写真) G20 エネルギー・環境関係閣僚会合
出典) 環境省公式Twitter
- まとめ
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- G20エネルギー・環境相会議が長野県軽井沢町で開催された。
- 開催都市の長野県はSDGs未来都市。独自の取り組みが成果を上げている。
- プラスチックごみ削減の国際的な枠組みが合意されたのは世界初。
G20大阪サミット開催
令和元年、6月28日から29日にかけて、大阪国際見本市会場(インテックス大阪)にてG20大阪サミットが開催された。G20サミットはリーマン・ショックをきっかけに、主要先進国・新興国の首脳が経済・金融危機に対処するためのフォーラムとして、従来のG20財務大臣・中央銀行総裁会議を首脳級に格上げしたのが始まり。
その設立経緯から主要議題が経済分野であることは有名だが、近年は、開発、気候・エネルギー、雇用、デジタル、テロ対策、移民・難民問題等についても話し合われていることをご存じだろうか。
出典) 警察庁
出典) 警察庁
G20サミットでは、首脳会議のほかに8つの関係閣僚会合が開催された。今回のG20大阪サミットで、日本は初めて議長国を務めた。さらに、G20の一環として、エネルギー大臣と環境大臣が一堂に会する会合が開催されたのも今回が初めてだ。「持続可能な成長のためのエネルギー転換と地球環境に関する関係閣僚会合」は、6月15日、16日の2日間にわたって長野県軽井沢町で開催された。
国際社会における様々な環境問題解決にむけて、実効性のある合意内容を採択できたのか、議長国としての役割は重い。今回は、日本や開催地である長野県の取組み、会合の成果や今後の課題について見ていく。
「G20持続可能な成長のためのエネルギー転換と地球環境に関する関係閣僚会合」
「持続可能な成長のためのエネルギー転換と地球環境に関する関係閣僚会合」の開催都市に選ばれた長野県は、国際的な課題であるSDGs「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」達成を目指して持続可能な社会づくりに取り組むと同時に、SDGsの理念を世界に向けて発信する「SDGs未来都市」でもある。
出典) 663highland
同会合の会場となった軽井沢プリンスホテルには、長野県産の水力発電由来の電気が供給された。この取り組みは、中部電力が自然電力のグループ会社である長野自然電力合同会社が所有する「小布施松川小水力発電所」や、長野県企業局が所有する水力発電所など、長野県内に立地する水力発電所の電気を活用し「100%自然エネルギー由来」で「CO2フリー」の電力供給を実現すると同時に、持続可能な社会実現に貢献するものだ。
長野県の取り組み
長野県ではG20に向け、独自の数値目標を掲げ、節電・省エネの県民運動「信州省エネ大作戦」を展開した。2018年12月から2019年3月にかけては「快適で健康・エコな住まいを‼」というキャッチフレーズの下、家庭での消費エネルギー削減を重点的に推進。市町村教育委員会や私立学校と連携して家庭における節電・省エネの取組みを促進する他、市町村をはじめ関係団体と協力して、県民や企業等に対しても広報を行った。
また上記会合を間近に控えた5月17日、長野県は「環境に配慮した『長野県版エシカル消費』として、プラスチックと賢く付き合う『信州プラスチックスマート運動』の取組みを推進し、“ごみ減量日本一”の継続と、美しく『環境にやさしい長野県 』を目指していきます」と発表。
これは、エネフロでも以前取り上げた海洋プラスチック問題が生態系に及ぼす影響について国際的に危機意識が高まっていることを踏まえたもので、同会合が軽井沢町で開催されることを契機とした県全体での取り組みである。
出典) 長野県産業労働部 営業局
この会合に合わせ、6月14日から16日にかけてG20イノベーション展が開催された。経済産業省と環境省が主催する同展示会は参加費無料で体験型の展示が中心となっており、幅広い市民が参加し、エネルギー問題・環境問題等について理解を深めることが目的であった。水素エネルギー・海洋プラスチックごみ対策・イノベーション等をテーマに、日本最先端のエネルギー・環境関連技術の展示が行われた。昨年、エネフロでも取り上げた、台風のエネルギーを電力に変える株式会社チャレナジーやバイオ燃料の国内普及に向けた取組みを進める株式会社ユーグレナも出展した。
国内の取り組み
環境省はG20開催前の5月に「プラスチック資源循環戦略」を発表した。その中で、日本は使い捨ての容器包装廃棄量が世界で2番目に多いことを問題視し、3R(リデュ―ス、リユース、リサイクル)+Renewable (持続可能な資源)をより一層促進することが確認されている。
国内向けの目標設定の一つには、2035年を期限として、「すべての使用済プラスチックをリユース又はリサイクル、それが技術的経済的な観点等から難しい場合には熱回収も含め100%有効利用するよう、実現を目指します。」という野心的なものも含まれている。
G20開催に合わせて、「プラスチック・ スマート -for Sustainable Ocean-」 というキャンペーンも行われた。消費者・自治体・NGO・企業などの幅広い主体が、連携協働することで、海洋プラスチック問題の解決を目指す。ポイ捨て撲滅、不必要なワンウェイのプラスチックの排出抑制や分別回収など、“プラスチックとの賢い付き合い方”を考え、世界に発信する取り組みだ。
関係閣僚会合の結果
原田義明環境大臣と世耕弘成経済産業大臣が共同議長を務めた、同会合の結果を環境省が発表、議論の内容をまとめた閣僚声明が採択された。
主な論点は以下の3つ。
①イノベーションによる環境と成長の好循環
②資源効率性・海洋プラスチックごみ問題
③生態系を基盤とするアプローチを含む適応と強靭なインフラ
順に見ていこう。
①イノベーションによる環境と成長の好循環
パリ協定を実行することが改めて確認され、それを支える技術革新と資金調達を促進する国際的な環境整備に焦点が当たった。「環境と成長の好循環」というコンセプトと、それを支える「イノベーション」「資金循環」「市場環境整備」の重要性が合意され、具体的なアクションを明記した「軽井沢イノベーションアクションプラン」が採択された。
また、G20各国の主要な研究開発機関の国際連携を促進するための国際会議として「RD20 (Research and Development 20 for clean energy technologies)クリーンエネルギー技術に関する研究開発」の開催も決定した。
②資源効率性・海洋プラスチックごみ問題
会合の最大の論点となったのは、海洋汚染など深刻な環境問題に繋がりかねない「プラスチックごみ問題」。
会議初日の6月15日、世耕経済産業相は、微生物で分解される機能を持った素材(生分解性プラスチック)の開発とともに、スーパーなどで配られるプラスチック製のレジ袋を有料義務化(無料配布の廃止)する方針を明らかにした。
会合では、日本が主導する形で、新興国・途上国も参加し、各国の取組を継続的に報告・共有する新しい枠組み、「G20海洋プラスチックごみ対策実施枠組」に合意した。ごみ焼却施設の整備や分別処理など各国の取り組みを国際会議の場で定期的に報告することになった。ただ、数値目標や具体策は盛り込まれず、各国の自主性に任せることになったが、廃プラ削減の国際的な枠組みは初めてとなる。
原田環境大臣は「それぞれの国が別々に悩んでいたが、実施枠組みを作ることによって、途上国に技術的な協力を行う」と述べた。
出典) 環境省公式Twitter
③生態系を基盤とするアプローチを含む適応と強靭なインフラ
この分野では、G20メンバー国が他国と推進、共有することを望んでいる活動や優良事例等を整理した「G20適応と強靱なインフラに関するアクション・アジェンダ」が採択された。この他にも、日本は、EU、インドネシア、オーストラリア等と、二国間協力に関する覚書や共同声明への署名等を行った。日米EU間では水素協力強化に関する共同宣言に合意。インドネシア、オーストラリアとはエネルギー協力の拡大のための覚書に署名した。
出典) 経済産業省
日本の今後の課題
エネルギーや地球環境を巡る世界情勢は刻一刻と変化している。世界のエネルギー需要の8割以上を占めるG20各国が取り組む意義は大きい。
6月中旬の中東ホルムズ海峡付近でのタンカー攻撃を受け、エネルギー安全保障の重要性も共同声明では確認された。輸送経路の確保は、原油中東依存度が9割近い日本にとっては最重要課題である。
G20後、各国が話し合ったことを確実に実行していくことが重要なのは言うまでもない。途上国や先進国を巻き込んだ対策が急がれる今、開催国日本に課せられた使命は重い。私たちが普段何気なく使っているレジ袋やストローなどを見直すところからまずは始めることが必要だ。
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