©UNHCR/Hereward Holland
- まとめ
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- 国際テロが多発、原因は中東の不安定化
- シリア難民問題でEU各国が右傾化へ
- 中朝露との関係睨みエネルギー安保考えよ
多発する国際テロ 日本人もターゲットに
アメリカが仕掛けたイラク戦争後生まれた中東地域における権力の空白。イラクのフセイン政権が倒れパワーバランスが崩れた。世界の火薬庫と呼ばれたかつての中東に逆戻りした。
2011年に勃発したシリア内戦とIS(イスラム国)の台頭により、中東地域は混乱に陥った。世界中にテロが拡散、日本もターゲットとなっている。シリアで2015年1月にISに殺害されたジャーナリストの後藤健二さんと、湯川遥菜さんの事件も痛ましいものだった。もはや日本だとて例外ではない。いや、むしろアメリカの同盟国としてISは日本を2015年から名指しでテロ対象国と位置付けているのだ。2016年7月2日、バングラデシュで日本人7人がテロにより殺害されたのも記憶に新しい。
筆者が1970年代から80年代、自動車メーカーで中近東市場への輸出を担当していた時、かの地の人々は第二次大戦のあと経済大国となった日本を尊敬する空気が歴然とあった。しかし、今や日本人であることは、免罪符とはならない時代になってしまった。残念なことだ。
Brexit、トランプ政権、仏大統領選 欧米の保守化
EUが揺れている。その原因も中東だ。きっかけはシリア難民だ。その数、実に500万人に届こうとしている。(2017年2月16日時点 UNHCR:国連高等難民弁務官事務所調べ)国別に見てみると:
トルコ | 291万人 |
---|---|
レバノン | 101万人 |
ヨルダン | 66万人 |
イラク | 23万人 |
エジプト | 11万人 |
となっている。
そしてEU各国が受け入れているシリア難民も増え続けている。その数は今や90万人に届こうとしており、国別にみると以下の通り。ドイツだけで50%を超えているのがわかる。
ドイツ | 456,023人 |
---|---|
スウェーデン | 109,970人 |
ハンガリー | 76,592人 |
オーストリア | 42,775人 |
オランダ | 32,720人 |
デンマーク | 19,802人 |
ブルガリア | 19,158人 |
ベルギー | 16,986人 |
ノルウェー | 14,274人 |
フランス | 14,265人 |
(UNHCR調べ 2011年4月から2016年10月までの累計)
こうした難民の増加はEU各国の社会に軋轢を生み、失業者が増加するなど経済的な要因が引き金となって、対立を生んだ。2015年のパリ同時多発テロをはじめ、フランスではテロが頻発。アメリカ・ボストンマラソンのテロ(2013年4月)や、ベルギーやイスタンブールでもテロが相次いだ。主なテロ事件を書き出してみたが、その多さに愕然とする。同一のグループがテロを起こしているわけではないことに注意したい。それはテロそのものが当たり前のように世界中で起きる可能性を示している。
2013年4月 | ボストンマラソン爆弾テロ事件 |
---|---|
2014年12月 | ペシャーワル学校襲撃事件 |
2015年1月 | 日本人ジャーナリスト拘束事件 |
シャルリー・エブド事件 | |
2015年11月 | パリ同時多発テロ |
2016年3月 | ベルギー連続テロ事件 |
2016年5月 | イエメン、自爆含め2件の爆発テロ |
2016年6月 | トルコ、空港テロ事件 |
フロリダ、銃乱射テロ | |
2016年7月 | バングラデシュ、レストラン人質テロ事件 |
フランス、ニーストラック突入テロ | |
2016年12月 | トルコ、サッカースタジアムで爆発テロ イエメン、自爆テロ |
ドイツ、クリスマスマーケットでのテロ | |
トルコで駐トルコ・ロシア大使殺害 | |
2017年1月 | トルコ銃乱射テロ |
2017年2月 | アフガニスタンで自爆テロ |
イラク、パキスタンでテロ | |
ソマリア、自動車爆弾テロ |
(エネフロ編集部作成)
そうした中、イギリスで起きたのが2016年6月の“Brexit(ブレグジット:Britainとexitを掛け合わせた造語)”だ。イギリスがEUを離脱するかどうか国民投票にかけた結果、まさかの離脱派勝利に世界が驚愕した。背景に移民増加による失業者の増加などイギリス社会への負担増に対する不満があったのは間違いない。
その後、現在行われているフランスの大統領選もEU離脱のための国民投票を行うことや、移民・難民排斥を唱える極右政党「国民戦線」のルペン候補が優勢に選挙戦を進めている。Brexitの影響は明らかに広がっている。また、オランダでも反移民や反EUを主張するウィルダース党首率いる自由党が高支持率を得たりしている。
そしてアメリカだ。去年のはじめ、トランプ候補が大統領になると予想した人はほとんどいなかった。米・大手メディアもヒラリー候補の勝利はほぼ確実と投票日直前まで予想していた。それなのに、結果はトランプ氏勝利。社会にたまった白人中間層の不満をすくい取った結果、ワシントン政治への反発も手伝って、政治経験ゼロのビジネスマンが大統領になったのだ。アメリカの外交がどう変化していくのか、世界各国が固唾をのんで見守っているのが現状だが、その衝撃度はBrexitの比ではない。トランプ政権の下、アメリカ外交はどう変わるのか、現時点で予測不可能だ。
アジア安全保障の地殻変動
さて、日本外交にとって重要なのは、なんと言っても中国、北朝鮮、そしてロシアとの関係であろう。オバマ政権の対アジア外交姿勢は基本的に融和的なものであった。その結果、中国は南沙諸島に軍事基地を建設し(下図)、最近では長距離地対空ミサイル配備が可能とみられる20以上の建造物の建設をほぼ完了しているとの情報も流れている。オバマ政権が強硬策を取らなかったために、中国の軍備拡張はノンストップでここまで来てしまった。
出典:防衛省「南シナ海における中国の活動」2015年12月22日
中国の南沙諸島進出は日本にとってどのような影響を及ぼすのだろうか?下の図を見てもらいたい。南沙諸島のある南シナ海は日本にとって石油輸入の重要なルート=シーレーン(海上交通路)だ。もしこの海域を封鎖されたら日本はエネルギー安全保障上、大きなリスクを負うことになる。
- (注)上図の数値には石油製品の移動も含む。
- 出典:資源エネルギー庁「エネルギー白書2016」
また、北朝鮮はミサイルの発射を繰り返している。去年1年で北朝鮮が発射したミサイルは何と30発以上に上る。(下図参照)
出典:防衛省「2016年の北朝鮮によるミサイル発射について」
そして今年に入り、金正男氏が2月13日にマレーシアで暗殺されたが、米韓合同演習が行われた直後の3月6日に北朝鮮は4発の弾道ミサイルを日本海に向けて発射したばかりだ。4発の内いずれも約1000キロメートル飛翔し、そのうち3発は日本海上の我が国の排他的経済水域(EEZ)内に落下したものと推定される。1発は、これまでで最も本土に近い、能登半島の北北西およそ200キロの海域に落下したとされる。その脅威はかつてないほど高まっている。
ロシアとの関係もエネルギー安全保障の面から無視できないものだ。経済が停滞しているロシアは日本との経済協力に大きな期待を寄せている。特にLNG(液化天然ガス)の大消費国である日本にロシアはこれまでも秋波を送ってきた。
そうした中日本で行われた2016年12月のプーチン大統領と安倍首相との首脳会談で、両国は、エネルギーや医療・保健、極東開発など8項目の経済・民生協力プランに基づき、官民で80件に上る経済協力で合意した。日本側の投融資は過去最大の3000億円規模に膨らむ。
エネルギー分野では、両国が石油や天然ガスなどの資源開発で協力するほか、三井物産と三菱商事が参加するサハリン(樺太)沖の天然ガス・石油開発「サハリン2」の生産設備増強などで合意した。
とはいえ、日本とロシアの関係は、北方領土問題を抱え、一筋縄ではいかない。日本としては経済協力をてこにして領土問題の解決を少しでも進展させたいところだが、ロシアとの関係改善に積極的な姿勢を示していたトランプ氏が大統領になることで、日露の関係にどのような影響があるのか、懸念される。
日本を取り巻く環境変化と今後の外交課題
将来の安全保障上のリスクに日本は十分に備えているのか、今一度考える時期に来ているといえる。これまで見てきたような国際環境の変化を機敏に捉えたうえで、私たちはエネルギー安全保障を考えねばならない。
特に同盟国アメリカのトランプ政権の対ロシア、対中国、対北朝鮮外交戦略はオバマ政権の時と一変する可能性がある。そしたときに日本はどうしたらよいのか?前述のとおり、ロシアとはエネルギー関連経済協力が進行中であり、トランプ政権の動きに影響を受けることは間違いない。大統領選で揺れる韓国との関係も重要だ。日米韓が一致して北朝鮮の脅威に対峙しなければならないのは自明の理だが、不確定要素が増え、日本として一層慎重な対応が迫られる。
このように、エネルギー安全保障を確立するためには、単に経済合理性だけで考えればいいというものではなく、複雑な外交交渉が必要になる。そういう意味で、流動化しつつある国際情勢の変化をどう読むかがこれまで以上に重要になってきていると感じる。
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- 今、大きく変化している世界のパワーバランス。グローバルな視点で国際情勢のダイナミックな動きを分析し、日本のエネルギー安全保障にどのような影響が出るのか予測する。