- まとめ
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- 人口爆発でエネルギー消費が急増、環境配慮型「スマートシティ」の建設が望まれる。
- EVを蓄電池として使う「スマートハウス」の集合が「スマートシティ」
- 「スマートメーター」や「スマート家電」などが普及するのに後数年はかかる。
人口爆発の衝撃
「スマートシティ」という言葉を聞いたことがありますか?一回ぐらいは耳にしたことがあっても実際にそんな都市を見たことがない、という人がほとんどではないでしょうか?街全体がインターネットにつながっていて、電力が効率良く管理されている、そんなイメージを持たれるでしょうか?
「スマートシティ」は「スマートコミュニティ」などとも言われますが、要は、ITや再生エネルギー技術などを活用し、環境に配慮しながら経済的に発展していく都市または地域社会を指します。今、「スマートシティ」構想に大きな注目が集まっています。
では、なぜ「スマートシティ」が注目されるのでしょうか?答えは簡単です。世界に目を転じると、人口70億人の内、4分の1の約18億人は電気の無い生活をしているとみられています。また、経済発展が著しいインドと中国の人口を合わせると27億人です。世界の人口はさらに増加し続け、2050年には100億人に迫るとの予測もあります。(図1)つまり、エネルギー消費はこれから間違いなくうなぎ上りに増えていくということなのです。
新興国はその旺盛な電力需要に応えるため、化石燃料を使い発電しています。当然CO2が大量に排出され、地球温暖化防止の観点からも何らかの対策が必要となってきます。
「スマートシティ」とは
その解の一つが「スマートシティ」なのです。これまでの都市は、電力事業者が石油・LNGなどの化石燃料による火力発電や原子力発電で大量に電気を作り、それを需要家に送配電していました。しかし今では需要家も、太陽光や風力と言った再生可能エネルギーを活用して発電することが可能になりました。従来の送配電システムにこうした需要側の発電した電力を取り込み、双方向で管理・制御し、効率的で低公害の都市運営を行うのが「スマートシティ」なのです。
より具体的に言うと、各住宅の屋根には太陽光パネルが設置され、昼間は発電し各家庭で必要な電気を融通します。余った電気は売電するか、電気自動車(EV)に蓄電します。災害時や非常時に電気が必要になれば、EVから給電すればよいのです。
家電や、電力計はスマート化され、常時インターネットに接続し、消費電力はリアルタイムにモニタリングされます。家電は外からコントロール可能になります。このような「スマートハウス」がお互いに電気を融通し合うようになれば「スマートシティ」の誕生です。さらに「スマートシティ」同士も連携し、広域でより高効率な電力系統システムが構築されていけば、一段と省エネで低公害な社会が実現できると考えられています。 世界のスマートシティ市場は、2010~2030年の20年間累計で4,000兆円の規模に達するとの予測もあり、世界各国が重要な国家戦略として位置付けています。(日経BPクリーンテック研究所による)
さてその「スマートシティ」、具体的にどんな技術が使われていて、私たちの暮らしはどのように変わっていくのか具体的に見て行きましょう。
電気自動車の可能性
さて、「スマートシティ」にとって電気を貯めておくことができる電気自動車(EV)の価値はお分かりいただいたと思います。なにしろ、EVに搭載されている蓄電池は容量が大きく、例えば30kWhのバッテリーを搭載しているEVなら一般家庭で2日分の電気を賄える計算です。EVから家に電気を供給することをV2H(Vehicle to Home)といい、EVやPHV(プラグインハイブリッド車)などガソリンエンジン車より大容量のバッテリーを搭載している車が対応しています。(HVはエンジンをかけてアイドリング状態にしておけば可)2016年4月に起きた熊本地震の時、避難所の益城町役場前で三菱自工のPHEV(注1)アウトランダーが非常用電源として使われ一躍注目を浴びました。
では、日本でEVはどのくらい普及しているでしょうか?下の図3を見てください。EVだけでなく、PHVと燃料電池車(FCV)も入れて、平成27年度でわずか14万台弱です。一方でハイブリッド車(HV)は平成27年度で576万台も普及していますので、EVの普及の遅れは明白です。
何故、我が国ではEVの普及が進まないのか。その理由はいろいろ考えられますが、主なものは以下の2点だと推察されます。
- 航続距離が短い。
- 充電スポットが少ない。
日産のEV「リーフ」で航続距離280km(30kWhバッテリー搭載車、一充電走行距離)です。1日280kmも走る人はそうそういないと思うのですが心理的な壁が大きいのでしょう。また、充電スタンドも大分増え、民間のEV充電スタンド情報提供サイトGoGoEVによると、普通充電スタンド14,581台、急速充電スタンド7,105台、合計21,686台となっています。(2017年5月7日現在)
仮に自宅がマンションなどで充電設備が無くても、片道23~24kmの通勤で1週間に必要だった充電は30分1回のみ、という実証実験もありました。(参考:自宅に充電設備がないマンション住まいが電気自動車「日産リーフ」で一週間通勤してみた結果) 地方都市で走行距離がかなりある人の場合を除き、通常自家用乗用車の一日の走行距離の平均は30~40km未満だそうで、EVの航続距離に対する懸念は単に心理的なものであることが分かります。
通勤にしろレジャーにしろ、自動車の販売店やガソリンスタンド、パーキングエリアや商業施設などに充電スタンドが設置されている現状では、EV普及の条件はそろったと思ってよさそうです。
「スマートハウス」への道 EV
それなら自家用車をEVに買い替えて給電できるように自宅を「スマートハウス」化しよう、と考える人もいるかと思います。しかし、そこにはちょっとした壁もあります。まず戸建ての場合、ケーブル付き普通充電器かEV用コンセントを設置する電源工事が必要になります。これに数万円から20万円程度かかるようです。マンションの場合は、オーナー、区分所有者(管理組合)、管理会社などの同意が必要となりますから話はもっと複雑になりますし、工事費も戸建ての場合より何倍もかかるでしょう。
また、以下のように自宅を「スマートハウス」化しようと思ったらさらに大変です。
- タイプA:自宅でEVへ充電でき、EVの電力を家庭で使うことができるタイプ
- タイプB:充電器自体に蓄電でき、EVやPHV、家庭へ自由に電力を供給できるタイプ
タイプAの場合、日産のEVパワーステーション(図4)で約69万円(メーカー希望小売価格、基本工事費・消費税込み)です。
タイプBの場合は、充電器付き蓄電池が必要となりこちらが大体300万円位するので、国の補助金(充電インフラ補助金)を使っても自己負担は150万円を下らないようですのでまだまだハードルは高いですね。
「スマートハウス」への道 スマートメーター
次に「スマートハウス」に必要なもの、それは「スマートメーター」です。「スマートメーター」とは、いわば「通信高機能電気メーター」。インターネットに繋がっていて、電気の使用量を30分毎に計測する全く新しい電気メーターです。従来の電気メーターにはくるくる回る円盤のようなものが付いていましたが、「スマートメーター」はデジタル化されていますから、ご覧のような形をしています。(図5)もうご自宅に設置されているご家庭もあるかもしれませんね。
「スマートメーター」が計測した電気使用量は「HEMS(ヘムス:Home Energy Management System)」(図6)と呼ばれる装置に送信されます。実はこのHEMSが「スマートハウス」内の様々な機器(太陽光発電、エアコン、エコキュート、照明、EV、蓄電池、燃料電池など)をネットワーク化し、電気を一元管理するのです。電気の消費に無駄がなくなり、省エネと電気代節約が同時に出来ることになります。
ところが問題なのは、この「スマートメーター」が全家庭に普及するにはまだまだ時間がかかることなんです。(図7、図8) 2016年11月までに全国10地域の電力会社が設置したスマートメーターの総台数は2320万台、普及率はまだ3割程度にとどまっています。電力会社ごとにばらつきがありますが、一番早い東京電力でも設置完了予定は2020年度末、沖縄電力は2024年度末でまだ7年もかかることになっています。「スマートシティ」化はそうすぐには来そうもありません。
出典:電力・ガス取引監視等委員会 資料
出典:電力・ガス取引監視等委員会 資料
「スマートハウス」への道 スマート家電
「スマートハウス」では、家の中の電気消費量がHEMSを通じて管理されることになりますが、家の中の家電もインターネットに接続され様々なサービスが提供されるようになります。すべてのモノがネットに繋がる状態を「IoT(Internet of Things)」と言います。
IoTの世界では、照明器具からエアコン、冷蔵庫、洗濯機、掃除機、炊飯器、すべての家電、さらにはカーテンやブラインドの開け閉め、ドアの施錠、あらゆるものがコントロールできるようになります。温度や湿度も管理され快適な住環境が現実のものとなるだけでなく、様々なセンサーが体重や体脂肪率、血圧や血中コレステロール値などを収集し、食事や睡眠の質を確保し、健康管理に努めてくれます。
しかし、実際にそうしたスマート家電がある家庭はまだそう多くはないでしょう。その起爆剤となりそうなのが、Amazonが2015年に発表した、人工知能スピーカー「Amazon Echo(アマゾン・エコー)」です。(図9)日本ではまだ発売になっていませんがこの「アマゾン・エコー」に組み込まれている音声認識ソフトのAlexa(アレクサ)が既に様々な機器と連携し、業界標準となりつつあることです。すでに7,000もの企業がアレクサを自社の製品に搭載しています。家電ばかりでなく自動車もアレクサ対応となりつつあります。これは、「アマゾン・エコー」が「スマートホーム」のハブになる可能性を示しています。
出典:Amazon.com
ただ、実際に人間が家の中でやりたいことを呟いたとして、その注文内容を瞬時に機器が判断してサービスを開始するようになるにはまだ数年はかかるのではないかと言われています。なにしろすべての機器が音声機能を介して滞りなく相互連携しなければならないのですから、通信プロトコルの標準化なども必要になってくるでしょう。それには時間がかかるに違いありません。
こうしてみてくると、完全な「スマートホーム」、その先の「スマートシティ」の誕生にはあと数年かかると思われます。しかしそれが2年後なのか、5年後なのか予測するのは難しそうです。何しろ、AIがもたらす新たな産業革命は我々の想像をはるかに超えそうだからです。
古来、エネルギーの確保は人類の悲願でした。その奪い合いが戦争を引き起こしたこともあります。省エネと環境の保全を高度に両立させる「スマートシティ」を一日も早く実現すること。それが私たち人類に課せられた責任でもある、と言ったら大袈裟でしょうか?
- 三菱自動車工業は、「PHEV」を「プラグインハイブリッド」の呼称として使用しています。
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