写真) UAEバラカ原子力発電所
出典) エミレーツ原子力エネルギー会社
- まとめ
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- 8月、アラブ首長国連邦はアラブ諸国初の原子力発電所1号機を稼働。
- 脱石油依存経済を掲げ、中東諸国は太陽光発電などにも傾斜。
- 日本も再エネ拡大中だが、電力安定供給は引き続き最重要課題。
産油国に原子力発電所のなぜ
8月1日、アラブ首長国連邦(Unaited Arab Emirates:UAE)は、アラブ諸国初の原子力発電所「バラカ原子発電所」1号機を稼働したとのニュースが飛び込んできた。2号機は既に建設が完了し、3号機・4号機も完成間近だという。4機全てが稼働すれば、国内電力需要の約25%を賄い、毎年2,100万トンを超える炭素排出量を抑制できると見込まれている。
出典) エミレーツ原子力エネルギー会社
もう30年程前になるか、筆者はUAEを訪れたことがある。この国はその名の通り、アブダビ、ドバイを含む、7首長国による連邦制国家で産油国である。当時既に近代的なビルが建ち並び活況を呈していたのをはっきり覚えている。
出典) 外務省
アブダビは豊富な石油収入を背景に活発な対外投資を行っている。ドバイは商業・運輸のハブとして発展した。トム・クルーズ主演の人気映画シリーズ「ミッション・インポッシブル/ゴースト・プロトコル」(2011年日本公開)の舞台にもなった、206階建て、地上約828メートル、世界一高い超高層ビル「ブルジュ・ハリファ」はこのドバイにある。
出典) Pixabay
さてここで、石油で経済的に潤っているはずのUAEが何故原子力発電所?と不思議に思う人もいよう。実は中東では、イラン、イスラエルがすでに原子力発電所を保有している他、トルコやヨルダン、サウジアラビアなどでも建設計画が進められているのだ。
その結果、中東の原子力設備容量は、米エネルギー情報局によると、2018年の360万kWから2028年までに約4倍の1410万kWまで拡大する見込みだ。
中東は、世界の約半分の石油埋蔵量と、約3割の生産量を誇る(参考:bp「Statistical Review of World Energy 2020」)。それなのになぜ、ここまで活発に原子力発電所建設が行われているのか。
化石燃料枯渇を見据えた政策?
―供給のピーク論から需要のピーク論へ
背景には、産油国の過度に石油に依存した経済運営への不安がある。「石油モノカルチャー経済」とも呼ばれる現状からの脱却を図っているのだ。
長年、石油埋蔵量の枯渇を予想した「石油ピーク論」が唱えられてきたが、近年では、石油需要がピークを迎えるとの議論が注目されていることも背景にある。国際エネルギー機関(IEA)は「World Energy Outlook 2019」で「石油需要は2030年代に横ばいになる」と予想している。
・世界的な脱化石燃料の潮流
長距離輸送や石油化学製品への石油需要は増加し続ける一方で、乗用車への需要は2020年代後半にピークに達するという。
地球温暖化防止の観点から、ガソリン車がハイブリッド車(HV)や電気自動車(EV)に転換が進むからだ。IEAの「Global EV Outlook 2020」によれば、2019年に世界中で稼働した電気自動車は、1日あたり約60万バレルの石油製品の消費を抑制した。
これまでに17か国が、ゼロエミッション車(CO2などを排出しない車)の導入やガソリン車・ディーゼル車の段階的廃止を、2050年までの目標として発表した。例えば、中国の新エネルギー車政策、EUのCO2排出規制、アメリカやカナダの州のゼロエミッション車規制がその例だ。2019年には、EVが世界の自動車販売に占めるシェアは2.6%と、記録的な高水準をマークした。
こうした自動車の電動化の潮流を含め、環境に配慮し化石燃料に依存しないエネルギー政策を模索する動きが世界中で加速している。
・産油国で再エネ開発
産油国は原子力発電所だけに頼ろうとしているわけではない。むしろ太陽光発電に力を入れている。
UAEは、2017年に「Energy Strategy 2050」を発表し、2050年までに電源構成の50%をクリーンエネルギーとする目標を定めた。その内訳のほとんどは、太陽光発電などの再生可能エネルギーで44%、それに原子力6%だ。残りは、天然ガス38%、クリーンコール(CO2排出量が少ない石炭火力発電)12%、となっている。
UAEエネルギー産業省によると、UAE副大統領兼首相兼ドバイ統治者のシェイク・モハメド・ビン・ラシッド・アル・マクトゥーム氏は、「湾岸諸国は、経済構造が似通っており、いつか湾岸協力理事会(Gulf Cooperation Council : GCC)の統一エネルギー戦略を実現したい」と述べている。実際、GCC諸国は足並みをそろえてエネルギー転換に取り組んでおり、相次いで経済多角化計画を策定している。
年 | 国 | 計画 |
---|---|---|
1995 | オマーン | オマーン・ビジョン2020 | 2008 | バーレーン | 経済ビジョン2030 |
2008 | カタール | カタール国家ビジョン2030 |
2009 | クウェート | クウェート・ビジョン2035 |
2010 | UAE | UAEビジョン2021 |
2016 | サウジアラビア | サウジ・ビジョン2030 |
2017 | クウェート | 新ビジョン2035 |
2019 | オマーン | オマーン・ビジョン2040 |
出典) IRENA「A New World: The Geopolitics of the Energy Transformation」
世界最大の太陽光発電所
世界最大の太陽光発電所があるのは、これまたUAEだ。
国際再生可能エネルギー機関(IRENA)が発表した「Renewable energy market analysis: GCC 2019」によると、数百メガワットから数ギガワットの大規模発電施設が、UAEやサウジアラビア、オマーン、カタールなどで建設・計画段階にある。
世界最大規模のソーラー発電施設「ムハンマド・ビン・ラシード・アル・マクトゥーム・ソーラーパーク」はUAEで既に一部稼働中だ。完成すると5ギガワットの発電容量を備え、年間650万トンを超えるCO2排出量を抑制できるとされる。
出典) ドバイ政府
UAEの太陽光発電容量の推移を見ると、2016年以降ものすごいスピードで伸びているのが分かる。
出典) IRENA
UAEは、GCC全体の再生可能エネルギー合計発電容量(installed capacity)の68%を占める(2018年時点)
日本のエネルギー政策
さて、日本に目を転じてみよう。世界的な「脱化石燃料」の潮流の中、日本はどんな取り組みを行っているだろうか。
2015年、政府は日本の2030年のエネルギーミックスとして、LNG火力27%程度、石炭火力26%程度、再生可能エネルギー22〜24%程度、 原子力20〜22%程度、石油火力3%程度を目指すと定めた。
出典) エネルギー資源庁
しかしこの5年の間、世界では、地球温暖化防止の観点から、石炭火力に対する見方が年々厳しくなってきている。イギリスは2025年までに、フランスは2021年までに石炭火力発電を廃止すると表明しているし、ドイツは段階的に廃止する方針だ。
こうした中政府は、非効率な石炭火力の段階的休廃止の検討に入る方針を打ち出した。7月3日、梶山弘志経済産業相が会見で明らかにしたものだ。
しかし、2030年のエネルギーミックスで石炭火力のシェアは26%程度になっている。2030年度までの10年間に非効率な石炭火力の約9割に当たる100基程度の削減を政府は考えているが、電力の安定供給を損なうことなく、代替電力を確保する、という難題がのしかかる。
経産省は化石燃料の中ではCO2の排出量が少ない液化天然ガス(LNG)を使った火力発電を拡大したり、再エネの導入を加速させるために、基幹送電網利用ルールを抜本的に見直すことなどを今後検討していく方針だ。併せて、発電の際にCO2を排出しない原子力発電にも期待したいところだが、再稼働がどこまで進むのか不透明な面もある。環境問題への配慮と、電力の安定供給の確保。資源がほとんど無い日本にとって、最適解を見つける作業は簡単ではない。
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