記事  /  ARTICLE

エネルギーと環境

Vol.04 「石炭ガス化燃料電池複合発電実証事業」大崎クールジェン 環境に優しくエネルギー安全保障上も注目

©エネフロ取材班

まとめ
  • 中国電力とJパワーの「大崎クールジェンプロジェクト」を視察。
  • 同プロジェクトの「酸素吹石炭ガス化燃料電池複合発電実証事業」は、革新的な“低炭素”石炭火力発電。
  • 低廉で価格安定、世界中にある石炭はエネルギー安全保障上有利、かつCO2も削減できる夢の技術。

「安芸の小京都」と呼ばれる広島県竹原市。かつて塩の産地として栄えた古都の街並みは江戸時代にタイムスリップしたかのようだ。その港からフェリーで約30分。朝もやがかかる瀬戸内海の島々はまるで水墨画の世界だ。視界が開けるとその島はあった。「大崎上島(おおさきかみじま)」。

写真)上空より臨む大崎上島
写真)上空より臨む大崎上島

©大崎上島町

今回の取材は、中国電力とJパワー(電源開発)が、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の助成事業として行っている「大崎クールジェンプロジェクト」だ。

写真)大崎上島から見る大崎クールジェン
写真)大崎上島から見る大崎クールジェン

出典)大崎クールジェン

筆者は数年前からこの発電所のことが気になっていた。「革新的な“低炭素”石炭火力発電」とはどのようなものなのか、実際に見たいと思っていたのだ。今回その願いがかなった。

「大崎クールジェンプロジェクト」とは、「酸素吹石炭ガス化燃料電池複合発電実証事業」のことである。長い名称だが、何故今、石炭ガス化なのか。話を聞いた。

何故「石炭」なのか?

火力発電の燃料はLNGが主力ではないのか?日本の火力発電所の燃料の比率を見てみると、意外に石炭の比率は多い。

図)日本の発電電力量の電源別割合(2015年度)
図)日本の発電電力量の電源別割合(2015年度)

出典)東京ガス

石炭は資源量が豊富で、中東依存度が高い原油と違い世界中に広く分布している。つまり安定供給性が高いのだ。しかも他の化石燃料と比べて価格は比較的低く、安定している。エネルギー安全保障上、重要な資源といえる。

グラフ)鉱物性燃料の熱量当たりの輸入価格の推移
グラフ)鉱物性燃料の熱量当たりの輸入価格の推移

出典)「燃料価格の状況」資源エネルギー庁

石炭火力発電は世界の発電電力量の約3割を占め、今から約20年後の2040年になってもその比率は大きく変わらないと予測されている。一方で、世界のCO2排出量の約3割が石炭火力発電からの排出であり、排出削減が大きな課題となっている。

グラフ)世界の発電電力量
グラフ)世界の発電電力量

出典)一般財団法人エネルギー総合工学研究所

グラフ)化石燃料等からのCO2排出量と大気中のCO2濃度の変化
グラフ)化石燃料等からのCO2排出量と大気中のCO2濃度の変化

出典)原子力・エネルギー図面集

大崎クールジェンプロジェクトの概要

そこで日本が取り組んできたのは、石炭火力発電の「高効率化」だ。その中にあって、「大崎クールジェンプロジェクト」が画期的なのは、蒸気タービンのみで発電するのではなく、複合発電方式を採用していることだ。

図)大崎クールジェンプロジェクトの概要
図)大崎クールジェンプロジェクトの概要

出典)大崎クールジェン

実証事業は3段階ある。

第1段階では「CO2分離・回収型石炭ガス化燃料電池複合発電システム」(IGFC:Integrated Coal Gasification Fuel Cell Combined Cycle)の基盤技術である、「酸素吹石炭ガス化複合発電」(IGCC:Integrated Coal Gasification Combined Cycle)の実証試験を行う。
第2段階では、第1段階の酸素吹IGCCにCO2分離・回収設備を付設し、CO2分離・回収型IGCCの実証試験を行う。
さらに第3段階として、燃料電池を付設し、IGFCの実証を計画している。

第1段階IGCC実証試験は今年度中に完了し、来年度からいよいよ第2段階CO2分離・回収型IGCC実証試験へと進む。その後、第3段階CO2分離・回収型IGFC実証に移行する予定だという。

石炭ガス化技術のメリット

本プロジェクトのメリット・意義は大きく分けて2つある。一つは、化石資源の有効活用だ。石炭埋蔵量の半数を占める発熱量の低い低品位炭(亜瀝青炭など)の利用が可能だということだ。これは先にも述べたように、資源の有効活用と安定供給という意味でエネルギー安全保障上からも大きなメリットである。

グラフ)石炭可採埋蔵量に占める亜瀝青炭などの割合
グラフ)石炭可採埋蔵量に占める亜瀝青炭などの割合

出典)「石炭の基礎」出光興産(株)(2013年)より編集部作成

もう1つは、環境面でのメリットだ。発電効率の大幅な向上でCO2排出量が大幅に低減できる。IGFCは、従来型の微粉炭火力(PCF)の超々臨界圧(USC)発電に比べ、商用規模で約30%のCO2削減が可能ということだ。火力発電は環境に優しくない、と思っている人にとっては驚きの数字だ。

また、このシステムを海外に展開することで、世界のCO2排出量削減に貢献することもできる。とくに経済発展著しいアジアを中心にIGCC、IGFCを普及させることは大きな意味があると思われる。大崎クールジェン株式会社の代表取締役社長相曽健司氏に話を聞いた。

写真)相曽健司氏
写真)相曽健司氏

©エネフロ取材班

写真)筆者と相曽健司氏
写真)筆者と相曽健司氏

©エネフロ取材班

安倍実際に商用化されるのは、いつ頃になるのでしょう?

相曽先ずは、酸素吹IGCC技術は、第1段階実証試験が完了する平成30年度に確立すると考えてます。更に、CO2分離・回収型IGCC技術は第2段階実証試験が終わる平成32年度頃確立すると考えられております。これら実証成果を踏まえて最適設計を行い、コスト低減ほかトータルな検討をしたうえで、商用化に結びつけていきます。

安倍課題の中で、大きなものにはどのようなものがありますか?

相曽先ずは酸素吹IGCC実証目標をしっかり達成することと考えます。第1段階実証試験で既に世界最高水準の発電効率/環境性能目標を達成していますが、今後、「多炭種適合性」「高度な運用・制御性」、「長時間耐久試験による信頼性」を確認した上、商用化に反映して行きます。

安倍海外からの視察もかなりありますか?

相曽海外からの来客は、累計で500名強、昨年度だけで200人を超えております。特に、インドネシア、タイ、台湾等アジア圏と豪州からの来客者が多い状況です。

写真)相曽健司氏
写真)相曽健司氏

©エネフロ取材班

安倍ところで、CO2排出量が多い石炭に対する逆風が世界的にあると思うのですが?

相曽私たちは、その地球温暖化問題の克服に対する解を技術で提供できると考えています。

安倍「解を技術で提供できる。」ですか。多目的利用ということですね。石炭ガス化発電、ガスの多目的利用ということが、資源確保、経済発展、環境保全、あとはやはりエネルギー安全保障という観点からも重要ということでしょうか。

相曽非常に大きいと思います。ご存知の通り石油、天然ガスが特定地域に偏在している一方、石炭は世界に広く分布している。さらに、この技術であれば、先程の亜瀝青炭、褐炭といった、低品位炭まで活用できるということで、偏在が無い上に埋蔵量が豊富なことでエネルギー安全保障効果は一層高まると思います。

安倍石炭の低コスト性も大きいですね。

相曽そうですね。石炭は安定的に低コストで供給できるというのはセキュリティ(安全保障)上もすごく大きな利点だと思っております。

安倍そして水素も取れる。

相曽はい。石炭をガス化することで主に一酸化炭素(CO)と水素が発生します。更に、その石炭ガス中のCOをCO2に変換しCO2分離・回収する過程で、水素が多く生成されます。IGFCは、その水素を燃料電池で活用するものです。

安倍政府は水素社会を目指しています。

相曽その一例として、褐炭が大量に存在する豪州のヴィクトリア州で、その褐炭をガス化しCO2分離・回収した上、CO2を貯留し生成される大量の水素を船で日本に運ぶという実証計画もあります。

写真)ヴィクトリア州の石炭資源
写真)ヴィクトリア州の石炭資源

出典)豪州VIC州政府 (エネルギー・資源担当大臣Michael O’Brien)

写真)水素エネルギー供給チェーン(HESC)プロジェクト
写真)水素エネルギー供給チェーン(HESC)プロジェクト

出典)gasworld

写真)水素エネルギー供給チェーン(HESC)プロジェクト
写真)水素エネルギー供給チェーン(HESC)プロジェクト

出典)gasworld

安倍海外からの引き合いも強いのですか?

相曽このプラントは、O&M(Operation and Maintenance:運営管理技術)を含めた「パッケージ型インフラ輸出」に向いております。今日ご覧頂いた通り、運用技術が重視される化学プラントの要素が多いシステムですので、事業化時点のインフラ輸出段階では、プラントと共に運用ノウハウを提供する事で海外の方々からの関心を高めていきたいと考えてます。

写真)筆者と相曽健司氏
写真)筆者と相曽健司氏

©エネフロ取材班

取材を終えて

石炭は発展途上国が火力発電で使うもの、と思っている人も多いのではないだろうか。また、石炭はLNGなどよりもCO2を多く排出するので良くない、というイメージもあるかもしれない。

しかし、「大崎クールジェンプロジェクト」を取材して、「石炭ガス化燃料電池複合発電」の技術は我が国にとって大きな意味があると感じた。一つは、石炭火力発電におけるCO2排出量の大幅削減であり、もう一つはエネルギー安全保障上の意義だ。特に火力発電はベースロード電源として重要だ。LNGだけでなく石炭、特に低品位炭を使うことができる点は大きなメリットといえよう。さらにいえば、水素も作るので将来の水素社会にも貢献できる。

研究を開始してから実に4半世紀。しかし間もなくその果実を手にするところまできた。日本の技術力が地球温暖化防止にも貢献できることは、今後大きく評価されるだろう。商用化を楽しみに、瀬戸内海を後にした。

安倍宏行 Hiroyuki Abe
安倍 宏行  /  Hiroyuki Abe
日産自動車を経て、フジテレビ入社。報道局 政治経済部記者、ニューヨーク支局特派員・支局長、「ニュースジャパン」キャスター、経済部長、BSフジLIVE「プライムニュース」解説キャスターを務める。現在、オンラインメディア「Japan In-depth」編集長。著書に「絶望のテレビ報道」(PHP研究所)。
株式会社 安倍宏行|Abe, Inc.|ジャーナリスト・安倍宏行の公式ホームページ
Japan In-depth

SERIES  /  連載

エネルギーと環境
エネルギーと環境は切っても切れない関係。持続可能な環境を実現するために、私達は「どのようなエネルギー」を「どのように使っていくべき」なのか、多面的に考える。