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「安全」を考える

Vol.10 テクノロジーで子供を守れ!

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出典) 無料写真素材 写真AC

まとめ
  • GPSを利用した子供の見守りサービスが開発され注目を集めている。
  • 保護者(母親)に聞くと「子供の環境は安全だと感じない」との意見多し。
  • 親子で危機発生時の対応を話し合っておくことが大事。

今年の5月28日痛ましい事件が起きた。神奈川県川崎市で、通学途中の小学生や大人が、男に次々と刃物で刺され殺害されたのだ。この凄惨な事件で全国に衝撃が走った。今回のように、登下校中の子供を狙った事件はその後も相次いでいる。

警視庁によると、昨年度13歳未満の子供が被害者となった事件は640件以上にのぼる。全体の犯罪件数は減少する中、登下校、特に下校時間の15時から18時を狙った犯罪はほぼ横ばいで推移している。

これに対して、警視庁は地域における対策で、防犯カメラの設置や学校との連携強化などに取り組んでいる。また、子供への対策として、防犯訓練なども実施しているが、実際はいざという時に対応できないケースもあるという。そのような状況の中、昨今GPS (Global Positioning System:全地球測位システム)を利用した子供の見守りサービスが注目を浴びている。

子供見守りサービスとは?

子供見守りサービスとは、子供に持たせた端末から保護者のスマートフォンに、子供の現在地やその周辺の不審者情報を提供するサービスである。危険時には、瞬時に通報してくれる機能などもついており、親は離れた場所からでも、アプリで子供の居場所や周辺情報を把握することができる。大手キャリアや警備会社なども提供しているサービスであるが、今回はベンチャー家電メーカーの「Bsize」が提供する、AIを用いたGPS BoT注1)を紹介しよう。

AIロボットが子供を見守る

GPS BoTは、位置情報から子供を見守るAIロボットだ。充電してランドセルに入れるだけ。直径5㎝の小さな端末だ。これまでのGPSを使った位置探索サービスは、人が画面にはりついて見続けるもので現実的ではなかった。

BoTは人工知能が常時、現在地を把握し、出発や到着を知らせてくれるだけでなく、毎日往復する自宅や学校は1週間程度、たまに行く塾や習い事などは1ヶ月程度で特定してくれる。普段行かない場所に行くと、保護者に自動で知らせてくれる優れものだ。

写真) GPS BoT
写真)GPS BoT

出典) Bsize

電力会社も子供見守りサービスを開始

電力会社もこのGPS BoTを使用した見守りサービスを提供している。中部電力が2018年5月にサービス開始した「どこニャン GPS BoT」がそれだ。子供の現在位置情報や1日の行動履歴を、離れた場所にいる保護者に、スマートフォンのアプリを通じて正確かつリアルタイムに伝える。

アプリを開いた瞬間に最新の現在位置が読み込まれる。過去1週間分の移動履歴も確認できるから安心だ。

図) どこニャン イメージ
図)どこニャン イメージ

出典) 中部電力

画面を見続けなくても学校や塾などを登録すればアプリが登録地点の出発・到着を自動で知らせてくれる。また、警察と連携した不審者情報や停電情報、地震情報、防災情報などもプッシュ通知で配信される。さらに「きずなネット学校連絡網」を利用していれば、学校からの連絡がプッシュ通知で配信される。一つのアプリで複数の子供を見守ることができ、両親がそれぞれのスマホで、一人のお子さまを見守ることもできる。初回のみ端末価格として4800円(税別)かかるが、サービス利用料は月480円(税別)と継続しやすい値段設定だ。

岐阜市では、中部電力と連携し、端末代を含む初期登録手数料を市が負担する補助制度を導入した。今後も、登下校時における子どもの安全確保を補完する方策の一つとして、他の自治体に広がることを期待したい。

図) どこニャン イメージ
図)どこニャン イメージ

出典) 中部電力

また福岡市は、九州電力と連携した見守りサービスを10月に開始する。行方不明など事件が発生した場合は、警察と連携し位置情報を提供するほか、保護者向けに位置確認ができる有料サービスを用意する予定だ。国内の政令市では初の取り組みで、開始から2年以内に市内全域に広げ、公立・私立の小学校に通う約8万5千人を見守れるようにする計画だという。

見守りには電力消費が少なく約1年間稼働するビーコン端末を使う。電柱やコンビニ店舗など、通学路周辺に固定基地局を置き、ビーコンを持った子供が近くを通過すると位置情報を記録する。専用の「見守りアプリ」をスマートフォンなどにダウンロードした人とすれ違った場合も情報が登録される。保護者だけではなく、地域全体で見守っていこうという画期的な試みだ。

図) 実証実験イメージ図
図)実証実験イメージ図

出典) 九州電力

ランドセルメーカーと協業

ランドセルメーカーのハシモトは、「GPS BoT」と「ランドセル」で子供の安全安心を守る「フィットちゃん見守りAIプロジェクト」のサービス提供を開始した。2019年モデルで販売した「安ピカッ」は、車のライトに当たるとランドセルの縁が光り、夜道でもドライバーが子供に気付きやすい工夫がなされており、このモデルの売り上げは年々増加している。ランドセルにはデザインや機能性だけでなく、子供の安全を守る機能も求められるようになってきている。

写真) 光るフィットちゃん 安ピカッランドセル
写真)光るフィットちゃん 安ピカッランドセル

出典) 株式会社ハシモト

子供を持つ親の意見

実際に東京都、大阪府に住む小学生の子供をもつ親10人に意見を聞いてみた。

すでに子供に携帯電話を持たせている親は10人中4人、そのうちGPS機能を利用している親は2人だった。しかし、「子供の環境は安全だと感じるか?」という問いに対しては、10人中8人が「安全だと感じない」と回答した。

『低学年の一人歩きはまだ心配。予期せぬ事件事故が多発しており、それに対応できるか不安なため。スマホを持たせて位置情報なり分かれば、安心感は生まれると思う。』(東京 40代 パート)

『海外と比べたら格段に治安は良いが、昨今の状況を見ると、いつどこで誰が事故、事件に巻き込まれるかはわからないから。』(東京 40代 教師)
といった理由が多かった。

実際に「GPS BoTを使用している」と回答した人は、『最近使いはじめた。かなり正確な位置情報や履歴が見られるので、学校の登下校確認システムと合わせて使用している。緊急時だけではなく、普段から兄弟との動きの調整(何時に帰宅するのか、途中合流するのか等)のためにも重宝している。』(東京 40代 主婦)との感想だった。

見守りサービスを知らなかった人は10人中6人。「使ってみたいと思うか?」というと問いに対しては4人が「使ってみたい」、2人が「使ってみたいと思わない」という回答だった。

「使ってみたい」という人の意見では

『今は1人で出かけることもないので、あまり必要ないと思うが、今後行動範囲が広がったら利用してみたい』(大阪 40代 主婦)

『今は(鉄道事業者が提供している)電車やバスに乗った時のメール通知サービスを使用しているが、次男が幼稚園から小学生になる時には、見守りサービスを利用してみたい。』(東京 40代 主婦)

「使ってみたいと思わない」という人の中には、

『万が一に備えるには値段が高い。何かの時には誰が駆けつけても手遅れである。日頃から我が子には気をつけるべきことを教えている。それが一番効果的だと思う。』(東京 40代 教師)との意見もあった。

これからの子供の安全

これらの通信機型の子供見守りサービスは、携帯禁止の学校でも利用できることや、子供の危険時に位置を把握できる、といったメリットにより利用者は増えていくと思われる。

一方で、保護者と子供の危機管理能力が低下してしまうことも懸念される。「見守りサービスがあるから大丈夫」ではなく、「見守りサービスはあくまで補足的ツール」と位置づけることが大切だ。

地域の繋がりの希薄化や防犯ボランティアの高齢化、共働き家庭の増加などにより、子供の安全を見守る体制を整えることが難しくなっている。保護者や学校だけの課題とするのではなく、住民ひとりひとりが、子供の安全に目を配る社会でありたい。そしてなにより、子供自身に危機管理能力を身につけてもらうことが大切だ。親子間で積極的に危機発生時の対応について、普段から話し合っておくことは有益だろう。

  1. Bsize BoT(ビーサイズ ボット)は bot:インターネットボットと、IoT:モノのインターネット をかけ合わせた概念としてBsizeが開発した。センサーと通信回線、クラウドAIが一体となった知性体ロボットで、スマホアプリを通して利用できる。
安倍宏行 Hiroyuki Abe
安倍 宏行  /  Hiroyuki Abe
日産自動車を経て、フジテレビ入社。報道局 政治経済部記者、ニューヨーク支局特派員・支局長、「ニュースジャパン」キャスター、経済部長、BSフジLIVE「プライムニュース」解説キャスターを務める。現在、オンラインメディア「Japan In-depth」編集長。著書に「絶望のテレビ報道」(PHP研究所)。
株式会社 安倍宏行|Abe, Inc.|ジャーナリスト・安倍宏行の公式ホームページ
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