写真) 日本電気株式会社「フェイスエクスプレス」デモンストレーションの様子
(2021年4月13日 成田国際空港)
出典)Tomohiro Ohsumi/Getty Images for NEC Corporation
- まとめ
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- 成田、羽田両空港で、「顔パス」システムが運用開始へ。
- 顔認証を利用し、新たなビジネスチャンスも生まれている。
- 個人情報の問題やAIによる権利侵害などに十分留意すべき。
空港でのチェックインは、これまでいちいち搭乗券とパスポートを提示しなければならず面倒だった。指紋認証による自動ゲートはあることにはあったが、普及していたとは言いがたかった。しかし、これからはそんな思いをしなくても待望のシステムが利用可能になる。
成田空港、羽田空港の両空港の国際線で4月に試験運用をしていた顔認証が、7月以降いよいよ本格運用される予定なのだ。(2021年7月6日時点で開始日未定)
「Face Express」と名付けられたこのシステムは、NECの顔認証技術を搭載したもの。チェックイン機でパスポートや搭乗情報を登録する際、機械で顔写真を撮影し認証させる。手荷物を預ける際にも顔を1秒足らずで判別することができる。また、保安検査場や搭乗ゲートでも顔を見せるだけの、いわゆる「顔パス」が可能となり、大幅に時間を短縮できる。
出典) 成田国際空港株式会社
顔認証システムのメリットは大きく2つある。
一つ目は他の認証システムと比べてセキュリティレベルが高い点だ。人の顔に関する情報は、暗証番号やICカードのように盗まれることはないため、偽造は極めて困難である。
また、顔認証システムは「いつ・だれが入退室したか」のデータをログとして正確に残すことができる。そのため、万が一検査場を通過した後や、搭乗ゲート内で問題が起きても、原因を瞬時に突き止めることが可能だ。すぐに人物を特定できるため、外部からの侵入はもちろん、従業員による内部不正の抑止にもつながる。なお、登録された画像データは、24時間以内に消去される。
二つ目は利用者にとって手間がかからないシステムであることだ。他の認証システムと異なり、カメラに顔を向ければ認証が完了する。スーツケースやお土産で利用者の両手がふさがっている時に、パスポートがどこにあるか分からず焦って探すこともなくなる。指を機器に置いたり、画面をタッチしたりする必要がない「非接触」の顔認証システムは、新型コロナウイルスの感染拡大を抑える意味からも有効だといえる。
様々な活用法
顔認証システムは、Webカメラ(IPカメラも含む)と、データ保存用のサーバ(クラウドでも利用可能)さえあれば利用できる。比較的導入しやすいのがこのシステムのメリットだ。(参照:NECソリューションデータ)
・万引き防止システム
顔認証を活用することで、万引き防止にも役立てようという動きもある。
小売店は事前に「要注意人物」の情報をデータベースに登録する。それを基にカメラで店内の監視をおこない、「要注意人物」を検知した場合、アラートや通知などで知らせる流れだ。データは小売店の本部で一元管理が可能なので、チェーン店での防犯にも利用できる。
このシステムの特徴は万引き犯を捕まえることではなく、万引きを未然に防止することだ。従来の防犯カメラは、映像を基に万引き犯を捕まえるためのものだったが、このシステムは怪しい人物が来店した際に知らせるものなので、いわゆる「声掛け」を行うことで万引きの発生そのものを防ぐことができる。
一方、こうした顔認証技術は、顧客分析などマーケティングにも応用できる。また、介護施設などの徘徊対策などにも有効であり、今後さらに用途が広がっていく可能性がある。
・スーパーシティ×生体認証
地域発展につなげようとするケースもある。群馬県前橋市は、政府の「スーパーシティ型国家戦略」の特別区域指定の公募へ提案書を提出した。「スーパーシティ型国家戦略」とは、最先端技術を駆使し、地域と事業者と国が一体となって、さまざまな課題を解決しようとするものだ。
今回前橋市が提案したのは生体認証を利用したまちづくり。マイナンバーカード、スマートフォン、それに生体認証を連動させた独自の認証システムによる「まえばしID」を利用し、さまざまなサービスを提供できるようにするものだ。
例えば、オンライン投票や、緊急搬送時に救急隊員が生体認証を使って患者の既往症をすぐ把握し、迅速な救命活動につなげることなどが想定されている。
住民サービスが高度化することは基本的に歓迎すべきことだが、デジタルデバイド(情報格差)問題への対処は不可欠だろう。
顔認証技術の課題
さまざまな利便性を提供する顔認証システムだが、留意すべき点もある。
一つには、精度の問題だ。メーカーによって性能に違いがあるので、導入にあたってよく仕様を確認する必要がある。
二つ目は、個人情報保護の問題だ。顔認証技術をマーケティングに利用したい企業は多いが、顧客の個人情報を利用する場合は法的な観点から慎重な運用が求められる。
三つ目は、AI(人工知能)を使った顔認証を含む生体認証をどこまで認めるか、という問題だ。欧州連合(EU)の行政執行機関である欧州委員会は、顔認証の応用分野で、テロ防止や行方不明の子供の捜索などを除いた法執行機関のAIの利用を制限する規制案を公表した。
技術の進歩は今後も加速していく。便利で安全な社会を構築していくためにも、技術を取り巻く環境整備がより一層重要になってくる。
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