記事  /  ARTICLE

編集長展望

Vol.52 軽量化で中国勢を凌駕せよ:新自動車税制が迫る「低コスト・高性能」へのパラダイムシフト

写真)日産サクラ「Ao-Solar Extender」

写真)日産サクラ「Ao-Solar Extender」
出典)日産自動車株式会社

まとめ
  • 2028年「EV重量課税」開始。重い電池から「軽量化」への大転換。
  • 中国BYD「ラッコ」上陸。日欧も「安くて軽い」新規格EVで反撃へ。
  • 「軽く作れば安くなる」。新税制を逆手に中国勢を突き崩す武器にせよ。

新年明けましておめでとうございます。本年もエネフロを宜しくお願い致します。

さて、新年第1号のテーマは、エネルギーとモビリティの最前線。昨年末、政府・与党は2026年度の税制改正大綱を発表した。その中で自動車税制に関しては、「環境性能割の廃止(2026年度〜)」、「車体課税の抜本見直し(重量+CO₂排出量ベースへ)」、「取得時課税の軽減と保有時課税の再構築」などのテーマが検討され、その方向性が示された。この大綱の内容が、これから始まる通常国会で法案として議論され、日本の未来のモビリティの形を決定づけることになる。

本稿では、電気自動車(以下、EV)に対する税制のあり方を巡る議論、特に「重量課税案」が、EV、特に日本で独自の発展を遂げてきた軽EVの国際競争力にどのような影響を与えるかを見ていく。

大綱が示した税制改正の論点

現行の自動車税制は、その創設以来、エンジンの排気量を主要な基準としてきたが、排気量ゼロのEVにはこの基準が適用できず、自動車税制の中でも環境性能割は非課税、その他の自動車税や自動車重量税についても減税措置などにより低い税率が適用されることで実質的に優遇されてきた。

大綱では車体課税を「道路負荷に見合った公平な税負担」との考えから、「重量+CO₂排出量」ベースに見直す方向性が示された。

EVの車重が増加する主因であるリチウムイオンバッテリーは、容量によって重量が大きく異なる。日本の軽EVに搭載される約20kWhのバッテリーパックであっても、総重量は約160kg〜200kgと想定されている。これは、大人2〜3人分の重さに相当する。一方、航続距離の長い一般的な普通乗用EVの場合、バッテリー容量が軽の倍以上になるため、総重量は300kg〜600kgにもなる。(参考:Car WatchLarge Power

ガソリン車の場合、エンジンや燃料タンクの重量は比較的軽い。EVの車両総重量は同クラスでガソリン車と比較すると、300kg〜500kg程度重くなるのが常態化している。この重量差が、EVが道路インフラに与える負荷が大きいという指摘の根拠となっている。

写真)組み立て工程でバッテリーモジュールが取り付けられた電気自動車の骨格(シャシー)(イメージ)
写真)組み立て工程でバッテリーモジュールが取り付けられた電気自動車の骨格(シャシー)(イメージ)

出典)primeimages/GettyImages

もう一つの焦点は、購入時にかかる環境性能割の扱いだ。環境性能割とは、自動車の取得時(購入時)に課税される地方税で、燃費性能や排出ガス性能に応じて税率が変動し、環境性能に優れた車ほど税負担が軽減されるというもの。

だが、今回の大綱では、環境性能割の廃止の方向性が示された。特にEVに対しては、2028年度から重さに応じた『種別割』を導入し、さらに同年5月から重量税の上乗せ課税をおこなうという具体的なスケジュールが盛り込まれた。トランプ関税などの外圧を見据え、国内の買い替えを促す強力な経済対策としての側面が強まった形だ。

これは、従来から指摘のあった自動車取得時の「消費税との二重課税」の解消や自動車市場の活性化、自動車業界の支援につながる。

一方で、地方自治体の財源減少という問題、そして環境政策への後退リスクをはらむ。環境性能割は、消費者がより環境性能の高い車種を選ぶインセンティブとして機能するため、その停止は脱炭素化を目指す政府目標に逆行するとの指摘もある。

自動車関連税制改正の根底にあるのは、EV普及によってガソリン税(特定財源)の収入が激減するという構造的な問題だ。政府は、取得時課税の軽減とセットで保有時課税の再構築を進め、新たな財源を確保したい考えだ。

この問題は世界共通であり、英国では2028年からEVの走行距離に応じた課税(VMT課税:Vehicle Miles Traveled Tax)が導入される予定だ。しかし、日本では、保有段階での課税強化が決定した。EV・PHVに対し、2028年度から重量ベースの「種別割」を開始し、車検時の重量税もガソリン税相当分を上乗せする。 一方で走行距離に応じたVMT課税は、プライバシーやコスト面から今回も見送られた。

軽EV市場を直撃する税制リスクと国際競争

大綱で示された「重量」を重視した課税の方向性は、日本の自動車市場の根幹をなす軽自動車セグメントにどのような影響を与えるだろうか。

軽EVは、その規格上、バッテリー搭載スペースや車重に厳しい制約があるため、技術的なハードルが高い。ここで培われるイノベーションこそ、日本メーカーがグローバルに展開する小型EV開発の技術プラットフォームとなる。

EVの保有コストが増大するような税制が導入されると、軽EVは税制上の優遇という普及促進策を失い、販売が落ち込む可能性がある。これは、日本のメーカーがリードすべき「軽EVイノベーション」を自ら摘み取り、国際競争力を減じるリスクを高める可能性がある。

こうした国内での逆風の懸念に加え、海外からの攻勢も強まっている。米テスラと競合する中国のEVメーカー比亜迪(BYD)は、軽EV「Racco:ラッコ」を2026年夏に日本市場に投入すると表明した。海外勢が日本の軽市場に参入するのはBYDが初めてで、しかも軽EVである。BYDは戦略的な価格設定で参入するものと思われ、これまで無風だった国内軽EV市場はいきなり激しい価格競争にさらされることになる。

写真)BYD初の海外専用設計モデル「BYD RACCO(ビーワイディー ラッコ)」
写真)BYD初の海外専用設計モデル「BYD RACCO(ビーワイディー ラッコ)」

Ⓒエネフロ編集部

一方、日本の自動車メーカーにとって追い風とも言うべき動きが欧州連合(EU)であった。「E Car」という小型EV枠の新設を検討しているというのだ。

EUのフォン・デア・ライエン委員長が、2025年一般教書演説で明らかにした。新たな「小型で手頃な価格の自動車」構想に取り組むことを提案したのだ。 「E Car」のEは、「Environmental(環境)」、「Economic(経済)」、「European(ヨーロッパ)」の頭文字を表し、ヨーロッパのサプライチェーンを通じて、ヨーロッパで製造されるという。急速にシェアを拡大している中国EVメーカーに対抗する措置だといえる。

EUに生産拠点を持つ日本勢は、この新分類を通じてEUのEV市場攻略に乗り出すことができる点で中国メーカーより有利だとの見方がある。しかし、BYDもEVの現地生産を視野にハンガリーなどに工場を建設中で、日本勢もうかうかしてはいられない。

いずれにしても、国際的なEV普及加速の潮流の中で、日本だけEVの保有コストを増大させるような税制を採用することは、日本メーカーの国際競争力を自ら削ぎ、貴重な国際的なチャンスを逸することに繋がる。

あとがき:軽自動車の普及と競争力に資する税制とは

自動車関連税制が目指すべきゴールは、「EV普及を加速させ、日本のメーカーが得意とする軽EVの普及と国際競争力促進に資すること」にある。

今回の税制改正大綱では、購入時の「環境性能割の廃止」が決まった一方で、2028年度からの「重量ベースの保有課税」という新たな負担増もセットで提示された。少なくともEVが市場シェアの一定水準を超えるまでは、普及を後押しする姿勢を貫くべきであり、今回の決定が市場に冷や水を浴びせないか注視する必要がある。

一方この「重量税」は、自動車メーカーに対してバッテリーやボディ、部品の軽量化を加速させる強力なインセンティブにもなり得る。 重さが直接的に税負担(コスト)に跳ね返る仕組みは、「容量の大きなバッテリーを積んで航続距離を伸ばす」という物量作戦的な開発から、エネルギー密度の向上や電費効率の追求、そして新素材の採用といった「質的進化」へと、技術開発の舵を切らせる強制力を持つからだ。

特に軽自動車の特性を考慮し、バッテリー搭載による重量増加分に対しては「特別控除」を設けるなどの配慮を求めつつも、この税制を奇貨として、日本が得意とする軽量化技術をさらに磨き上げることが重要だ。

EV普及後の財源問題についても、今回見送られた走行距離課税(VMT課税)など含め、長期的な選択肢の是非も含めた議論が不可欠である。目先の「保有課税強化」だけで穴埋めを図るのではなく、自動車業界や国民を交えた多角的な協議を深めるべきだ。

国会での法案議論は、大綱で示された「2028年度からの新課税」という方向性を、日本の国益、脱炭素、および産業競争力の観点から再精査し、より戦略的な税制とする機会である。

日本の自動車産業、特に軽EVを軸とするメーカーの将来のためにも、税制改正が「技術革新を促し、日本メーカーの競争力促進に資する」という明確な骨子に基づいて進められることを期待したい。

安倍宏行 Hiroyuki Abe
安倍 宏行  /  Hiroyuki Abe
・日産自動車を経て、フジテレビ入社。報道局 政治経済部記者、ニューヨーク支局特派員・支局長、「ニュースジャパン」キャスター、経済部長、BSフジLIVE「プライムニュース」解説キャスターを務める。現在、オンラインメディア「Japan In-depth」編集長。著書に「絶望のテレビ報道」(PHP研究所)。
株式会社 安倍宏行|Abe, Inc.|ジャーナリスト・安倍宏行の公式ホームページ
Japan In-depth

RANKING  /  ランキング

SERIES  /  連載

編集長展望
エネルギーにかかわる身近な話題を分かり易く解説。これであなたもエネルギー物知り博士!