写真) イメージ図
出典) photo by Love Food Hate Waste NZ
- まとめ
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- 日本の「食品ロス」の量は、世界の食糧援助量の1.7倍に相当。
- 「食品ロス削減推進法」がこの秋にも施行される。
- 企業が「食品ロス」対策に乗り出す中、家庭での取り組みも求められている。
食べ残し、売れ残りや賞味期限が近いなど様々な理由で、まだ食べられるのに捨てられてしまう食品を「食品ロス」という。日本の、食べ物関係全般のゴミである「食品廃棄物」は年間2,759万トン。そのうち「食品ロス」の量は、年間643万トン(平成28年度推計値:農水省)で、世界の食糧援助量(2017年で年間約380万トン (注1))の1.7倍に相当する。
どこからそんなに食品ロスが出るかというと、6割近くがコンビニやスーパー、食品メーカーなど企業側からだ。残る4割強は家庭から出ている。
その「食品ロス」を減らすための「食品ロス削減推進法」が5月の参院本会議にて全会一致で可決、成立した。この秋にも施行される。推進法は、消費者や事業者への知識普及や啓発のほか、政府や自治体にも食品ロスを削減する努力義務が盛り込まれた。今や「食品ロス」問題は国を挙げて取り組む問題になったと言えるだろう。
食品ロスで生じる問題
ここで、食品ロスで生じる問題を見ていこう。
環境への負荷
廃棄された食料の生産過程、ごみ処理過程で発生した温室効果ガスは、無駄に排出されたことになる。食品ロスによって排出される温室効果ガスの量(二酸化炭素換算)は36億トンだと言われている。これは、世界の温室効果ガス排出量の約8%を占める(注1)。食品ロスが地球環境に負荷をかけている。地球温暖化は、干ばつや洪水などの異常気象を引き起こし、食べ物を作る環境に影響を与えることから、食品ロスを減らすことが急務となっている。
資源の無駄
食料の生産には、水や土地などの膨大な資源が費やされる。つまり、食料を捨てることは、それらの資源を無駄にすることと同じだ。世界で利用されている水のうち、約70%が食料を生産するために使われている。(注2)捨てられてしまう食料を生産するために、世界の農地の30%近くが使われているという報告もある(注1)。食品ロスにより、限りある地球の資源が無駄になっていることは深刻だ。
日本における食品ロス
冒頭でも触れたように日本の食品ロスは643万トン。日本人1人当たり年間約51キログラムにものぼる。日本の食料自給率(カロリーベース)は2017年度で38%(消費者庁)。食料の多くを海外からの輸入に依存しているにも関わらず、これだけ多くの食品を廃棄することは、経済的にも大きな無駄だ。
家庭から出る食品ロス
平成29年に消費者庁が行った調査は、家庭系の食品ロスの原因を明らかにした。捨てた理由として、(1)食べ残し 57%、(2)傷んでいた 23%、(3)期限切れ 11%(賞味期限切れ6%、消費期限切れ5%)の順で多いことが分かった。
食品関連事業者が食品を廃棄する原因は、過剰生産、規格外品の発生(表示ミス)、配送時の商品・包装の破損、在庫過多、期間限定商品・特売品・定番商品の入替え、催事用食品・外食の仕込み過ぎ・食べ残し、などが挙げられる。
実は、流通・調理・販売の過程に、事業者に食品廃棄を余儀なくさせる厳しい基準がある。問題視されるものの一つが、いわゆる「3分の1ルール」だ。(注3)小売店舗へ納品する期限を賞味期間の3分の1、販売する期限を3分の2とする慣例である。期限を過ぎた食品は、賞味期限前にも関わらず、製造元へ返品されたり廃棄されたりする。厳しい基準の背景には、品質や鮮度、見た目に関する消費者の過度な志向があるとされ、基準そのものの見直しの機運も高まりつつある。
「食品ロス」削減対策
2015年の国連サミットにおいて、食品ロスの削減目標を含む「持続可能な開発のための2030アジェンダ」が採択された。日本政府は食品ロスを、経済・社会の諸課題と密接に関わる重大な問題とし、取り組みを強化している。
コンビニの取り組み
こうした中、「食品ロス削減推進法」の交付を受けてコンビニ大手3社が、本格的な食品ロス削減事業を開始し、注目を集めている。
コンビニ各社はこれまでも、食品廃棄量の削減に取り組んできた。具体的には、需要の予測や発注時間の調整によって、発注精度を向上させ、売れ残りを削減。消費期限の長いチルド製品や冷凍食品の取り扱いを増やすことで、家庭での食品廃棄を防いでいる。また、店舗で出た食品廃棄物や廃食用油は、飼料や肥料などとしてリサイクルしている。
食品ロス削減推進法の公布を機に、各社は、更なる対策に乗り出した。
セブン-イレブンやローソンは、商品管理技術を向上して販売期限を伸ばしたり、厳しすぎる期限を見直したりして、3分の1ルールを緩和。また、消費期限が数時間後に迫る一部の商品を対象に、購入者にポイントを付与して購入を促す取り組みを準備中だ。
セブン-イレブンを含むセブン&アイ・ホールディングス系列店舗では7月から順次、納品期限緩和の対象商品を拡大する。常温加工食品全てにおいて、納品期限を製造日から賞味期限の期間の2分の1に設定すると発表した。
ファミリーマートはウナギ弁当を完全予約制にしたところ、販売額は減少したが、廃棄費用が大幅に減って、加盟店の利益が大幅に増えたという。同社はすでにウナギ、クリスマスケーキ、お節、恵方巻きの4品目の完全予約制を打ち出している。
出典) ファミリーマート
また、カルビーなど大手食品メーカーは、スナック菓子や飲料などの製造年月日の表示を「年月表示」に切り替え始めた。読者諸氏も、ついついスーパーの棚から商品を手に取る時、奥の方の賞味期限の遅い商品を買う習慣になっていないだろうか?そうした行動を防ぎ、廃棄を減らす効果が期待されている。
出典) カルビー
私たちにできること
日本の食品ロスの4割強を占める家庭系食品ロス。基本は、買物時に「買いすぎない」、料理を作る際「作りすぎない」、外食時に「注文しすぎない」、そして「食べきる」ことが重要だ。果たして私たちは実践できているだろうか?
筆者が普段実践しているのが野菜を使い切ることだ。野菜は足が早く、すぐ悪くなるので、早目に調理することが求められる。いたむ前に保存食などにしておくと便利だ。
例えば、ともすれば捨ててしまいがちな長ネギの青い部分などは、微塵にして「ネギみそ」にすれば、棄てずに済む。
出典) Photo by 筆者
お料理アプリなどにも使い切りレシピがたくさん紹介されている。日常の小さな行動に、一人一人が取り組むことで、食品ロスを大きく減らすことにつながっていく。食べものをつくる生産者・製造者への感謝の気持ちや、食べものを無駄にしないという意識を行動に移していくことが今、求められている。まずは出来ることから始めてみたい。
- 参考)
- ・消費者庁「食品ロス削減関係参考資料(令和元年7月11日版)」
- ・WFP「考えよう、飢餓と食品ロスのこと。」
- ・国立国会図書館「⾷品ロス対策の現状と課題」
- ・SECOND HARVEST「食べ物の問題・フードバンクとは」
- ・セブン-イレブン「食品廃棄物の発生を抑制」
- ・LAWSON「廃棄物の削減」
- ・FamilyMart「食品ロス削減の取り組み」
- 注)
- 食べ残し: 食卓に上った食品で、食べ切られずに廃棄されたもの。
- 直接廃棄: 賞味期限切れ等により使用・提供されず、手つかずのまま廃棄されたもの。
- 過剰除去: 厚くむき過ぎた野菜の皮など、不可触部分を除去する際に過剰に除去された可食部分
- (環境省「食品ロスポータルサイト」)
- 国連食糧農業機関(FAO)「世界の農林水産 2014年夏号(通巻835号)」
- 世界食料デー月間「世界の食料問題」ハンガー・フリー・ワールド
- 「3分の1ルール」
例えば、製造日から賞味期限までの期間が6か月の場合、①食品メーカー・卸から小売店までの納入までを2か月(納品期限)、②小売店から消費者に販売するまでを2か月(販売期限)、③消費者の購入から賞味期限までを2か月、というように製造日から賞味期限までの期間を3分の1ずつ区切るもの。①の納品期限や②の販売期限が過ぎた食品は、その時点で返品や廃棄されることがあり、食品ロス発生の要因の一つとも言われている。
(出典:消費者庁)
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