図) 地球を取り巻く放射線ベルト
出典) NASA
- まとめ
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- 「放射性物質」が「放射線」を出す力を「放射能」という。
- 私たちは毎日、大気や食べ物から普通に「被ばく」している。
- 放射線のリスクについて科学的に理解し、生活することが重要。
「放射線」についてどれだけ知っていますか?意外と答えにつまってしまう人が多いのではないでしょうか?学生時代に少しは習ったかも知れないけれど、今となっては正確には思い出せない。そんな「放射線」について今一度復習してみましょう。
放射線とは
「放射線」以外に、「放射能」とか、「放射性物質」とか、なんとなく聞いたことがあると思います。放射線を出す物質が「放射性物質」で、その「放射性物質」が持っている、放射線を出す力を「放射能」といいます。
その能力の大きさを表すのが「ベクレル(Bq)」という単位です。そして、放射線被ばく線量、すなわち人体への影響の大きさの単位が「シーベルト(Sv)」になります。
出典) 環境省
自然界の放射線
私たちは、宇宙、大気、地面、鉱物、食物などから放射線を受けます。これを「自然放射線」と言いますが、その量は、世界平均で1年間に約2.4ミリシーベルト、日本平均で2.1ミリシーベルトだと言われています。そう言われてもピンと来ませんよね。
出典) 日本原子力文化財団
宇宙や鉱物から放射線を受ける、というのはまだわかるのですが、実は食物からも私たちは放射線を受けていると言ったら驚かれるでしょうか?実は、多くの食物には放射性物質が含まれているのです。具体的には、カリウム40や炭素14、ボロニウム210などです。例えばカリウム40は、干しこんぶ、干ししいたけ、ポテトチップス、牛乳、ビール、バナナなど、私たちが日常的に食べているものに含まれています。
出典) 日本原子力文化財団
その「自然放射線」とは別に私たちは、普段受けているX線検査などで、「人工放射線」と呼ばれるものを浴びています。その量は、胸部レントゲン撮影(1回)で、0.06ミリシーベルト、CT=コンピューター断層撮影(1回)なら約2.4~12.9ミリシーベルトです。また、飛行機で移動しても人は被ばくします。例えば、東京-米東海岸のフライト(往復)で受ける放射線の量は、約0.08~0.11ミリシーベルトです。つまり、私たちは誰でも毎日普通に「被ばく」しているのです。
出典) UNSCEAR 2008 report、資源エネルギー庁「原子力2010」、(公財)原子力安全研究協会「新版 生活環境放射線(国民線量の算定)」 ほか
「被ばく」とは
ここで「被ばく」という言葉について少し説明しましょう。「被ばく」は漢字で「被曝」と書きます。「曝(ばく)」という漢字は、訓読みで「曝す(さらす)」と読みます。つまり「被曝」は「さらされる」という意味です。決して、「被爆」=爆撃を受けて被害を受ける、ことではないことを知っておいてください。難しい漢字なのでこの記事では「被ばく」と表記しています。言葉の持つ意味を知ることも大事ですね。
さて、改めて、「被ばく線量の比較(早見図)」を紹介しましょう。私たちの身の回りにはあたりまえのように放射線があることがわかると思います。
その被ばくには「外部被ばく」と「内部被ばく」の2種類があります。
「外部被ばく」とは、地表や大気中の放射性物質から放射線を受けるもので、「内部被ばく」は、食物からや呼吸などで放射性物質を取り込んで起きるものです。
出典) 環境省
人体への影響
私たちが気になるのは、やはり放射線の健康への影響です。一般社団法人日本原子力文化財団の資料によれば、放射線の人体への影響は、しきい値のある「確定的影響(組織反応)」と、しきい値はないと仮定する「確率的影響」に分類することができます。
「しきい値」とは、「境界の値」のことです。「確定的影響」は、脱毛、白内障、皮膚障害、等を指しますが、これにはしきい値(しきい線量)があり、それを超えると影響の発生率は下図のように上がります。
一方、「確率的影響」は、がんや白血病、遺伝性影響などを指し、しきい値(しきい線量)はないと仮定されています。(注1)しかし、100~150ミリシーベルト未満の低い線量では、発がんの確率が増すかどうか、実ははっきりとした統計的証拠はなく、しきい値(しきい線量)があるかないかは意見が分かれているようです。
出典) 環境省
いずれにしても、私たちが心配すべきは、「確率的影響」、すなわち発がんリスクのわずかな上昇なのではないでしょうか。発がんリスクが上がる、と言われるとドキッとするかも知れません。ここで、100ミリシーベルト以下の放射線による発がんリスクの増加と、他の要因による発がんのリスク増加を比べてみましょう。
下の表を見てください。思い当たる生活習慣は無いですか?100ミリシーベルトを被ばくした場合のがん発症率は、通常の1.08倍に増加しますが、驚いたことにその数値は野菜不足とほぼ同等です。運動不足や肥満、痩せすぎでは更にリスクは高まり、喫煙・飲酒に至っては、1.6倍にも跳ね上がります。こうした科学的事実も知っておいて損は無いと思います。
出典) 日本原子力文化財団
出典) 環境省
私たちは日々、どのくらい放射線を受けているか、などと考えて生活していません。しかし、実際にはあらゆる形で影響を受けている事はおわかりいただけたでしょう。リスクを正しく科学的に知れば、自ずと考え方も行動も冷静になると感じます。
医学における放射線
レントゲンやCT等の検査で若干「被ばく」することは上に述べました。こうした検査で私たちは病気を早期発見する事が出来ます。私の通っているクリニックのお医者さんは、肺のCT検査で、それ以外の臓器のがんが発見されることはよくある、と言っていました。CTなどが無い時代には考えられなかったことです。
また、放射線はがんの治療にも使われています。放射線療法は、抗がん剤による化学療法と外科治療(手術)と並んで「がんの3大療法」と呼ばれ、放射線を腫瘍部に照射し、がん細胞を壊死させます。照射制御技術も格段に進歩し、患者の負担が少ない療法といえます。
放射線という慣れない言葉を簡単に解説しましたが、短い時間で全部説明できるものでもありません。ただ、放射線とはどういうものなのか、私たちの体にどのような影響をもたらすのか、そのリスクをどうしたら減らすことが出来るのか、また放射線以外のリスクとどう付き合っていくのか。読者の皆様にとって、そんなことを考えるきっかけになればうれしく思います。
- 国際放射線防護委員会(ICRP)は、低線量域でも線量に依存して影響(直線的な線量反応)があると仮定して、放射線防護の基準を定めている。
- 参考)
- 環境省「放射線による健康影響等に関する統一的な基礎資料」
- 一般社団法人原子力文化財団「エネ百科 第六章放射線」
- 「放射線のひみつ」東大病院 放射線科准教授中川恵一著 朝日出版社(2011年)
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