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グローバル・エネルギー・ウォッチ

Vol.58 電力危機の時代(上)「米国の電気は安い」は幻想だった─電気料金が上がり続ける本当の理由

写真)送電網(イメージ)

写真)送電網(イメージ)
出典)imaginima/GettyImages

まとめ
  • アメリカの住宅向け電気料金は全国平均18.05セント/kWh(約27円)で、前年比5.4%上昇中。
  • 最安州(ルイジアナ)と最高州(ハワイ)の差は3.2倍──原因は発電ミックス・規制構造・インフラ老朽化の3つ。
  • トランプ政権が化石燃料回帰を掲げる一方、2025年の市場では再生可能エネルギーが約34GW増加、石炭は約4.4GW減少。

「アメリカの電気は安い」──そう思っていないだろうか。シェール革命以来、資源大国アメリカのエネルギーコストは世界的に競争力があると信じられてきた。しかし2026年現在、データはその常識を覆しつつある。電気料金は上昇を続け、州によっては日本を大きく上回る水準に達している。なぜそうなったのか。そしてトランプ政権の「化石燃料回帰」は本当に電気を安くするのか。データで検証する。

アメリカの電気料金は本当に安いのか?

シェールガス増産が本格化したのは2010年代。当時は「シェール革命」とも呼ばれた。石炭、石油に加え天然ガスも豊富に産出するアメリカは、2023年には世界最大のLNG輸出国となった。そうしたことから「アメリカの電気料金は世界的に充分競争力があるに違いない」と思っている人は多いだろう。しかし2026年現在、どうも実態はむしろ逆だ。

具体的にみてみよう。

米国の電力料金比較サービス「Electric Choice」の集計によると、全国平均住宅用電気料金は18.05セント/kWh(1ドル=150円換算で約27.1円)で、前年比+5.4%と、上昇傾向なのだ。

この数字の背景に何があるのか。州別ごとの電気料金を比べてみる。

図)全米 州別平均電気料金:住宅用電気料金(1kWhあたりセント)─2026年3月 緑:電気料金が安い州。赤、茶色:高い州。
図)全米 州別平均電気料金:住宅用電気料金(1kWhあたりセント)─2026年3月 緑:電気料金が安い州。赤、茶色:高い州。

出典)Electric Choice

なぜアメリカの電気料金は州によって3倍以上差があるのか?─3つの原因

州別の住宅電気料金をみてみると、その差が大きいことに驚く。

最安はルイジアナ州(12.44¢/kWh)で、最も高いのはハワイ州(39.89¢/kWh)だ。その差は実に3.2倍もの開きがある。なぜこんなにも差が開くのか。

原因は単純な経済格差ではなく、発電ミックス・規制構造・インフラ投資という3つに分かれている。ひとつずつみていこう。

①発電ミックス──燃料価格がそのまま電気料金に転嫁される

電気料金は発電燃料の価格に直接左右される。天然ガスは米国最大の発電電源だが、2026年1月には冬季嵐「フェルン」による需要急増と生産一時停止が重なり、ヘンリーハブ価格(注1)の月間平均7.72ドル/MMBtuに達し、12月の4.26ドルから81%急騰した。この変動がそのまま料金に転嫁される。

州ごとの電源構成の違いが、料金格差を生んでいる。電気料金が安い州をみてみると、ルイジアナはハイネズビル・シェール地帯など州内外の天然ガス産出地に近接し、燃料調達コストが低い。また、ワシントン州は水力発電が主力電源で、再生可能エネルギー比率が高い。

一方、電気料金が高い州の代表格ハワイは島嶼の宿命で石油燃料の輸入に依存している。カリフォルニアは厳格なCO₂排出規制による在来火力の制限と電力輸入依存が料金を押し上げている。

上昇率にも格差が出ている。すでに高コストのカリフォルニアが前年比+8.9%と全米最大の上昇率を記録しており、高コスト州ほど上昇率も高い傾向が見られる。

全国平均:18.05¢/kWh(前年比+5.4%)
分類 料金(¢/kWh) 前年比 主な要因
安い州 ルイジアナ 12.44 +1.8% 天然ガス産出地帯、低輸送コスト
安い州 アイダホ 12.51 +2.1% 水力発電主体
安い州 ノースダコタ 12.87 +2.0% 豊富な風力・石炭、低需要密度
安い州 ワシントン 14.12 +3.0% 水力発電が発電量の約3分の2
安い州 テキサス 16.18 +4.3% シェール資源豊富、競争的市場(ERCOT)
高い州 ハワイ 39.89 +7.5% 島嶼部ゆえの燃料輸入コスト
高い州 カリフォルニア 33.75 +8.9%(全米最大の上昇) 厳格排出規制、再生可能エネルギー義務化、電力輸入依存
高い州 マサチューセッツ 31.51 +7.7% 東海岸の高需要、ガス輸入依存
高い州 ロードアイランド 31.30 +8.4% 高需要密度、ガス輸入依存
高い州 ニューハンプシャー 27.39 +7.3% 老朽インフラ更新コスト

出典)Electric Choice(2026年3月2日更新、EIAデータ基準)


②電力自由化は電気を安くしないのか?──規制構造の現実

アメリカの電力規制は連邦ではなく州が握る。

テキサス・ペンシルベニア・オハイオ・イリノイ・ニュージャージー・ニューヨーク・コネチカットなど複数の州が電力自由化を導入済みだ。自由化は競争を通じてコスト削減を促すはずだが、現実はそうなっていない。マサチューセッツ、ロードアイランド、ニューヨークなど自由化を導入した東海岸諸州は、軒並み全米最高水準の料金を記録している。燃料の輸入依存と老朽インフラの更新コストが、競争原理の効果を上回っているからだ。


③送電線の70%が築25年超──インフラ老朽化コストの転嫁

米国エネルギー省によると、米国の電力インフラの大半は1960〜70年代建設で、送電線の70%が築25年を超え、その多くが耐用年数(50〜80年)に迫っている。電力各社が2025〜2030年に計画する設備投資は合計1兆4,000億ドル(約210兆円:1ドル=150円換算)に上るとされ、そのコストはすべて消費者に転嫁される。

The Century Foundation(TCF)の報告書(2025年11月)では、2022年Q1〜2025年Q2の間に家計の月額エネルギーコストが約35%上昇(196ドルから265ドルへ)し、未払い債務が督促・回収段階に達した世帯数が約1,400万人に上るという。「安い電気の国」と信じられている米国では、すでに深刻な家計圧迫が起きているのだ。

トランプ政権の「化石燃料回帰」は電気料金を下げるか?

トランプ大統領は、「"Drill Baby Drill"(掘れ!もっと掘れ!)」とのスローガンを繰り返し掲げ、化石燃料を燃料とする火力発電の復権を加速している。前政権が再生可能エネルギーの拡大に力を入れていたのとは対照的だ。

政権発足初日の「国家エネルギー緊急事態宣言」では、再生可能エネルギーが「エネルギー」の定義から明示的に除外された。2025年には米エネルギー省(DOE)緊急命令などを通じて、石炭発電所17GW以上の閉鎖を阻止し、LNG輸出拡大も積極的に推進している。

一方で意外かもしれないが、米国は原子力発電を中長期の柱に据えた多層的なエネルギー戦略を取っている。具体的な動きをみてみよう。

2025年5月23日、NRC(原子力規制委員会)の許認可審査に18ヶ月以内に最終判断を下す期限を設定する大統領令に署名した。目標は現在約100GWの原子力発電を2050年までに400GW(4倍)へ拡大することだ

実際、米テック企業の動きは加速している。AmazonはX-energyと組み、ワシントン州リッチランド近郊に最大12基のSMR(小型モジュール炉)を建設することで合意、2030年代の稼働を目指している。GoogleもKairos PowerとSMR契約を締結し、2030年までにデータセンター向けに500MWのSMRを稼働させる予定だ。また、MicrosoftはConstellation Energyと組み、稼働停止していたスリーマイル島Unit 1(835MW)を2028年に再稼働させ、Microsoftのデータセンター専用電源とする計画だ。(参考:「スリーマイル島原子力発電所、再稼働に向け始動! 原子力発電が再び脚光を浴びる理由」)

写真)スリーマイル島原発
写真)スリーマイル島原発

出典)gsheldon/GettyImages

一方で興味深いのは、こうした政権の意図と市場の現実の間には大きなギャップがあることだ。

EIAのElectric Power Monthly(2025年実績)によれば、2025年(トランプ政権1年目)に再生可能エネルギー容量はなんと約33,756MWも増加した。一方、化石燃料の増加はわずか約712MW、原子力は約60MWにとどまっている。石炭にいたっては約4,400MW減少している。

つまり、トランプ政権がどれだけ化石燃料回帰を訴えても、市場は再生可能エネルギーへのシフトを続けているのだ。また、トランプ政権が力を入れるLNG輸出は、国内向けの供給を減らし、天然ガス価格への上昇圧力となる。天然ガスは米国最大の発電電源だけに、その値上がりはそのまま電気料金に転嫁される。

さらに2026年2月末に始まった米・イスラエルによる対イラン軍事作戦は、ホルムズ海峡を事実上の封鎖状態とし、欧州・アジアでLNG価格が急騰。米国内への直接波及は、輸出インフラに限りがあるため現時点では限定的だが、LNG輸出拡大のインセンティブをさらに高め、国内市場の逼迫要因となりうる。「化石燃料を増産すれば電気が安くなる」という図式は、構造的に崩れつつあるのだ。

写真)データセンターの外観 2025年10月20日:カリフォルニア州バーノン
写真)データセンターの外観 2025年10月20日:カリフォルニア州バーノン

出典)Mario Tama/Getty Images

AIとデータセンターが米国の電力インフラの限界を露わにしている

こうしたなか、米国最大の送電網運営者PJMは2025年12月、管轄する13州・6,700万人への電力供給について、想定される需要のピークを安全にまかなえるだけの発電能力を史上初めて確保できなかったことを認めた。同時にPJMは、2027/2028年供給年度のピーク負荷予測は、2026/2027年容量オークションで使用された予測よりも約5,250MW増加する見通しであることと、その増加分の97%である5,100MWがデータセンター増設によるものだと予測していることも明らかにした。

IEAは、2030年までに米国データセンターの電力消費が2024年比130%増(約240TWh増)に達すると予測している。資源大国・アメリカでさえ、AI時代の電力需要爆増の前に、電力安定供給の綱渡りを強いられているのだ。

図)地域別データセンター電力消費量推移、ベースケース、2020~2030年
図)地域別データセンター電力消費量推移、ベースケース、2020~2030年

出典)IEA

この問題は日本にとってより深刻だ

翻って日本を見ると、この構図はより深刻な形で起こる可能性がある。エネルギー資源をほぼ持たない日本は、米国の現実から何を学び、今何を決断すべきか。

下編では、「原子力の崖」「再生可能エネルギーの活路と課題」「SMRの現実的タイムライン」を軸に、日本が2040年に向けて問われている選択について見ていく。

  1. ヘンリーハブ価格
    米国南部ルイジアナ州にある天然ガスの集積地(ヘンリーハブ:Henry Hub)で売買される天然ガスの価格。米国で天然ガスの指標価格に使用されている。

よくある質問(FAQ)

Qアメリカの電気料金は日本より安いのか?

州によって異なる。最安のルイジアナ(12.44¢/kWh、約18.7円)は日本の一般的な料金(約30〜35円/kWh)より安いが、ハワイ(39.89¢/kWh、約59.8円)やカリフォルニア(33.75¢/kWh、約50.6円)は日本を大きく上回る。全国平均(18.05¢/kWh、約27.1円)では日本とほぼ拮抗する水準だ。


Qトランプ政権の化石燃料政策は電気料金を下げるか?

データは否定的だ。2025年の再生可能エネルギー純増は約33,756MW、石炭は約4,400MW純減。LNG輸出拡大は国内ガス価格の上昇圧力となっており、「増産=値下がり」の図式は崩れている。


Qデータセンターの電力需要はいつから深刻化したか?

すでに深刻化している。PJMは2025年12月に史上初めてピーク供給確保の失敗を認めており、IEAは米国データセンターの電力消費が2030年までに2024年比130%増に達すると予測する。

関連リンク

Electric Choice「米国州別住宅用電気料金」(2026年3月更新)
EIA「Electric Power Monthly」(2025年12月データ)
The Century Foundation「Fueling Debt: How Rising Utility Costs Are Overwhelming American Families」(2025年11月)
PJM Interconnection「2027/2028 Base Residual Auction Results」(2025年12月17日)
IEA「Electricity Mid-Year Update 2025」

安倍宏行 Hiroyuki Abe
安倍 宏行  /  Hiroyuki Abe
・日産自動車を経て、フジテレビ入社。報道局 政治経済部記者、ニューヨーク支局特派員・支局長、「ニュースジャパン」キャスター、経済部長、BSフジLIVE「プライムニュース」解説キャスターを務める。現在、オンラインメディア「Japan In-depth」編集長。著書に「絶望のテレビ報道」(PHP研究所)。
株式会社 安倍宏行|Abe, Inc.|ジャーナリスト・安倍宏行の公式ホームページ
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