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「安全」を考える

Vol.21 「防災の日」家族で備えを確認しよう

写真)新潟県村上市・関川村の大雨に伴う新潟県知事からの要請を受け、 坂町地区一帯の水没・床上浸水の地域において、人命救助や安否確認をおこなう自衛隊東部方面隊第12旅団第30普通科連隊

写真)新潟県村上市・関川村の大雨に伴う新潟県知事からの要請を受け、 坂町地区一帯の水没・床上浸水の地域において、人命救助や安否確認をおこなう自衛隊東部方面隊第12旅団第30普通科連隊
出典)陸上自衛隊東部方面隊

まとめ
  • 9月1日は「防災の日」。今年は8月30日~9月5日までが「防災週間」となっている。
  • 国民の防災意識は必ずしも高くなく、教育機関や自治体は防災教育や啓発に知恵を絞る。
  • この機会に一人一人の防災行動計画「マイ・タイムライン」や「備蓄」について、家族で話し合ってみよう。

9月1日は何の日かご存知だろうか。そう、「防災の日」である。

1923年9月1日に起きた関東大震災がきっかけとなり、災害に対するしっかりとした準備をおこなうことを目的として、1960年に国が「防災の日」を制定した。

この「防災の日」は祝日ではなく、「広く国民が、台風、豪雨、豪雪、洪水、高潮、地震、津波などの災害についての認識を深めるとともに、これに対する備えを充実強化することにより、災害の未然防止と被害の軽減に資するため」に定められた日であり、「防災の日」を含む1週間は「防災週間」とされている。(参考:内閣府

この期間中は各市町村において行政の事業の一環として、さまざまな防災に関連したイベントが開催される。

不十分な防災対策

日本は200を超える国と地域の中でも、自然災害大国である。

自然災害は、台風や土砂崩れ、豪雨などさまざまだが、自然災害と聞いて1番に思い浮かべるであろう地震は、国土交通省が発表する河川データブックによると、過去10年間に発生したマグニチュード6以上のもののうち、約1割が日本で発生している。

図)世界のマグニチュード6以上の震源分布とプレート境界
図)世界のマグニチュード6以上の震源分布とプレート境界

出典)国土交通省

2018年に内閣府によっておこなわれた「防災に関する世論調査」によると、大地震が起こったとしたらどのようなことが心配か、という質問に対して「建物の倒壊」を挙げた人の割合が72.8%と最も高く、「食料、飲料水、日用品の確保が困難になること」「電気、水道、ガスの供給停止」が57.3%、53.9%と半数以上の回答を得ている。

しかし、同調査によると住まいの耐震診断を実施した人は約30%にとどまっている。また、大地震が発生した場合の備えに関するアンケートでは「食料や飲料水、日用品などを準備している」「停電時に作動する足元灯や懐中電灯などを準備している」人は45.7%、43.3%にとどまる。

加えて地震発生時に「近くの学校や公園など、避難する場所を決めている」割合は38.8%とさらに低く、「特に何もしていない」と答えた人の割合も10%を超える。

防災教育

上であげた世論調査からわかる通り、毎年のように自然災害が日本を襲っているにもかかわらず、国民の防災に対する意識は総じて低く、自然災害に対しての準備は十分とは言えない。

そうした中、幼稚園や小中学校を中心として、防災の日に合わせて、防災意識を育もうとする動きが広がっている。

一部の幼稚園や保育園では、これまでも防災の日に非常食のカンパンや災害用に賞味期限が長く作られているレトルトカレーを提供したり、子供たちが慣れ親しんでいる紙芝居を用いて防災を教えるといった取り組みがおこなわれてきた。

また、多くの幼稚園や保育園は、子供を預かっているタイミングで災害が発生した場合に備えて用意されている一斉送信できる形のメールシステムを利用して、速やかにかつ安全に保護者に子供を引き渡すことができるか、防災の日に確認したりしている。

一方、災害への理解が浅い未就学児に対しては、避難訓練を教育の一環として伝えることの難しさが課題として挙げられていたが、さまざまな教育機関から幼児や少年、少女向けに作られた防災教材が発表され、実際に活用される場面が増えてきた。

例えば慶應義塾大学防災社会デザイン研究室(慶應義塾大学環境情報学部大木聖子准教授)は、「世界の防災をかえよう」をスローガンに、幼児・小学生・中高生それぞれに対して楽しみながら防災知識を蓄えられる防災教材を開発し、その普及に力を入れている。

幼児や小学校低学年を対象とした教材の中で取り上げられている「命を守る3つのポーズ」は、「ダンゴムシのポーズ」「サルのポーズ」「アライグマのポーズ」など、動物名を使用して一言でわかりやすく防災行動を示したほか、そのポーズを習得するためのダンス教材も開発するなど、工夫が凝らされている。

また小学生・中高生向けには、4コマ漫画を使って災害時の避難所運営を疑似体験する演習型の教材や、まだ起きていない未来の地震について自分を主人公とした物語を綴らせる「防災小説」という教材なども提供している。

単なる学問としての「防災」から一歩進んで、防災行動をより実践的に社会に定着させていく試みとして注目される。

自治体の防災啓発

自治体も住民の防災意識の向上に向け、工夫をこらしている。

2000年9月の「東海豪雨」の際、名古屋市地域は、大規模な内水氾濫で市内の4割近くが浸水するなど、過去に例を見ないほどの水害となった。その後も、2004年の大雨、2008年の「平成20年8月末豪雨」、2011年の大雨・洪水など、頻繁に水害が起きている。(参考:名古屋市水害年表

依然、別記事(台風シーズン「マイ・タイムライン」で早めの避難を)でも紹介したが、住民一人一人の防災行動計画である「マイ・タイムライン」の普及が住民の防災意識の向上に貢献すると考えられる。

しかし、「日本トレンドリサーチの調査」によると、実際に「マイ・タイムライン」を知っている人の割合はわずか8.4%にすぎない。

「日本トレンドリサーチ」の調査

出典)「日本トレンドリサーチ」の調査(運営元:株式会社NEXER
全国の男女計680名を対象に「災害に対する備えに関するアンケート」を実施。調査期間:2022年3月3日〜3月7日

一方で、「マイ・タイムライン」を知らないと答えた人でも、作ってみたいと答えた割合は67.6%に上っている。

名古屋市は、全市民に「マイ・タイムライン」と防災ガイドブックを1つに取りまとめた「なごやハザードマップ防災ガイドブック」の全戸配布を2023年3月に予定している。すでにデータ版は公開済みだ。

図)「なごやハザードマップ防災ガイドブック」イメージ
図)「なごやハザードマップ防災ガイドブック」イメージ

出典)名古屋市

また、名古屋市では「わが家のマイ・タイムライン」もウェブ上で公開している。各区の災害リスクと過去の災害被害なども載っており、より身近なものとして災害を考えることができる。

図)わが家のマイ・タイムライン
図)わが家のマイ・タイムライン

出典)名古屋市

東京都では、小学校低学年の家庭に「東京マイ・タイムライン」を配布している。お住まいの自治体のHPなどで「マイ・タイムライン」を確認してみよう。災害時に「いつ」「誰が」「どのように行動するか」を時間の流れに沿って、家族みんなで話し合い、決めておくことが大切だ。

写真)「東京 マイ・タイムライン」
写真)「東京 マイ・タイムライン」

©エネフロ編集部

写真)「東京 マイ・タイムライン」
写真)「東京 マイ・タイムライン」

©エネフロ編集部

災害備蓄

名古屋市を中心としたケーブルテレビ局「スターキャット・ケーブルネットワーク株式会社」は、公式YouTubeチャンネル「スターキャット」の中で、「インスタント防災」と題して防災情報を提供する番組を制作している。愛知工業大学地域防災研究センターが監修しているもので、同センターの小池則満教授が自ら解説している。

これまで16本の動画が配信されているが、「災害時の地下街での行動方法」や「オリジナル防災バッグを作ろう」など、実践的なものが多く参考になる。

特に、「超簡単な非常食の考え方」では、非常食として何か特別なものを備蓄するのではなく、ふだんから好きなスナックやレトルト食品などを買いためておき、賞味期限が近づいたものを食べた分、また補充するという、いわゆる「ローリングストック法」を紹介している。

乳幼児がいるご家庭なら、調乳済みの「液体ミルク」の備蓄も選択肢の一つだ。同商品を販売している株式会社 明治が、「赤ちゃん防災ブック」を公開している。参考にしていただきたい。

写真)明治ほほえみらくらくミルク 240ml
写真)明治ほほえみらくらくミルク 240ml

出典)株式会社 明治

自然災害から身を守るのは結局、自分自身だ。9月1日「防災の日」をきっかけに、家族みんなで防災行動や備蓄について話し合ってみるのはどうだろう。

安倍宏行 Hiroyuki Abe
安倍 宏行  /  Hiroyuki Abe
・日産自動車を経て、フジテレビ入社。報道局 政治経済部記者、ニューヨーク支局特派員・支局長、「ニュースジャパン」キャスター、経済部長、BSフジLIVE「プライムニュース」解説キャスターを務める。現在、オンラインメディア「Japan In-depth」編集長。著書に「絶望のテレビ報道」(PHP研究所)。
株式会社 安倍宏行|Abe, Inc.|ジャーナリスト・安倍宏行の公式ホームページ
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