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テクノロジーが拓く未来の暮らし

Vol.02 「木造超高層ビルが環境を救う

写真)W350俯瞰図
提供)住友林業株式会社

まとめ
  • 住友林業が木造超高層建築W350プロジェクトを発表。
  • CO2の固定量の拡大などにより地球環境との共生を図るもの。
  • 今後の課題は技術開発と人材育成、そしてコストダウン。

木々を見るとほっとする、そんな自分がいないだろうか?“みどり”には人を癒す力があると感じる。都会にいるとなおさらだ。きっとコンクリートジャングルに住んでいるからに違いない。筆者も時間があれば“みどり”を求め、公園に行ったり緑道をジョギングしたりしてしまう。

そんな中、ある新聞広告が目に飛び込んできた。なんと木造超高層ビルの計画があるというのだ。

それも70階建て・高さ350メートル!一瞬目を疑ったが、あながち夢物語でもなさそうだ。早速この計画を打ち出した住友林業に話を聞きに行ってきた。

W350プロジェクトとは

取材班を迎えてくれたのは、住友林業株式会社筑波研究所の中嶋一郎所長。

写真)住友林業株式会社筑波研究所の中嶋一郎所長
写真)住友林業株式会社筑波研究所の中嶋一郎所長

©エネフロ取材班

安倍そもそもなぜこの計画を考えようと思ったのですか?

中嶋私ども創業350周年を2041年に迎えるにあたって、技術で世界一になろう、と考えました。その時に単純に350周年だから、高さ350mの超高層建築を作ろう、ということになったんです。(笑)それも木で作って社会貢献しよう、と。

安倍それで、木造超高層ビルを建てる計画を・・・?

中嶋ええ。ただ勘違いして頂きたくないのは、W350計画は事業化計画ではない、ということです。もともと超高層ビルの建築のノウハウは持ち合わせてなかったんです。ですので日建設計と組みました。

安倍でも木で超高層という発想にびっくりです。

中嶋弊社は資源(森林の育成)から材料、建築と一貫して事業を行っている世界でも例を見ない会社です。もともと「木を活かして社会に貢献する」、「持続可能な循環型の社会を作る」という理念を掲げています。ですから「環境木化都市」=街を森に変えるというキャッチフレーズも割と自然に出てきたんです。そうした中で、木造超高層建築計画が生まれたのもある意味自然でした。

写真)W350遠景
写真)W350遠景

提供)住友林業株式会社

写真)スカイロビー
写真)スカイロビー

提供)住友林業株式会社

写真)ティンバー・インターフェース
写真)ティンバー・インターフェース

提供)住友林業株式会社

木造超高層建築 環境へのインパクト

では木造超高層建築は環境にどのようなインパクトを与えるのだろうか?第一に「地球環境との共生」だ。具体的に二つあげる。

ひとつは「CO2(二酸化炭素)の固定量の拡大」だ。「CO2固定化」って何?と思う人もいるかと思うが、木は建築用材になるまで何十年にも亘ってCO2を吸収し続けるわけで、そのCO2は建築用材の中に閉じ込められている。これが「CO2の固定化」の概念だ。つまり、木造建築は“CO2を固定化した”=“環境にやさしい建物”だといえる。

住友林業によると、W350計画の木材使用量は185,000m2、同社木造住宅の約8000棟分に相当し、CO2を炭素として固定する量は約10万tーCO2に当たるという。高層建築物の木造化は炭素の固定量を増やし、かつ木材需要も拡大する効果があるということだ。

もうひとつは「地球環境負荷の低減」だ。国産森林資源は実は年々増加している。しかし、国産材の供給量は年間成長率の4分の1から5分の1程度にとどまっているのが現状だ。木材の利用量が増えて森林の成長量と同じになれば、間伐や再造林などを進めることができる。その結果、森を健全な状態に保つことでき、CO2吸収量を確保できるのだ。

図)森林資源の増加
図)森林資源の増加

出典)林野庁

第2のインパクトは、「社会との共生」だ。国内森林の荒廃が問題となっているが、木材需要の拡大は、林業の再生と地方活性化に寄与する。また、高層建築物の木材は一部を取り換え、使用していた木材は住宅用の柱などに再加工、再利用され、その後木質建材の原料になり、最終的にはバイオマス発電の燃料になるなど、循環利用できる。木材ならではの再利用法だ。こうしてみると木材高層建築は確かに「社会との共生」を目指したものと言えそうだ。

絵)W350計画イメージ図
絵)W250計画イメージ図

提供)住友林業株式会社

写真)W350計画模型
写真)W350計画模型

©エネフロ取材班

木造建築が求められる背景

平成28年、低層住宅では木造が約9割だが、非住宅では約1割にとどまる。将来の人口減により、住宅着工も減少が見込まれる。非住宅分野への木材の需要拡大が重要だ。そうした中、国も「公共建築物木材利用促進法」を制定し、低層公共建築物は原則すべて木造化することなどを決めた。

その結果、低層(3階以下)の公共建築物の木造率は、平成22年度の17.9%から平成27年度には26.0%まで伸びた。次の課題は中高層建築物の木造率アップだ。

図)公共建築物の木造率の推移
図)公共建築物の木造率の推移

出典)林野庁

木造超高層建築の課題

農林水産省林野庁は木造超高層建築をどう評価しているのだろうか。実際に林野庁に聞いてみた。

非常にインパクトのある構想だと思う。これが呼び水となり、ゼネコンなど各社競って中高層建築物での木造利用が促進されることを期待している。」(農林水産省林野庁 林政部木材産業課 木材製品技術室 住宅資材部 課長補佐 藤田聡氏)

写真)農林水産省林野庁 林政部木材産業課 藤田聡氏
写真)農林水産省林野庁 林政部木材産業課 藤田聡氏

©エネフロ取材班

一方で藤田氏は今後の課題として以下の2点を挙げた。

1. 耐火性能向上

木材の耐火性能をさらに高めることが必要である。3時間耐火構造にすると階数の制限なく木造化が可能となり、すでに株式会社シェルターが3時間耐火集成材「COOL WOOD」を開発済だ。今後は、これら耐火集成材のバリエーションを増やしていくことが課題である。

写真)木質耐火部材COOL WOOD
写真)木質耐火部材COOL WOOD

出典)株式会社シェルター

図)木質耐火部材COOL WOOD
図)木質耐火部材COOL WOOD

出典)株式会社シェルター

2. 人材育成

木造中高層建築の設計や施工、施工管理のノウハウを有する者を見える化し、木造中高層建築に携わる人材のマッチングを行うことが必要である。また、それらの能力を持つ技術者を育成する必要がある。

これらの指摘に対し、住友林業の中嶋所長は「その通り。」と述べると共に、

  • 木材だけで燃え止まらせる技術開発に取り組んでいる。(2時間耐火、3時間耐火とも)
  • ② 超高層建築物を建てる施行技術を総合的に高めるべく取り組んでいる。

ことを明らかにした。 ハードルは高そうだが今後の技術開発に期待がかかる。

ここで内外の木造建築の例を見てみよう。

海外の木造建築

現時点で世界で最も高い木造建築物は、ブリティッシュコロンビア大学の学生寮だ。18階建て、高さ53メートルで、2017年9月に開館、272のスタジオルームに404名の学生が入居している。

写真)The University of British Columbia, Brock Commons September 2016
(ブリティッシュコロンビア大学の木造学生寮)
写真)The University of British Columbia, Brock Commons September 2016 (ブリティッシュコロンビア大学の木造学生寮)

flickr:UBC Media Relations naturallywood.com, photographer: KK Law

国内の木造建築

国内でも高層ではないものの、様々な木造建築が増えている。

1. 地域材を活用した木造公共施設(山形県)

「シェルターなんようホール(南陽市文化会館)」(山形県南陽市)

先ほど紹介した、「COOL WOOD」を使っている。全国初となる木造耐火による文化ホール。ドーム建築物を除き国内最大規模の木造耐火建築物。全体の46%に相当するスギ材を地元南陽市から調達している。

写真)シェルターなんようホール(南陽市文化会館)
写真)シェルターなんようホール(南陽市文化会館)

©株式会社シェルター

写真)シェルターなんようホール(南陽市文化会館)
写真)シェルターなんようホール(南陽市文化会館)

©株式会社シェルター

2. 都市部で実現した木質材料による医療施設(千葉県)

中郷会新柏クリニック(千葉県柏市)

木の癒し効果に着目し、“森林浴の出来るクリニック”を目指した。耐火構造部材を導入し、都市部で木質化した医療施設を実現。透析患者にとって木に囲まれた環境は心和むものとなるだろう。

写真)新柏クリニック外観
写真)新柏クリニック外観

©新柏クリニック

写真)新柏クリニック 透析専門エリア
写真)新柏クリニック 透析専門エリア

©新柏クリニック

2. 国内最大級の大型木造建築(静岡県)

草薙総合運動場体育館「このはなアリーナ」(静岡県静岡市)

主要構造材のスギ集成材256本が大屋根荷重約2350トンを支えている。地震や風などの荷重は集成材背面の鉄骨ブレースが受けもつなど、木材と鉄骨のハイブリッド構造となっている。競技フロアの天井や壁面にも木材がふんだんに使われている。

写真)草薙総合運動場体育館「このはなアリーナ」外観
写真)草薙総合運動場体育館「このはなアリーナ」外観

提供)静岡県

写真)「このはなアリーナ」メインフロア
写真)「このはなアリーナ」メインフロア

©静岡県草薙総合運動場

これからの木造建築

木造建築が地球環境に優しい、ということは分かった。しかし、問題はコストだろう。建築資材そのもののコストもさることながら、施工のコストも下げねばならない。その為には業界を挙げて技術開発に取り組むことが必要だ。W350計画が陽の目を見るまであと23年。日本の技術革新のチカラを信じたい。

安倍宏行 Hiroyuki Abe
安倍 宏行  /  Hiroyuki Abe
日産自動車を経て、フジテレビ入社。報道局 政治経済部記者、ニューヨーク支局特派員・支局長、「ニュースジャパン」キャスター、経済部長、BSフジLIVE「プライムニュース」解説キャスターを務める。現在、オンラインメディア「Japan In-depth」編集長。著書に「絶望のテレビ報道」(PHP研究所)。
株式会社 安倍宏行|Abe, Inc.|ジャーナリスト・安倍宏行の公式ホームページ
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IoT、AI・・・あらゆるものがインターネットにつながっている社会の到来。そして人工知能が新たな産業革命を引き起こす。そしてその波はエネルギーの世界にも。劇的に変わる私たちの暮らしを様々な角度から分析する。