写真) 遠隔診療を行うメキシコの心臓専門医
出典) Intel Free Press
- まとめ
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- 医療・ヘルスケア業界でデジタル化が進められている。
- 医療情報をデータ化し個人が一元管理できるサービス「MeDaCa®」
- 電気使用データで離れた家族を見守るなど、新しい形の健康管理が可能に。
少子高齢化社会を迎える日本。社会保障費の増大が大きな懸念となる中で、いかに国民の健康を維持するかが大きな課題となっている。
さらに、去年から続く新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、「健康」に関する関心は一段と高まっている。今回は、デジタル化で人々の健康を支える様々な取り組みについて紹介する。
ヘルスケア産業は急成長が見込まれている。株式会社富士経済が2019年2月にまとめた「ヘルステック・健康ソリューション関連市場の調査結果」によれば、2018年のヘルステック・健康ソリューション関連の国内市場は前年比9.4%増の2248億円、2022年には約50%増の3083億円規模にまで拡大すると予測されている。
出典) 株式会社富士経済
市場拡大の背景には、冒頭にも述べた超高齢化社会の到来が挙げられる。さらに、政府主導で進められている働き方改革や健康経営の推進により、企業による従業員の健康維持・増進への関心が高まっていることも要因の一つだ。
こうした新規の需要を取り込もうと、新規参入が相次いでいる医療・ヘルスケア産業。キーワードとなっているのが「デジタル化」だ。それまで紙媒体で蓄積されていた医療情報を電子データに置き換え、AI(人工知能)を活用することで、医療サービス向上につなげようという動きが各分野で進められている。
ここで、具体的にどのようなサービスが開発されているのか詳しくみてみよう。
患者と医療機関の架け橋サービス「MeDaCa®」
病院で診療を受け、処方された薬を受け取りに薬局に行くと、薬剤師に「お薬手帳は?」と聞かれる。今でも薬の名前や、服用の回数などが書かれたシールを貰って手帳に貼っている人もいよう。ここ数年、さすがにお薬手帳もアプリ化が進み始め、薬局でもらったQRコードを読み込むことで、薬局ごとに薬の名前、効果等の情報がクラウド上で一元管理できるようになった。しかし、それは薬の情報だけに止まっており、他の医療情報は個人として管理できないのが現実だ。
考えてみると、高齢者は複数の病院にかかっていることが多い。個人が医療情報を一元管理できるサービスがあればずいぶんと便利なのではないだろうか。そんなサービスが誕生した。
それが、医療情報プラットフォーム「MeDaCa®(メダカ)」だ。
慶應義塾大学医学部初のベンチャー企業であるメディカルデータカード株式会社(以下、「メディカルデータカード社」)が、医療情報のデジタル化を通じて医療・ヘルスケアに貢献しようと開発した。
「MeDaCa®」には、患者用と医療機関用、2つのサービスがある。
患者向けサービス「MeDaCa®」は、それまで病院ごとに管理されていた患者の健康・医療データをデジタル化して患者に集約させ、一元管理できるようにしたものだ。
代表取締役社長・西村邦裕氏は、このサービスを開発した思いを、「オンライン通帳で自分のお金を管理できるように、自分の健康データも自分で管理できるようにしたかった」と述べた。
出典) メディカルデータカード株式会社
ユーザーは検査データ、処方されている薬のデータ、レントゲン写真、健康診断書などを一元的に管理する。健康に関するあらゆるデータを好きな時に閲覧できるので、自身の健康状態を正確に把握することができる。
診察時にこれらの医療データを活用すれば、口頭で既往歴や健康状態を説明するより、客観的かつ正確に情報を医師に伝えることができる。また、ユーザーが同意すれば、医療データを他の医療機関に提供することも可能で、急病の際に迅速な情報提供と対応が期待できる。
出典) メディカルデータカード株式会社
西村氏は「医療業界の中でデジタル化が未だに進んでいない分野に、いかに分かりやすく患者さんのデータを管理できるようにするか、さらにどのように活用するかがポイントになってくる」と、新サービス開発にも意欲的だ。
「MeDaCa®」の潜在的ユーザーには、自分の健康管理だけでなく、子どもの医療情報を把握したい親や高齢の両親の健康状態を管理・確認したい40~50代も含まれる。「家族の健康状態をより正確に把握したい」というニーズに応えるために、「家族共有アカウント」も新開発した。考えてみれば、今まで私たちは大切な人の健康状態について無頓着だったかも知れない。こうしたサービスは多くの家庭に歓迎されそうだ。
一方、医療機関向けサービスの「MeDaCa PRO®」は、医療機関と「MeDaCa®」を利用する患者のオンライン・コミュニケーションツールだ。
このサービスでは、検査結果をオンラインで患者に知らせることができる。今まで病院で検査を受ける患者は、再び来院するまで検査結果を知ることができなかった。「MeDaCa PRO®」では検査センターと連携し、医師が必要だと判断すれば、検体検査や健康診断の結果を患者にオンラインで送信できる。患者は数日以内に検査結果を把握することが可能になり、いち早く治療経過を確認できるようになる。
出典) メディカルデータカード株式会社
こうした医療情報のデジタル化に加え、今、改めて「遠隔診療」が注目されている。きっかけは、今も続いている新型コロナウイルス感染症の拡大だ。感染リスクを抑えるために、非接触での診療を始める医療機関が増加している。こうした動きは、感染リスクを避けねばならない妊婦にとって福音だ。
慶應義塾大学病院産科外来では、2020年6月よりメディカルデータカード社と中部電力のシステム支援のもと、「遠隔妊婦健診」を開始している。
通院頻度を下げることで、感染リスクを減らし、妊婦の身体的・精神的負担を軽減させるのが目的だ。
医師はビデオ通話による診断に加え、血圧、体重などの推移データを参照することで対面同様のきめ細かい診察を行うことができる。遠隔健診による予想外のメリットもあった。今までは、病院で健診を受けるときのみ血圧を測定していたが、遠隔診療のために定期的に測定することで経時的変化が明らかになり、いち早く異常を検知できるようになったのだ。
出典) メディカルデータカード株式会社
また、クラウド型の血糖手帳や食事画像をアップロードできる機能も加え、糖尿病などの生活習慣病患者に向けても遠隔診療の導入を去年11月に慶應義塾大学病院の糖尿病・肥満症外来で開始した。
慢性疾患の患者のなかには通院が途切れ、病状が悪化するケースがある。遠隔診療が普及すれば通院へのハードルが下がり、こうした事態を減らすことができる。また、地方で拡大する医療従事者不足への解決策となることも期待されている。
これらの「遠隔診療」は、慶應義塾大学病院、メディカルデータカード社、そして中部電力の3社での「AIホスピタルによる高度診断・治療システム」の共同研究事業の成果の一つとして実現したものだ。
また、医療データは非常にセンシティブな情報で、セキュリティ対策も重要だ。
「コミュニティサポートインフラ」のヘルスケア事業を新たな成長分野としている中部電力が患者と医療機関をつなぐデータプラットフォームを提供し、これまでに培ってきた信頼と安心感によって多くの利用につながっている。
昨年の9月にメディカルデータカード社は中部電力の連結子会社となって、さらなる医療サービスの開発・提供を加速していくそうだ。
出典) 中部電力株式会社
電気使用データで家族を見守る
医療情報以外のデータを健康に役立てようという動きも進められている。ここでは電力会社による電気使用データの活用例を紹介しよう。
活用が期待されているのが「見守り」サービスだ。高齢者の一人暮らし世帯の電気使用データを家族へ提供することで、離れて暮らす家族が生活の実態を確認できる。
中部電力は、高齢者が暮らす家庭にスマートメーターを設置することで、離れて住む家族が電気の使用状況を確認できる「カテエネ 見守りお手伝いサービス」を提供している。通常より電気使用量が少ない際にメールで通知を受け取ることもできる。
出典) 中部電力ミライズ
電気使用データを基に生活習慣に関するアドバイスを行うことも可能になる。特定の生活習慣病の患者の電気使用データを分析すれば、どのような生活習慣が病気のリスクを高めるか、明らかにできるかもしれない。そうすれば同じ生活習慣を持つ人に対してアドバイスを行い、生活習慣病の予防に繋げることができる。
まとめ
高齢化が進む中、ただ寿命を伸ばすのではなく、心身ともに自立した「健康寿命」を伸ばすことが今後ますます重要になってくる。デジタル化による医療関連サービスにより能動的に健康管理を行うことが可能になれば、健康寿命も伸び、長期的には医療費の削減にも繋がるだろう。
今回紹介したサービスはほんの一例だが、デジタル化によってより効果的な健康管理や病気の早期発見など、医療・ヘルスケアサービスの幅は今後ますます広がっていくに違いない。
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