温室効果ガス観測技術衛星2号「GOSAT-2」軌道上外観図
©JAXA
- まとめ
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- 温室効果ガス観測専用衛星として世界で初めて運用されたのが「いぶき」。
- 「いぶき」により温室効果ガス濃度の全球分布とその時間的変動観測が可能に。
- 「いぶき」のデータは国際的なガイドラインにも活用されている。
地球温暖化は、熱波や大雨・干ばつなどの気候変化を引き起こし、水や食料などに深刻な影響を与える。地球温暖化防止は今や人類の至上命題といってもいいだろう。温室効果ガス削減に関する国際的取り決め「パリ協定」には世界中の多くの国が参加している。
では、地球の温暖化はどのようにして観測されているのだろう?実は温暖化の観測には、日本が打ち上げた衛星が大きな役割を果たしている。それが世界初の温室効果ガス観測専用衛星「いぶき」(GOSAT)である。
具体的にどのように観測しているのか。私たちは、宇宙研究開発のパイオニア「JAXA (宇宙航空研究開発機構)筑波宇宙センター」に取材に行ってきた。
JAXA筑波宇宙センター
私たちを出迎えてくれたのは全長50mのH-Ⅱロケットの実機。想像以上に大きい!
© エネフロ編集部
ここが、日本の宇宙開発を担うJAXAの中枢、「筑波宇宙センター」だ。宇宙飛行士の訓練や人工衛星の開発・運用などが行われている。日本の最先端宇宙テクノロジーが詰まった場所だ。JAXAでは地球の気候変動、温暖化、水循環を宇宙から見守る人工衛星の開発プロジェクトを行なっている。
15ヶ国が参加する国際宇宙ステーション(ISS)の中でも最大のモジュールである日本実験棟「きぼう」の管制室もここにある。筑波宇宙センターの敷地は約53万平方メートルで東京ドーム12個分ほど。この広大な敷地に約2,000名が働いている。
© エネフロ編集部
気候変動を予測する人工衛星
地球温暖化を含む気候変動観測・予測体制には、それらのデータ・情報・研究成果などを十分に活用していくことが不可欠である。世界でも地球の気温、降水量、異常気象、温室効果ガス濃度などの変化を正確に把握するため、陸、海、空あらゆる角度からの観測の強化を進めている。その基礎となる知見の蓄積、共有化に向けた取組の一つとして、JAXAでは人工衛星による地球観測を行っている。
提供) JAXA
その中で、温室効果ガス観測の専用衛星として世界で初めて運用されたのが、「いぶき」である。2009年1月に打ち上がり、設計寿命5年のところ、打ち上げから10年以上経った今でも運用を継続している。
詳しい話を「いぶき」の運用と「いぶき2号」の開発を担当した前プロジェクトマネージャー平林毅氏に聞いた。
© エネフロ編集部
-なぜ「いぶき」を開発することになったのか?
「温室効果ガスを地上から観測する場合、観測の精度は高いが、観測点の数が地球上に約240点しかなく、地域的な偏りがありました。下図を見てもわかるように、観測点の全くない地域が多く存在しています。一方、衛星観測の場合は同一の観測機器で全球観測が可能です。『いぶき』は3日で56,000点の観測をすることができ、観測点が飛躍的に増加しました。温室効果ガス濃度の全球分布とその時間的変動を観測することにより、地域ごとの吸収・排出量の把握もできるのです。」
出典) 温室効果ガス世界資料センター
出典) JAXA
1997年の京都議定書により、先進国における温室効果ガスの削減義務が課せられ、温室効果ガスの排出量や森林による吸収量について報告することとなっている。しかし、データの集計方法や精度が各国で異なっており、各国のデータを比較する上で、正確性や統一性に欠けるという課題があった。さらに、温室効果ガスの排出量に対する温暖化予測も不確かなものだったという。
「『いぶき』はこれらの課題を解決すべく、宇宙から世界中の二酸化炭素及びメタン濃度を高精度且つ均一に観測することを実現しました。また、その観測データを用いて、将来の気候変動予測の高度化や温室効果ガスの排出量削減につながる、吸収・排出の推定精度向上を進めています。」
-いぶきによる長期観測の成功事例はあるか?
いぶきの観測データを用いたCO2の濃度分布を見ると、年を重ねるごとに高くなっていることがわかる。WMO温室効果ガス世界資料センターから「いぶき」のデータの提供も開始している。衛星観測データとしては世界初だ。また、国際的なガイドラインにも衛星観測データを活用することが盛り込まれたという。
「2019年5月に京都で行われたIPCC総会で温室効果ガス排出量にかかるガイドラインが改定され、(いぶきの)衛星データを活用することが初めて記載されました。「いぶき」の活用例が多く記載され、世界各国の排出量報告精度向上への期待が示されています。」
-今後の計画は?
世界各国は続々と、温室効果ガスを観測する人工衛星を打上げている。2014年にはNASAが軌道上炭素観測衛星2号、OCO-2(オーシーオー-ツー:二酸化炭素を観測)を打ち上げ、2019年にはOCO-3を打ち上げた。また欧州は、2017年にSentinel-5p(センチネル-ファイブピー:メタンを観測)を打ち上げ、フランスやドイツでも温室効果ガス観測衛星の開発が進められている。そして、これらの海外衛星と日本の衛星との連携が進められている。
「JAXAは国立環境研究所とともに、「いぶき」や「いぶき2号」をハブとして、これら海外の温室効果ガス観測衛星と連携して互いに観測データの校正や検証を行い、観測データの精度向上や均質化に向けて取り組んでいます。これらの国際協力を進めながら、「いぶき」、「いぶき2号」、そして3号機も含む「いぶき」シリーズでの温室効果ガス観測を長期間継続して行い、世界各国の吸収・排出量の推移を透明性高くかつ精度高く把握することで、パリ協定に基づく温暖化対策に貢献できるよう努めていきます。「いぶき」をできるだけ多くの方に知っていただき、それをきっかけに1人でも多くの方が、地球温暖化に対して関心を持っていただけたら嬉しいです。」
取材を終えて
私たちは地球球温暖化に伴う気候の変化がもたらす様々な自然・社会・経済的影響に対して、世界各国との協力体制を構築し、解決策を見いだしていかなければならない。
日常その存在を意識することはない人工衛星だが、その研究が地球温暖化防止にも貢献している。日本の技術力が世界中の温暖化政策をリードしていることに誇らしさを感じ、筑波を後にした。
© エネフロ編集部
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