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エネルギーと環境

Vol.45 CO₂で再生可能エネルギーを貯められる電池登場

写真) Energy Dome社のCO₂バッテリーのイメージ

写真) Energy Dome社のCO₂バッテリーのイメージ
出典)Energy Dome社

まとめ
  • CO₂で再生可能エネルギーを貯める画期的な蓄電池が登場。
  • 従来のリチウムイオン電池に比べ、コスト面や供給の安定性の面で優れ、注目が集まる。
  • カーボンニュートラル達成のために国産蓄電技術開発が重要になる。

地球温暖化の原因であるCO₂を使って、地球環境に優しい再生可能エネルギーの普及を促進する。そんな不思議な技術が開発中だ

CO₂で再生可能エネルギーを貯める、革新的な施設が登場

開発したのは、イタリアのスタートアップ企業、Energy Dome社。同社は今年6月、地中海に位置するサルデーニャ島にCO₂バッテリーと呼ばれる巨大な施設を建設した。

写真) 今年6月にイタリアサルデーニャ島に建設されたCO₂バッテリー
写真) 今年6月にイタリアサルデーニャ島に建設されたCO₂バッテリー

出典)Energy Dome社

この施設は、その名の通りCO₂を使って電気を貯めるバッテリーになっており、安定供給と出力制御が難しいという再生可能エネルギーが抱える課題を解決し、再生可能エネルギーの普及を促進する施設として、今注目を集めているのだ。

CO₂バッテリーの仕組み

CO₂バッテリーは、常温でも加圧によって液化させることができるCO₂の特徴を利用し、電力の供給量・需要量に応じてCO₂を気体から液体へ、あるいは液体から気体へと変化させる仕組みになっている。

例えば、太陽光発電の発電量が豊富な日中、余った電力を使ってCO₂を加圧し、液化させて貯蔵する。このプロセスが充電にあたる。一方、太陽光による発電量が低下する夜間には、液化して貯蔵してあるCO₂を気体に戻し、膨張した気体状態のCO₂でタービンを回すことによって放電をおこなう。

図) CO₂バッテリー外観
図) CO₂バッテリー外観

出典)Energy Dome社

こうして、天候などの環境要因によって発電量が変動する再生可能エネルギーで作った電力を、CO₂を使って充電、放電することにより、電力の需要量に応じた出力制御が可能となるわけだ。

また、Energy Dome社のCO₂バッテリーは、CO₂を液化あるいは気化させて充電、放電をおこなう一連のプロセスが閉じたものとなっており、環境中にCO₂が放出されることは無いという。

蓄電池の重要性

さてここで、再生可能エネルギーが普及していく上での蓄電技術の重要性について改めて確認しておこう。

再生可能エネルギーの最大の課題は、天候によって発電量が変動し、電力需要に応じた発電量の調整がおこなえない点だ。そのため、太陽光や風力で発電したエネルギーを貯蔵し、必要なときに必要なだけ放電がおこなえるシステムの構築が、かねてより重要視されてきた。

経済産業省も、「蓄電池産業戦略」で、「蓄電池は2050年カーボンニュートラル実現のカギであり、自動車などのモビリティの電動化においてバッテリーは最重要技術」と位置づけている。さらに、「再エネの主力電源化のためにも、電力の需給調整に活用する蓄電池の配置が不可欠」だとしている。

こうした中、東芝と三菱電機の合弁会社、TMEIC(東芝三菱電機産業システム株式会社)などが、大容量のリチウムイオン蓄電池の開発に成功。すでに北海道八雲町のメガソーラーなどでこうした大規模蓄電池の設置が進んでいる。

写真) TMEICの大容量リチウムイオン二次電池システム 外部
写真) TMEICの大容量リチウムイオン二次電池システム 外部

出典)TMEIC

しかし、今回Energy Dome社が開発したCO₂バッテリーは、複数の点で従来のリチウムイオン電池より優れているとされる。

CO₂バッテリーの強み

リチウムイオン電池と比較した際のCO₂バッテリーの強みは、長期間にわたって低コストで運用できる点と、原材料調達リスクが低いことだ。

一般的に、リチウムイオン電池は7〜10年ほどで性能が大きく落ちると言われているが、このCO₂バッテリーは、25年の運用年数の間、その性能を落とすことなく維持できるという。また、リチウムやコバルトなどのレアメタルが原料となるリチウムイオン電池に対し、CO₂バッテリーの原料は基本的にはCO₂と水と鉄だけなので、コストも低く抑えられる。したがって、安定供給に目途が立ちやすいという長所がある。

こうしたコスト面での強みを持ちつつ、変換効率がリチウムイオン電池に劣らない。CO₂バッテリーのシステムは、CO₂の圧縮と膨張をおこなうだけなのでそもそもエネルギーの損失が少ない上、CO₂の加圧時に発生する熱を放電のための減圧時に再利用するなど、エネルギー損失を最小化する工夫が積み重ねられている。

なお、次世代の蓄電技術として、CO₂ではなく圧縮空気(CAES)や液体空気(LAES)を利用した蓄電技術も知られているが、液化CO₂は常温で保存でき、液体空気などに比べ貯蔵が容易であることも、CO₂バッテリーの強みとなっている。(参考記事:「空気で電力貯蔵」再生可能エネルギー普及を後押し)

写真) Energy Dome社のCO₂バッテリーの建設イメージ
写真) Energy Dome社のCO₂バッテリーの建設イメージ

出典)Energy Dome社

CO₂バッテリーの課題

次世代の蓄電技術として注目を集めるCO₂バッテリーだが、克服すべき課題もある。

その一つが、減圧し気体状態にあるCO₂をどのように貯蔵するかという点だ。CO₂は気化させると、液体時の体積の400倍程度にまで膨張する。例えば1立方メートルの液化CO₂を減圧し気化させると、約420立方メートルにまで膨張してしまう。そのため、大きな気密性の高い容器を用意する必要がある。

Energy Dome社が建設したCO₂バッテリーは、巨大なドームを設置することでこの問題を解決しているが、これからCO₂バッテリーが普及していく上では、こうした大規模設備建設の立地の問題は避けて通れないだろう。

また、加圧や減圧の際に、CO₂の温度が変化し一部のエネルギーが熱として放出されるが、この熱によるエネルギー損失をどう低減させるかも重要な課題の一つだ。

電力の安定供給と出力制御という、再生可能エネルギーが長らく抱えてきた課題を解決し、再生可能エネルギー時代を加速させる技術として、蓄電技術は必須だ。カーボンニュートラル実現のためにも、国産技術の開発を加速させることが重要となってくる。

安倍宏行 Hiroyuki Abe
安倍 宏行  /  Hiroyuki Abe
・日産自動車を経て、フジテレビ入社。報道局 政治経済部記者、ニューヨーク支局特派員・支局長、「ニュースジャパン」キャスター、経済部長、BSフジLIVE「プライムニュース」解説キャスターを務める。現在、オンラインメディア「Japan In-depth」編集長。著書に「絶望のテレビ報道」(PHP研究所)。
株式会社 安倍宏行|Abe, Inc.|ジャーナリスト・安倍宏行の公式ホームページ
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