写真)日本初の純木造耐火建築物「Port Plus」
提供)株式会社大林組 撮影:株式会社エスエス 走出直道
- まとめ
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- 純木造による高層建築が実現し、都市での普及期に突入。
- RC造比でCO₂を大幅削減、都市を「炭素貯蔵庫」に変える環境価値を創出。
- 革新技術(耐火認定、CLT、BIMなど)により、耐火・コスト・工期の課題を克服。
今から8年前、「未来の構想」として世界を驚かせた、住友林業株式会社の「W350計画」(2041年完成予定、地上70階建て・高さ350mの超高層木造建築)。この構想の核心は、建築資材の約9割を木材とし、鋼材による補強と組み合わせた「木鋼ハイブリッドチューブ構造」にあった。あれから8年。10階から20階建て規模の木造中高層建築が驚異的なスピードで社会実装されている。

出典)住友林業
これまで高層ビルの木造化は、木材と鉄骨やRCを組み合わせた「木質ハイブリッド」が主流だった。しかし、2026年現在、「純木造」の実証が着実に進みはじめた。
その例が、大林組の「Port Plus」(地上11階・高さ44m、2022年完成)だ。柱・梁・床・壁などの主要構造部をすべて木材とした日本初の高層純木造耐火建築物として、国内最高記録を更新した。同プロジェクトは「3時間耐火認定」を取得しており、高層純木造の技術的限界を大きく押し広げた。

提供)株式会社大林組 撮影:株式会社エスエス 走出直道
さらに、AQ Group(旧アキュラホーム)の新本社ビル(地上8階・高さ約31m、2024年完成)は、純木造軸組工法による耐震構造で、従来の木造ビル建設費の約1/2(坪145万円程度)に抑えることに成功。中小ゼネコンや工務店でも実現可能な「普及型純木造ビル」のプロトタイプとして注目を集め、ウッドデザイン賞をはじめ、世界三大デザイン賞の一つ iF DESIGN AWARD 2025も受賞した。

出典)AQ Group
これらの事例を中心に、中高層純木造の実証が相次いでおり、耐震・耐火性能を現代の接合金物やプレカット技術(注1)で確保しつつ、コストを抑えた設計・施工が可能となっている。純木造の高層化はまだ11階が国内トップだが、こうした実証の積み重ねは、都市建築の脱炭素化に向けた確かな一歩といえるだろう。
建築時のCO₂を大幅に削減できる木造建築
建設業界は依然としてエネルギー多消費型産業だ。世界のエネルギー消費量の32%を占め、世界のCO₂排出量の34%を占めている。また、建設業界はセメントや鉄鋼などの資材に依存しており、これらは世界のCO₂排出量の18%を占め、建設廃棄物の主要な発生源となっている。
ここで、従来の鉄筋コンクリート(RC)造や鉄骨造の建築と、木造建築を比べてみるとその違いに気づく。前者は、鉄やセメントの製造過程で膨大なCO₂を放出する「排出型」の建築だが、一方、木造建築は、資材が大気中から吸収した炭素を数十年にわたり固定し続ける「貯蔵型」の建築だ。木材1m³あたり約0.7t~0.9tのCO₂を固定するとされている。(注2)
ライフサイクル全体におけるCO₂排出量をみてみると、鉄骨造の建築は、製造・輸送・建設時の化石燃料依存が高く、 排出量が大きい。一方、木造建築は、製造時のCO₂排出量が少なく、軽量のため輸送・建設時におけるCO₂排出量削減もでき、 廃棄時の資材の再利用の可能性もある。加えて、CO₂貯蔵効果もあることから、 規模にもよるが大幅に削減できるとの試算もある。(林野庁「建築物への木材利用に係る評価ガイダンス」p.24,25)
さらに、木造建築は優れた断熱性能を持つ。木材の熱伝導率はコンクリートの約10分の1、鉄の約480分の1しかなく、(住宅情報館 木造の断熱性能)空調エネルギー消費量を大幅に抑制できる。
このように、木造ビルは資材の製造・建設段階における「低炭素排出」と、木材そのものによる長期間の「炭素固定」という二重の環境価値を備えている。さらに運用時の高い省エネ性能が加わることで、建物のライフサイクル全体での脱炭素化を劇的に加速させる。
存在すること自体が脱炭素への直接的な寄与となる木造建築は、企業にとってGX(グリーントランスフォーメーション:注3)への具体的貢献を投資家や消費者に可視化する最大の「環境資産」といえるだろう。
都市木造の普及に向けた課題と革新技術
一方、純木造の高層建築の普及には、耐火・耐震性能、コスト、供給体制という3つの大きな課題があった。これらを克服するために現場で導入されているのが、以下の革新技術だ。
①「火に強い木造」の実現
近年開発が進む耐火木材部材には、さまざまな技術が採用されている。 例えば、木材の内部に石膏ボードや特殊な燃え止まり層を多層構造で組み込む方式をはじめ、炭化層の形成を積極的に利用するもの、接着剤を極力使わず解体後の再利用を考慮したもの、工場でのプレファブ化で施工性を高めたものなど、多様なアプローチが存在する。万が一の火災時でも、表面の木材が「炭化層」を形成して内部への酸素供給を遮断し、内部の耐火層が熱を吸収・遮断して燃焼を食い止めるという共通のメカニズムを基盤にしていることが多い。 こうした技術の進化により、木造の限界だった1時間〜2時間を大幅に超える「3時間耐火」が実現した。これは、高層建築にも地上部の主要構造部として木材を使用できる道を開いた成果だといえる。
②地震に強く、重さも克服
CLT(Cross Laminated Timber:直交集成板 注4)は、板の繊維方向を互い違いに重ねて接着した厚型パネルである。その強度はコンクリートに匹敵しつつ、重量は約5分の1と極めて軽い。建物重量の軽減は、地震時の慣性力を抑えるだけでなく、地盤補強コストの大幅な削減にも直結する。
③「安く、早く」建てる仕組み
設計データを直接工場のCNC加工機に送るBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)の普及により、ミリ単位の精度でのプレカットが可能となった。AQ Groupの事例では、現場での組み立てを迅速化させることでRC造比で約20%の工期短縮を実現しており、これが木造のコスト競争力を支える中核技術となっている。
あとがき:都市が「森林」を内包する未来へ
これらの技術革新により、純木造高層建築は都市の景観を変えるだけでなく、停滞していた日本の林業に「安定的な需要」を生み出していく。国産材をビルに積極的に転用すれば、海外依存が減り、資源の経済安全保障を確立できる。
都市に木造ビルを建てることは、山の木を植え替えることと同義であるともいえる 。都市が炭素を貯蔵し、人々に木のぬくもりを与える「巨大な森」へと再生する日は、そう遠くない。
- プレカット技術
木造住宅の柱・梁・土台などの構造材を、建築現場ではなく事前に専門工場でコンピューター制御(CAD/CAM)を用いて切断・加工する技術 - 林野庁「建築物に利用した木材に係る炭素貯蔵量の表示に関するガイドライン」
炭素貯蔵量(CO₂換算量)の計算式
Cs=W×D×Cf×44/12
Cs:建築物に利用した木材(製材のほか、集成材や合板、木質ボード等の木質資材を含む。)に係る炭素貯蔵量 (t-CO₂)
W:建築物に利用した木材の量(m3)(気乾状態の材積の値とする。)
D:木材の密度(t/m3)(気乾状態の材積に対する全乾状態の質量の比とする。)
Cf:木材の炭素含有率(木材の全乾状態の質量における炭素含有率とする。)
計算例:
W=1m³、D(密度)=0.4〜0.5 t/m³、Cf(炭素含有率)=0.5(スギやヒノキなど針葉樹の含有率概算値)
計算結果: 約0.73〜0.92 t-CO₂/m³ -
GX(グリーントランスフォーメーション)
化石燃料中心の経済・社会、産業構造をクリーンエネルギー中心に移行させ、経済社会システム全体を変革すべく、エネルギーの安定供給・経済成長・排出削減の同時実現を目指す取り組み。(経済産業省) -
CLT(直交集成板)
複数の木材の層を交互に重ねて接着したもので、強度と安定性を持つ構造材。
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