写真)土屋鞄製造所が発表したMylo™によって製造された鞄 2022年6月9日 東京・渋谷
© エネフロ編集部
- まとめ
-
- 日本でも植物由来の皮革、ヴィーガンレザーでできた鞄が開発された。
- ヴィーガン素材はスニーカーなどにも広がっている。
- 女性向けヴィーガンファッション市場は急拡大しており、日本にもその流れが訪れそうだ。
ファッションの世界に新しい消費観が広がりつつある。それが、大量生産・大量消費・大量廃棄の「ファストファッション」のアンチテーゼとして生まれた「スローファッション」や、環境破壊や労働者搾取など地球と人に配慮した「エシカルファッション」などと呼ばれる概念だ。これまで主に欧米中心だったこうした動きが、いよいよ日本でも見られるようになってきた。
エネフロでは、アメリカ、そしてヨーロッパ諸国を中心に新たに注目を集めている、「ヴィーガンレザー(Vegan Leather)」について以前、取り上げた。ヴィーガンレザーとは、動物の代わりに、植物由来の素材でできた人工皮革(植物皮革とも呼ばれる)をいう。(参考記事:「キノコから革!?ヴィーガンレザーとは」)
その原材料は、キノコ、パイナップル、ぶどう、りんご、サボテン、バナナなどさまざまだが、アメリカのバイオテック企業、「BOLT THREADS(ボルト・スレッズ)社」が開発したのは、キノコの菌糸体を使用したレザー代替新素材「Mylo™(マイロ)」だ。今回、日本企業がこの新素材を使ったバッグを開発したというので取材した。
新商品を発表したのは、株式会社土屋鞄製造所(以下、土屋鞄製造所)。2021年の夏から「ボルト・スレッズ社」とミーティングを重ね、「Mylo™」を取り入れた新モデルのプロトタイプを自社工房にて製作した。同社は、この素材を「マッシュルームレザー」と呼んでいる。6月、土屋鞄製造所渋谷店でおこなわれた展示イベントで、実際に日本初の「ヴィーガンバッグ」を手に取ってみた。
© エネフロ編集部
展示されていたのは、Mylo™ハンディLファスナー、ランドセル、スクエアバッグ、スリムケーズ、ウォレットバッグ、バックパックミディアムの計6種類。
バックパックミディアム以外の製品の素材の80%近くがMylo™で作られている。実際に触ってみると、そのしなやかさや、肌に馴染む風合いは普通のレザーと区別がつかないほどだ。
© エネフロ編集部
土屋鞄製造所をグループ会社とする、株式会社ハリズリー取締役沼田雄二朗氏は、「Mylo™ハンディLファスナー」の年内発売を目指して開発を進めていると話す。土屋鞄製造所が発表したこれらのヴィーガン製品は、今後サステナブル商品が消費者に受け入れられるかどうかの試金石となりそうだ。
ユーカリから作られたスニーカー
ヴィーガン素材は、バッグだけではなく、シューズにも広がっている。
元サッカー選手でニュージーランド代表選手も務めたティム・ブラウン氏が環境に優しい素材を使ったスニーカーを作ろうと考え「オールバーズ(Allbirds)合同会社」(以下、オールバーズ)を創業した。そして、2018年にユーカリのパルプからセルロースを精製し、それを特殊な溶剤に溶かして紡ぎ出される天然再生繊維、「テンセル™リヨセル」でできた靴を開発した。
「テンセル™リヨセル」は、その特性として、発色がいい、光沢がある、吸湿性が高い、などの特徴がある。
同社によるとこの繊維の原料であるユーカリは南アフリカの農場から調達されている。ユーカリは、少ない肥料で成長するほか、灌漑を必要としない。コットンなどと比較して、水の使用量が95%少なく、CO₂排出量も50%削減できるという。
精製に使われている溶剤は、自然や人体に無害なものを使用し、回収されて99%以上が再利用されている。その後微生物に分解されて、土に戻り、ユーカリを育てる資源循環サイクルにも寄与していると同社は説明している。
スニーカーの靴ひもは再生プラスチックで作られ、靴底はブラジル産のサトウキビから作られる「スウィートフォーム®」という素材を使うなど、徹底している。同社は、2025年12月時点で持続可能な天然素材とリサイクル素材を75%使用することなどを目標として掲げる。
こうした企業姿勢が評価され、「オールバーズ」のスニーカーは発売一週間でタイム誌に「最も履き心地の良いシューズ」と紹介され、数年のうちに世界で話題になるシューズとなった。
同社は2020年1月、東京・原宿に日本初となる路面店をオープン。商品価格は、普通のスニーカーより少し高めだが、売上は世界の直営店で一位だそうだ。
出典)allbirds
ヴィーガンファッション市場の課題
ヴィーガン商品には課題もある。
1つ目は供給体制だ。株式会社ハリズリーの取締役沼田氏もMylo™を大量生産できる製造設備を準備することが必要になると話していた。加えて、品質の確保と安定供給ができる生産体制の構築が課題となるだろう。
2つ目はコストの問題だ。前出の沼田氏は「ヴィーガンレザー商品の価格設定は、将来的に他のレザー繊維と同じ値段、又はより安い値段で販売することを目指す」との考えを示した。生産性向上と歩留まり率の低減が鍵となろう。
提供)エネフロ編集部
3つ目は加工性だ。Mylo™の特性上、丸みを帯びた形に加工することが難しく、鞄は4年間で7個、試作を作り直し改善したと沼田氏は話した。商品企画上、デザインの自由度をどれだけ確保できるかが課題となる。
いずれにしても、世界の女性向けヴィーガンファッション市場規模は年々拡大している。Grand View Research, Incによると、同市場は年平均成長率13.6%で成長しており、2027年には1兆956億米ドル(約150兆円:1ドル=136円で計算)に達すると予測されている。欧米を中心としたこうした流れはいずれ日本にも来るだろう。鞄やスニーカー以外にもその流れが広がる日はそう遠くはなさそうだ。
Recommend Article / おすすめ記事
RANKING / ランキング
SERIES / 連載
- エネルギーと環境
- エネルギーと環境は切っても切れない関係。持続可能な環境を実現するために、私達は「どのようなエネルギー」を「どのように使っていくべき」なのか、多面的に考える。