写真) 南いわき幹線(栃木県矢板市)
出典) Σ64
- まとめ
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- 大手電力会社は送配電部門を2020年4月までに分社化することが求められている。
- 中部電力は送配電部門、販売部門を分社化することを発表。
- 電力事業者は良質なエネルギーを安全・安価で安定的に届けるのが使命。
「発送電分離」をご存じだろうか?あまり一般になじみがないかもしれないが、実は大手電力会社は、国の「電力システム改革」の一環として、送配電部門を2020年4月までに分社化する事が求められている。
そうした中、中部電力は7月31日、送配電部門、販売部門分社後のブランドを発表した。送配電事業会社は「中部電力パワーグリッド株式会社」に、販売事業会社は「中部電力ミライズ株式会社」となる。持ち株会社名は「中部電力」のまま変わらない。地域に慣れ親しんだ「中部電力」の名前は引き継いだ。
エネフロ編集部作成
定例記者会見で、中部電力の勝野哲代表取締役社長は「分社化以降も、それぞれの事業領域が連携することで、地球環境に配慮した、良質なエネルギーを、安全・安価で安定的に届けるという使命を完遂するとともに、エネルギー供給の枠組みを超えた『新たな価値の創出』に挑戦し続ける。」と決意を述べた。
© 中部電力
さてここで、なぜ分社化するのだろう?と思われた方もいるだろう。今回の分社化は「電力システム改革」の最終形としておこなわれるものだ。その「電力システム改革」とはどのようなものなのだろう。
かつての電気事業は、地域独占といって地域ごとに電力会社が「発電」「送配電」「小売」の3事業を一括で提供していた。一方、この仕組みのもとでは、経営の効率化が進みにくいことから、電力の安定供給は大前提で、電気料金を抑制しながら電気利用者の選択肢と企業の事業機会を増やすために改革を行おう、ということになった。それが「電力システム改革」だ。
電力システム改革は、段階を踏んで進んできた。電力小売りの全面自由化は2016年4月に実現した。テレビCMやダイレクトメール、チラシなどで、様々な業種が新規参入したのを知っている人も多い事だろう。
こうした中、電気事業法は、送配電部門の一層の中立性確保のため、2020年4月までに発電・小売事業と送配電事業を法的に分離することを求めている。
「法的分離」とは、送配電部門全体を別会社化する方法で、各事業部門の行為、会計、従業員などを明確に区分するものだ。
その最大のメリットは、分離することで、送配電網を所有していない新規参入者が公平に送配電網を利用することができ、発電や小売り事業を活性化することができることだ。
一方、デメリットとして指摘されているのは、今まで大手電力事業者にすべて一元化されていた事業が分離される事によって、様々なコストが発生し、電気料金の値上げにつながるのでは、との懸念があることだ。また、新規参入事業者が発電所を消費地から離れたところに建設した場合、送配電設備への追加投資が必要となるため、電気料金は高くなる可能性がある。
米国やEUでは、1990年代以降の電力自由化の流れの中で「発送電分離」が進められてきた。米国では「発送電分離」を行った州の電気料金が全米平均を上回っている。またEUの中で「発送電分離」を推し進めた英国とイタリアの電気料金も割高となっている。
しかし、我が国の電力システム改革は現在進行中であり、実際どのような影響が出てくるのか見るにはまだしばらく時間がかかるだろう。重要なのは、改革以降も電力の安定供給がしっかりと担保され、需要家の利便性が損なわれないことだ。自由化が進む中、私たちも事業者が提供するサービスの質をより厳しくチェックする必要があろう。
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