写真) 太陽光パネルの雪かきをする少女
出典) flickr:10 10
- まとめ
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- 日本の化石燃料依存度は9割近くで高止まり。
- 静電気を利用した「雪発電」や、「岩石蓄電」など技術開発が進む。
- CO2削減は待ったなし、再エネ拡大にむけ更なる努力が求められる。
日本はエネルギー源として、石炭、石油、LNG(液化天然ガス)などの化石燃料に大幅に頼っている。下の図を見てもらいたい。東日本大震災後、ほとんどの原子力発電所が停止し、火力発電に頼らざるを得なくなった我が国の化石燃料への依存度は、87.4%(2017年度)にまで上昇している。
出典) 資源エネルギー庁
一方、地球温暖化防止の観点から、国際社会はCO2排出量の多い火力発電に厳しい目を注いでいる。そうした中、日本は再生可能エネルギー(再エネ)の大量導入に動いてきた。政府は、2030年度の電源構成における再エネの比率を、総発電電力量の22~24%に引き上げる計画だ。
実際、固定価格買取制度(FIT)が始まって以来、再エネの導入は急速に拡大してきた。特に太陽光発電の伸びが顕著だ。
出典) 資源エネルギー庁
その太陽光発電であるが、欠かせないのが日照だ。冬の間は日照時間が短く、特に北国ではパネル上の積雪により発電効率が落ちてしまう。やっかいものの雪で発電出来たら・・・そんな夢のような話が現実のものとなるかもしれない。
UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)、トロント大学、マクマスター大学、コネチカット大学が連携し開発した、降る雪と接触するだけで発電できる、摩擦帯電型ナノ発電機、「Snow-TENG」という技術がそれだ。UCLAの「ナノシステムズ研究所」が研究している。
出典) UCLA
摩擦帯電とは、モノとモノがこすれ合って静電気が発生する現象だ。
冬に衣服を脱ぐときや、車から降りてドアを閉める時など、「パチッ」と音がする、あの現象である。プラスに帯電したものと、マイナスに帯電したものが近づくと、マイナスの電気はプラスに帯電した側に戻ろうとする。この動きがいわゆる「放電」であり、その時、ものとものの間に電流が生じているのだ。「Snow-TENG」は、雪がモノに触れた時生じる摩擦の静電気を利用するものだ。
雪はプラスに帯電しており、地上に降るまでの間放電しやすくなっている。研究チームは、雪と衝突した時に放電が発生しやすい材料を探した結果、シリコンがもっとも良いという結果になった。
出典) Pixabay
シリコンは入手も容易で、3Dプリンターでの成型も簡単だ。低コストで大量に生産することができる。チームは電極とシリコンを積層させ、柔軟性、伸縮性、耐性に優れた薄型デバイスを作り上げた。「雪発電」を併用すれば、北国の太陽光発電所は発電効率を大幅に改善することができそうだ。
この技術は他にも幅広い分野で応用が期待できる。プラスチックシートのように薄くて軽いため、防寒服の上につけることで簡単に体を温めることができるだろう。降雪量や風速を計測する気象観測機や、ウインタースポーツをしている人の動きをモニターするウェアラブルセンサーとして活用することもできそうだ。
また、小型気象ステーションとして、リアルタイムで天気を監視、降雪率、積雪の深さ、風向、など様々な気象データを収拾することが期待できる。今後の商業化が楽しみだ。
ところで、ハイテクな雪発電は画期的だが、日本でも「雪氷熱」を利用する取り組みが行われている。寒冷地の負担となっていた雪の処理だが、逆に雪や冷たい外気を使い作った氷を保管し、夏場冷房や冷蔵に利用するものだ。
北海道美唄市の農協、JAびばいは、玄米を5℃の低温で貯蔵する施設「雪蔵工房」を擁する。国内最大3,600tの貯雪量を誇る玄米貯蔵施設。春先の雪を貯蔵室に蓄え、雪が0℃で融解するエネルギーを活用する。全空気式雪冷房により庫内を温度5℃、湿度70%の低温環境として新米の品質を保つという。消費電力は従来に比べ1/2以下という、省エネ施設だ。
出典) JAびばい
また、北海道帯広市でマンゴーを栽培する、株式会社ノラワークスジャパンは、夏は、3,000tの貯雪による冷房、冬は地中熱を利用した暖房、と季節ごとに再生可能エネルギーを有効活用し、温室の温度調整を100%賄う。温室内で夏と冬の季節を意図的に逆転するという、独創的な技術で冬でもマンゴーを生産することが可能になった。
出典) 株式会社ノラワークスジャパン
出典) 株式会社ノラワークスジャパン
地中に蓄熱するという技術は従来からあったが、独シーメンスグループの風力発電会社が開発したこの技術もユニークだ。「岩石蓄電」がそれ。岩石を熱してエネルギーをためる蓄電システムで、2022年にも商用化するという。既に2019年に130MWh(メガワット時)の実証プラントを稼働させている。プラント内部には総重量1000トンに上る岩石が貯蔵されており、3000世帯1日分の電力を貯めることができる。
システムはシンプルだ。Electric Thermal Energy Storage(ETES)と呼ばれるこのシステムは、送電網から電力を引き出し、熱エネルギーで火山岩を600°C以上の高温に加熱して蓄熱し、電力ピーク時は、その熱で蒸気タービンを回し発電する。
太陽光発電や風力発電などは、発電量が天候に左右されてコントロールするのが難しく、電力が余った時に蓄電し、不足時に放電する、大規模な「電力系統用蓄電池」が必要だとされている。我が国でもNAS電池などを使った実証実験が行われているが、岩石は極めて安価であり、手に入りやすい事から有望な蓄電材料であろう。
いずれにしても、日本はこれ以上化石燃料依存度を増やすわけにはいかない。CO2削減の切り札である再エネの比率をどう高めていくのか、世界の技術開発競争に乗り遅れるわけにはいかない。
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