写真) 9月14日に無人機の攻撃を受けた、サウジアラビア アブカイク石油関連施設
出典) サウジアラムコHP
- まとめ
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- 9月14日サウジアラビアの石油関連施設が何者かによる攻撃受けた。
- イエメンのフーシ派が犯行声明を出したが、サウジアラビアとアメリカなどはイランの関与を非難。
- 原油価格の上昇が長期化すれば日本経済に影響も。
9月14日、世界に衝撃が走った。サウジアラビア東部の国営石油会社サウジアラムコが運営する石油関連施設が何者かによる攻撃を受けたのだ。当初、サウジアラビアの石油生産量の約半分、世界の供給量の5%が失われたとの報道もあった。筆者の知る限り、このような大規模な攻撃がサウジアラビアの石油関連施設に対して行われたことはない。
攻撃したのは誰なのか?
今回の攻撃は、一体どこから行われたのか。真っ先に犯行声明ビデオを出したのは、サウジアラビアに敵対する隣国イエメンの「フーシ派」だ。フーシ派の報道官は、今回は10機のドローンによる攻撃が行われたが、これは2015年から続くサウジアラビア等との武力衝突の「反撃」として実施されたものであり、サウジアラビアの攻撃が続く限り反撃も続くと述べた。
一方、サウジアラビア国防総省は18日、会見を行い、石油施設への攻撃は北方から行われ、「イランによって疑いなく支援されていた」と発表した。ただ、具体的な発射地点は特定できないとした上で、攻撃に使われた無人機18機と巡航ミサイル7発もの残骸を公開した。同省のトゥルキ・マリキ報道官は記者会見で、攻撃の実行主体がイランだとの最終結論が出るかについては言及を避けた。
出典) サウジアラビア国防総省
アメリカもイランを非難した。ポンペオ米国務長官は、「攻撃がイエメンからのものであることを示す証拠はない。緊張緩和を求めるあらゆる呼び掛けにもかかわらず、イランは世界のエネルギー供給への前例のない攻撃を行った」とツイッターに投稿した。
さらにポンペオ長官は18日、サウジアラビアでの議論を終え「米国はサウジアラビアの側に立って、自らを守る権利を支持している。イラン政権の脅迫的な行動は容認されない。」とツイートした。
ポンペオ米国務長官の投稿(9月19日)
Met with #Saudi Crown Prince Mohammed bin Salman today to discuss the unprecedented attacks against Saudi Arabia’s oil infrastructure. The U.S. stands with #SaudiArabia and supports its right to defend itself. The Iranian regime’s threatening behavior will not be tolerated.
— Secretary Pompeo (@SecPompeo) September 18, 2019
出典) ポンペオ米国務長官公式ツイッター
イランの反応
一方、攻撃の関与を疑われたイランはこれに猛反発、真っ向から関与を否定している。イランのジャヴァード・ザリーフ外務大臣はポンペオ氏に対し、ツイッターで「イランは戦争を望んでいないが、私たちは自分自身を守ることを躊躇わない。またイエメンは、年々残酷な攻撃を(サウジアラビアから)受けており、自らを守るために必要なものを構築する強力な動機を持っている。」と反発した。
イランのジャヴァード・ザリーフ外務大臣の投稿(9月19日)
On @CNN, I emphasized that here's no such thing as a "limited strike". Iran does NOT want war, but we will NOT hesitate to defend ourselves.
— Javad Zarif (@JZarif) September 19, 2019
Also, Yemenis, under brutal attack for yrs, have powerful motivation to build what it takes to defend themselves.https://t.co/qKYfeFgJAv
イランのジャヴァード・ザリーフ外務大臣の投稿(9月24日)
E3's paralysis in fulfilling their obligations w/o US permission has been clear since May 2018.
— Javad Zarif (@JZarif) September 23, 2019
Solution to this deficiency: mustering will to forge independent path—not parroting absurd US claims & requests INCONSISTENT with JCPOA.
No new deal before compliance w/ current one.
イラン核開発問題
国連総会出席のためニューヨーク訪問中のマクロン仏大統領とメルケル独首相、ジョンソン英首相は23日、今回のサウジアラビアの石油施設への攻撃について「私たちにとって、イランがこの攻撃の責任を負っていることは明白であり、他に説得力のある説明は存在しない。」という共同声明を発表した。
西側諸国がイラン包囲網に向け、足並みをそろえた格好だ。背景には、イランの核開発問題があるのは間違いない。2015年にイランと英・独・仏・米・中・露、計7カ国の間で結ばれた「イラン核合意」から、アメリカは2018年に離脱している。トランプ米大統領は24日、国連総会における演説で、イランに対する制裁の強化も辞さない意向を示している。今回の事件にイランが関与していたと喧伝することで、今後の交渉を有利に運ぼうというアメリカや仏・独・英らの政治的思惑が見え隠れし、イラン核合意の行方には曲折が予想される。
安倍首相も、24日、国連総会の場で、イランのロウハニ大統領と会談した。原油の8割以上を中東から輸入する日本にとって、中東地域のタンカーの航行の安全確保は極めて重要だ。今後、日本がどのような外交的イニシアチブを取ることができるのか、問われることになる。
出典) イラン政府
原油市場への影響
攻撃の直後、原油価格が急騰、ニューヨークの原油先物価格WTIは13日の1バレル54.85ドルから約15%上昇し、16日には同62.9ドルへ急騰した。すわ、オイルショックの再来か、と慌てたが、現在のところ市場はパニックにはなっていない。
サウジアラビアは攻撃直後、今回の攻撃によって日量570万バレルの石油の生産が停止した、と発表した。中東最大の産油国であるサウジの生産量は日量約1000万バレルにのぼる。その約5割に匹敵する生産力が失われ、世界全体の約5%の供給が停止したことになる。そして、日本経済に大きな影響を及ぼすのではと懸念された。
出典) 経済産業省資源エネルギー庁
しかし、今のところ、市場はかつてのオイルショックのような状況にはなっていない。サウジアラビアのアブドルアジズ・エネルギー相は18日、サウジのジッダで記者会見し「9月末には日量1100万バレルの生産能力を回復する」と述べ、攻撃前の生産体制に早期に復帰するとの認識を強調している。
国際エネルギー機関(IEA)も18日、攻撃後サウジアラビアをはじめ、主要な生産国と消費国の当局や業界関係者と定期的に連絡を取りつづけているとした上で、 IEA加盟国は、世界の総石油需要の15日間に相当する約15.5億バレルの緊急在庫を保有しており、持続的な不足が発生した場合に迅速な行動を取る準備ができていると発表している。
日本経済への影響
今回の事件のインパクトはどう見たらいいのだろうか?やはり一番懸念されるのは原油高の長期化だ。
石油元売り各社、石油化学メーカーなどは、市場の状況を注視している。国内には230日分の原油備蓄があるとはいうものの、原油高が長期化すると、ガソリン価格や電気・ガス料金、国際線の燃油サーチャージだけにとどまらず輸入品全般が値上がりし、家計への負担が増す。
日本エネルギー経済研究所は、原油価格が15ドル上昇すると、日本経済の成長率は0.2%下押しされると試算している。無視できないレベルだ。おりしも10月からは消費税増税も開始した。これからも原油市場の行方を慎重に見ていく必要がありそうだ。
- 参考)
- サウジアラビア国防総省 https://www.mod.gov.sa/MediaCenter/MinistryNews/Pages/454.aspx
- サウジアラビア政府資料 https://www.saudiembassy.net/news/king-salman-cowardly-attack-threatens-stability-global-economy
- サウジアラムコ https://www.saudiaramco.com/ar/news-media/news/2019/saudi-aramco-swiftly-restores-production-capacity
- 米国国防省 https://www.defense.gov/Newsroom/
- イラン政府 https://mfa.gov
- 一般財団法人 日本エネルギー経済研究所 https://eneken.ieej.or.jp/data/8604.pdf
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