写真) 日本科学未来館「エネルギー大転換」
提供) 日本科学未来館
- まとめ
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- 日本科学未来館の「どうする!?エネルギー大転換」展を訪問。
- 国会議員になったつもりでエネルギー関連の政策を選んでいくもの。
- 本企画展がエネルギーについて知り、考え、一歩踏み出すきっかけになればよい。
本記事は、2020年2月27日に取材しました。
※日本科学未来館は、新型コロナウイルス感染症の拡大防止のため、当面の間、臨時休館しております。再開につきましては、日本科学未来館のウェブサイトをご確認ください。※
2019年国連で、17歳の高校生であり環境保護活動家でもある、グレタ・トゥーンベリさんが地球温暖化防止を訴えたスピーチがメディアに大きく取り上げられたのは記憶に新しい。
エネルギー源の大半を化石燃料に頼る日本をみる国際社会の目は、年々厳しくなっている。しかし、私たちは普段エネルギーについてじっくり考える機会は少ないのではないか。そうした中、多くの人にエネルギーに関心を持ってもらいたい。そんな思いから子供から大人まで幅広い年代で楽しめるイベントを東京都江東区の日本科学未来館が企画した。それが、「どうする!?エネルギー大転換」展だ。オープンしてからおよそ3週間で4000人を動員し、様々な層から反響を得ている。
© エネルギーフロントライン編集部
原形は、脱原発、脱石炭、再生可能エネルギー導入促進といった「エネルギー転換」を進めてきたドイツで、約70万人が来場したドイツ博物館の大ヒット企画展「energie.wenden(エナギー・ヴェンデン)」(邦訳:エネルギー転換)だ。ドイツ博物館から声かけがあり、日本でも開催が決まった。ドイツ国外では初めてとなる。日本での開催にあたり、日本のエネルギー事情を紹介するパネルも追加された。
編集部が取材に行ったのが平日だったので、展示コーナーに家族連れは見当たらなかったが、大学生や、外国人旅行客、社会科見学の小学生らが集まっていた。
この企画展の興味深い点は、まず自分が「国会議員」になったつもりになる、ということ。つまり、政治家として「エネルギー転換」の政策を進める為にテーマごとに決断を下すのだ。
最初に黄色いカード(回答を記録する紙)を手に取り、テーマの所に行くと、大画面に科学者やビジネスマンらが登場し、自分の主張を話し始める。
提供) 日本科学未来館
それを聞いた後、脇にあるスクリーンに出てくる3つの政策の内、もっとも良いと思うものを選んでいく。カードリーダーのスロットに差し込んだカードに選んだ政策が記録される仕組みだ。
© エネルギーフロントライン編集部
筆者が感心したのは、3択の答えを選んだ後、「本当にその答えでいいのですね?」と言わんばかりに画面に賛成意見や反対意見が出てくることだ。一瞬、「たしかに、そういう考えもあるな」と思って自分の決断が揺らぐ場面もあった。テーマ毎に参加者が深く考える仕組みになっているのだ。
© エネルギーフロントライン編集部
筆者や編集部スタッフらも早速、挑戦した。テーマは10個。それに対する3つの政策(オプション)は以下の通りだ。
【テーマと3つの政策】
・発電所からの二酸化炭素、どうやって減らす?
A:天然ガスに補助金 B:炭素税 C:地下に埋める
・原子力エネルギーを使う?
A:もっと原発を建てる B:原発は閉鎖 C:核融合をめざす
・太陽光や風力エネルギーを推進するには?
A:電気の販売価格保証 B:市場競争に任せる C:国内に限らず適地に設置
・水力の今後は?
A:簡単に増やせる法律を制定 B:大型の新規建設を制限 C:小規模水力を建設
・植物資源をどう使う?
A:燃料用の作物を普及させる B:燃料用の作物生産は制限 C:燃料用は廃棄物だけ
・再生可能エネルギーをたくさん送るには?
A:多くの高圧電線を作る B:既存の送電線を増強 C:電気で燃料ガスを作る
・太陽光や風が無くてもいいようにするには?
A:バッテリーを研究 B:揚水発電所を増やす C:スマートメーター
・建物のエネルギー効率を高める方法は?
A:断熱工事に補助金 B:エネルギー効率に基準値 C:再エネ利用
・製品のエネルギー効率を上げるには?
A:高エネルギー効率の義務化 B:市場の自由競争 C:製品ラベル
・もっと持続可能な方法で移動するには?
A:電気自動車に補助金 B:電気自動車の生産台数義務づけ C:公共交通機関の充実
最後にカードをリーダーに読み込ませると、参加者は以下のどのタイプか、プリントされて出てくる。タイプは全部で6つ。日本がどういった政策でエネルギー転換を図っていくべきなのか、改めて考えるきっかけになる。
提供) 日本科学未来館
【それぞれのタイプ】
1. 市場経済タイプ ・・・ あなたの考える「エネルギー転換」では、価格が推進力となる。価格設定が適切であれば、ひとりでに進む。そのためには、エネルギー効率の高い新しい技術やアイデアが、従来のものよりも安くなければならない。そうすれば多くの人々がエネルギー転換に参加できる。
2. 社会的良心タイプ ・・・ あなたの考える「エネルギー転換」は、社会のあらゆるところのあらゆる人々に同じように実現されていくべき。分散型の技術に焦点を当てれば、全ての人たちが参加でき、エネルギー転換に対する意欲が高まる。それができればエネルギー転換も達成できる。
3. グローバルタイプ ・・・ あなたの考える「エネルギー転換」は、グローバルに組織される必要がある。技術的イノベーションを世界中の地域に共有し、それらが有効活用されることを推し進める必要がある。誰でもどの技術にも、グローバルネットワークの中で活躍できる理想的な場所がある。
4. 科学技術タイプ ・・・ あなたの考える「エネルギー転換」は、研究を推進すればするほど、あなたが考えているよりも早く達成できるかもしれない。技術的、社会的、政策的な解決策はある。答えはまだ見つかってないかもしれないが、だからといって答えが存在しないわけではない。新しい考え方や研究体制によってエネルギー転換が達成できるだろう。
5. 環境保護タイプ ・・・ あなたの考える「エネルギー転換」は、すべての人々が自然と調和した暮らしを取り戻すことによってのみ達成できる。そのためには、再生可能エネルギーの推進だけでなく、人々のエネルギー消費に対するこれまでの行動様式も変える必要がある。すべての人々が「少ないことは豊かなことだ」という考えを共有し、エネルギー転換を成功させるよう行動しなければならない。
6. 法規制タイプ・・・ あなたの考える「エネルギー転換」は、トップダウン型。個々人は将来を見据えた大局的な方針を理解することができないため、政府が法律や指針、導入策を作らなければならない。たとえ強制的だったとしても、そうすることにより、皆が適切に行動するようになり、エネルギー転換が達成される。
実際に企画展に参加した人に話を聞いてみた。
© エネルギーフロントライン編集部
河野慧さん(大学4年生)
「色々なコンテンツが網羅されていて、数珠つなぎに関連していたのでとても分かりやすかった。自分は大学の理学部に在籍しており、エネルギー関連には関心があったが、今回の展示を見て知識が補填されたり、自分の意見を深掘りできたりした。自分たちは社会の中で生きているが、それ以前に自然の中で生きている。一人一人の意識が大事だと思った。」
M.Mさん(50歳 女性)
「広島から来た。自分は科学技術タイプだった。展示を通して色んな意見があることがわかったし、蓄電技術がもっと進歩すればいいと思った。」
DANさん
「私たちは科学が好きで、またこのようなことに対してとても気を使っているので見に来た。オーストラリアでは太陽光発電をよくやっている。家では、少し高いが環境のことを考えてトヨタのハイブリッドカーを購入した。ただ、皆が環境のことを考えているわけではない。私たちはこれから家を建てるが、蓄電池を取り入れたいと考えている。また光熱費がとても高いので、家には天井扇をつけている。太陽光パネルは高いけれども、技術も進んでいるし、安くなったら購入する予定だ。普段エネルギー政策については、私たちは教師なので生徒と話すことがある。この展示は人々に投票させて意見をもたせることができるので非常に良いと思った。」
社会科見学で来ていた神奈川県小学生6年生5人組の一人(女子)
「社会の授業で、太陽光や風力発電は二酸化炭素を出さない、ということは学んでいた。今回、燃料にも色々な種類があるということ、エネルギーの使い方等、知らなかった部分を知ることができて楽しかった。」
森さん(37歳 男性、付き添いの先生)
「原子力は必要か否か、ダムの意義、その他の自然エネルギーのメリット・デメリットなど、非常に考えさせられるテーマばかりだった。自分たちでも、エネルギーを無駄にしないためにできることを改めて考える機会になった。」
今回の企画展の担当者である、日本科学未来館事業部科学コミュニケーション専門主任池辺靖氏に話を聞いた。
© エネルギーフロントライン編集部
池辺氏この展示の内容はよく考えられている。一度意見を選ぶと、更にそれに対する意見が出てくるので、立ち止まって考えさせられることの多い、という反響が多かった。また、エネルギーに関する10の項目すべてを一つの展示の中である程度網羅していて、非常にバランスに優れている。じっくり回れば一時間程度かかるが、10項目すべて回る人が非常に多い。
この企画展を通して池辺氏が最も伝えたかったことを聞いた。
池辺氏エネルギー諸問題に対処するには、一人一人が行動していかなければならない。行動するためにはまず知らないと始まらない。エネルギーについての一般の人の議論を聞いていると、知識のギャップは想像以上に大きいと感じる。この企画展を、エネルギーについて知り、考え、一歩踏み出す、そのきっかけにして欲しい。
私たちを見送る際、池辺氏は、一枚の展示パネルの前に案内してくれた。
「わたしが一番言いたかったのはこれなんです。」
そこにはこう書いてあった。
「エネルギーの選択は未来の選択
To choose energy is to choose your future.
未来を選び取るのはあなた自身です」
© エネルギーフロントライン編集部
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