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編集長展望

Vol.02 2030年のエネルギーミックス どうなる日本

まとめ
  • エネルギーミックスとは「各電源が総発電量に占める割合」=電源構成
  • 日本は3.11後、9割近くが化石燃料に依存。
  • 政府の2030年見通し達成はかなり難しい。

エネルギーミックスとは

「エネルギーミックス」とか「電源ミックス」とか耳にしたことがありますか?「電源構成」と訳されることが多いですが、要は、再生可能エネルギーや火力、水力、原子力など多様な電源が総発電量に占める割合のことです。その「エネルギーミックス」を国の政策として決め、実現させることは、電気の安定供給という観点からも極めて重要です。

電気は昔から「産業のコメ」とも呼ばれ、企業活動や私たちの生活の根幹をなすものです。したがって、政府は中長期的な「エネルギーミックス」の見通しを決めています。それが、経済産業省が作成している「長期需給エネルギー見通し」(2015年7月作成)です。政府の「エネルギー基本計画」(2014年6月)に基づいています。その内容を見てみましょう。

日本のエネルギーミックスの推移

2030年度の話をする前にここで、我が国のエネルギーミックスがどのように推移してきたのか見てみましょう。以下の図を見てください。1973年、第一次オイルショック(注1)の時、エネルギーミックスに占める石油依存度は71.4%もあったのです。その後第2次オイルショックも起き、中東の石油への依存度を下げないと日本のエネルギー安全保障は大変な状況になる、という危機感が社会に広がりました。原子力発電はそうした中、次第に比率を高めていきました。1991年には原子力は27.8%に増え、東日本大震災が起きる前年、2010年には28.6%、約3割を占めるに至ったのです。

また、石油の比率が年々下がり、代わりにLNG(液化天然ガス)の比率が高まってきたことも分かります。石油の輸入先は、サウジアラビアやアラブ首長国連邦など中東がメインですが、LNGの輸入先は、マレーシアやオーストラリア、インドネシアなどアジアが中心です。このように、原子力とLNGの比率の増加は、日本の中東へのエネルギー依存度を下げることに貢献してきたんですね。

しかし、東日本大震災後、この状況が一変します。すべての原発が止まったことで原子力の比率はほとんど0になったのです。その結果、2014年度の比率を見ると、LNGが46.1%。石炭、石油の比率も増加しています。結果、海外への依存度は9割近くまで上がりました。日本の石油などの輸入に重要なシーレーンなどが何らかの理由で通過できないような事態になると、日本はたちまちエネルギー危機に晒されることになります。現在の状況は決して日本経済にとって安心できるものではないことが分かります。だからこそ、政府は石油を備蓄して非常時に備えているのです。(注2

日本の電源構成の推移

2030年のエネルギーミックス

前述の「長期需給エネルギー見通し」は、日本における2030年のエネルギーミックスとして、目安とすべき各電源の割合を以下の通りとしています。

●再エネ 22~24%程度
●原子力 20~22%程度
●LNG火力 27%程度
●石炭火力 26%程度
●石油火力 3%程度

内、再生可能エネルギーの内訳は:

○水力 8.8%程度
○太陽光 7.0%程度
○バイオマス 3.7~4.6%程度
○風力 1.7%程度
○地熱 1~1.1%程度

長期需給エネルギー見通し」のベースとなっている「エネルギー基本計画」では、徹底した省エネルギー・ 再生可能エネルギーの導入や火力発電の効率化などを進めつつ、原発依存度を可能な限り低減させる等の政策の基本的な方向性を定めています。

今回の「見通し」では、安全性(Safety)、安定供給(Energy Security)、経済効率性(Economic Efficiency)、および環境適合(Environment)に関する政策目標を、同時達成していった場合の将来のエネルギー需給構造の見通しを策定することを基本方針としました。これを3E+Sと呼んでいます。なお、この「長期エネルギー需給見通し」は、3年毎に見直しが図られることになっています。

日本のエネルギー見通しの死角

ここで、この3E+Sについて考えてみましょう。そもそもこの3E+Sという方針の背景には、日本が直面している3つのエネルギーにおける制約があるのです。それが

  • ➀ 自給率の低下
  • ➁ 電力コストの上昇
  • ➂ CO2排出量の増加

です。

➀の日本のエネルギー自給率は約6%(2014年度)と先進国では最も低い水準に甘んじています。また、➁の電力コストも2010年度から5年間で、家庭用は25.2%アップ、産業用で38.2%もアップしています。家庭の電気料金負担増は消費低迷に繋がりますし、産業用のアップも、設備投資や雇用などに悪影響を与えます。(下図参照)
また、➂のCO2排出量も増え続けており、地球温暖化防止に対する日本としての貢献の足かせとなっています。

温室効果ガス排出量の推移(2010~2013年度)
電気料金の推移(1995~2014年度)

➀、➁、➂は、どれも原子力発電所が停止し、火力発電所に頼っている現状ではなかなか改善は難しい状況です。高い燃料を海外から購入し、CO2を多く排出する火力発電で電力を賄っているのですから当然と言えば当然です。これらの制約をすべて取り払うのはかなり困難だということはお分かりいただけたと思います。

ここで、先ほどの3E+Sに戻ると、その達成に向け政府が力を入れようとしているのは、

  1. 徹底した省エネの推進
  2. バランスのとれたエネルギー供給

の2つです。

1の「徹底した省エネ」には、産業、運輸、家庭、すべての部門において省エネに全力で取り組まないと達成は難しいと思われます。(下図参照)

徹底した省エネ

まず、産業部門ですが、これまでは大企業中心として省エネに取り組んできました。でも、これからは中小企業が省エネに本腰を入れないととても目標は達成できないと思われます。しかし、省エネに対する意識が希薄であることや、専門家の不足などから、中小企業の省エネはそう簡単ではなさそうです。照明のLED化や高効率空調への転換など、低コストで効果が見えやすい取り組みから推進していく必要があるでしょう。

運輸部門においては、運送業者の環境対応車への転換や、トラック輸送をエネルギー消費が少ない鉄道や海上輸送に変える、いわゆるモーダルシフトの推進などが有効です。

家庭部門は、二重窓の設置や照明のLED化、省エネ家電への買い替えなどが求められています。また、電力小売り自由化をきっかけに、家庭内の電力消費を“見える化”する、情報通信機能付き高機能電力メーター(スマートメーター)が普及しつつあります。近い将来、家電もスマート化し、街全体の省エネが図られるようになるでしょう。

こうして書くと省エネも簡単そうですが、ただ待っているだけではスピードは上がりません。加速させるには、省エネに関するアドバイスを行う、民間のエネルギーマネージメント支援サービスが立ち上がることが不可欠でしょう。企業や家庭に省エネに関するあらゆるアドバイスを行い、将来的には電力供給の逼迫時等において、電力会社が設定する電気料金またはインセンティブの支払に応じて、需要家側が電力の使用を抑制するよう電力消費パターンを変化させる(デマンドリスポンス:DR)サービスへの展開も視野に入ってきます。この辺りはかなり専門的になってきますのでまた別稿でお話しします。

そして、2のバランスのとれたエネルギー供給。これこそ、“言うは易く行うは難し”です。

資源エネルギー庁は、「徹底した省エネルギーに加え、再生可能エネルギーの導入や火力発電の効率化などを進めることで、原発依存度を可能な限り低減させつつ、安全性、安定供給、経済効率性及び環境適合に関する政策目標の同時達成を目指します。」と、まさしく、3E+Sの達成を宣言していますが、事はそう単純ではありません。

なにしろ、先に紹介した、2030年度の電源構成ですが、以下の図を見てわかるように、省エネを進めた上でさらに、「自給率の改善」、「電力コストの抑制」、「CO2排出量の抑制」を同時に達成しなければならないのです。

2030年度電源構成

これらを達成するために、

  • 再生可能エネルギーの導入拡大
  • 火力発電の高効率化
  • 多様なエネルギー源の活用
  • 原子力発電の活用と震災事故からの復興

が必要だと政府は考えています。

しかし、どれをとっても簡単には行きません。再生可能エネルギーは2012年以降、固定価格買取制度という仕組みの元、電力需要者に幅広くコストを負担してもらいそれを原資として普及させています。私たちの電気料金に賦課金という形で上乗せされているのです。つまり、再エネが増えれば私たちの負担も増える、ということです。電気はなくてはならないもの、とはいえ、負担が青天井で増え続けることは現実的ではないでしょう。

再生可能エネルギー固定価格買取制度に基づく賦課金総額と一家庭当たり負担額

また、火力発電の効率化ですが、確かに日本の火力発電の技術は世界に誇るもので、次世代火力発電技術として高効率化は着々と進んでいます。東日本大震災後、原発が停止していることから経済産業省は発電効率の低い老朽石炭火力発電所の廃止を促しつつ、高効率石炭火力発電所の新設を容認する方針です。

一方で、環境省は、地球温暖化防止の観点からCO2を排出する火力発電所の新増設を簡単に認めるわけにはいかないとの立場をとっています。火力発電所は計画から実際に稼働するまで何年もかかるので、電力会社は難しい経営判断を迫られることになります。

まして、原発の再稼働の先が見通せない中、火力発電所新増設を決断していいのかどうか、経営者としては悩むところでしょう。東京電力福島第一原発の廃炉、賠償、除染、故郷を離れた人々の帰還事業などの課題も山積で、そのための国民負担は21.5兆円に上ると試算(注3)されています。これらは電気料金に上乗せされることが決まっています。

こうやってみてくると、2030年のエネルギーミックスを達成する為には膨大な社会的コストがかかることが分かります。私たちはこの不可能とも思える連立方程式の解をどう求めていくのか、知恵が試されています。

  1. オイルショック
    1970年代、中東情勢の悪化にともない2度にわたって原油価格が高騰し、いわゆるオイルショックが発生しました。第一次オイルショック(1973年10月~1974年8月)では、国際原油価格は3ヶ月で約4倍になり、良く過去のニュース映像でみるようにトイレットペーパーをはじめ多くの商品の買い占め、便乗値上げなどが起きて社会はパニック状態になりました。
    さらに、第2次オイルショック(1978年10月~1982年4月)が起き、国際原油価格は約3年間で約2.7倍にもなり、物価上昇、経済成長率も減速、就職状況は大きく冷え込みました。
  2. 石油備蓄
    日本には、国家備蓄、民間備蓄、産油国共同備蓄*を合わせた約7,996万klの石油(製品換算)が備蓄日数換算で約215日分(2017(平成29)年3月末現在)あります。万一石油の輸入が途絶えても、現在とほぼ同様の生活を維持できることになっています。
    *産油国共同備蓄とは、日本国内の民間原油タンクを産油国の国営石油会社に政府支援の下貸与し、東アジア向けの中継・備蓄基地として利用しつつ、 万一原油供給が不足した場合には在庫を日本向けに優先供給する事業。
  3. 「東京電力改革・1F問題委員会」(第6回)2016年12月9日資料
安倍宏行 Hiroyuki Abe
安倍 宏行  /  Hiroyuki Abe
日産自動車を経て、フジテレビ入社。報道局 政治経済部記者、ニューヨーク支局特派員・支局長、「ニュースジャパン」キャスター、経済部長、BSフジLIVE「プライムニュース」解説キャスターを務める。現在、オンラインメディア「Japan In-depth」編集長。著書に「絶望のテレビ報道」(PHP研究所)。
株式会社 安倍宏行|Abe, Inc.|ジャーナリスト・安倍宏行の公式ホームページ
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