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エネルギーと私たちの暮らし

Vol.28 2020年大総括!エネフロ編集部オンライン座談会

写真) Tesla Powerwall

写真) イメージ
出典) Pexles

まとめ
  • 2020年のエネルギー関連ニュースを振り返る座談会開催。
  • コロナ感染拡大によって、エネルギーへの意識が変化。
  • カーボンニュートラル宣言や、発送電分離が注目を集めた。環境をテーマにした記事もよく読まれた。

新型コロナウイルスの感染拡大で社会が大きく変化した2020年。2017年4月に創刊した「エネルギーフロントライン」、略称「エネフロ」は創刊4年目を迎えた。多くの皆さんのご愛読に心から感謝したい。

さて、恒例年末座談会。今年は新型コロナウイルス感染防止の観点からオンラインでおこなった。「2020年のエネフロを振り返る」と題して、今年掲載した記事や、エネルギーに関するニュースを振り返る。

【オンライン座談会参加者】
安倍宏行(エネルギーフロントライン編集長)
ノリコ(エネフロ編集部)
ユミ(エネフロ編集部)
テッペイ(エネフロ制作会社)
モモコ(大学生・エネフロ編集部インターン)
エリ(大学生・エネフロ編集部インターン)

2020年印象的だった記事は?

エリ私が印象に残っているのは「タイムライン防災」という新しい防災の取り組みについて紹介した「台風シーズン「マイ・タイムライン」で早めの避難を」です。

安倍「タイムライン」という考え方は、結構前からあったが、あまり社会に浸透していなかった。その中で各メディアが「タイムライン」ということを今年は頻繁に報じていた印象がありましたね。

写真) 令和2年台風10号 鹿児島県中之島での搭乗時の様子
写真)令和2年台風10号 鹿児島県中之島での搭乗時の様子

出典) 防衛日報デジタル(陸上自衛隊西部方面隊)

モモコ私はエネルギーミックスや電力供給をより良くする機運が高まっている印象を受けました。「『新規開発目標200万kWの半分以上は風力発電で』中部電力株式会社再エネカンパニー鈴木英也社長」の記事のインタビューで、鈴木社長が現状について「追い風というか、突風です」とおっしゃっていたのが印象的でした。他の記事でも、災害対策や、新型コロナウイルスの影響も相まって、その機運が高まっているように思います。

ノリコ私が「お、これ面白い」と思ったのは、「月の水資源争奪戦に日本参戦!」という記事です。私はもともと宇宙や地球というテーマに興味があるんですが、この記事に書かれていたように、月には豊富な水資源が期待されていて、そこから水素開発や水素エネルギーの展開が考えられる。地球以外でもダイナミックな動きが今後起こっていくのが興味深いと思いましたし、地球の外から始まって、それが逆に地球に入ってくるみたいな話は面白いなと思いました。

写真) ispace CEO 袴田武史氏
写真)ispace CEO 袴田武史氏

出典) エネフロ編集部

ユミ私が読んでいてはっとしたのは、「加速する中国の原子力発電所輸出」です。日本では「原子力発電をなくそう」という出方が多いと思っていた時に、中国では国家戦略として原子炉を開発していることに少しびっくりしました。

写真) パキスタンの原子力発電所
カラチ2に設置されたアウタードーム(画像:CNNP)
写真)パキスタンの原子力発電所 カラチ2に設置されたアウタードーム(画像:CNNP)

出典) WNN

安倍中国は以前より、石炭火力からCO2を排出しない原子力発電に切り替えていますが、今度は開発した原子炉「華龍1号」を一帯一路と結びつけてインフラとパッケージで周辺国に輸出しようとしています。この戦略はある意味、日本も警戒しなければと思います。エネルギー安全保障というのは日本一国だけで見るものじゃないなと思います。

テッペイ原子力発電で言うと、「中東で原子力発電所が稼働 今、産油国で何が?」が2020年に読まれた記事ランキングで4位に入っています。中国の原子力発電所の話も含めて、世界で原子力発電所の技術はどのように進んでいるのか、それを踏まえて日本はどうすべきか、国内では話題になりづらいですが重要な情報だと感じました。

写真) UAEバラカ原子力発電所
写真)UAEバラカ原子力発電所

出典) エミレーツ原子力エネルギー会社

安倍化石燃料もいつかは枯渇するから、中東諸国も再生可能エネルギーへ舵を切らなければならないと言われて久しいですが、最近になって本腰が入ってきましたね。日本人にとって中東は、化石燃料を大量に輸入しているのにあまり目がいかない地域です。エネフロの読者に興味を持ってもらいたいと思って書いたのですが、実際に読まれていると知って嬉しいです。

私が印象的だったのは、「若手社員に聞いた『ウィズコロナ時代の働き方とエネルギーについての意識』」ですね。エネルギー編働き方編がありましたが、興味深かったのは、原子力政策について聞いたときに「規制委員会が許可を出してかつ地元の同意が取れたら再稼働しても良い」という意見が6割程度あったことです。

大飯原子力発電所のように、一旦規制委員会が許可したものが裁判によって止まってしまうこともあるので難しい問題ですが、今後も原子力発電に関するニュースは注目していきたいです。

働き方編では、テレワークについて聞きました。4ー7月くらいまでの印象ですが、評価する声が非常に高かったです。一方で、先輩から直接指導を受けられないもどかしさを感じるという意見もあったので、改善すべき問題もあるなと思いました。「出社とテレワークどっちがいいか」と聞いたら、ミックスが良いと答えている人が多かったですが、最近はそういう働き方を採用している企業が増えてきている印象です。

2020年、エネフロで最も読まれていた記事は?

写真) イメージ図
写真)イメージ図

出典) photo by Love Food Hate Waste NZ

テッペイ2020年1番読まれていた記事は2019年の記事ですが「食品ロス問題 私たちに出来ること」でした。

安倍2019年からずっと食品ロスの記事が読まれていると言うのはちょっとびっくりですね。ノリコさんとユミさんは子育て中ですが、食品ロスに関心はありますか。

ユミそうですね。料理するときに無計画に食材を買って冷蔵庫に入れていたのを忘れて腐らせてしまうことが正直ありました。これは良くないし、子供にも「これ捨てるの」と言われてしまうので、計画を立てて買い物をすることを意識しています。

ノリココロナで買い物の頻度を減らしたかったので、生協のような宅配サービスを利用しました。その週の献立の計画に合わせて注文するようになったので、廃棄が減った気がします。あとは、今まで見過ごしていたスーパーにあるプラスチックトレイの回収ボックスを子供が見つけて「ここで何かやっているよ」と教えてくれたことがありました。それをきっかけに最近は、牛乳パックやプラスチックトレイを集めて持っていっています。

2020年印象的だった環境・エネルギーニュースは?

エリレジ袋の有料化は一番生活に直結したと思います。環境意識が高い人ばかりではないと思うので「お金がかかるのが嫌だからレジ袋は使わない」という理由であっても、削減に繋がる良いきっかけになったと思います。

ノリコ気になっているのは電気代が年々上がっていることです。原子力発電を停止して電気代が上がっている中で、コロナのせいで全員家にいるようになり、更に跳ね上がっているのを実感しています。

ユミ家庭でのエネルギー消費は増えていますが、交通機関も入れた時に社会全体のエネルギー消費量はどうなっているのか気になります。あとは、エネフロの「コロナに負けるな!オンラインサービス続々!」記事でも「オンライン法事」などが載っていましたが、社会で当然だと思われていた色々なことがオンライン化によって崩れたのは非常に印象深い一年でした。

写真) 築地本願寺 法要のライブ配信の様子
写真)築地本願寺 法要のライブ配信の様子

出典) 築地本願寺提供

安倍2020年1番大きかったのは、菅首相による所信表明演説での「脱炭素化宣言」だと思います。経済産業省も2030年代半ばに国内で販売する新車の全てを電動車にする方針を打ち出しました。これもかなり驚きましたね。

写真) 国会で所信表明演説を行う菅首相
写真)国会で所信表明演説を行う菅首相

出典) 首相官邸Facebook

EVの普及については、日本は中国などに比べて遅れをとっています。本当に2030年半ばに向けて普及に加速をつけられるのか要注目です。

2021年は「エネルギー基本計画」見直しの年度でもありますが、これも大注目です。現在の2030年のエネルギーミックスをどのように変えていくのか、エネフロ編集部としても大きな関心を持っています。

図) 長期エネルギー需給見通し(エネルギーミックス)
図)長期エネルギー需給見通し(エネルギーミックス)

出典) 経済産業省資源エネルギー庁

2020年、電力業界を振り返る

安倍電力業の動きを振り返ると、2020年は電力システム改革の総仕上げとして発送電分離を行いました。エネフロでも『「発送電分離」で電力システム改革最終段階へ』で取り上げましたが、皆さんはどう思いましたか?

写真) 送電線
写真)送電線

出典) Pixabay

ユミ私はエネフロを読んで知りました。

モモコ自分の生活に結びつかないとやっぱりキャッチできない部分はありますね。

安倍電力自由化の時は盛んにテレビCMなどの広告が打たれて「自分の管内の電力会社以外も選べるんだ」と思った人が多いと思います。発送電分離は実感しにくい面はありますね。

安倍先ほど電気代が上がったというお話がありましたが、電気代を他社と比較してみたり、電力会社の切り替えを検討した事はありますか。

ノリコ2年前に海外から帰ってきたタイミングで、各社から資料を取り寄せてコストパフォーマンスが良いところを夫婦で検討しました。うちはガスの消費量が多かったので、ガス会社のプランが1番良いという結論になりました。

モモコうちは自由化の時期にチラシがたくさん来たので考えてみたのですが、金額があまり変わらなかったので変えていません。

安倍うちは東京電力なのですが、マンション共有部だけ新電力に切り変えたら年間約15%下がったそうです。もともと日中留守が多いので、深夜帯が安いプランにしているのですが、最近テレワークで昼間在宅が増え、今後どうしようかなと思っています。

安倍その他にも電力会社ではスマートメーターの普及が進められています。中部電力では2023年3月までにスマートメーターを各家庭に配置することを目指しています。スマートメーターは、電気の使用量を30分ごとに把握できるので、全家庭に導入されれば、電力消費に関する情報をビックデータとして集約し、使う側の抑制「デマンドレスポンス」にも繋げていけますね。

写真) スマートメーター
写真)スマートメーター

出典) 中部電力パワーグリッド株式会社

将来的には街全体でこのようなスマート化が進むと思います。
スマートシティーについては、中部電力のグループ会社がモデルハウスを作っているのでエネフロで取材したことがあります。(「こんなに快適!最新スマートホーム」)電力消費も効率化されるし、家電全てをコントロールできるようになります。すごく便利なんですが、実現できている家はまだ少ないので、早くそこまでたどり着くと良いなと思っています。

写真) 中部精機株式会社「スマートホームChusei」
写真)中部精機株式会社「スマートホームChusei」

© エネフロ編集部

来年、注目しているニュースは?

モモコ私はワクワクするような最新技術の話が好きで、AIとかIoTの活用について新しい情報を知ることができる記事を読みたいです。

エリ2020年は日本だけでなく中国、韓国、アメリカでもなど世界全体で脱炭素化への動きが生まれたので、来年以降どのように具体的な政策が進められていくのか注目したいです。

テッペイEVの普及に注目したいです。今まで何度も「EV時代が来る」と言われていながらなかなか上手くいってなかったのが、テスラがトヨタの時価総額を抜いたりだとか、資金面でも環境面でもEVの時代が来ていると思うので、注目しています。

ノリコ私のようなエントリー層が引き込まれて、最終的にはエネルギーについて詳しくなる読者をエネフロとして増やしていければと思っています。そのためにも堅い話題だけでなく、とっつきやすい話題も扱うことができたら、エネルギー問題にもっと興味を持ってもらえるのではないでしょうか。

安倍これは昔からのテーマですよね。エネルギーは空気と一緒で、あって当たり前、でもなければ困るものなので、エントリー層の取り込みは2021年も念頭に置いて編集していきたいですね。

読者の皆さん、これからもエネフロをよろしくお願いします。

付録:コロナ禍での年末年始の過ごし方

年越しの風物詩であるカウントダウンと初詣。

今年はコロナウイルスの感染拡大を防ぐため、いつもとは違う形で楽しむことになりそうだ。

毎年ニューヨークのタイムズスクエアでは100万人から200万人もの人々が詰めかけ、盛大なカウントダウンイベントがおこなわれている。

写真) 2019→2020年のタイムズスクエアのカウントダウンの様子
写真)2019→2020年のタイムズスクエアのカウントダウンの様子

出典) Times Square Twitter

しかし、今年は新型コロナウイルスに影響で、世界で次々とカウントダウンイベントの中止が決定。タイムズスクエアのカウントダウンイベント主催者も、例年のような大規模イベントの開催は難しいとして、今年は世界中から楽しめるバーチャルイベントをおこなう、と発表した。

日本のカウントダウンイベントといえば、渋谷スクランブル交差点でのカウントダウンが有名だ。毎年各地から10万人が集まるが、こちらも渋谷区が中止を既に発表した。

初詣はどうだろうか。各地の神社では、初詣を正月から節分までに設定したり、敷地内に参拝場所を複数設けたりすることで、混雑を緩和しようとしている。

また神田明神では「オンライン授与所」という特設サイトを設置し、自宅からお札やお守りの授与を受け付ける体制を整えた。

出典)神田明神

出典) 神田明神

まだまだ感染拡大に歯止めがかからない年末。今年は「三密」を避けた新しい形の年越しを迎えることになりそうだ。

安倍宏行 Hiroyuki Abe
安倍 宏行  /  Hiroyuki Abe
日産自動車を経て、フジテレビ入社。報道局 政治経済部記者、ニューヨーク支局特派員・支局長、「ニュースジャパン」キャスター、経済部長、BSフジLIVE「プライムニュース」解説キャスターを務める。現在、オンラインメディア「Japan In-depth」編集長。著書に「絶望のテレビ報道」(PHP研究所)。
株式会社 安倍宏行|Abe, Inc.|ジャーナリスト・安倍宏行の公式ホームページ
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