画像) 試験飛行に用いられた「SD_03」
SKYDRIVE
- まとめ
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- 国内で初めて「空飛ぶクルマ」の公開有人車両試験飛行が行われた。
- 開発したSkyDrive、2023年の事業開始を目指す。
- 社会に受け入れられるためには、認知度向上が不可欠。
2020年8月25日、日本中がとあるニュースに湧いた。
そう、国内で初めて「空飛ぶクルマ」の公開有人車両試験飛行が行われたのだ。わずか数分間ではあるが、車両が宙に浮かび、移動する姿は「空飛ぶクルマ」の実用化が間近であることを多くの人に知らしめるに十分だった。
公開試験に使われた機体は「SD_03」モデル。垂直に離着陸できる世界最小の電動の機体で、駐車場の2台分に収めることができる。飛行時間は4分間で、パイロットは1人。操縦はパイロットが行うが、コンピューターの飛行アシストによって飛行を安定させた。また、バックヤードでは飛行状態をモニタリングし、安全を常時確認が行われている。
出典) SKYDRIVE
この「空飛ぶクルマ」を作ったのは、「株式会社SkyDrive(スカイドライブ)」(愛知県豊田市)。代表取締役福澤知浩氏は、トヨタ自動車を辞めてこの会社を立ち上げた。
出典) 福澤商店
SkyDrive社とは?
SkyDriveは、航空機、ドローン、自動車、それぞれの分野のエンジニアを中心に立ち上がったスタートアップだ。2012年に発足した有志団体CARTIVATORのメンバーが中心となって2018年に創業した。次世代エアモビリティの「空飛ぶクルマ」や、物資輸送機械の「カーゴドローン」を開発、東京と愛知を中心に活動している。「空飛ぶクルマリーディンクカンパニー」として、「国にとらわれないベストな場所で開発・製造・販売し、グローバルを牽引する企業となる」ことを目指している。その注目度と期待は大きく、有人試験飛行を終えた翌月の9月には、日本政策投資銀行等から39億円の資金調達を実施している。
「空飛ぶクルマ」の定義
期待が先行する「空飛ぶクルマ」だが、その定義とは何だろう。
経済産業省と国土交通省が事務局である「空の移動革命に向けた官民協議会」(以下、官民協議会)によると:
1. 電動: エンジンのものと比べて部品の点数が少ないため整備が低コストで騒音も小さい
2. 自動運転: これまでの乗り物と比べて操縦士が不要となるため、誰でも自由に扱える
3. 垂直離着陸: 滑走路や舗装した道路が不要でインフラ整備に左右されない発着が可能になり、より自由な『移動』を実現する
の3点となっている。
「空飛ぶクルマ」は交通渋滞の解消や物流サービスの効率化などにつながるとして、世界で開発が進められている。SkyDrive社は、実用化に向け、1つ目のステップ「安全に安定的に飛ぶ」ことはクリアした。今後は、2つ目の「実用化」のステップ、すなわち、人が乗ることができ、事業として使える機体の開発に移る。
具体的には、大阪湾岸部で2025年開催の大阪万博開催をにらみ、2023年から5〜10㎞ほどの短距離を結ぶエアタクシーの事業開始を予定している。現在の交通手段では約30分かかるが、エアタクシーならわずか5分程度で移動できるという。
2028年頃には一般販売も計画されている。もはや夢物語ではない。今後は来日外国人観光客の利用を見据え、関西空港や神戸空港と観光地を結ぶ計画もある。
社会に対するメリット
「空飛ぶクルマ」が社会にもたらすメリットは計り知れない。官民協議会は、利活用の例として、「物の移動」「地方での人の移動」「都市での人の移動」や、「災害対応」「救急」「娯楽」などを挙げている。
都市部では走行ルートの増加によって、経済損失年間12兆円とも言われる渋滞による経済的、時間的な損失の回避に繋がる。
また地方や離島のアクセスの悪さが解消されよう。人の移動が活発になり、他の地域とのネットワーク形成が促進される。物資や情報が入手しやすくなれば、地域による不平等の改善にも繋がるだろう。
災害時には、特定の道路を必要とせず、駐機の際に取るスペースも少ないので、救助活動や救援物資の運搬に貢献することが考えられる。
出典) 経済産業省
出典) 経済産業省
出典) 経済産業省
政府が取りまとめた「空の移動革命に向けたロードマップ」を見てみると、「物の移動」が2023年頃から事業化を開始、その後、「地方での人の移動」、「都市での人の移動」と続き、2030年代にはこれら全ての実用化が拡大していくとの未来図を描いている。2030年と言えば、わずか10年後だが、社会はどの程度、「空飛ぶクルマ」を受け入れようとしているのか。
出典) 経済産業省
今後の課題
政府や産業界の期待が先行する「空の移動革命」。では、「空飛ぶクルマ」の社会における認知度はどうなのだろう?ここに興味深い分析がある。株式会社三菱総合研究所がこの夏行った大規模調査だ。(調査方法:インターネット、調査期間:2020年8月25日~27日、有効回答数:65703人)
前提条件は:
・「空飛ぶクルマ」はタクシーのような気軽に乗れる1~4人乗り程度。スマホで予約、専用ポートから目的地までの空の移動に利用できる。
・15km~30kmの移動に利用すると、移動時間は車・電車の約4分の1。利用料金は電車の約10倍、タクシーと同程度。
・安全性は航空機と同程度。
とした。
結果は:
〇認知度
「空飛ぶクルマ」を”知っている”との回答は約7%、”知らない”と回答した人は約70%に上った。認知度はかなり低い状況だ。
〇認知度別の利用意向
認知度別に利用意向を聞いてみると、認知度が高いほど利用意向も高い傾向がみられた。「空飛ぶクルマ」を"よく知っている”と答えた人の約70%が利用したいとした。”利用するかもしれない”と答えた人を足すと、実に90%近くの人が利用する意向を示している。
一方、”知らない”と答えた人の47%が”利用したくない”と答えており、認知度によって利用意向が大きく左右されることが分かった。
〇「空飛ぶクルマ」利用について重視する点
一番重視されたのは「安全性・信頼性」で、次いで「料金の安さ」、「時間短縮効果」の順となった。
〇「空飛ぶクルマ」が上空を通過することの感じ方
住まいの上空を「空飛ぶクルマ」が通過することに対する感じ方については、約65%の人が”不安がある”と回答した。”やや不安がある”、”そもそも反対である”を足すと、70%超の人がネガティブな要素を感じている。一方で、認知度別にみると、認知度の高い層で、”不安はない”、”あまり不安はない”と回答した人は約46%に上った。認知度が高いほど、上空を通過することに対する不安が少ない傾向がみられる。
調査結果は:
・現在のところ「空飛ぶクルマ」の認知度は低い。
・多くの人が住まいの近隣上空の通過に対し、不安や懸念を抱いている。
・不安要因として、「安全性」が重要なポイントとして挙げられる。
ということになった。
今後の課題
官民協議会の議論を見る限り、現時点で、「空飛ぶクルマ」の活用事例、機体の安全性基準、技能証明基準、運行基準などの検討がまさに始まらんとしている。
そうした中で、上記のアンケート結果などから鑑みると「空飛ぶクルマ」を社会が受け入れるためには、一にも二にも「認知度の向上」が不可欠だ。その上で、安全性を含む、「技術開発の促進」と、離発着場などの「環境整備」に官民挙げて取り組まねばならない。
出典) 経済産業省
そして、忘れてはならないのは海外勢の動きだ。「空飛ぶクルマ」の開発に取り組んでいる会社は世界で実に200~300社あるといわれている。中国のEHang(億航、イーハン)は有人飛行に成功した。それ以外にも、日本のヤマトホールディングスと共同で貨物運搬用の「空飛ぶトラック」の飛行実験を既に成功させているアメリカのBell Helicopter(ベルヘリコプター)社、2019年にすでにテスト飛行を終えているBoeing(ボーイング)社や、同国のUber Technologies Inc.も加わり、競争は激化の一途だ。また欧州のAirbus(エアバス)社なども開発を進めている。
これら海外事業者に出資や業務提携をしたりと、商用サービス開始を狙う日本企業も多い。国産「空飛ぶクルマ」も、うかうかはしていられない。
実際に「空飛ぶクルマ」が実用化されれば、社会が受ける利便性は計り知れない。「空の移動革命」があと10年後に実現するのか否か、官民挙げての取り組みが試される。
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