23日に行われる「気候変動サミット」だ。バイデン政権はこのサミットを、今年11月にグラスゴー(英)で開催される国連気候変動会議(COP26)へ向けた重要なマイルストーンと位置づけており、この場で温暖化防止への取り組みにおけるリーダーシップをアピールしたい考えだ。問題なのは、アメリカが主要国に対し国別目標の引き上げを迫る可能性が高いことだ。
必然的にアメリカ自身も野心的な目標値を示す必要がある。オバマ政権はパリ協定の下で2025年までに2005年比26-28%減という目標を提示したが、リーダーシップを示すためにはそれ以上の数字を出さざるをえないわけだ。
出典) @WhiteHouse(facebook)
東京大学公共政策大学院有馬純教授は、エネフロ編集部の取材に対し、「バイデン政権は2030年50%減に近い数字を出す可能性が高い」としたうえで、「アメリカが数字を出せば、第5次エネルギー基本計画、それを踏まえた2030年エネルギーミックスにも大きな影響を与えるだろう」と指摘した。また、「非効率石炭火力のフェーズアウトだけでは足りないと言ってくる可能性もある」と述べ、「(日本が極めて実現困難な6%削減という目標を課せられた)京都議定書の失敗を繰り返すのか」と強調した。
© エネフロ編集部
もし日本が、温室効果ガス削減目標である「2030年度に2013年度比▲26.0%」の引き上げを求められたら、省エネと再生可能エネルギーの大幅積み増しだけで対応できるのだろうか?
有馬教授は原子力発電所の再稼働が進まなければ、日本の電気料金が上がり続けることになると警鐘を鳴らす。
「原子力にかわって安価で安定的な電力を供給してきた石炭火力を放棄することになれば、ただでさえアジア太平洋地域の中で最も高い電気料金の大幅な上昇につながるだろう。これは日本の製造業にとって大きな負担増になる」
既に電気料金は、東日本大震災以降、大幅に上昇している。家庭向けで約22%、産業向けで約25%も上昇している。(2019年度:対2010年比)
出典) 経済産業省資源エネルギー庁
こうしたことから、有馬教授は「電気料金引き上げを最小限に抑えながら目標の積み上げを図るならば、原子力発電所の再稼働を大幅に加速させるしかない」と明言した。
これまでエネフロがおこなったアンケートでも、再生可能エネルギー導入量を増やすことに賛成する人は多いが、電気料金の大幅値上げには難色を示す人も少なくない、という結果が出ている。
「エネルギー基本計画」に基づく「エネルギーミックス」は私たちの暮らしに直結するものだけに、私たちは日本がどのようなエネルギー政策を取るべきなのか、じっくり考える必要がある。引き続き、この問題はレポートしたい。
Recommend Article / おすすめ記事
RANKING / ランキング
SERIES / 連載
- エネルギーと私たちの暮らし
- 私達が普段なにげなく使っている電気。しかし、新たなテクノロジーでその使い方も日々、変化しています。電気がひらく「未来の暮らし」、覗いてみましょう。