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トランプ後の世界

Vol.04 加速する中国の再エネと原発 日本への影響は?

Guangdong nuclear power plant. (Guangdong, China)

Guangdong nuclear power plant. (Guangdong, China)
Photo : Hong Kong Nuclear Investment Co.

まとめ
  • 電力消費量が急増している中国、7割は石炭火力に頼っている。
  • 中国のCO2排出量は世界のおよそ3割、今後再エネと原子力にシフト。
  • 中国の原発建設を加速させぬ為に、日本の省エネ技術供与などが有効。

いま、日本では大半の原発が停止中ですが、他の国の原発はどうなっているのか、知っておく必要があるでしょう。特にお隣中国の原発計画がどのように進んでいるのか、気になる人も多いと思います。詳しく見て行きましょう。

世界の電力需要

まず、世界の発電電力量の推移を見てみましょう。(図1)先進国の伸び率は高くありませんが、中国・インドの伸び率が高いことが分かります。日本を含む先進国は、経済成長が鈍化しており、かつ省エネが進んでいるので伸び率は低くなる一方、中国・インドは急速な経済成長とともに目を見張る伸び率となっています。特に中国はかつて2ケタ台の経済成長率を誇っていましたが、2000年代に入ってもなお7~9%台を保っており、電力消費量はここ15年で実に4倍にも膨れ上がっているのです。

図1:主要国発電電力量推移(伸び率)
図1:主要国発電電力量推移(伸び率)

出典)電気事業連合会 「主要国の電力需要」

次に世界各国の電力消費量ですが、中国は人口が多いので一人当たりでみると世界10位ですが、国別にみると世界でトップ、シェアは24%です。世界の電力のほぼ4分の1が中国で消費されていることになります。(図2)中国の電力需要のすごさが分かりますね。

図2:主要国の電力消費量
図2:主要国の電力消費量

出典)電気事業連合会 「主要国の電力需要」

そして問題はその中国の電力は何に頼っているかですが、図3を見ればわかるように圧倒的に石炭火力で、実に発電電力量の約73%にあたります。それがどういうことか読者の皆様はお判りでしょう。そう、CO2の排出量が他の国に比べて多い、ということなのです。図4を見てください。世界のCO2排出量のなんと約28%を中国が占めているのです。

図3:主要国電源別電力量構成比
図3:主要国電源別電力量構成比

出典)電気事業連合会 「主要国の電力需要」

図4:世界の二酸化炭素排出量(国別排出割合2014年)
図4:世界の二酸化炭素排出量(国別排出割合2014年)

出典)EDMC/エネルギー・経済統計要覧2017年版 全国地球温暖化防止活動推進センター

こうしたことから、中国もCO2を大幅に削減する目標を立てています。(図5)まず、2030年前後にCO2排出量のピークを達成し、2030年までにGDP当たりのCO2排出を60~65%削減するというのです。(2005年比)これはかなり野心的な目標です。こうしたことから中国は「脱化石燃料」を加速させ、再生可能エネルギー(再エネ)と原子力にシフトせざるを得ない状況になっています。再エネと原子力、それぞれ見て行きましょう。

図5:各国のCO2削減目標
図5:各国のCO2削減目標

出典)国連気候変動枠組条約に提出された約束草案より 全国地球温暖化防止活動推進センター

中国の再エネ

まず、中国の再エネ普及計画はどうなっているのでしょうか?中国の国家発展改革委員会能源研究所 (The Energy Research Institute National Development and Reform Commission :ERI)と能源基金会(ENERGY FOUNDATION CHINA)が2015年4月に発表した資料によりますと、2011年の電源構成に占める割合が22%であった再エネの比率を2030年に53%、2050年に86%にまで引き上げる一方、化石燃料依存を大幅に削減するとしています。(図6)

図6:中国の再エネ普及目標(電源構成比)
図6:中国の再エネ普及目標(電源構成比)

にわかには信じがたい目標ですが、現在主力の石炭火力発電を大幅に削減していく計画です。具体的には、発電構成比で2011年の75%を2030年に38%、2050年には7%にする計画です。そのために、電気自動車(EV)を大幅に普及させ、石炭火力発電を調整電源としつつ、再エネによる余剰電力はEVに蓄電させるのだそうです。壮大な計画ですね。

中国の2015年のEV/PHV(プラグインハイブリッド車)販売は18万8700台(前年比233%増)で、米国を抜き世界一。EVバスなどを含めると33万台以上になります。EVとPHVあわせて、2020年までに500万台普及させる計画だといいますが、その為にはEVに搭載する高性能リチウムイオン電池を大量生産する必要があります。

この分野における技術力では日本の車載用電池メーカーに一日の長がありますが、あいにく日本ではEVの普及は今一つです。(2015年度累計保有台数EV/PHV合計約13万8000台)こうしたことから、日系電池メーカーの一部には中国の投資ファンドへの売却を検討しているところもあります。急速に生産を拡大する中国資本に設備を売り、コストが下がった電池を調達することで日系自動車メーカーのEVもコスト競争力を高めることができる、との読みです。中国のエネルギー政策が日本企業のグローバルな経営判断に大きな影響を与えることがわかります。

風力、太陽光なども加速していきます。風力は、すでに2015年時点の発電設備容量は10,553kWになり、10年間で56倍以上に増えたことになります。また、開発可能容量は24億kW(陸上のみ)との試算もあり、さらに22万7000倍に増える(2015年比)かもしれないというのですからスケールが違います。また、太陽光発電は、2015年末の累積設置容量が4,158万kWで、世界第1位のドイツを抜いたとされており、今後も増え続ける見込みです。

こうした再エネ計画は、EV購入補助金や、発電事業者への再エネ強制割当制度、送電配電事業者への再エネによる電力全量買取り制度など、政策面で強力にバックアップされます。中国ならではの強引な計画経済政策ではありますが、折角EVを世界に先駆けて開発しているのに世界市場で日本のEVが普及していないのはやはり日本政府の政策面の支援が不十分だったのではないか、と思ってしまいます。中国の政策は我が国にとって一つの参考になるようです。

中国の原発

脱化石燃料の鍵のもう一つは、原子力の推進です。中国は石炭火力の代替電源として原子力発電を積極的に増やす方針を打ち出しています。図7を見てください。稼働中のものも含め、沿海部に原発が集中しているのが分かります。

図7:中国の原子力発電所立地地点
図7:中国の原子力発電所立地地点

出典)一般社団法人高度情報科学技術研究機構「中国の原子力発電計画」

エネルギー白書2017年度によると、2016年1月1日時点の中国における運転中の原発は30基・発電設備容量は2849万kWです。また、世界原子力協会(WNA)によると、建設中の原発は24基、さらに計画中の原発は40基で、2020年までに運転中・建設中・計画中の原発基数は約90基となり、米国に次ぐ原子力大国となる見通しだということです。

また、中国の原子力発電開発は、軽水炉の開発をベースに、高速増殖炉の開発、最終的に核融合炉の開発を目標としていると言われています。私たちの想像を超えて、着々と原発計画を進めているというわけです。

中国の課題と日本が出来ること

広東省深セン市大亜湾原子力発電所
広東省深セン市大亜湾原子力発電所

2016年12月、中国広東省深セン市竜崗区の大亜湾原子力発電所で11月に放射能漏えい事故が発生した可能性があると現地メディアが報道しました。大亜湾原発は香港から直近距離50キロの位置にあり、主に香港に電力を供給しています。

原発事故はあってはならないことです。日本では現在、原子力規制委員会が策定した新規制基準の下、すべての原発で厳しい安全対策を義務付けています。果たして中国の原発はどうでしょうか?

中国に限りませんが、アジアの他の国で事故が起きた場合、放射性物質が偏西風に乗って日本にたどりつく可能性があります。そうしたケースに備えておく必要があるでしょう。

しかし重要な事は事故を未然に防ぐことです。日本には世界最高レベルの防災技術があります。国の原発運営の安全性向上のために、各国と様々な技術協力を進めることや、高効率火力発電所や再エネ技術の輸出なども効果的だと思われます。

エネルギー安全保障は我が国だけで達成できるものではありません。他国との関係の中で構築していくものです。日本は過去に学び、その技術力を生かして他国のエネルギー戦略に手を貸しながら、自国の利益をしたたかに確保していくべきでしょう。

参考)
一般社団法人海外電力調査会
東京財団「COP21後の中国のエネルギー政策の行方」研究員平沼光
一般社団法人高度情報科学技術研究機構「中国の原子力発電計画
安倍宏行 Hiroyuki Abe
安倍 宏行  /  Hiroyuki Abe
日産自動車を経て、フジテレビ入社。報道局 政治経済部記者、ニューヨーク支局特派員・支局長、「ニュースジャパン」キャスター、経済部長、BSフジLIVE「プライムニュース」解説キャスターを務める。現在、オンラインメディア「Japan In-depth」編集長。著書に「絶望のテレビ報道」(PHP研究所)。
株式会社 安倍宏行|Abe, Inc.|ジャーナリスト・安倍宏行の公式ホームページ
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今、大きく変化している世界のパワーバランス。グローバルな視点で国際情勢のダイナミックな動きを分析し、日本のエネルギー安全保障にどのような影響が出るのか予測する。