記事  /  ARTICLE

グローバル・エネルギー・ウォッチ

Vol.38 欧州で広がる「グリーンフィンテック」日本にも

写真)イメージ

写真)イメージ
出典)metamorworks/GettyImages

まとめ
  • フィンテックに環境保護の要素を付け足したグリーンフィンテックに注目が集まっている。
  • 消費行動によるCO₂排出量を見える化したクレジットカードなどが登場。
  • 普段の消費行動と環境保護を手軽に両立できるため、こうしたサービスは今後も拡大していくものと見られる

今、「グリーンフィンテック(Green Fintech)」と呼ばれる考え方が、欧州を中心に世界中で広がりつつある。

金融(Finance)」と「情報技術(Technology)」を結び付けた「フィンテック(FinTech)」に、環境保護に貢献する「グリーン(Green)」の要素を持たせる取り組みのことだ。

世界的な環境意識の高まりを背景に、デジタルネイティブ世代を中心に支持が拡大している。日本でも複数の企業がグリーンフィンテックのサービスを開始している。

欧州でのグリーンフィンテック拡大の背景にEUの成長戦略

グリーンフィンテックで世界をリードするのは、環境意識が高いとされる欧州各国だ。

スイスのフィンテック支援企業F10のリポートによると、グリーンフィンテックを手がける企業は、欧州・中東・アフリカ地域で229社に上っており、北米の120社、アジアの43社を大きく上回っている。背景には、脱炭素と経済成長を両立させる「欧州グリーンディール」の存在がある。

図)地域別グリーンフィンテック企業数 EMEA=ヨーロッパ、中東およびアフリカ、APAC=アジア太平洋、LATAM=ラテンアメリカ
図)地域別グリーンフィンテック企業数 EMEA=ヨーロッパ、中東およびアフリカ、APAC=アジア太平洋、LATAM=ラテンアメリカ

出典)F10

「欧州グリーンディール」は、EUが2019年に打ち出した成長戦略のことで、2050年のカーボンニュートラルや、経済成長と資源利用の調和などを主要な目標として掲げている。この戦略の発表を受け、欧州各国が環境保護と両立した経済活動に対して、充実した支援制度を導入していることが、欧州でのグリーンフィンテック拡大にもつながっている。

写真)会見する欧州グリーンディールのEUコミッショナーFrans Timmermans(フランス ティマーマンス)氏(左)と環境、海洋、漁業のEUコミッショナー Virginijus Sinkevicius(ヴィルジニウス・シンケヴィチウス)氏(右) 2022年10月26日 ベルギー・ブリュッセル
写真)会見する欧州グリーンディールのEUコミッショナーFrans Timmermans(フランス ティマーマンス)氏(左)と環境、海洋、漁業のEUコミッショナー Virginijus Sinkevicius(ヴィルジニウス・シンケヴィチウス)氏(右) 2022年10月26日 ベルギー・ブリュッセル

出典)Photo by Thierry Monasse/Getty Images

先行する欧州での事例

では、グリーンフィンテックの拡大が進む欧州での具体的な事例を見てみよう。

最初に紹介するのは、イタリアのメディオラヌム銀行が設立したデジタル銀行「フロウェ(Flowe)」の取り組みだ。フロウェは一切店舗を持たないが、環境意識の高い若い世代をターゲットとした、ユニークなデビッドカードを展開している。

写真) floweの展開するバーチャルカードのイメージ
写真) floweの展開するバーチャルカードのイメージ

出典)flowe

同社は再生樹木でできたカードと、物理的なカードを伴わないバーチャルカードを展開しており、これらのカードを利用して決済をすると、買い物にあたって排出されたCO₂の量が表示される。これはスウェーデンのフィンテック企業、Doconomy社が開発した、商品やサービスの購入に伴うCO₂排出量を自動計算するシステムを採用したもので、好評を博しているという。

また同社は、このカードで100回決済するごとにグアテマラに1本の木を植樹するというサービスも提供しており、消費行動が実際に森林の育成に繋がる点が評価されている。消費行動と環境保護を両立させるこうしたサービスは、floweに限らず、アメリカのAspiration社や、ドイツのECOSIA社なども提供しており、今後も新規参入が拡大していきそうだ。

この内、アメリカのAspiration社が展開するカードには、ユーザーの消費行動に合わせてカーボン・オフセットのクレジットが購入される仕組みも搭載されている。例えばユーザーがガソリンを購入すると、森林によるCO₂吸収や、省エネ設備に貢献するプロジェクトに資金が提供されるようになっているのだ。また、社会貢献性の高い企業で買い物をするとキャッシュバックを受けられる特典もあり、環境にやさしい消費行動を促す工夫がこらされている。

写真) Aspirationが提供するサービスのイメージ
写真) Aspirationが提供するサービスのイメージ

出典)Aspiration

日本でのグリーンフィンテックの事例

グリーンフィンテックの導入が進む欧州に追いつこうと、新たな取り組みを始める日本企業も出始めた。

大手カード会社、株式会社クレディセゾンは、2022年6月、決済データから個人のCO₂排出量を可視化できるクレジットカードの発行を始めた。同社によると、こうしたカードの発行は国内初。前述のDoconomy社のCO₂排出量可視化技術を掛け合わせ、DATAFLUCT社が提供するサービス「becoz wallet(ビコーズウォレット)」と連携し、決済した小売店の業種などから排出量を算出する仕組みだ。

スマートフォン上のデジタルクレジットカードで、決済データに加えて購買や移動に関するアンケートを元に毎月のCO₂排出量が表示される。前月からの排出量の増減や、「食事」や「美容」などのカテゴリーのうち、どの分野の排出量が多いかも確認できる。自分の生活の中で、何が気候変動に最も影響を与えているか「見える化」する仕組みだ。

図表)クレディセゾンが展開するサービスでの決済データ連携時のCO2排出量可視化イメージ
図表)クレディセゾンが展開するサービスでの決済データ連携時のCO2排出量可視化イメージ

出典)(株)クレディセゾン

次に紹介するのはフィンテック企業のnudge(東京・千代田)。2022年8月、クレジットカードの利用で広島県の森林再生に貢献できるプロジェクト「広島nudgeの森」を始めた。

舞台は広島空港近くに広がるアカマツ林。広島は日本有数のアカマツの生息地であるものの、近年は寄生虫によるマツ枯れで森林の機能が低下し、豊かな山林が失われつつある。nudgeは地元森林組合などと連携し、カードの利用者が10万円決済するごとに苗木1本の植樹に相当する支援をおこなう仕組みだ。

写真) 広島nudgeの森のイメージ
写真) 広島nudgeの森のイメージ

出典)nudge

これまで見てきたように、グリーンフィンテックを取り入れたサービスは、欧州だけでなく日本でも広がりを見せつつあり、今後もこうしたサービスの開発やグリーン投資のトレンドは拡大していくと思われる。環境意識が世界的に高まる中、クレジットカードによる商品購入など、日常生活の何気ない場面で、気軽に環境問題に貢献できるグリーンフィンテックは受け入れられやすいといえるだろう。

グリーンフィンテックサービスが人々の消費行動の変化を促し、カーボンニュートラル実現につながることを期待したい。

安倍宏行 Hiroyuki Abe
安倍 宏行  /  Hiroyuki Abe
・日産自動車を経て、フジテレビ入社。報道局 政治経済部記者、ニューヨーク支局特派員・支局長、「ニュースジャパン」キャスター、経済部長、BSフジLIVE「プライムニュース」解説キャスターを務める。現在、オンラインメディア「Japan In-depth」編集長。著書に「絶望のテレビ報道」(PHP研究所)。
株式会社 安倍宏行|Abe, Inc.|ジャーナリスト・安倍宏行の公式ホームページ
Japan In-depth

RANKING  /  ランキング

SERIES  /  連載

グローバル・エネルギー・ウォッチ
国際情勢が日本のエネルギー安全保障に与える影響について解説するシリーズ。