写真) 石西礁湖のサンゴ礁
出典) 環境省
- まとめ
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- 世界のサンゴ礁が壊滅の危機、国内外で保全活動が広がっている。
- サンゴ礁衰退は環境問題や様々な要因により深刻化。
- 環境省を中心に企業や民間団体が連携し、多面的な対策が必要。
世界のサンゴ礁がピンチだ。世界資源研究所の2011年の調査「Reefs are at Risk」によると、世界のサンゴ礁の75%が危機的な状況にある。サンゴ礁は激減していく一方だ。今回は、サンゴ礁が私たちの生活にもたらす影響と衰退している原因、保全事業の動向について見ていきたい。
出典) 国際自然保護連合ICUN
サンゴ礁の重要性
サンゴは、イソギンチャクやクラゲと同じ刺胞動物の仲間である。サンゴの多くはポリプと呼ばれる小さな個体が集まって群体を形成する。
出典) サンシャインシティ水族館
サンゴの体の中には「褐虫藻(かっちゅうそう)」という直径0.01ミリ ほどの植物プランクトンがたくさん生きている。褐虫藻は太陽の光をあびて光合成をし、その栄養をサンゴにあたえている。 そのため、光がよくとどく浅い海に住んでいる。サンゴは二酸化炭素と海水中のカルシウムを取り込み石灰質の骨格をつくり成長していく。このようなサンゴは「造礁(ぞうしょう)サンゴ」と呼ばれ、これらの集合体がサンゴ礁である。
サンゴ礁といっても、サンゴの種類や生息場所の環境に応じて、枝状、かたまり状、テー ブル状など、様々な形状(群体形)を作る。
サンゴ礁は地球表面で見ると約0.1%の面積しかない。しかし、サンゴ礁の中には9万種類に及ぶ海洋生物が生息すると言われ、「海の熱帯林」とも呼ばれている。もし、サンゴがなくなってしまうと、サンゴ礁を住みかにする生物だけでなく、サンゴ礁に住む生物を食べる生物にも影響を与え、生態系のバランスが崩れてしまう。
サンゴ礁は、人間にも多くの恵みを与えてくれている。豊かな漁場、観光資源、津波・高潮等の被害を軽減する天然の防波堤の役割もある。サンゴ礁が、はげしい波を食い止め、島国に住む私たちや生きものを守ってくれているのだ。
日本のサンゴ礁
海に囲まれた日本は、東西南北の海上に点在する6,852にも及ぶ島々によって構成されている。海洋面積(領海及び排他的経済水域)は約447万km2で、陸地面積の約12倍にも及ぶ。海域の面積は世界第6位と世界有数の広さを誇る。
日本で一番多くサンゴ礁が見られるのは、沖縄県と鹿児島奄美地方に広がる琉球列島の海だ。黒潮によって温かい海水が流れる南の方に多く見られる。
出典) 環境省
サンゴ礁衰退の原因
しかし今、そのサンゴ礁が危機に直面している。サンゴ礁を衰退させる要因は主に4つある。
- ① 気候変動(地球温暖化)
- ② 天敵(オニヒトデ等)
- ③ 不適切な観光(踏みつけ等)
- ④ 赤土による汚染
① 気候変動(地球温暖化)
サンゴは水温が18〜30度くらいまでの温かい海が最も生息に適している。しかし、水温が高くなりすぎるとサンゴが褐虫藻を失い、栄養をとれなくなる。これにより、サンゴの白い骨格が透けてみえる、また色がうすくなってしまうことを「白化現象」という。この白化した状態が長く続くと、サンゴは褐虫藻からの光合成生産物を受け取ることができなくなり、死んでしまう。
出典) NOAA
2008年、国立環境研究所によると日本最大のサンゴ礁域、沖縄県・石西礁湖に広がるサンゴが、5年間で約7割失われていたと発表した。白化現象が最大の原因とみられる。さらに2016年にも、同じく石西礁湖で大規模な白化現象が確認された。環境省が調査した35箇所で9割近くのサンゴが白化していることが分かった。壊滅的な状況だ。
さらに2016年にも、同じく石西礁湖で大規模な白化現象が確認された。環境省が調査した35箇所で9割近くのサンゴが白化していることが分かった。壊滅的な状況だ。
出典) 環境省
② 天敵(オニヒトデ等)
オニヒトデは、表面のトゲに毒をもった直径50 センチにもなる大型のヒトデで、サンゴの天敵である。近年の研究によると、海に流れ込む有機物が以前より増えたことにより、オニヒトデが大量発生しやすくなった。オニヒトデからサンゴを守るためには、継続的な駆除やモニタリングが必要とされている。
出典) papakuro
③ 不適切な観光(踏みつけ等)
近年、自然とふれあう体験のニーズが高まっている。特に沖縄ではスキューバダイビングやスノーケリングなどの観光利用が盛んに行われており、これらが集中する場所では、岸近くのサンゴ群集が踏みつけや接触による被害を受けている。観光利用が進むことにより、サンゴ礁生態系への影響が懸念されている。
④ 赤土による汚染
陸から大量の土砂が海に流入することで海水が濁り、サンゴに土砂がたまるという問題もある。沖縄ではその土が赤いことから「赤土汚染」と呼ばれ、深刻な事態だ。先に述べたように、海が赤土で濁ると褐虫藻かが光合成できなくなりサンゴが死んでしまう。
地球温暖化などのグローバルな要因と、土砂の流入など人間活動が与えるローカルな要因、双方の影響を受けて深刻化が増している。
国内の取り組み
環境省では、2003年から「モニタリングサイト1000事業」を開始。これは、「新・生物多様性国家戦略」にもとづいたもので、里山、湖沼、サンゴ礁など全国の様々なタイプの生態系に約1000ヵ所の調査サイトを設置し、約100年以上にわたりモニタリングし、基礎的な環境情報を継続的に収集しようと計画された。毎年、サンゴ被度や白化率、オニヒトデの発生状況などを調査し、その結果は様々な保全対策に活用されている。
また2016年3月に「サンゴ礁生態系保全行動計画2016-2020」が策定された。 この中で、2020年度末までに「地域社会と結びついた サンゴ礁生態系保全の基盤が構築されること」を目標に掲げている。
この目標達成に向け取り組む重点課題として、以下3点をあげている。
- ① 陸域に由来する赤土等の土砂及び栄養塩等への対策の推進
- ② サンゴ礁生態系における持続可能なツーリズムの推進
- ③ 地域の暮らしとサンゴ礁生態系のつながりの構築
こうした中、昨年は、「国際サンゴ礁年2018」が展開された。サンゴ礁生態系に対する理解促進、保全活動、一人一人の行動を促すための世界規模のキャンペーンだ。国内でも環境省が中心となり、様々な民間団体や企業、自治体などが取り組んだ。この取り組みには、13の企業や団体がオフィシャルサポーターに任命され、保全事業を推進している。
サンゴ礁再生の取り組み例
① コーラルネット 鹿島建設株式会社
先述のオフィシャルサポーターに選定された鹿島建設株式会社は、10年ほど前からサンゴの保全、再生事業に力を入れている。そこで開発されたのがサンゴの再生を促進する技術「コーラルネット」だ。この人工基盤とあわせてサンゴの生息できる環境を定量的に評価する技術も開発した。
出典) 鹿島建設プレスリリース
出典) 鹿島建設プレスリリース
鹿島建設は「2011年春、那覇港内の4地点にステンレス製コーラルネット(50×50センチ)を、水深3m、5m、7mに設置したところ、最大で300群体以上のサンゴの着生が見られ、1年間の生残率も最大70%以上と高い結果となった」と報告している。
出典) 鹿島建設プレスリリース
コーラルネットは最適な設置場所を探すことが不可欠だ。サンゴ礁のモニタリングにはダイバーによる観察、写真撮影をするのが通常だが、波などの気象条件に左右されたり、岩礁などの障害物が多く調査が難しい。そこで上空と水中の両方撮影可能な水面浮体型ドローン「SWANS(スワンズ)」が開発された。
出典) 鹿島建設株式会社プレスリリース
SWANSは、浅海域における水生生物や地形の調査を目的に開発された、防水性能をもつドローンだ。サンゴの成育評価に必要な水深および海水温の計測を併せて行うことができる。サンゴの海底マップ製作が実現すれば、コーラルネットの効果的な配置計画を導き出せるため、保全活動に大変有効だ。
② サンゴの人工産卵 カリフォルニア科学アカデミー
2018年、カリフォルニア科学アカデミーは人工的な環境下でもサンゴの産卵が可能なことを証明した。実験に使われたサンゴの採取地はパラオ。パラオの環境を再現するために、コンピューターにより飼育環境が制御され、太陽や月の光、日の出や日没で浴びる微妙な変化まで、人工的に作り出されている。今後も、サンゴを守るための研究に期待が寄せられている。
出典) カリフォルニア科学アカデミー
サンゴ礁の衰退が私たちの生活に与える影響は甚大だ。サンゴ礁を保全するには、気候変動の影響を把握する研究や技術開発の推進など多面的な対策が必要だ。また、開発事業による土砂の流出を防ぐ、持続可能なツーリズムの推進など人間の活動の見直しも不可欠だ。海に囲まれた日本。私たちの大切な環境を守るために私たちがやるべきことは多い。
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