
写真)藻場 (イメージ)
出典)inusuke/GettyImages
- まとめ
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- ブルーボンドは、水資源の保全や海洋保護に特化したESG債の一種で、海洋関連産業「ブルーエコノミー」の市場拡大を背景に急成長。
- 「グリーンウォッシュ」からの脱却や政治的圧力の受けにくさ、インパクト投資の強化などが好調の理由。
- ブルーカーボンとブルーボンドの相乗効果により、海洋のCO₂吸収源としての活用が加速しており、日本でも政府目標達成に向けた取り組みが活発化。
水資源の保全や海洋保護に使途を限定した社債「ブルーボンド」が存在感を増している。今回は、この「ブルーボンド」を取り上げる。
ブルーボンドとは、ESG債の一種である。ESG債とは、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の観点から持続可能性を考慮したプロジェクトや事業に資金を調達するために発行される債券の総称だ。主に以下のカテゴリーに分類される。
・グリーンボンド:環境に配慮したプロジェクト(再生可能エネルギー、気候変動対策など)に資金を充てる。
・ソーシャルボンド:社会的課題(教育、医療、貧困削減など)の解決に資するプロジェクト向け。
・サステナビリティボンド:環境と社会の両方に貢献するプロジェクト向け(グリーン+ソーシャル)。
・サステナビリティ・リンクド・ボンド(SLB):発行体のESG目標達成状況に応じて金利や条件が変動。
・ブルーボンド:海洋や水資源の保全・持続可能な利用に特化(例:海洋汚染防止、水インフラ)。
金融情報サービスのBloombergでESG債の発行額の推移を見てみると、2024年には1兆ドル(約150兆円:1ドル=150円で計算)の大台に乗せた。過去2番目の水準だった。一方、その伸び率を見てみると、2021年までは順調に伸びてきたが、2022年から伸びが鈍化している。金利上昇やマクロ経済の不確実性が影響しているとみられている。

出典)Bloomberg
一方、ブルーボンドの発行などを支援する機関、ブルーボンド・アクセラレーター(Blue Bond Accelelator)によると、世界のブルーボンドの発行額は、規模はまだ小さいものの、2022年(20億4,400万ドル:約3,070億円)から2023年(53億9,700万ドル:約8,100億円)にかけて、約2.6倍になるなど急速に伸びている。2024年は前年比減だが、依然高水準だ。

出典)Blue Bond Accelelator (※LinkedINにログインが必要です)
ブルーボンドが好調な理由
なぜ、今、ブルーボンドが世界の投資マネーを惹きつけ始めたのか。その背景には、ESG投資が直面する構造的な課題と、ブルーボンドが持つ根本的な優位性がある。
ESG投資は需要がなお多いものの、使途や効果が曖昧で分かりにくいという批判、すなわち「グリーンウォッシュ(見せかけの環境対応)」がついて回る。対して、ブルーボンドが目指すのは、海洋生物の個体数増加や藻場の面積拡大などだ。投資がもたらす社会や環境へのポジティブな影響、すなわち「インパクト」を重視する投資家にとってわかりやすく、魅力的な対象となっている。
また、社会や環境へのポジティブな影響を重視する「インパクト投資」が強まっていることも、効果が特定しやすいブルーボンドを後押ししている。
近年、米国ではトランプ大統領などの「反ESG」政策の影響により、グリーンボンドへの投資が冷え込んでいる。しかし、海洋や水資源の重要性は普遍的であり、企業が政治的圧力を比較的受けにくいことが背景にある。政治的意図に左右されにくい「水」というテーマが、投資の安定性を求めるマネーの受け皿になっていることを示唆している。
また、ブルーボンドの成長を支える背景には、海洋関連産業である「ブルーエコノミー」そのものの市場拡大がある。国際金融公社(IFC)によると、市場規模は2030年までに3兆ドル(約450兆円)規模と、10年比で倍になる見込みだ。
世界と日本で広がる発行事例
ブルーボンドの発行は、これまで新興国での案件が多かったものの、その信頼性が評価され、先進国や日本国内でも広がりを見せている。
英国では6月下旬、ロンドンの大規模下水道を運営するタイドウェイが同国で初めてブルーボンドを発行した。金額は2億5000万ポンド(約495億円:1ポンド=約198円)で、英テムズ川に流入する未処理の下水を迂回させるトンネル建設に充てられる。投資家からは募集額の2.5倍もの需要があり、クレジット投資家が入りやすい欧州での発行事例として、その意義は大きいと評価されている。
アジアでは、フィリピンの大手財閥アヤラ傘下の銀行、バンク・オブ・ザ・フィリピン・アイランズ(BPI)が、海洋関連プロジェクトの資金調達を目的としてブルーボンドの発行を検討しており、2026年までに1兆ペソ(約2.6兆円:1フィリピン・ペソ=約2.6円)相当の持続可能性関連融資の達成を目指していると発表した。
日本でも水処理大手の栗田工業が9月に、半導体向け超純水供給事業に係る設備投資として期間5年のブルーボンド100億円を発行した。
ブルーカーボンとブルーボンドの相乗効果
「エネフロ」でもかねてよりそのポテンシャルを伝えてきた、海洋生物が吸収・貯蔵する炭素、「ブルーカーボン」(参考:海の炭素貯蔵庫「ブルーカーボン」とは 2021.12.14)だが、ブルーボンドという新たな資金源を得ることで、一層の加速が期待される。
排他的経済水域が大きく、海岸線が長い日本にとって、海洋をCO₂吸収源とするブルーカーボンの重要性は極めて高い。政府は2月に閣議決定した「地球温暖化対策計画」で、ブルーカーボンによるCO₂吸収量を、現在の年34万トンから2040年に200万トンに引き上げる目標を掲げた。
この政府目標を受け、日本企業もブルーカーボン創出の事業化に向けた動きを活発化させている。
ENEOSホールディングスは今夏、国立研究開発法人海洋研究開発機構などと連携し、ブルーカーボンの創出に向けた実証を開始した。CO₂吸収源対策としてのブルーカーボン拡大のために、深海域における海藻類の挙動や周辺環境に及ぼす影響について調査・検討をおこなう。 同社は、2040年に100万トン超の創出を目指す。
さらに地域の取り組みも活性化し始めた。世界遺産「『神宿る島』宗像・沖ノ島関連遺産群」の豊かな海の保全と活用を通じて、地域課題の解決を図ることを目指している福岡県宗像市は、藻場を再生し、ブルーカーボンの活用を検討・推進する取り組みを進めている。
こうした藻場造成や海洋インフラ整備には、多額の初期投資が必要だが、ブルーボンドは、これらのプロジェクトに長期かつ安定的な資金を供給する。投資家側も、使途が明確なブルーカーボンプロジェクトへの投資を通じて、自身のESG評価を高めることができるというメリットがある。
あとがき
この新たな「青い潮流」を確かなものにする鍵は、投資家への安心感の提供だろう。ブルーカーボン由来のクレジットが、排出量取引市場「GX-ETS」で活用できる明確な制度設計が不可欠だ。多額の資金が必要な海洋再生事業を力強く推進するため、国はJクレジットとしての認証を確立し、市場の不安を払拭する必要がある。この制度的な一歩こそが、ブルーボンドの成長とブルーカーボンの実用化を相互に高め、持続可能な未来への確実な投資となるだろう。この潮流を今後も追い続けたい。
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