図) e-Palette Concept
出典) トヨタ自動車
- まとめ
-
- MaaS=移動のサービス化という概念が注目されている。
- MaaSを利用したモビリティサービスの収益化が課題。
- MaaSは社会の課題を解決するカギとなる。
最近、あちこちで目にすることが増えた”MaaS(マース)”という横文字。”Mobility as a Service”の頭文字を取ったもので、”移動のサービス化”という意味だ。国交省は2019年をMaaS元年と名付けている。
まだ生まれたばかりの概念だが、今後急激に成長することが期待されている。自動車会社は、生き残りをかけてこの分野に進出しようとしている。MaaSによって私たちの生活はどのように変化するのか。おりしも 東京モーターショー2019も東京ビッグサイトで開催中だ。MaaSが拓く未来のモビリティ革命について考える。
MaaSとは何か?
MaaSとは、モノとしての移動手段(モビリティ)を提供するのではなく、サービスとしての移動手段を提供しようという新たな考え方である。国交省は「ICTを活用して交通をクラウド化し、公共交通か否か、またその運営主体にかかわらず、マイカー以外のすべての交通手段によるモビリティ(移動)を 1 つのサービスとしてとらえ、シームレスにつなぐ 新たな「移動」の概念」と位置付けている。(出典:国土交通省「MaaSについて」)
MaaSの利点はそれだけではない。「環境に配慮したシステム」であるという点が重要だ。利用者の利便性の向上だけではなく、交通渋滞を緩和し、大気汚染を防ぎ、地球温暖化を抑制する。ではMaaSはどのように具体化されていくのだろうか?
日本でのMaaSの普及に向けた取り組み
1. 自動車メーカーの取り組み
次世代のモビリティの在り方を象徴するモデルとして、トヨタ自動車は2018年に「e-Palette Concept(イーパレット・コンセプト)」を発表した。e-Palette Conceptは、移動や物流、物販など多目的に活用できるモビリティサービスを目指したMaaS専用次世代EV(電気自動車)のコンセプトカーだ。Autonomous Vehicle(自動運転車)とMaaSを融合させ、電動化、コネクテッド化、自動運転化が図られている。
トヨタは「将来的には、複数のサービス事業者による1台の車両の相互利用や、複数のサイズバリエーションをもつ車両による効率的かつ一貫した輸送システムといったサービスの最適化を目指す」としている。
出典) トヨタ自動車
そういわれてもピンとこないが、以下の動画を見ると近未来のモビリティ・サービスの姿を思い描くことができる。「移動」の概念が、「流通」、「e-commerce(イーコマース)」、「ヘルスケア」、「働き方」、「趣味」、「エンターテイメント」など、あらゆる分野に拡大する可能性を秘めている。
出典) TOYOTA
2. MaaSの実証実験
都市部:マルチモーダル・サービス
実は、すでにMaaSの実証実験は始まっている。
トヨタ自動車とソフトバンク株式会社の協業のニュースは記憶に新しい。両社が設立した新会社「MONET Technologies」が、モビリティ領域の革新を目指して作った、企業間連携組織「MONETコンソーシアム」に、異業種からの参加が相次いでいる。2019年3月末の設立時は88社だった参加社が、半年後の9月末時点で400社に達した事でも各社の期待が高いことがうかがえる。
そうした中、MONET Technologiesは東京・竹芝エリアで新たなモビリティサービスの実証実験を開始する。(2019年12月下旬~2020年1月上旬予定)東京都から「MaaSの社会実装モデル構築に向けた実証実験」を受託したものだ。具体的には
1.竹芝エリア内の勤務者向けオンデマンドモビリティサービス
2.通勤者向けマルチモーダルサービス
3.観光客向けマルチモーダルサービス
から成る。
マルチモーダル(multimodal)とは、自動車や鉄道、海運、航空など複数の交通機関を連携させて移動を効率化させる交通施策のことだ。交通系ICカードでシームレスに支払いが済めば移動も楽になる。まだまだ小規模な実証実験ではあるが、近い将来、こうしたモビリティサービスは各都市に広がっていくはずだ。
地方:観光産業の活性化
地域の活性化につなげることを目的とした観光産業における実証実験も静岡県・伊豆で行われている。
実験の背景は、鉄道・バス・タクシーが整備されているのにも関わらず、来訪者の8割が車で訪れており、公共交通機関が十分に観光に活用されていないことの解決だった。さらに、高齢化と人口減少が進む中で、地元の住民のための新たな交通システムを構築することも期待されている。
この事業は自動車会社が中心となってはいるが、主要な目的はカーシェアの推進ではなく、公共交通機関や自治体に寄り添うような中立的なプラットフォームを提供することである。
具体的には、交通予約決済アプリIzukoで、目的地までの経路検索、観光施設入場券の決済、交通機関(オンデマンド交通・レンタカー・レンタサイクル)、観光施設・宿泊施設の予約まで全て完結させることが出来る。
Phase1は2019年4月1日から6月30日にかけて行われ、アプリは開始57日目で2万ダウンロードを達成した。Phase2 は2019年12月1日から2020年3月10日にかけて行われる予定で、今後の展開に関連企業の期待が集まる。
3. MaaSの収益化
期待が先行するMaaSだが、収益化に成功しているモビリティサービス企業はほとんど無いようだ。今後は、MaaSを利用したモビリティサービスをいかに収益化するかが課題となる。
収益化のポイントはモビリティとコンテンツの組み合わせだ。国土交通省「全国都市交通特性調査」(平成27年)によれば、徒歩、自転車、鉄道、自動車・バイク、その他を含む国内の総移動時間は合計462億時間にのぼる。これらの膨大な移動時間を無駄にせず、「魅力的なコンテンツ」を提供できれば、大きな市場の形成につながる。
株式会社三菱総合研究所は、MaaSの収益化に向けたポイントを2つあげている。
① 新たな顧客体験の創造
観光・不動産・保険・エネルギー・小売・医療・エンタメ業界などと連携することで高付加価値化を図ることができる。いかに移動時間を無駄にせず、「新たな顧客体験」を提供できるかどうかがカギとなる。
出典) 株式会社三菱総合研究所
② デジタルマーケティングの活用
MaaSアプリによって収集された利用者のビッグデータ(顧客の特徴:性別、年代、職業 etc.、移動履歴、購買履歴など)をAIで分析することにより、その利用者のニーズに合った、移動とコンテンツ一体の新たなサービスをリコメンド(推奨)することが可能になる。
具体的には、顧客の特徴(性別、年代、職業 etc.)、移動履歴、購買履歴などを分析することで顧客のニーズを把握し、購入してくれそうなサービスをリコメンド(推奨)することが可能になるだけでなく、今までなかった全く新たなサービスが生まれることもあろう。
例えば、高速バスチケットと関連施設のクーポンの組み合わせや、スパと美容院やネイルサロンへの送迎サービスなどを提供すれば、需要を喚起することができるだろう。
顧客ニーズの大小が分かれば、サービスを購入する意欲の度合いも測ることができる。時間帯や季節など需給関係に基づき料金を変動させる「ダイナミックプライシング」を適用すれば、更なる収益拡大も可能となる。
出典) 三菱総合研究所
4. 社会課題の解決
都市部では、私たちのあらゆる生活の場面(買い物、病院、ショッピング、レジャー、家事、子育て、趣味など)で、「こんなモビリティサービスがあればいいのに・・・」と思うことがしばしばだ。MaaSはそうした都市の社会課題を解決するカギとなる。
一方、地方では経済活性化が大きな課題だ。先に述べた伊豆の観光型MaaSなど、デジタル地域通貨などとセットでサービスを提供すれば、地元にお金が落ち、地方の活性化につながる、と三菱総研は見る。魅力的な観光地は、訪日外国人観光客をひきつける。地方こそ、MaaSを真剣に研究すべきだろう。
壁となるのは社会の仕組みや慣習、ルールや法制度、規制などだが、それらを乗り越え、真のモビリティ革命を起こすことができるかが今、問われている。
東京モーターショー2019
2019年9月24日から11月4日まで東京ビッグサイトにて、「第46回東京モーターショー2019」が開催されている。各メーカー、世界的な電動化の潮流の中、EV(電気自動車)を中心に、コンセプトカーを展示している。
MaaSのくくりでの目立った展示はなかったが、”FUTURE EXPO”と題して、通信、電機、重工、宇宙開発など約60社の企業や団体の最新技術が紹介されている。
© エネフロ編集部
© エネフロ編集部
特に興味深いのは、自動車メーカーだけでなく、様々な企業による「水素社会」構築に関する展示だった。「水素社会」についてはたびたび紹介しているが、この”FUTURE EXPO”の詳細については改めて報告したい。
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