写真)川崎キングスカイフロント東急REIホテル
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- まとめ
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- 神奈川県川崎市で最先端企業や研究機関が集積する国際戦略拠点整備進む。
- その一角に使用済みプラスチック由来の水素を活用するホテル誕生。
- 地球温暖化対策に向けオール日本で何が出来るかが問われる。
2020年東京オリンピック・パラリンピックまで2年。日本は世界に先駆けて水素社会を実現すべく、政府一体となって取り組むための「水素基本戦略」を2017年に12月に策定した。2050年を視野に将来目指すべきビジョンであり、その実現に向けた2030年までの行動計画である。
水素社会と言われてもピンとこない向きも多かろう。しかし、時代は間違いなくその方向に進んでいる。具体的に紹介しよう。神奈川県川崎市に誕生した、とあるホテルを取材してきた。
我々が取材に訪れたのは神奈川県川崎市のキングスカイフロントと呼ばれる再開発地区だ。元はいすゞ自動車の川崎工場跡地である。最先端のライフサイエンス産業・研究機関が集積する国際戦略拠点として整備が進んでいる。その一角、「A地区」に建つのが「川崎キングスカイフロント東急REIホテル」。目の前に流れる多摩川の対岸は東京国際空港(羽田空港)だ。
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出典)大和ハウス工業株式会社・株式会社東急ホテルズ・川崎市 プレスリリース
2014年から開発を手掛けた大和ハウス工業株式会社東京本店建築事業部長の竹林桂太朗氏に話を聞いた。ホテルの誘致にはかなり苦労したという。海外から来る研究者らの宿泊施設が必要だということでビジネスホテル各社に声をかけた。しかし・・・
「海外から研究施設に多くの研究者が来るので、アテンドの人なども含め、大体年間30,000人位の宿泊の見込みがあるから運用できるかと(ホテルの人たちに)聞いたんですが、そんな規模じゃダメだと皆さんおっしゃいました。じゃあもう好きなホテルを作ろうと。エッジの効いたホテルにしよう、とデザイン面から入りました。元々当社は本業が建築です。建築素材を使ってオープンスペースを作れば面白いってことで、コンクリートは打ちっぱなしにしたり、梁もそのまま、天井の配管はむき出しにしましたし、もう従来のホテルをやってる方からすると全然ホテルじゃない、と。(笑)」
水素ホテル誕生の経緯
確かにホテルに入ると目の前にカフェが。高い天井には銀色の配管が縦横無尽に走り回っている。ホテルというより都心にある商業施設のおしゃれなダイニング・バーのようだ。
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カフェのカウンターの後ろにはコワーキングスペースがあり、その隣には卓球台が2台、体を動かしてリラックスできるようになっている。
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さらにその奥にはバイク(自転車)専門店を併設したもう一つのカフェが続く。そのエリアは川側からも自転車と一緒に入って来れるのだ。とにかく開放的なのに驚かされる。実はホテルの外でもそのコンセプトが貫かれている。
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「多摩川との境にフェンスとか作ってないわけです。フェンスは心理的なバリアにもなるので作りたくなかった。ですからこの区域は全部バリアなしで誰でも入ってこれます。隣の市の公園もフェンスを撤去してくださいと頼んでホテルの敷地と繋げました。」
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まずはコンセプトありきで突っ走った結果、ついに株式会社東急ホテルズが手を挙げた。
「今までの東急ホテルズさんのホテルとは違うものでしたので、このコンセプトをよく理解していただいて決断していただいた。僕としては東急ホテルズさんに感謝しています。」
では、水素実証実験というもう一つの重要なコンセプトはいつ、どのような背景でこのプロジェクトに組み込まれたのだろうか?
「ホテルを誘致しようというあたりで川崎市から、昭和電工さんが作っている水素がパイプラインですぐ近くまで来ているのでホテルまですぐ引けますよ、という話があったのです。加えて環境省の『地域連携・低炭素水素技術実証事業』の補助金も出るということでそちらも応募しました。水素は発電する時に電気と温水が出るわけです。じゃあ、パイプラインを燃料電池までつないで世界初の水素ホテルを作ろう、ということになったのです。」
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実際にホテルの外にある、燃料電池を見てみると意外と大きい。ロゴも英語で外観も濃いグレー、とおしゃれ。言われなければ宿泊に訪れた人もそれと気づかないだろう。開業して2か月、お客さんの評判を川崎キングスカイフロント東急REIホテル販売推進部門 企画・広告担当 服部未来氏に聞いてみた。
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「反響は上々ですね。他の東急ホテルとは全く違う作りなのでメディアからも注目されています。今までは年齢の高いお客様が多かったんですが、今は若い20、30代の方が写真を撮りに来たりとか。少し違う角度で集客できているのかなと思います。車でちょっと来てレストランを利用したり、空港を眺めてみたりとか、そういう使い方は新しいなと思います。土日の稼働は満室に近いんですが平日の稼働をどう上げていくかが今後の課題です。」
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たしかに眺めは抜群。目の前は羽田空港だ。5階にあるレストランは多摩川に面していて、B滑走路が目の前。食事を終えてデッキに出れば、夜風に吹かれてグラス片手に飛行機を眺めることができるのだ。
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2020年には羽田空港側からキングスカイフロント側へ連絡橋が開通予定だ。となるとホテル側への来訪者も増える可能性が大きい。この臨海部が将来どのような姿になっているのか、パートナーとしてホテル運営を進めていきたいと竹林氏は意気込んだ。
施設を見せてもらうと、ビジネスホテルというイメージはない。泊まる、というシンプルな機能に加え、滞在する楽しさ、ワクワクする仕掛けがいたるところにある。天井の高さだったり、壁にかかっている絵だったり、ドアの意匠や部屋の中の照明器具だったり、大浴場だったりする。レトロのようでいてモダンにも感じられる。華美でない、ミニマムなインテリアはこれからのホテルの在り方を示しているようだ。都心のど真ん中にあるシティホテルでなくても、泊まる人を十分に満足させることができる、そんな気概を感じる。
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水素供給の仕組み
ここで水素を活用する仕組みを詳しく見てみたい。昭和電工株式会社川崎事業所では、もともとアンモニア生産に用いることを目的として、2003年から自治体が回収した使用済みプラスチックをガス化・精製して水素を取り出す設備を稼働させていた。今回はその設備を活用してホテル向けに水素を提供する仕組みだ。
早速、ホテルから車ですぐの昭和電工川崎事業所を訪れた。使用済みプラスチックがダイナミックに粉砕され、釘などの異物を取り除いた上で、成型プラスチックになる。これを原材料としてアンモニアを作っている。これを、プラスチック・ケミカル・リサイクルという。近年、廃プラスチックの環境汚染が世界的に問題となっているが、使用済みプラスチックを原料の一部に使用することでCO2の排出を抑えるこの製造方法は環境負荷を低減し、循環型社会の構築に貢献している。
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今回のプロジェクトでは、ホテルで使用される歯ブラシやくしなどのプラスチックごみが原材料となる。水素をホテルにパイプラインで送り、純水素燃料電池により、ホテル全体の約 3 割の電気や熱などを賄う世界初の仕組みだ。
これまでもほとんどのホテルがエネルギー消費を抑えるためにシーツ・ピローケース・パジャマを交換せずにベッドメイクして過剰なクリーニングを抑止し、水資源確保やCO2排出削減を行うエコな活動に取り組んではいるが、プラスチックごみをエネルギーに利用する取り組みは、宿泊客に大いに歓迎されるだろう。同時に企業としてもエコな取り組みはCSR上、評価されるに違いない。
提供)大和ハウス工業株式会社
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昭和電工株式会社川崎事業所製造部次長特命プロジェクト担当マネージャー栗山常吉氏と同企画グループ高山翔太郎氏に話を聞いた。
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「世界初をやっているなという感覚はあります。燃料電池を持っているホテルは日本に幾つかありますが、廃プラスチック(使用済みプラスチック)由来で電気だけでなくお湯まで利用する取り組みは今回初めてです。」(栗山氏)
今後はキングスカイフロント地区の他の事業者に水素を供給するこことも検討したいという。
「今回の実証事業で、どれだけCO2が削減できたかを測りましょうと言うのが実証事業の内容です。2020年の3月にその後どれくらいの水素の需要がありうるかというのを試算しようとしています。低炭素水素にご賛同いただけるお客様を今後市場調査をして探し、ビジネスが続けられるように取り組んでいくという段階です。」(高山氏)
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栗山氏によると、キングスカイフロントの近くの商業施設やコンビニなどに声をかけて行く計画だという。都市ガスなどから水素を作るのではなく、プラスチックのリサイクルという側面を打ち出せば、多くの企業が興味を示す可能性はある。
今回、デベロッパー、化学メーカー、そしてホテルのような需要家が一体となって、低炭素な水素社会の実現に向け、知恵を絞っている例を紹介した。
一方、電気事業者は、火力発電所の燃料としてアンモニアの利用を検討している。既に中国電力株式会社は、水島発電所2号機(石炭火力)において、2017年7月にアンモニア混焼試験を日本で初めて実施した。アンモニアは水素を高密度に含み、燃焼時にCO2を排出しない。アンモニアの火力発電用燃料への適用は、「CO2フリー電源の拡大」や「水素社会進展への貢献」の一翼を担うものと期待される。
これからはパリ協定で約束している地球温暖化対策に向け、オール日本で何が出来るかが問われる時代となる。世界に先駆けて水素社会を実現する為に、やるべきことは多い。
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